異世界冒険記 勇者になんてなりたくなかった

リョウ

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第3章 エルフとの会談

ハイエルフ軍の強襲

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 全身から血が吹き出ている。張り裂けそうな程に全身が痛い。
 それでも、コータは諦めることなく向かい来る閃光に迫る。
 その閃光に立ちはだかり、状況の打破を思ったミリを救うために――。

 コータは全身の軋みを堪え、血を吹き荒らしながら大地を蹴り飛ばして宙を行く。
 毒々しい程に赤い血液が目に着き、視界を赤く染め上げる。その視界の中でも、圧倒的の光量で輝きを放つハイエルフの魔法。

 今すぐにでも逃げ出したい気持ちがない訳では無い。まだ間に合うのだから。
 軌道修正をすれば、きっとハイエルフからの攻撃を避けられる。
 でも、コータはそれをしない。それをしてしまえば、あの時と同じになってしまうから。
 ロイが自分にしてくれたことを、今度はコータが返す番だから。

 鮮血が舞う量は尋常ではない。恐らく致死量に近いだろう。
 もう閃光が眼前に迫っている。少しでもタイミングが遅れればきっとコータも助からないだろう。それでも、希望は捨てることなくコータは閃光に立ちはだかったミリを抱きしめ、宙を蹴るようにして閃光の幅から逃げる。

「こっ、コータ!?」

 驚きを隠せないミリの声はとても震えてた。眼前に迫りくる閃光に、小さな体で必死に迎え撃とうとしていた。
 並大抵の神経では逃げたくなるだろう。それを必死に立ち向かったミリに、コータは奥歯を噛み締めた。
 精霊種で、コータより遥かに年齢は上かもしれない。
 それでもこんな小さな女の子に、無茶させている自分が情けなくて……。

「……すまん」

 掠れ、絞り出すような声音で。コータは吐き捨てる。
 その声にミリが反応を見せた。弱々しく、自虐的な笑み。
 そんなコータのわずか数センチ後ろを閃光が通りすぎる。
 ミリを救えたことに安堵を覚えた、瞬間。コータの体は限界を迎えた。
 目からは鮮血の涙がこぼれ、口からは意図せずに吐血する。

「ぐッ……」

 体が言うことを聞かない。
 どう動かそうにも、痺れと痛みで動いてくれようとしない。

『コータ! 早く解除を』

 焦りに満ちた声が体中に響き渡る。その声に答えようにも、コータの体が反応を見せない。
 ピクシャの焦燥がヒシヒシと伝わってくる。

 どうにか。どうにかしないと――。

 吐血交じりで口を開く。しかし、言葉はうまく出てこない。血が、痛みが、あらゆる要素が解除の言葉をさえぎる。

「早く!! コータ!!」

 腕の中にいるミリからも声が飛ぶ。
 しかし、それにも反応することができない。それどころか、聞こえていたはずの声ですらも遠く霞んでいく。

 ――どうして? どうして、声が……。おい、ミリ。俺から離れるんじゃ……。ピクシャも、体の中から話しかけてるんだから、もっと声を……。

「しっかりしてよ!!」
『コータ!』
「目、瞑らないで!」
『はやく……。はやくッ!!』

 二人のうるさいほどの声が飛び交っている。だが、コータの目は虚ろになり、声に反応を見せない。
 その間にも地面はどんどんと近づいていく。
 
「コータ!!」

 ぼろぼろになった羽を広げ、ミリはどうにかコータを支えようとする。
 だが、ミリ一人の力ではコータを支えることはできず、出来るのは落下速度を少し緩めるくらいだ。

「もぅ……だめ」

 ミリは必死の形相でコータの体を引き上げようとしているが、地面までの距離が僅かとなったところでコータの全身から血が噴き出した。それと同時に、体が淡い光に包まれ、ピクシャとの統合が強制的に解除された。

 ドンっ!!!!

