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第3章 エルフとの会談
エルフ種の決断
しおりを挟む泣き崩れるネーロスタは、自宅にいた。だが、そこにはファムソーの姿はない。
今もまだ、あの会談の場で亡骸を晒している。
「ネーロスタさん」
そんな彼女に、心配そうな声をかける男性エルフ。彼もまた、悲しみと自分の無力さに打ちひしがれていた。
エルフ族の中で代表に選ばれた。その自信が奢りになっていたのかもしれない。
今は泣くよりも、先のことを考えないと。
男性エルフは、グッと握った拳に力を入れた。
「私は……私は……」
悲しみが溢れて止まない。眼前で父を殺された悲しみや憎しみは計り知れないだろう。
だが、いつまでもそうしているわけにもいかない。
今は会談中で、常時では無いのだ。
「今はしっかりしてください」
男性エルフはネーロスタの背に手を置く。
「ヒルリ……」
男性エルフをヒルリと呼び、ネーロスタは涙にまみれた目を向けた。
「会談は中断なさいますか? 今は族長の血縁者たるネーロスタさんが決定権を有しています」
何も決定出来ない自分が歯がゆいのだろう。こんな年端もいかない、一人の少女にエルフの命運を賭けなければならない。
自分は何もただそこにいることしか出来ない。
それがただただ悔しい。
ヒルリは今にも叫び出したい気持ちを抑え、ネーロスタに寄り添う。
「私は貴女に従います」
左胸に手を当て、右膝を畳につける。忠誠を示す態度で。ヒルリはネーロスタを見る。
そんなヒルリの姿に、ネーロスタは涙を拭った。
いつまでも泣いていられない、と分かったから。悲しみを忘れることなんて出来ない。だけど、ファムソーの思いを無駄にすることだけはしたくないから。
確かに、戦力補強という部分があったかもしれない。だけど、ファムソーがいつも言ってることを聞いていたから。
『エルフは他種族と対等に交流をしないと、いつの日か滅びるだろう』
何を思って言っていたのか、私には分からない。でも、そんなことをしようとしたから殺されたんじゃないの? という思いは起こらなかった。
「続けます。私が、お父さんの思いを引き継ぎます」
零れ落ちる涙は決して止まらない。しかし、ネーロスタはしっかりと言った。意志を込めて、エルフ族の未来を背負っていくという、決意を込めて。
「分かりました」
ヒルリは膝まづいた格好から、さらに頭を垂れて言った。
* * * *
アースレーンの外れ。住民区を東に進んださきにある、大きな樹海。
ハイエルフ族はそこをねぐらにしていた。
天にそびえるように、鬱蒼と生えた樹たち。
木々の僅かな隙間から、木漏れ日という言葉よりもさらに少量の光がこぼれる場所。
ちょうど頭上に来ていた陽光が極小だけ届く。
時間で言うならばまだお昼すぎだ。だが、この樹海の中は夜、と言われても信じてしまうほどに暗い。
そんな場所に住まうハイエルフ族の話し声がする。
「でも、本当に良かったのか?」
「仮にもエルフ族の族長だろ?」
「そ、そうだけどよ……」
ハイエルフ族しか住んでいない樹海。だが、話す声はヒソヒソと潜んでいる。
やはり内容が内容であるため、声量には気を配っているのだろう。
「我の言うことが信じられないか?」
それらを一蹴するかのような大きな声。発したのは、そこにいるハイエルフたちとは少し違った雰囲気を持つ者だった。
耳は尖っており、一見するとよく似ている。だが、圧倒的に違うのは肌の色だろう。
薄闇の樹海のだからこそ、あまり目立ちはしないがその実、全く違っていた。
薄白い肌色を持つハイエルフに対し、先程声を発した者は褐色の肌を持っている。
「いえ、そういうことでは無いのですが」
「大丈夫だ。我の言う通りしておれば必ずハイエルフがエルフ種の代表となれよう」
紫のトーガのような衣服に身を包んでおり、背には大きな弓を負っている。
そして、腰には鈍く光る銀製の矢が大量にある。
「有り難きお言葉。我々ハイエルフ族をお導きください」
大戦時代から居たとされるハイエルフ族。しかし、その容姿に老けは見られない。
頭上に冠をつけた、ハイエルフ族の族長エルガルドが膝まづく。それを一瞥し、褐色の肌を持つエルフが言う。
「まずは悪しき政をする一族を滅さなければならないだろ」
「その通りでございます」
「あぁ。偵察隊からもまだ人族が帰ったと報告がないからまだ続ける気だぜ」
「他種族とつるむなど愚の骨頂」
その言葉にハイエルフ族が賛同の意を示す言葉を紡ぐ。
それに対し、褐色のエルフは口角を釣り上げて嗤う。
「せいぜい踊り狂え」
「え、何か仰いましたか?」
褐色のエルフが独り言のように小さく吐き捨てた言葉を、エルガルドが訊く。しかし、褐色のエルフは薄く微笑み、
「何も」
と答えるだけだ。
「そうですか」
エルガルドはそれ以上追求することはせず、ハイエルフの民たちを見る。
「エルフ種の誇りを穢すエルフ族に目に物見せてやるぞ」
そして叫ぶように言い放つ。族長のたった一言で、士気が激増する。
それが引き金となったのか、その場に魔力だまり――高密度の魔力が集まることにより発生し、魔物が生まれたり、大きな自然災害が起こったりする可能性がある――が生まれる。
魔力保有量が桁違いに違うハイエルフ族。強い者では魔族に匹敵するとまで言われている。
そのハイエルフたちの魔力が互いに干渉し合っている。
「これはこれは。我の思った以上です」
その魔力だまりを見て、満足気な表情を浮かべる褐色のエルフ。
その笑みに気づくハイエルフ族はいない。
燃えるように真っ赤な瞳を細め、妖艶な笑みを浮かべた褐色のエルフはその魔力だまりを指さす。
「召喚術 魔物」
あまりにも小声である故に、ハイエルフはそれに気づかない。そして同時に、魔力だまりに異常が発生し始める。
薄黄色だった魔力だまりに闇色が走りだしたのだった。
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