異世界冒険記 勇者になんてなりたくなかった

リョウ

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第3章 エルフとの会談

ダークハイエルフの策

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 少し時は遡り三日前。ハイエルフ族族長エルガルドが、エルフ種三種族会談を終え樹海に戻ってきた時だ。

「魔族七天将が一人、ダークハイエルフ種のアバイゾ」

 尖った耳に褐色の肌。紫色の髪に、濃紺の瞳を持つ、者が樹海に現れた。
 ダークエルフ族と酷似した姿。だが、何かが違う。ダークハイエルフ、アバイゾは名乗った。
 その姿に目を丸くするハイエルフ族。エルフとハイエルフの違いはほぼない。ただ耳の尖り具合と魔力保有量の違いだろう。
 アバイゾはその場にいるハイエルフ達を見渡す。

 ――ほう、これほどまでとは。さすがは大戦を生き延びた種だ。我ら魔族に匹敵する魔力保有量だ。

 今にも体から溢れだしそうな、綺麗な魔力に驚きながらもアバイゾは族長に向かって歩いた。

「お前が頭か?」

「そ、そうですけど」

 見たことの無い、ダークエルフのような生き物に警戒を見せながら返事をするエルガルド。そんなエルガルドに、アバイゾは不敵に嗤う。

「まさか、あの孤高のエルフ種がついに開国するとはな」

 ハイエルフ族を試すような、口ぶりで。アバイゾはエルガルドの前に立つ。
 アバイゾの方が身長がかなり高い。いや、エルガルドが小さいのだろう。
 見下ろすような形で放たれた言葉に、エルガルドはキツい視線を向けた。
 だが、それに堪えた様子はない。それどころか楽しそうな表情を浮かべたアバイゾは、続ける。

「あの大戦を生き延びた種族が、人間如きと手を取り合う。そんなことでいいのか!?」

 演説のような言い回しに、ハイエルフ族から声が上がる。

「いいわけない!」
「人間なんて認めるな!」
「悪しき種族と手を取り合おうとしている奴らと仲良くなんてできるか!」

 あちらこちらから人間種に対する罵詈雑言が飛び交う。少しの戸惑いを見せるエルガルドに、アバイゾは体を屈めて視線を合わせる。
 濃紺の瞳がスっと細められる。見ているだけでも怖気で、全身の毛が逆立つような気に陥る。
 瞳が見開かれ、エルガルドは自分の思考を全て読み解かれているような気になる。
 そんなエルガルドに、アバイゾは手のひらを向けた。

「何もしませんよ」

 先程の雰囲気とは打って変わって、優しく聖職者のような柔和な音を放つ。
 顔とのギャップに戸惑いを隠せないエルガルド。だが、そのようなことを気にした様子はなく、アバイゾはさらに続ける。

「ただ力を貸すだけ」

「力を?」

「えぇ。とびっきりの力で屈服させればいい。そうすれば、甘い考えのエルフ種も気づくはず。自分たちだけでやっていけると言うことに」

 口角が釣り上がり、不気味な笑みを浮かべている。だが、それが見えているのはエルガルドのみ。声だけを聞いたハイエルフ族は怒号にも似た咆哮をあげ、やる気を漲らせている。

「具体的には……」

「族長ファムソーを始末する」

 * * * *


「これを」

 ファムソーを殺した翌日。アバイゾはエルガルドに、ピストルのような形をした武器を示した。

「これは?」

 見たことない武器に戸惑いを隠せないエルガルドに、アバイゾは満足気な表情を浮かべる。そして、ピストルを手に取り、銃口を近くの樹に向ける。

「よく見ておけ」

 短くそう言うと、アバイゾはピストルに魔力を流し込む。黒色のそれに僅かな光が纏う。
 あまりに完璧な魔力操作に目を見開くエルガルドを横に、アバイゾはトリガーに手をかける。
 トリガーを引いたその瞬間、鼓膜を突き破るかのような轟音と共に、樹に大穴が穿たれた。

