72 / 78
第3章 エルフとの会談
ハイエルフ軍の強襲
しおりを挟む全身から血が吹き出ている。張り裂けそうな程に全身が痛い。
それでも、コータは諦めることなく向かい来る閃光に迫る。
その閃光に立ちはだかり、状況の打破を思ったミリを救うために――。
コータは全身の軋みを堪え、血を吹き荒らしながら大地を蹴り飛ばして宙を行く。
毒々しい程に赤い血液が目に着き、視界を赤く染め上げる。その視界の中でも、圧倒的の光量で輝きを放つハイエルフの魔法。
今すぐにでも逃げ出したい気持ちがない訳では無い。まだ間に合うのだから。
軌道修正をすれば、きっとハイエルフからの攻撃を避けられる。
でも、コータはそれをしない。それをしてしまえば、あの時と同じになってしまうから。
ロイが自分にしてくれたことを、今度はコータが返す番だから。
鮮血が舞う量は尋常ではない。恐らく致死量に近いだろう。
もう閃光が眼前に迫っている。少しでもタイミングが遅れればきっとコータも助からないだろう。それでも、希望は捨てることなくコータは閃光に立ちはだかったミリを抱きしめ、宙を蹴るようにして閃光の幅から逃げる。
「こっ、コータ!?」
驚きを隠せないミリの声はとても震えてた。眼前に迫りくる閃光に、小さな体で必死に迎え撃とうとしていた。
並大抵の神経では逃げたくなるだろう。それを必死に立ち向かったミリに、コータは奥歯を噛み締めた。
精霊種で、コータより遥かに年齢は上かもしれない。
それでもこんな小さな女の子に、無茶させている自分が情けなくて……。
「……すまん」
掠れ、絞り出すような声音で。コータは吐き捨てる。
その声にミリが反応を見せた。弱々しく、自虐的な笑み。
そんなコータのわずか数センチ後ろを閃光が通りすぎる。
ミリを救えたことに安堵を覚えた、瞬間。コータの体は限界を迎えた。
目からは鮮血の涙がこぼれ、口からは意図せずに吐血する。
「ぐッ……」
体が言うことを聞かない。
どう動かそうにも、痺れと痛みで動いてくれようとしない。
『コータ! 早く解除を』
焦りに満ちた声が体中に響き渡る。その声に答えようにも、コータの体が反応を見せない。
ピクシャの焦燥がヒシヒシと伝わってくる。
どうにか。どうにかしないと――。
吐血交じりで口を開く。しかし、言葉はうまく出てこない。血が、痛みが、あらゆる要素が解除の言葉をさえぎる。
「早く!! コータ!!」
腕の中にいるミリからも声が飛ぶ。
しかし、それにも反応することができない。それどころか、聞こえていたはずの声ですらも遠く霞んでいく。
――どうして? どうして、声が……。おい、ミリ。俺から離れるんじゃ……。ピクシャも、体の中から話しかけてるんだから、もっと声を……。
「しっかりしてよ!!」
『コータ!』
「目、瞑らないで!」
『はやく……。はやくッ!!』
二人のうるさいほどの声が飛び交っている。だが、コータの目は虚ろになり、声に反応を見せない。
その間にも地面はどんどんと近づいていく。
「コータ!!」
ぼろぼろになった羽を広げ、ミリはどうにかコータを支えようとする。
だが、ミリ一人の力ではコータを支えることはできず、出来るのは落下速度を少し緩めるくらいだ。
「もぅ……だめ」
ミリは必死の形相でコータの体を引き上げようとしているが、地面までの距離が僅かとなったところでコータの全身から血が噴き出した。それと同時に、体が淡い光に包まれ、ピクシャとの統合が強制的に解除された。
ドンっ!!!!
