先生、付き合ってもらえますか?

リョウ

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「気にしなくていいから。何も気にしなくていいから」

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 彩月ちゃんとの初デート。OIOIをウロウロしているだけなのに。
 実家近くの、明川駅周辺にあるOIOIなのに。新鮮で、今までとは違うように見える。
 ただ。隣に好きな人が、恋人が、彩月ちゃんがいるだけなのに。たったそれだけで、世界がここまで変わるのか。そう思えるほどに、俺の鼓動は弾んでいた。

「ごめんね。私の買い物ばかり付き合わせちゃって」
「全然気にしなくていいって」

 店内にいるのはほとんどが女性。店全体からは異臭とは程遠い、香りが漂っている。

「消耗品だし。彩月ちゃんにはずっと可愛くいて欲しいんだ」
「もぅ。海ちゃんのバカ」

 頬を少し赤らめた彩月ちゃんは、購入を決めている化粧品を持った手とは逆の手で。俺の肩を軽く小突いてくる。

「なんだよ」
「海ちゃんにもずっとかっこよくいて欲しいし」
「彩月ちゃんの為なら、俺はいつまでも頑張る」
「嬉しいっ!」

 こんな会話をしていると、流石に周囲からも色々な目を向けられる。
 俺と彩月ちゃんの年齢があまりに離れているからなのか。若いなぁ、とただのカップルを見る目に加え、奇異の目、怪奇の目といったものが含まれている。

 その目が悔しくて、辛くて。
 年齢差が何なんだよ。俺は本気で彩月ちゃんが好きで付き合ってんだよ。

 若いのに――
 なんだよ。俺が時間を無駄にしてるって言いたいのか?
 俺は彩月ちゃんと結婚したいと、思ってるんだぞ。

 若い子が好きなんだねぇ――
 違う。俺が彩月ちゃんを好きで、告白したんだ。
 彩月ちゃんが若い子を好きとか、そんなんじゃねぇーんだよ。

 聞きたくない世間の声が。ここにいれば嫌でも耳に入ってしまう。
 俺と彩月ちゃんのことを。微塵も知らないくせに。知ったような口を利いて、それが正解なんだって思わせるように。言葉を紡いでいる。

「彩月ちゃん。選べた?」
「うん.......」
「じゃあ、早く買ってここから出よう」

 俺に聞こえたというのは。周囲の声は、彩月ちゃんにも届いていたのだろう。
 端正な顔に苦渋を滲ませている。それを俺に悟らせないように、努力していることまで伝わってくる。

「レジってどっちだっけ?」

 言われるのは分かっていた。歳の差は12もあるんだ。でも、それをリアルで言われるとここまで心に来るものだとは、想像もしていなかった。いや、想定が甘かったのかもしれない。
 俯いたまま、彩月ちゃんはある方向を指さした。そちら側にレジがあるのだろう。

「行こ」

 その方向を確認してから、俺は彩月ちゃんの手を取った。
 その場にいる全員に見せつけるように。少し声を大きくした。
 奇異の目がより一層強くなり、俺たちを見てくる。

「気にしなくていいから。何にも気にしなくていいから」

 彩月ちゃんの手を握る、俺の手に。少し力を込めた。この本心が屈折することなく、彩月ちゃんの心に届くことを祈って――

「うん。心配かけちゃったね」

 少し弱さが見え隠れする笑顔を浮かべた彩月ちゃんの手は、少し震えていた。
 俺よりも、社会という場所を知っているからだろう。一度失敗を経験しているからだろうか。
 世間の目に、より一層敏感になっているのだろうか。

「気にすんなって言ったろ?」

 それだけじゃないかもしれない。でも、それ以上は今の俺では見透かすことはできないから。
 言葉を掛けてもなお、落ち込んだ様子を隠しきれていない彼女の手を強く引き。レジへと向かった。

 * * * *

 それから色々とお店を回ると、不意に俺のお腹が鳴った。

「もしかして。お腹すいた?」
「っぽい」
「ぽいって何よー」
「いや、だってさ。お腹すいたって思ってなかったけど。お腹鳴ったからさ」

 お腹の虫を、彩月ちゃんに聞かれたのが恥ずかしくて。赤らめた顔を逸らして、いじけたように言うと。彩月ちゃんは繋いでいない方の手で、俺の頬を突いた。

「そういうのをお腹すいたって言うのよ」

 もぅ。そう言わんばかりにため息をこぼし、微笑みを見せる。よかった、表情が戻ってる。
 ほんの少し前まで、化粧品売り場での出来事を引きずっている様子があったから。心配だったんだよなぁ。

「んじゃ、お腹すいた」
「何食べたい?」
「んー、すぐ食べれるところ?」

 一度お腹が空いている、ということを自覚すると。めちゃくちゃお腹が空いてきて、動くのすら辛くなるレベルになる。
 気づかなきゃまだまだ歩けただろうに。気づき、ということほど怖いものは無いぞ。

