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第2章 国立キャルメット学院の悲劇
魔物蔓延る対抗戦
しおりを挟むパイロスやオリビアが魔物化したのと同時刻。
コータたちが模擬戦争をしている場所とは違う、それを観戦している国立キャルメット学院のグラウンド。
「ウゥゥゥ……」
そこでも同時に魔物化が起きた。
各種目で優勝を飾った平民を始め、惜しくも優勝は逃したものの活躍を見せた平民が、次々と肌色を青色に変える。そして、額からは黒曜石のような角を生やす。
その数おおよそ30人ほど。
30人ほどが、人の姿を変え魔物化する。
「な、なんだよ!」
「ま、魔物ッ!?」
「助けてー」
あちらこちらから上がる悲鳴に、教師陣が対応に当たる。
「皆さん、落ち着いて」
ククッスが抜刀し、生徒達に声をかける。だが、生徒達の動揺は収まることを知らない。
幾ら声をかけたところで、混乱は収まらない。
「攻撃をするしかないか」
攻撃態勢に入り、しっかりと剣を構えた。その瞬間、ククッスの腕を細い手が握った。
「っ!?」
「あの子達は生徒ですよ?」
「でも今はただの魔物です」
「ですが、どうにかすれば元に戻るかもです!」
ククッスにそう進言するのは、コータたちの担任であるアストラスだ。だが、そんな会話をしているうちにも逃げ回る生徒たちから血飛沫が舞う。
魔物化した生徒達に、理性などない。ただ魔物としての本能に従い、人間を襲う。
「この状況を見ても同じことが言えますか!!」
ククッスは真剣な瞳でアストラスを見る。アストラスの瞳からは色が消え、虚ろなものに変わる。
自分のせいで、自分の判断ミスで生徒達が血を流している。その事実から目をそらすように……。
「先生!!」
ククッスの一言にアストラスは目を見開く。
「やりましょう!」
そして意を決したように、アストラスは叫んだ。
* * * *
元パイロスだった魔物――オーガは、人間の目でギリギリ捉えることが出来る程の速さで移動をする。
その先には、人間が魔物化したという事実を知らないコータとモモリッタがいる。
「おい、大丈夫か?」
先程から苦しそうに胸を抑えているモモリッタに、コータは心配そうに訊く。
「だ、だいじょ……うぶ」
辛そうに答えるモモリッタ。
「無理しなくても――」
そこまで言った時だ。コータは何かを感じた。勘、と言えばそこまでだが、何だか嫌な予感というものを背後から感じた。
「まさか、あの二人が負けた?」
ピンチになればガースが魔法を打ち上げるという段取りを組んでいた。しかし、それすらない。
魔法をあげることすら出来ないということは、命を奪われているか、意識を保てていないかだ。
――あの二人に限ってそんなこと……あるはずないよな。
バニラとパイロスの決勝戦を見た限りでは、そこまでの差があるとは思えない。
思い過ごしであってくれ。
そう願った時だ。
ザッ、という音が耳に届いた。
「誰だ!?」
月の宝刀を抜刀し、周囲に最大の警戒を巡らせる。
「人間、殺ス」
そんなコータの前に現れたのは、一体のオーガだった。
「ど、どうしてここに!?」
いるはずのない魔物に、狼狽えるコータ。しかし、オーガはそれに答えることは無い。ただ欲望に従い、人間を襲う。
「蹂躙スル」
大ぶりの拳がコータを襲う。コータはそれを後方に飛ぶことで回避する。
「モモリッタ!」
声を上げる間にオーガは詰め寄ってくる。次の攻撃は蹴りらしい。右へと体を動かし、回避を続ける。
「リゼッタたちの元に戻ってこの状況を伝えてくれ」
「えっ……」
苦しそうにする女子を近くに置いておくことなど出来ない。それに、今の状況は普通じゃない。
それをリゼッタとマレアにも伝えなくて……。
「いいから早く!!」
しかし、こんな危険な場所にコータを一人で残しては行けないと思ったモモリッタ。
後方とコータを交互に見ながら戸惑いを見せている。
「俺なら大丈夫だから! 早く行ってくれ!」
オーガの攻撃が右肩を掠め、僅かに服に血が滲む。
痛みは感じているはずだ。しかし、痛そうな素振りすら見せず、モモリッタに叫び続けながら月の宝刀を振るう。
袈裟斬り、水平斬り、斬り上げ。
連続して攻撃を仕掛ける。
数回、太刀を入れることに成功するもオーガの皮膚は堅く、ダメージを負った様子はない。
それどころか、オーガの動きは先ほどよりも早くなっている。攻撃を終えたばかりのコータの隙をつくように、オーガは拳をふるった。
拳はコータの腹部にクリーンヒットする。腹部から伝わる衝撃は、全身を軋ませる。
「うぅ……ぐぅ……」
腹部を抑え込み、その場でくの字になるコータ。そこを逃すことなく、オーガは腰にさしていた剣を抜く。
そしてそのままコータに向かって振り下ろす。
「アァァァァァァ」
剣はコータの肩口から斬り降ろされる。
痛い、などという感情は完全に通り過ぎている。痛覚すら麻痺し、段々と体が冷たくなっていくのが分かった。
「はぁ……はぁ……、まだ……生きてる」
腕は落ちていない。歯を喰いしばり、立ち上がる。瞬間、コータの視界に見慣れた文字が現れる。
【称号:異世界の騎士】を発動します
いつもなら直ぐにまともに動けるようになる。
だが、今回はそうではない。感じない痛みが全身を蝕み、まともに立つことすら出来ない。
「はぁ……」
斬られたのは右肩。その手で剣を持つことすらできない。利き手では無いが、コータは左手で剣を構える。
そこへオーガからの追い討ちが来る。
稚拙、といってもいいほどの剣術。だが、暴力的なそれはあらゆる技すらも凌駕するだろう。
剣筋は僅かに視界に捉えられる。コータは間一髪で攻撃を避ける。
「人間如キガ」
苛立ちを見せるオーガに、コータは攻撃を試みることはしない。
まともに力を入れられない左手では無意味だと、理解していているから――
次の攻撃は、水平斬り。後方へ飛び避けた。その瞬間だ。
コータは背中に異物を感じた。
冷たい何かが、刺さっている。
「うぐっ……」
口からは血が吹き出る。
もう力が入らない。どう足掻いても、全身を襲う痛みからは逃げられない。
「まさか……もう一体いるとは」
コータは自身を見下ろす、女体のオーガを視界に捉えながら吐き捨てる。
「殺スノ遅イ」
女性じみた声音で、新たに出現した女体のオーガが言う。それに対し、もう一体のオーガは何も答えない。そして、コータを踏みつける。
「うぅ……」
呻き声を洩らすコータに、オーガは一切の感情もすらも見せずに剣を振り上げた。
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