 大きな音とともに砂埃が舞い上がる。

「やったか?」

 閃光を放ったハイエルフの一人が言葉をこぼす。
 大きな音と砂埃。ハイエルフがそう思うには十分だった。

 砂埃が上がる。そこには尋常ではない量の血を撒き散らし、倒れるコータの姿があった。
 異様な光景に、ハイエルフの何人かは思わず嗚咽を上げる。

「ふざけないで……ッ」

 小さいが確かに怒気をはらんだ声。ミリの口から発された、ミリのものとは思えない声に、ピクシャですらも驚く。
 小さな握りこぶしを崩すことなく、ぼろぼろになった体に鞭をうち、ミリは大地を蹴り飛ばし宙に留まるハイエルフたちに向かう。
 瞬く間に距離をつめたミリは、ハイエルフ軍の先頭に立つ男性ハイエルフの顔面を殴った。

「ふざけないでよ!!」

 殴られたことに驚きを隠せない男性ハイエルフは、殴られた頬を抑え、自身を殴った相手である小さな精霊種を睨めつける。

「お前は……確かッ! ロイと一緒にいた精霊!」

 ハイエルフ軍に属する誰かが声を上げる。それを聞きつけた頬を抑えるハイエルフが、目を見開く。

「まさかッ!? 我々を裏切り、人間如きの仲間に!?」

 そんなことがあってたまるか。あっていいはずがない。
 そう言わんばかりの表情でミリを見下ろす。だが、ミリはそのようなことに怯むことない。
 ただ、強い意志のこもった目でみるだけ。

「この状況でよくそんなことが言えるわね」

 鮮血にまみれ、微動だにせず倒れ込むコータを横目で確認するミリ。それと同時に涙がこみ上げてくるのが分かった。

「この状況、だと? 人間が同胞であるロイを殺したんだろッ!」

 頬を抑えていた手を薙ぎ払うように、男性ハイエルフが吼えた。
 その言葉を聞いたミリの目からは、これまで以上に大きな涙が目じりにたまる。
 それを見た男性ハイエルフが、より一層の嫌悪を露わにした。

「所詮は戦に敗れ、長々と生きているだけの種族だ」
「ふざけないでッ!!」

 ミリの絶叫とともに大粒の涙が頬を伝い、流れ落ちる。

「何も間違ったことはいってないだろ!」

 男性ハイエルフはミリに呼応するかのように、大声をあげる。

「何も分かってない……。みんなは何も分かってない……」

 自分がどれだけ声をあげても、ハイエルフ軍には何も伝わらない。その現実がヒシヒシと伝わり、ミリは涙ながらにポツリと呟いた。

「ごめん、コータ。ごめん、ロイ。私も、すぐそっちにいくから……」

 ミリの眼前で編まれていく魔法陣。大きくなっていくそれに、ミリは諦めの感情を抱いた。

 ――コータだってあの出血だ。もう助からない。ロイも、コータもいない。そんな世界で、私は何のために生きればいいの? もう、私には何も残ってない……。そんな世界に一人で生きながらえるくらいなら、ここで死んだ方が……。



「諦めるなんて……、ロイが絶対……許して……くれない……ぞ?」


 ミリが瞳を伏せ、この世界との決別を決めたその瞬間。
 聞こえるわけがない、大量の出血でつい先ほどまで大地に寝転がっていたはずのコータの声がした。

「えっ……?」

 その有り得ない状況についていけず、ミリは恐る恐る声がした方を見た。
 そこには、鮮血に染められ、本来の肌が何色かさえも分からないコータがいた。今にも息絶えそうなコータを支えるピクシャが、ゆっくりと口を開く。

「あんたの訴えは決して届かないわけじゃない。だから、このハイエルフたちをどうにか説得して」
「これは……ミリにしか……できない……ことだからな」

 途切れ途切れのか弱い声でそう言い切ると、コータはゆっくりと親指を突き立てたのだった。

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