大きな音とともに砂埃が舞い上がる。
「やったか?」
閃光を放ったハイエルフの一人が言葉をこぼす。
大きな音と砂埃。ハイエルフがそう思うには十分だった。
砂埃が上がる。そこには尋常ではない量の血を撒き散らし、倒れるコータの姿があった。
異様な光景に、ハイエルフの何人かは思わず嗚咽を上げる。
「ふざけないで……ッ」
小さいが確かに怒気をはらんだ声。ミリの口から発された、ミリのものとは思えない声に、ピクシャですらも驚く。
小さな握りこぶしを崩すことなく、ぼろぼろになった体に鞭をうち、ミリは大地を蹴り飛ばし宙に留まるハイエルフたちに向かう。
瞬く間に距離をつめたミリは、ハイエルフ軍の先頭に立つ男性ハイエルフの顔面を殴った。
「ふざけないでよ!!」
殴られたことに驚きを隠せない男性ハイエルフは、殴られた頬を抑え、自身を殴った相手である小さな精霊種を睨めつける。
「お前は……確かッ! ロイと一緒にいた精霊!」
ハイエルフ軍に属する誰かが声を上げる。それを聞きつけた頬を抑えるハイエルフが、目を見開く。
「まさかッ!? 我々を裏切り、人間如きの仲間に!?」
そんなことがあってたまるか。あっていいはずがない。
そう言わんばかりの表情でミリを見下ろす。だが、ミリはそのようなことに怯むことない。
ただ、強い意志のこもった目でみるだけ。
「この状況でよくそんなことが言えるわね」
鮮血にまみれ、微動だにせず倒れ込むコータを横目で確認するミリ。それと同時に涙がこみ上げてくるのが分かった。
「この状況、だと? 人間が同胞であるロイを殺したんだろッ!」
頬を抑えていた手を薙ぎ払うように、男性ハイエルフが吼えた。
その言葉を聞いたミリの目からは、これまで以上に大きな涙が目じりにたまる。
それを見た男性ハイエルフが、より一層の嫌悪を露わにした。
「所詮は戦に敗れ、長々と生きているだけの種族だ」
「ふざけないでッ!!」
ミリの絶叫とともに大粒の涙が頬を伝い、流れ落ちる。
「何も間違ったことはいってないだろ!」
男性ハイエルフはミリに呼応するかのように、大声をあげる。
「何も分かってない……。みんなは何も分かってない……」
自分がどれだけ声をあげても、ハイエルフ軍には何も伝わらない。その現実がヒシヒシと伝わり、ミリは涙ながらにポツリと呟いた。
「ごめん、コータ。ごめん、ロイ。私も、すぐそっちにいくから……」
ミリの眼前で編まれていく魔法陣。大きくなっていくそれに、ミリは諦めの感情を抱いた。
――コータだってあの出血だ。もう助からない。ロイも、コータもいない。そんな世界で、私は何のために生きればいいの? もう、私には何も残ってない……。そんな世界に一人で生きながらえるくらいなら、ここで死んだ方が……。
「諦めるなんて……、ロイが絶対……許して……くれない……ぞ?」
ミリが瞳を伏せ、この世界との決別を決めたその瞬間。
聞こえるわけがない、大量の出血でつい先ほどまで大地に寝転がっていたはずのコータの声がした。
「えっ……?」
その有り得ない状況についていけず、ミリは恐る恐る声がした方を見た。
そこには、鮮血に染められ、本来の肌が何色かさえも分からないコータがいた。今にも息絶えそうなコータを支えるピクシャが、ゆっくりと口を開く。
「あんたの訴えは決して届かないわけじゃない。だから、このハイエルフたちをどうにか説得して」
「これは……ミリにしか……できない……ことだからな」
途切れ途切れのか弱い声でそう言い切ると、コータはゆっくりと親指を突き立てたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
転生したら『塔』の主になった。ポイントでガチャ回してフロア増やしたら、いつの間にか世界最強のダンジョンになってた
季未
ファンタジー
【書き溜めがなくなるまで高頻度更新!♡٩( 'ω' )و】
気がつくとダンジョンコア(石)になっていた。
手持ちの資源はわずか。迫りくる野生の魔物やコアを狙う冒険者たち。 頼れるのは怪しげな「魔物ガチャ」だけ!?
傷ついた少女・リナを保護したことをきっかけにダンジョンは急速に進化を始める。
罠を張り巡らせた塔を建築し、資源を集め、強力な魔物をガチャで召喚!
人間と魔族、どこの勢力にも属さない独立した「最強のダンジョン」が今、産声を上げる!
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~
松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。
異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。
「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。
だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。
牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。
やがて彼は知らされる。
その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。
金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、
戦闘より掃除が多い異世界ライフ。
──これは、汚れと戦いながら世界を救う、
笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~
専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。
ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる