異世界冒険記 勇者になんてなりたくなかった

リョウ

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第3章 エルフとの会談

VSアバイゾ 7

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 闇の槍がコータの腹部を捉える。暴風がどうにか攻撃を防ごうとするも、槍の勢いに掻き消されていく。

「くっ……」

 歯を食いしばり、槍をやり過ごそうとする。だが、それでどうこうできるものではなかった。
 シナツヒコの力を抑え込み、それどころか勢いを上回りつつある。

「はッはッはッ」

 高笑いをあげるアバイゾ。その笑いにあわせて闇の槍の威力が上がっていく。圧されるシナツヒコの力。蒼色の暴風は、徐々に勢力を弱めて消えつつある。

『この場から離れてくださいッ!』

 切羽詰まったピクシャの声が聞こえる。コータは苦悶の表情を浮かべながらも、大地を強く踏みしめて後方へと大きく飛んだ。
 コータに力を注いでいた闇の槍は、向かう先を失ったのか、踏みしめた後の残る大地に突き刺さった。
 大地はえぐれ、粉塵が舞う。

 間一髪、アバイゾの攻撃を避けることが出来たコータの周囲には微弱な風が吹くだけ。
 魔物を圧倒していた時のような強さは微塵も見受けられない。

「雑魚が調子に乗るからだッ」

 粉塵舞う中、アバイゾは声を上げながら魔法を編む。

「見えざる刃”インビジブルブレイド”」

 瞬間、粉塵が切り裂かれた。何だ、そう思う間もなくコータの頬に切り傷が生まれる。

「ッ!?」

 暴風が力を弱めていることも相まり、コータに見えざる刃を防ぐ手立てがない。
 粉塵が異様な動きを見せたのと同時に、コータの全身に切り傷が生まれる。

「ど、どうしたら――」

 避ける手立ても、状況を打開する策も見当たらない。コータは小さな傷が生まれるのを見ながらぽつりと呟く。

『これを使うのは良くないのだけど。今はこれしかないから――』

 覚悟を決めるような声音でピクシャが呟くと、コータに訊ねる。

『身体に凄い負担がかかると思うけど、いいかしら?』
「あぁ。いま、この状況をどうにかできるならなんでもいい」

 ロイを殺され。手に入れた力はもう底を尽きそう。その上、アバイゾはより一層強い力を使用して、コータを屠ろうとしている。
 ロイの仇をとるためにも、コータはここで負けるわけにいかないのだ。
 強い言葉でそう返事をするや、ピクシャはコータに端で戦闘を見守っていたミリを呼ぶように言った。

「ミリ!」
「え、わ、私ッ!?」

 あまりに突然の呼び掛けに、素っ頓狂な声をあげるミリ。状況を理解出来ないまま、その場を動きコータの方へと動き出す。
 だが、アバイゾが簡単にそれを許すわけが無い。

『ミリの元へ動きましょう。ミリが殺られてしまいます』

 ピクシャの言葉と同時に脳裏に過ぎるロイの最期。返事をする前にコータは動き出す。
 コータは残りわずかとなった蒼色の暴風を駆使し、アバイゾが攻撃を行う数秒前にミリの元へとたどり着く。
 それとほぼ見えざる刃がコータの頬を掠め、鮮血が滲み出る。

「危なかった……」

 そんな言葉をこぼしながら、体内にいるピクシャに呼びかける。

「ここからどうすれば?」
『私と融合した時と同じように。ミリにもの声をかけて』
「えっ……。それって……」
二重統合ツインユニアル。身体にかかる負担が大きいから普通はしない魔法よ。それでもやるんでしょ?』
「当たり前だ」

 数多の見えざる刃が皮膚を切り刻んでいく。そんな些細な傷など気にした様子もなく、コータは強く宣言をした。

『それじゃあ、まずは契約からよ』

 ピクシャの言葉に頷き、コータはミリに向く。そして、新たな傷を付けながらも静かに告げた。

「ミリ、俺と契約をしてくれ」

 コータの言葉に驚き、戸惑いを見せるミリ。それも仕方の無いことだろう。つい先程まで、ロイと契約を結んでいたのだ。
 いくらピンチだからといっても、すぐに鞍替えという決断をするのは酷なことであろう。
 コータはそれを理解していたからこそ、傷を受けながらも何も言わなかった。強引に契約を結んだところで意味などないのだ。互いの気持ちを受け止めあって、ようやく契約と言えるのだ。

