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第2章 国立キャルメット学院の悲劇
闇に飲まれた模擬戦争
しおりを挟む各種目が終わり、対抗戦も残すところは模擬戦争だけになった。
現在時点で、コータたちのクラスから優勝者は一人も出ていない。それどころか、貴族が優勝を手に出来ていない。
前代未聞で、事が起こっている今ですらも理解が出来ない程。
平民だけが勝利を収め、大目玉である模擬戦争まで来ている。
「このまま平民の快進撃が続くのか!?」
司会進行であるヘンリーは、そう声を上げる。そして、対戦相手を発表する。
「第3戦、1年B組対1年C組です」
「借りは返させてもらう」
柄に手を当て、真剣な顔でそう言い放つのはバニラだ。その視線の先には、剣術対戦で敗北を喫した相手パイロスがいる。
パイロスはそれを気にした様子はない。だが、先ほどよりも凄みを増した顔になったような気がする。
「そう意気込むな、また負けるぞ」
「そんなことはない!」
茶化すように言うガース。それに対し、強い言葉を放つバニラ。
「バニラ、落ち着きなさい。今度はチーム戦なのよ」
「分かっています」
リゼッタの窘めに、バニラは語気を弱めて言う。
「何はともあれ、俺たちは勝つしかないだろ」
全戦全敗、という目も当てられない結果を残してしまっている状況。
それならばせめて最後だけでも……。
コータはそんな思いを込めてそう言う。
「そうだね、勝ちたいね」
「あぁ……。って、その顔どうしたんだ?」
コータの言葉に乗ってきたモモリッタ。だが、その顔は何か悪いものでも食べたのか、という程に青ざめていた。
「え、別にどうもしてないよ?」
しかし、当の本人であるモモリッタは、何事も無いかのような態度を見せている。
「いやいや、どう見ても普通じゃないだろ」
一人では対処しきれない、と考えたコータは隣にいたマレアに同意を求める。
「何が……って、どうしたの!?」
モモリッタの顔を見た途端、慌てふためくマレアにその他のメンバーもモモリッタの異常に気がつく。
「どうしたの?」
目を丸くして訊くリゼッタに、モモリッタは薄く微笑んで答える。
「リゼッタ様、マレア様。私は大丈夫です」
そう言った瞬間、コータたちは模擬戦争の舞台となる場所へとテレポーテーションが行われた。
* * * *
戦闘の舞台にあるのは、校舎裏にある大きな森の中。通常は大きな模擬戦などをする際に使う、魔樹――地中にある魔力を媒介として育ち、どれほどに損傷しても直ぐに治る樹――が生え揃った森。
「それでは位置についてください。いまから60秒後に、戦闘開始です!」
どこからともなく聞こえてきた声は、ヘンリーのものだ。手短な説明を終えると、声は一切が聞こえなくなり、代わりに空にカウントダウンを示す数字が浮かぶ。
「あれがゼロになったらスタートってことか」
「そうだ」
コータの独り言にガースが返事をする。
「とりあえず、決めていた陣形を取ろっか」
まず前衛にバニラとガース。
そして後衛にマレアとリゼッタを置き、その間にコータとモモリッタが入る。
「この陣形が基準だ。どんなに離れても、この位置関係だけは守るぞ」
「なんでガースが仕切ってるわけ?」
「なんだよ?」
仕切るガースに、冷たい目を向けるマレア。指摘されたことが恥ずかしいのか、ガースは少し顔を赤らめている。
「いいじゃない。そんなことより、絶対に勝つわよ」
「分かってる」
リゼッタに声をかけられたマレアは、手に持つ赤色に輝く宝珠に視線を落とし、答える。
「頼むぞ、マレア」
「うん」
コータの呼びかけに、この模擬戦争の勝敗を決める宝珠を守る役割を与えられマレアが頷いた。
そうこうしているうちに、空中の文字が1桁になる。
「始まる……」
コータの呟き。それと同時に、大きなブザーのような音が鳴り響きカウントダウンが0になった。
* * * *
「イグニティ、始めるぞ」
カイゼルひげをいじったインタルは、静寂に包まれた校舎内でポツリと零した。
「御意に」
瞬間、闇の中から頭が出てくる。青色のかかった長い髪で、右目を隠している。隠れていない青紫色の左の瞳には、光が宿っている。
そんな瞳を浮かべたイグニティは、インタルの言葉に答えるや、闇から全身を表す。鍛え抜かれた身体をしており、細身のインタルなど一撃でやっつけてしまいそうな印象を持てる。
「さぁ、始めようか……。魔族の復活宣言だ」
インタルは、瞳に怪しい光を灯し鬱蒼とした森を見下ろす。
放つ声は耳障りで、怖気すらも感じさせる。いつものインタルとは違う。
「では、やりますよ?」
「あぁ、やってくれ」
窓の方を見ていたインタルがイグニティに向く。その瞬間、インタルの姿が黒曜石のような角を額に二本生やした魔族──オーガになる。
少し青みがかった肌が露わになり、体格は人間の倍以上、筋骨隆々で、イグニティのそれよりもさらにでかい。今まで着ていた服は、今にも弾けそうな程に張っている。
カイゼルひげを生やし、釣り上がった目、猫背で弱々しそうないつものインタルとは違う。
「じゃあ、遠慮なく」
そう呟くや、イグニティは大きく指を鳴らした。
「さぁ、ショータイムだ」
オーガの姿になったインタルは、腰に手を当て、高笑いをあげる。
その時だ。後方から足音のようなものが耳朶を打った。
――誰かいるのか?
不安を覚えたインタルは、イグニティに闇に隠れるように合図をする。イグニティは無言で頷き、姿を闇に溶かす。
「あれー? そこにいるのはインタル先生では?」
声をかけてくるのは、どうやらこの学院の者らしい。
「なんですか?」
姿を変えてしまっている以上、この顔を見せることの出来ないインタルは、後ろを向いたまま返事をする。
「今回の対抗戦は異常ですよねー。まさか平民出の生徒達が活躍するなんて」
「予想もしていませんでしたか?」
口振り的には教師だ。そう判断したインタルは、質問で返す。
「そうですねー。って、インタル先生いつもと様子が違くないですか?」
話しながら近づいてきていた教師が、インタルの変わった体格に疑問を呈する。
「そうでも無いですよ」
そう言いながら、教師はインタルの背中に触れる。
「人間如きがオレサマに触れてんじゃねぇーぞ!!」
刹那、インタルは激昂を見せ、触れた教師の手を叩く。
「えっ……。インタル……先生?」
勢い余って振り向いたインタルの顔を見た教師は、目を丸くし、口をぱくぱくとさせている。
「インタル先生が……オーガ?」
「この姿を見たな?」
恐怖に支配された表情を浮かべる教師の頭を掴み、自分の顔の前まで持ち上がるインタル。
「見たよな?」
インタルがそう問うや、教師は勢いよくかぶりを振る。
「見てるじゃないか」
顔をグッと近づけ、圧倒的な眼力を見せる。瞬間、ぴちゃぴちゃ、という音が届く。不思議に思ったインタルは音のする方をみる。
どうやら音の正体は、恐怖に耐えかねた教師が失禁をしたもののようだ。
「汚ぇ」
そう零すや、教師はガタガタと震えながら謝罪を口にする。
「何言ってんのかわかんねぇーんだよ!」
――人間の言葉など耳にも入れたくない。
インタルは教師を壁に投げ捨てる。その衝撃は強く、壁にはヒビが入る。
人間は脆いのは承知している。恐らく、先の一撃で教師の骨は何本が逝っただろう。
だが教師は動いた。廊下を這うようにして、インタルの元から逃げ出そうとしている。
「おいおい、どこ行くんだよ」
その様子を見たインタルは、大きく首を回しながら言う。
「逃がすわけないだろ。お前は、ここで死ぬんだよ」
そう言うや否や、インタルは軽くジャンプをする。そして、教師の頭の上に着地を決める。瞬間、グチャという音と共に脳が飛び出し、目玉が零れ出す。
「あぁ、汚ぇ」
辺り一面に飛び散った血を見ながらそう呟き、インタルはその場を後にした。
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