異世界冒険記 勇者になんてなりたくなかった

リョウ

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第3章 エルフとの会談

密会、得られるものは

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 まだ夜も完全に明けていない時間、サーニャたちが滞在している宿に来訪者があった。
 フードがついた外套を着込み、顔の判別ができない。

「誰だ!?」

 宿舎の前で見張りをしていたコータは吼えるように言いながら、腰にさしていた月の宝刀の柄に手を当てた。
 だが、コータのその言動にフードを目深に被った者は、慌てたように声を上げた。

「わ、私だ」

 その者はフードを取り、姿を露にした。
 彼は誰時に届く僅かな光を浴び、煌めく薄黄色の髪に尖った耳。造形的な端麗な顔。
 それは間違いなくネーロスタその者だった。

「ど、どうしてこんな時間に?」

 敵襲と勘違いしてもおかしくは無い、まだ皆が眠りについている時間帯の来訪にコータは戸惑う。

「民に見られるわけにはいかないので」

 弱々しく笑みを浮かべたネーロスタ。その目は真っ赤に腫れており、父であり族長でもあったファムソーの死を嘆いていたのが分かる。

「そうですか」

 そう言いながら、コータは柄から手を離す。

「少々お待ちください」

 そう断り、コータは扉を3度ノックする。すると、中から極小の声が届く。

「どうか致しましたか?」

 まだ眠たそうなルーストの声だ。

「来訪者です」

「どなたですか?」

 コータの言葉に目を覚ましたのか、声音がハッキリとしたものに変わる。

「ネーロスタ様です」

「ネーロスタ……。ファムソー様のところの?」

「そうです」

「分かりました。暫くお待ちいただくようお願いします」

 その言葉を受け、コータはネーロスタに向き直る。

「少々お待ちくださいとの事です」

「分かりました」

 ネーロスタは静かに答えた。
 民に見られたくない、というのはどういう事なのか。コータには一切わからない。だが、ルーストはその旨を伝えずとも理解していたように思えた。
 やはり圧倒的な経験不足なのだろう。

 ――こんな場面、日本ではないもんな

 頬を掻きながらそんなことを思っていると、室内から声がかかった。

「コータ」

「はい」

「通してもらって大丈夫だ」

 呼びかけてきたのはサーニャ。先程まで寝ていたはずなのに、しっかりとした声色だ。
 凄いな、などと思いながらコータはネーロスタに向く。

「どうぞ」

 扉を開け、ネーロスタを通す。

「ありがとう」

 昼間に会った時とは違う、風格のようなものを感じた。
 彼女にどんな変化があったのか、コータには分からない。だが、それ相応の覚悟があることだけは伝わった。

 * * * *

 畳の敷かれた、姫様が滞在するには些か窮屈な室内。そこへ足を踏み入れたネーロスタは外套を脱ぐ。

「このような格好で申し訳ございません」

「いえ。人目を気にされたのでしょう」

 サーニャは部屋着のようなネーロスタに、優しく微笑みかけた。涙跡が残る目尻を一瞥し、彼女の覚悟を受け取る。

「今はまだ公には発表されていませんが、私が族長の座を受け継ぎます」

 一呼吸置き、真剣な瞳を浮かべてサーニャを見つめたネーロスタが、静かに言い放った。
 真摯な態度でそれを受け入れたサーニャは、こくんと頷く。

「そうか。それでエルフ族の族長が一体どのような用件だ?」

「会談の続行についてお願いに参りました」

「それは構わん。だが、アースレーンの状況について詳しく教えて貰わない限りは、私共も安心して滞在出来ない」

「そうですね」

 力なく微笑んだネーロスタは、サーニャとルーストに対してアースレーンで起こっていることを詳しく説明した。

 数日前まで族長間で会議が行われていた。それは異種族との交流について。

 積極的に交流をし、他文化を受けいれ発展させていこうと主張するエルフ族。
 他種族との交流などせず、今まで自分たちが培ってきたもので生きていこうとするハイエルフ族。

 ハイエルフ族はかつての大戦の経験もあり、他種族のことをよく思っていない節がある。
 対して、エルフ族は大戦後にハイエルフが進化して生まれた新種であり、それぞれの溝について何も知らない。
 そんな両者の言い分に折り合いが付けられることなく、日だけが過ぎてサーニャ達がやって来ることになった。
 そのため、宿舎などの準備も整っていなかったと言う。
 大戦を経験し戦いというものを嫌うハイエルフ族が武力行使に出ないと踏んだエルフ族は、会談を強行した。だが、その結果は昨日の通り。
 武力行使に出たハイエルフ族による族長暗殺。

「戦いを嫌うものが先陣を切って戦うものか?」

 話を聞いたサーニャが、ルーストに確認するように訊く。

「気持ちが変わった、ということでしょう」

「まぁ、そうだな」

 どこか腑に落ちないような表情を浮かべたサーニャ。だが、その正体が何か分からないためこれ以上追求することはできない。

「それで、会談の方は?」

「正直乗り気になれません」

 悩むサーニャより先に、ルーストが口を開いた。

「……っ。ですよね」

 そう言われることは想定していたのだろう。だが、ネーロスタは少し表情を曇らせる。

「やらない、ということでは無い。ただこちらも最低限度の安全を保証してもらわないと。交渉などできない」

 サーニャは厳しい視線をネーロスタに向けた。ネーロスタは、顔を下げて俯くように「はい」と答える。

「族長ならば顔を下げるな。前を向いて次のことを考えるんだ」

「は、はい」

 サーニャの言葉に、慌てて顔を上げるネーロスタ。

「とりあえず、会談の件については少し考えさせて貰う」

「分かりました」

 そう返事をし、ネーロスタは立ち上がり部屋を出ていった。
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