『今は辛いかもしれない。でも、いま決断しないと手遅れになるの』

 ピクシャはミリを説得するかのように、俺の中から声を洩らした。ミリの目には真珠のような大玉の涙が浮かんでいる。
 悲しみを押し殺すかのような声で、涙を我慢したような鼻声で、ミリは呟く。

「我、ミリは汝コータを主とし、従事することを誓う」

 あまりにもいたたまれない声音に、コータまでもが涙ぐむ。しかし、そんな感情などとは関係なく契約を成立した証が鮮烈な光として現れる。

「二重契約だと!?」

 新たに瞬いた閃光にアバイゾは驚きの声を洩らし、すぐさま新たな魔法を編み出す。

「永久の力 勇ましく猛る豪傑 我が声に答えし魔の力 いま解放せよ」

 今度は術を唱える。それと同時にアバイゾの背後に巨大な闇色の魔法陣が展開される。

『こんな巨大な魔力があるなんて……。早く融合を!』

 どんどんと膨れ上がるアバイゾの魔力。それに伴い膨張していく魔法陣。それらを見て焦りをより強くするピクシャは、コータの中で叫ぶ。
 コータは眼前で奥歯を噛み締め涙を殺すミリと、目を合わすことが出来ないでいた。

 悲しみの時間すらもなく戦いに参加させられる彼女が可哀想でならなかった。戦時中ならば、結婚後すぐに徴収され、未亡人になるなんてことはよくある話なのかもしれない。だが平和な時代に生まれ、育ってきたコータにとっては異常な話で、考えの及ばないものだった。
 それとよく似た状況が眼前で起こり、自分が徴収しなければならない程に力がないことが悔しくて。
 思わず口をつく。

「ごめんな」

 コータの言葉が意外だったのか。ミリは涙の浮かぶ目を大きく見開いた。ミリがコータの本心を問おうとする前に、コータは二重統合を成すための言葉を告げた。

「世界の理を牽引する者よ 我との契約の下
 魔力を糧とし 汝の力を解放し給え 精霊統合ユニアルスピリッツ
「我、汝の契りを受け入れ給わん」

 コータの言葉を聞いたミリは、短く息を吐き捨て覚悟を決めた。涙色に塗れた声で、精霊統合を受け入れた。

 瞬間、コータの体に激痛が走る。
 体内にある魔力が暴走し、血液の流れが異常を来たしている。

「うッ、ぐわぁぁァァッ」

 あまりの痛さに、絶叫に似た声を上げるコータ。そんなコータに、体内からピクシャが声をかける。

『イメージをするのよ。我とコータとミリの魔力が一定方向に流れるイメージを』

 全身を暴れ回る血液。いつ膨張して、体が吹き飛んでもおかしくないだろう。
 そんな痛みの中、コータは脳内で3つの魔力が同一方向に流れるイメージをする。
 3つの川が1つの大きな川に合流するイメージだ。

 イメージを強固にしていくにつれ、体内の暴走は収まりを見せていた。
 そして痛みが収まると同時に、コータの体は眩い閃光に包まれた。

 閃光は刹那で消え去り、その中から現れたコータの姿は先程までと少し違っていた。
 見た目はもちろん、あらゆるものを力で捩じ伏せてやろう。そのような雰囲気を纏っていた。

「殺す」

 ドスの効いた声音で短くそう言うや、眼前でどんどんと魔力を膨らませるアバイゾを上回る魔力を洩らす。

「何ッ!?」

 立っていることすらままならない圧倒的な魔力に当てられ、驚きを洩らすアバイゾはより一層に魔力を膨らませ、魔法陣を巨大化させる。
 しかし、コータはそんなアバイゾの魔法陣ですらも超える巨大な魔法陣を刹那で編み出した。

「吹き荒れろ 烈風業火セト・カグツチ

 混じりのない黒髪にほのかに光る緑色の房に加え、ほのかに光る赤色の房が生まれている。瞳も右眼は燃え上がる朱色に、左眼は蒼っぽい翡翠色に容姿を変化したコータがそう吠えた。
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