「じゃあ混んでないお店探そっか」



 そう言い、俺たちはOIOIのレストラン街を歩く。だが、時間がお昼すぎということもあり。どのお店も、お店に入るための列を生している。

「んー、これじゃあ直ぐに入れないね」
「そうだなー。まぁ、まだ2時にもなってないしな」

 腕時計で時刻を確認してから返事をする。と言っても、もうすぐ2時だ。今日はまだ平日だし、そろそろお客さんが減ってもいい頃だと思うが。

「夏休み、だもんね」
「そうか、みんな夏休みなのな」

 やけに学生やら、家族連れが多いと思ったんだ。

「とりあえず、フードコートの方も見てみようか」
「おう」

 短く返事をしてから、フードコートへと移動する。普通のお店もいっぱいだったんだ。そちらよりも比較的安い値段で、料理が提供されているこちらがいっぱいでないわけが無い。
 だが、こちらは席が多く、人の出入りが激しい。タイミングさえ合えば。

「あ、あそこ空いてる。いこ!」

 このように、空席を見つけることは可能なのだ。空席を見つけた彩月ちゃんは、俺の腕を引き、空席の所まで行く。
 その間に誰にか取られる。ということもなく、席を確保出来た。

「彩月ちゃん、何が食べたい?」

 その席に腰を下ろし、訊くと。彩月ちゃんは、ぐるりと1周を見渡してから、難しい表情を浮かべる。

「ラーメンもいいけど。うどんもいいんだよねぇ」
「その口ぶりから、麺類ってことは決めてるってことか?」
「今は麺類が食べたい気分なの」
「分からなくもない」

 朝は普通に。昼はささっと食べられるもの。夜はガッツリ。俺の中の食事のイメージがそれだから。昼からステーキとかは、考えにくい。逆に、夜にマックとかのファーストフードってのも少し違う気がするんだ。

「海ちゃんはどっちが食べたい?」
「俺はまじでどっちでも大丈夫かな。それよりも、彩月ちゃんが食べたい方でいいよ」
「えぇ。そんなこと言われると、悩んじゃうな」

 コロコロと表情を変え、ラーメンかうどんで真剣に悩んだ挙句。
 彩月ちゃんはラーメンという答えを出した。

「んじゃ、俺買ってくるよ」
「私がいくよ!」 
「いいって。彩月ちゃんは休憩しててよ」

 どちらも立ってしまえば、席が取られてしまうことになるだろう。だから、購入に行くのはどちらか1人。
 それに行こうとする彩月ちゃん。でも、今日は俺が何もしてあげられてないから。運転もしてもらったし、お店選びも結局最後は彩月ちゃんだったから。
 これくらいはしてあげたくて。
 俺はラーメン屋で、醤油ラーメンと餃子を1つ注文し、完成したら知らせてくれるブザーを受け取る。
 それを片手に席に戻る。

「取りに行くのは私が行くからね」
「なんでだよ。零したら危ないのに、俺が行くよ」
「なんで私には何もさせてくれないのよー」
「大事だからだよ。彩月ちゃんが大事だから」
「大事でも、もう少し何かさせて欲しい」

 口先を尖らすように言葉を紡ぐ彩月ちゃん。いっぱいしてもらってるから。彩月ちゃんは、俺の全てだから。何もしなくても、してくれているのと同じなんだ。
 でも、これを口にしたところで彩月ちゃんは、きっと理解してくれない。

「じゃあ、帰りの運転はお願いする」 
「それは私しかできないことじゃん!」
「俺はできないことが多いから。出来ることくらいさせてくれよ」

 そう言った所で。ちょうど料理の完成を知らせるブザーが鳴り響く。

「じゃあ、行ってくる」
「なんか、凄いズルい」
「ズルくて結構」

 笑いながらそう言い、俺は彩月ちゃんの頭に手をぽんっ、と置いた。
 少し恥ずかしかったけど。何だか少し彼女に触れたくて。
 それと同時に、彩月ちゃんは目を見開き、みるみるうちに顔を朱に染め上げていく。
 俺はそれを横目に見ながら、ラーメン屋にまで料理を取りに行く。


「お待たせ」
「ありがと」

 先ほどの火照りがまだ続いているのか。まだ完全に元の肌色に戻った訳では無い彩月ちゃんが、短く言う。

「餃子もあるじゃん」
「食べたいなって思って」
「食べたいけど、息くさくなっちゃうじゃん」
「2人とも食べたら、2人とも息くさくなって気にならないだろ」

 そんなふうに。俺たちは、俺たちのデートを楽しんだ。
 俺は彩月ちゃんのためなら、なんでも出来るし。浮気なんてするわけが無い。
 歳の差なんて関係ない。
 だって、彩月ちゃんといるのは、こんなにも楽しいんだから――

 食事を終えたあとも、2人で手を繋いで。OIOIの中を散策してから、外に出ると。
 雨はすっかり上がっており、夕焼け染まる空には7色の虹がかかっていた。
 それをバックに、恋人同士になってからはじめてのツーショット写真を撮り。
 彩月ちゃんの運転で家へと帰るのだった。
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