異世界冒険記 勇者になんてなりたくなかった

リョウ

文字の大きさ
32 / 78
第2章 国立キャルメット学院の悲劇

魔物化

しおりを挟む
 前衛として切り出したのはバニラだ。柄に手を当て、決して良いとは言えない地を蹴りながら、B組代表へと詰めていく。

「絶対に勝つ」

 食いしばった歯の隙間から零れる。

「そんなに意地になるなよ」

「分かってる」

 ガースの言葉に少し苛立ちを見せながらも、バニラはしっかりと答えた。
 パイロスを倒したい気持ちはかなり大きい。しかし、それ以上にリゼッタやみんなと勝利を掴みたいという気持ちのが大きかった。
 敵はどこにいるか分からない。だが、かなり進んだことだけは理解していた。それゆえ、気持ちを引き締め、周囲への警戒を強めた。その瞬間だった。

「数時間ぶりだな」

 挑発するような声音が、バニラの耳朶を打った。
 バニラは怒りに任せ、柄を握り、一気に抜刀する。そしてそのまま、流れるように左斜め前方に袈裟斬りをする。
 無意味な虚空に振られたと思われた剣は、甲高い金属音を響かせ、宙で止まった。

「まさか、オリビアのステルスがバレるとは」

 少し驚いたような声を上げ、姿を表す。銀髪の中性的な顔立ちのパイロスは、眼前でバニラの刃を受け止めていた。

「クソっ!」

 荒い口調で吐き捨て、バニラは間合いを取るべく後方へ下がる。その隙をつき、ガースがパイロスに刃を向ける。
 完全に死角からの攻撃だったはず。しかし、パイロスは驚いた様子1つ見せることなく、攻撃を防ぎきる。

「二人がかりでもこれですか」

 貴族を嘲笑うかのような表情に、血が昇ったのか。ガースは地を蹴り、剣を振る。一撃一撃が急所を突こうとするものだ。しかし、当たらない。
 目にも止まらない速さでの攻撃にも関わらず、パイロスは危なげなく避ける。

「なんで……」

 ガースが言葉を洩らしたその瞬間。ガースは肩に強烈な痛みを感じた。
 あまりの痛さに声が出ず、恐る恐る肩を確認する。すると、肩に刃が貫通しているのが見えた。
 視認と同時に痛みが増す。死ぬ、とすら思える激痛。
 ガースは呼吸を荒くしながら、その場に崩れる。

「オリビア、自分のだけステルス強くかけてない?」

「そんなことはないわ」

 おおよそ、女子とは思えない程の低い声が耳をつく。
 しかし、話し方がどうにも女子らしい。

「そこか!」

 バニラはガースの肩を穿った剣を持っているであろうオリビアを襲うために、剣を振るう。
 だが、それは虚しく虚空を斬る。
 剣は抜かれ、ガースの肩からは血が勢いよく噴射している。

「ァァァァ」

 あまりの痛さにガースは悶絶し、その場に倒れ込む。

「これで2対1だ」

「関係ない。勝てばいいだけだ」

 周囲に最大限の注意を払いながら、バニラはそう言う。すると、パイロスは大きな声で笑った。

「違いない。だが、勝てるのか? サシでも勝てなかった相手に、不利な状況で勝てるのか?」

 試すような視線をぶつけながらパイロスは告げた。

 歯が折れるのではないか、と思うほどに強く噛み締め、パイロスに水平斬りを仕掛ける。
 切っ先は僅かにパイロスの服を掠めるが、ダメージには至らない。

「いいね」

 楽しそうに口角を釣り上げたパイロスは、それに応えるべく袈裟斬りをする。
 間一髪でそれを交わすと、バニラは突きを放つ。パイロスは剣の腹でそれを受け流すと、バニラの腹部に回し蹴りをきめる。
 腹の中にたまっていた空気が逆流し、口から零れ出る。
 腹部を抑え、対峙するバニラにパイロスは距離をつめ、左方向からの斜め切りをする。
 剣の背で受け止め弾くと、バニラは間髪入れずに詰め寄り、柄で腹部を強打する。
 バニラと同じく噎せたパイロスに、バニラは袈裟斬りを仕掛ける。一瞬、反応が遅れたパイロスは右肩に切り傷が付けられる。

「やるねぇ。あの時は本気じゃなかったって?」

「そうでもない」

 真剣な表情でパイロスと向き合っていた。その時だ、バニラは腹部に嫌なものを感じた。冷たさと熱さを兼ね備えている。怖気、というものが全身に走る。
 ゆっくりと視線を逸らし、腹部に目をやると腹部に剣が貫通していた。

「くっそ……。ガースもこれで……」

 口から血が吐き出される。その瞬間、剣は抜き去られ、大量の血が地に撒き散らされる。

「勝負に気を取られ過ぎだ。これは、あくまでチーム戦なのだから」

 倒れ込むバニラに、パイロスは静かに言い放った。

 刹那、ほとんど傷を負っていないはずのパイロスが苦しみ始めた。

「あァァ……、こ、これは……」

 腹部を抑え込み、その場に膝をつく。そして、次の瞬間――
 周囲に血飛沫が飛び散り、パイロスの額からは黒曜石のような角が生えた。

「お、お前は……」

 肩を抑え、ゆっくりと立ち上がったガースが驚嘆の声を洩らす。
 
「うわァァァ」

 今度は姿の見えない人物のうめき声が耳朶を打つ。
 同時にステルスは解除され、紫色に近い肌に黒髪の女子が姿を表すや、血飛沫が飛び散る。
 パイロスと同じく、額から黒曜石に似た角が生えている。

 体は一回り近く大きくなったように思われる。そして肌は人間のそれとは大きく異なり、完全なる青色になっている。
 目つきは悪く、目の下にはクマのようなものが出来ており、真っ黒である。
 そして何より特徴的であるのは、額から生えている黒曜石のような角である。

「ま、魔物になった……」

 驚きを隠せないガース。そんなガースを見るや、パイロスだった者は首を回し、ガースを蹴り飛ばした。
 ガースは近くの木に打ち付けられ、気を失う。


「サァ、蹂躙ヲ始メヨウ」

 元パイロスは口角を釣り上げ、大きく笑った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

.
ファンタジー
今年から冒険者生活を開始した主人公で【ソロ】と言う適正のノア(15才)。 その適正の為、戦闘・日々の行動を基本的に1人で行わなければなりません。 そこで元上級冒険者の両親と猛特訓を行い、チート級の戦闘力と数々のスキルを持つ事になります。 『悠々自適にぶらり旅』 を目指す″つもり″の彼でしたが、開始早々から波乱に満ちた冒険者生活が待っていました。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
コミカライズ企画進行中です!! 2巻2月9日電子版解禁です!! 紙は9日に配送開始、12日発売! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&2巻出版!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、コミカライズ決定いたしました!現在企画進行中!!そしてオリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 12日には、楽天koboにおいてファンタジー5位となりました!皆様のおかげです! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 オリコンランキングライトノベル 週間BOOKランキング 18位(2025年9月29日付)

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...