「ま、まさか……」

 こちらの体力の大半を消耗させるほどの大掛かりな魔法を発動し、ようやく倒せる程の樹。それをアバイゾは、たった一つの武器で樹に大穴を穿ち、倒してみせた。その圧倒的な破壊力に、エルガルドは言葉が出なかった。
 それは轟音を聞き、駆けつけてきたハイエルフ族達も同じ。ポカーン、と口を開き驚きと呆気に取られていた。

「これは魔道具の一種で名を魔道銃マガンナという」

「ま、マガンナ……」

「そう。この銃に魔力を流し込むことで弾丸を生成することができ、それをこのトリガーを引くことで発射させることができる」

 そこまで言うとアバイゾは再度、魔道銃に魔力を流し込む。同時に銃に光が帯びる。
 そして、先程倒した樹の隣にある樹に銃口を向ける。

「銃の先にある穴、銃口を弾を打ちたい方へ向けッ」

 トリガーを引く。瞬間、轟音と共に銃口の先にあった樹に大穴が穿たれる。そして、ミシミシと軋む音がして樹が倒れる。

「弾は魔力の続く限り永遠と生成することができる。ハイエルフ族の魔力保有量から見ると、永遠、といっても過言ではないだろう」

 そこまで言うと、アバイゾは指をならした。瞬間、眼前に魔法陣が浮かび上がりそこから歪んだ空間が現れる。――空間魔法だ。
 その中に手を入れるや、大量の魔道銃を取り出す。

 その数おおよそ五十。

「これだけあればエルフ種を完全に地に落とせるでしょう」

 そのうちの一丁を手に取り、不敵に言い放つ。そしてそれをエルガルドに手渡す。

「さぁ、これでファムソーの娘ネーロスタを、ネーロスタが大事にしているエルフ族に恐怖を」

「そ、それはやりすぎでは」

 銃を受け取ったがいいが、そのあまりの破壊力に。争いごとが好きではないハイエルフ族としては、至極当然の反応見せた。
 だがしかし、アバイゾは表情一つ変えずに言う。

「殺らなければ殺られますよ? もう戦いの火蓋は切って落とされた。ほら、言っているうちに……」

 アバイゾは上空に指をさした。そこには見張りをしていたはずのハイエルフ族がいた。

「もう1人は!?」

 眼前に現れた見張り役に、エルガルドは声をかける。

「エルフ族にや、殺れました」

 見張り役は2人いた。しかし、ここに現れたのは1人。そしてよく見ると、その1人も背には大きな怪我をおっている。

「ね? 言ったでしょ?」

 愉快そうにアバイゾは言う。エルガルドは仲間を殺られたことに怒りを覚えている様子だ。全身を震わせ、手にある銃に目を落とす。

「やりたくはない。でも、やらなきゃ殺られる。お前たち、準備はいいか!?」

「おぉ!!」

 集まっていたハイエルフ族は手を掲げる。そして、順番にアバイゾが準備していた魔道銃を手に取り、その場を去っていく。

「この方は我が見ておこう」

「ありがとうございます」

 負傷した見張り役だったハイエルフに手を貸して言うアバイゾに、エルガルドは礼を告げる。
 そしてそのままその場を立ち去った。

完全回復パーフェクトヒール

 負傷箇所に手を当て、そう言うやハイエルフの怪我はたちまち治る。それに喜ぶハイエルフに、アバイゾは魔道銃を手渡す。

「これで復讐できますよ」

 ハイエルフは何も言わず、静かに頷くや魔道銃を受け取りその場を去り、残ったのはアバイゾだけになる。

「仕込みは完璧。ここまで我の思い通りになるとは。あとはエルフ族にヤル気を見せてもらうだけか」

 口角を釣り上げ不敵に言い放ち、指を鳴らす。瞬間、アバイゾの姿が人の肌を持ち、薄黄色の髪に碧眼のエルフ族のそれに変化する。

「ネーロスタ様にお伝えしますか。アバイゾではなく、ヒルリとして」

 サーニャとファムソーの会談に護衛として姿を現していた男性エルフ、ヒルリ。
 その姿に変化したアバイゾは、背に生えた羽を上下させその場を後にしたのだった。
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