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第3章 エルフとの会談
戦いの後の戦い
しおりを挟む「ロイ……」
血を含む土砂に埋もれかかっているロイに、コータはそっと声をかけた。やはりロイから返事は来ない。
「すまなかった」
自分が油断をしたから。自分があの場で受け身になり、死を覚悟してしまったから。足掻くことをしなかったから――。
自らを庇い、息を引き取ったロイに謝罪を口にする。今にも溢れ出してしまいそうな涙をぐっと堪え、コータはロイに向かい手を合わせる。
「埋葬でもするか?」
コータが手を合わせている横で、真珠の如く大きな涙をこぼしているミリにそう問う。
そんな時だった。轟音にも近い羽音が、鱗粉を撒き散らしながら上空にやってきた。
「今こそ仇をッ!」
声高々に、コータが気を失わせていたはずのハイエルフ達が次々と上空で詠唱を始める。
「どうなってんだ……?」
ロイと手を取り合い、ハイエルフとも同じような関係になれたと思い込んでいたコータは状況を理解出来ずに難色を声を洩らす。だが、実際にはロイとだけ手を取りあったわけで、ハイエルフたちとは何の交渉もしていない状況なのだ。
ロイは倒れ、コータだけが立ち上がっている姿を見るとコータが手を下したようにすら思える。
「ロイを殺した落とし前つけさせてもらうぞ!」
魔法陣が展開され、薄らと色が帯び始める。あと数秒で魔法陣は完成し、魔法が放たれるだろう。だが、今のコータにその魔法を防ぐ体力が残っているはずがない。
アバイゾとの戦闘で力を使い果たし、ただ呆然と魔法陣が完成していくのを見ているだけだ。
魔法が飛んでくれば確実にダメージを負い、魔法の勢いによっては死すらも有りうるかもしれない。
――ここで諦めれば、ロイを殺してしまったあの時と同じだ。
コータは歯を食いしばり、ゆっくりと両手を前方へと突き出す。
「ダメっ!!」
コータの行動を視界の端で捉えたピクシャが、目を丸くして焦ったような声色で続ける。
「ほんとに死んじゃうよ!?」
「今やらないと……」
ロイに合わせる顔がないんだ。
その一心で魔法を展開しようとした。その瞬間、コータの腕に小さな手が乗せられた。しっかりとした重さを乗せ、ミリはコータを射抜く。
「死んじゃダメだから。ここは私に任せてよ」
何とも形容し難い表情を浮かべたミリがコータに言う。
慈愛なのか、哀愁なのか、懇願なのか、同情なのか、慚愧なのか。
自分でも感情を整理出来ていないような、曖昧な顔の彼女にコータは両手を下ろして頷く。
「頼めるか?」
「ほんと、やれ、って命令しないあたりロイと似てるんだから」
目尻に薄らと涙を浮かべたミリは、コータに背を向けて展開される魔法陣に向かって飛び出していく。
どんどんと光を集結させていく魔法陣。いつ魔法が展開されてもおかしくない状況だと言うのに、臆せず魔法陣の前に立ちふさがったミリ。
小さく、一見して幼く見えるミリは誰よりも勇気を持って、大きな声でコータに攻撃をしようとするハイエルフたちに呼びかける。
「お願いっ! 攻撃をやめてっ!」
光の威力が増していく。あまりの光量に思わず目を細めるミリ。だが、言葉を止めることは無い。
「戦いはもう終わったの!」
ミリの言葉が届いていないのか。光の威力が収まる様子は微塵もない。このままでは、ミリ諸共魔法で消し飛ばされてしまうかもしれない。
「ピクシャ。もう一度だけ、精霊統合できるか?」
「何言ってるの!? 認められるわけない!」
「でもこのままじゃ。ミリが!」
「それは……」
弱まることない光の強さに、目を伏せるピクシャ。この勢いで魔法が発射されれば、ミリはもちろん離れた距離にいるコータたちですらも死は免れないだろう。
「僅かでも生き残る可能性があるだ。俺はそれに賭けたい」
「……」
コータの真摯な視線に、ピクシャは下唇を噛み締めた。コータに反論する言葉が見つからないから。言い返す代わりに唇を噛み締めたのだ。
「世界の理を牽引する者よ 我との契約の下
魔力を糧とし 汝の力を解放し給え 精霊統合」
詠唱を言葉にする。瞬間、コータの毛細血管が悲鳴をあげ全身から血が吹き出す。苦悶の表情を浮かべながらも、コータはしっかりとピクシャを見据える。
「……我、汝の契りを受け入れ給わん」
コータの全身から血が吹き出す様から視線を逸らし、ピクシャは両手を強く握りしめる。
受け入れることしかできないこの状況を歯がゆく思いながら、ピクシャは掠れ気味の声で応える。
刹那の時間も要さず、コータの体にピクシャが吸い込まれて容姿が変わる。
混じり気のない漆黒の髪に、ほのかに光を放つ緑色の房が現れ、瞳が蒼色に近い翡翠色に変化した。
「もう、誰も死んで欲しくないのッ!!」
涙色を強く含んだ声音で、喉が張り裂けそうな程に大きな声で叫んだミリ。
契約者を守ることすら出来ず、ただ目の前で死んでいく様を見るだけだった。
そんな自身への情けなさ、やるせなさ、苛立ち、全てを込めてミリは叫んだ。
その想いが通じたのか、どんどんと強くなっていた光量が一気に弱まりを見せる。
ミリの想いが届いたのだろうか。
そう思ったのも一瞬。魔法陣は消えることなく、それまで以上に強い光を放ち、同時に光の一閃が放たれた。
みるみるうちに光はミリに迫っていく。
――ロイ。私も、そっちに行くね……。コータ、ごめんね。
ミリは死を覚悟した。迫り来る光の一閃の威力は、受ければ跡形も残らず消えるだろう。
ロイへの想い。コータへの謝罪。
どちらもを心で唱え、目を伏せるのだった。
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