先生、付き合ってもらえますか?

リョウ

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「教えて。先生とどうなったのか」

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「それで、本当にどうするんですか?」

 一旦落ち着いて、ゆっくり話そう。そう言うことで、軽く朝食をとってから。
 俺たちはそれぞれの前に飲み物を用意して、再度テーブルについた。
 まるで、重大な会議が行われるような空気感の中。俺は斜め前に座る綾人さんに鋭い視線を向けた。

「やるでしょ?」

 俺から視線を逸らして。絶対に肯定をしてくれそうな、綾人さんの隣に座る琴音さんに視線を向けた。

「うん。やるんでしょ?」
「やるって方向だし」

 3人は結託しているようにしか見えないぞ。
 あっけらかんとした様子で言葉を紡いだ琴音さんに、亜沙子もまで同調する。
 まぁ、やるってことが変わるとは思ってなかったけど。

「それでやるのはこのメンバーってことでいいんですか?」
「いや、海斗も誘おっかなって思ってる」
「海斗くん!! そういえば最近見てないねー」

 まぁ、海斗先輩もみなが荘の一員だから参加するのもおかしくないか。

「海斗はいま実家帰ってるよ」
「嘘!? 女の子とイチャイチャしてるんじゃないの!?」

 綾人さんの言葉を聞いた琴音さんは、分かりやすく、ただでさえ大きな青いカラコンを入れた目を大きく見開いた。
 てか、琴音さんの中でも海斗先輩は女遊びする人なんだ。そう言えば、いつから遊んでるんだろうな。
 海斗先輩の詳しいことは分からないけど。でも、今はそんなことをしているとは思えないな。

 ――大事な人が待っているから。

 再テストを全教科ギリギリで乗り越えたらしい海斗先輩が、実家に戻る時に言った台詞。いつもの海斗先輩らしくない、真剣で熱のこもった声音だった。

「それは無いと思う。もう、海斗先輩はそんなことをしてないと思う」

 あの日の姿を、声を聞いたのは多分俺だけだから。その姿を思い出した俺は自然と口から零れていた。

「え、でもあの人だよ?」

 それを聞いた隣に座る亜沙子が、怪訝な表情を浮かべた。海斗先輩、亜沙子にあの人呼ばわりされてるじゃん。

「ほんとに大事な人を見つけたんだって」
「そ、そうなんだ.......」
「琴音?」

 そんな亜沙子に一応、俺が海斗先輩のフォローをすると。いつもの様子からは想像もつかない、弱々しい声音が琴音さんの口から零れた。それを不審に思ったのか、綾人さんが眉をひそめて小さく名を呼ぶ。

「あ、う、うん。何でもないんだ」

 力なく、曖昧な笑顔を浮かべた琴音さんに。綾人さんは渇いた笑みで、渇いた笑い声をこぼした。
 そんな綾人さんの表情には見覚えがあった。俺を想ってくれていた亜沙子が、俺と遊んでいる時によく見せていた顔だ。
 だから、たぶんきっと――そういうことなのかもしれない。でも、これは確証のないことだから。気付かない振りをして、言葉を紡ぐ。

「そ、それで――」

 少し先のことを引きずったのか、ちょっと力が入ってしまい、最初が詰まってしまった。

「――バーベキューの道具とかはどうするんですか?」
「そこが1番の問題だと思う」

 先程の渇いた笑みは何処へやら。綾人さんは真剣な表情を浮かべ、腕を組み、うーんと唸り声を上げている。その隣では琴音さんが顎に手をやり、タコのように口先を尖らせている。
 だが、頬が緩んでいるためどうにもしまらなく、おどけたような雰囲気に見えるのが琴音さんらしい。

「買うって言うのはキツいんだよね?」

 俺は知らないが、お金の計算をしたであろう亜沙子が綾人さんに視線を向けて聞いた。

「高いし、たぶん予算の5000円を大幅に越えると思う」
「だよねー」

 真剣の色を宿した目を俺と亜沙子に向けた綾人さん。それに同調した琴音さんの声調は、全くもって事の深刻さを理解していないように感じられた。
 ただ雰囲気に合わせて頷いただけのようだ。

「じゃあ道具どうするし?」
「借りる、とか?」

 呆れも混ざったような亜沙子の言葉に、苦笑を交えた表情で綾人さんが言った。それが1番現実だけど、実際借りる当てとかあるのだろうか。

「ねぇ、誰に借りるのー?」

 俺が思っていたことを、俺が口にする前に。琴音さんがちょこんと首を傾げながら訊いた。

「え、えっと。それは.......」
「あてはないのね」

 言い淀む綾人さんにバッサリ言い放つ亜沙子。綾人さんは今にもトホホ、と言い出しそうな表情で少し俯く。

「ちなみにウチもアテなんてないし」
「私もないよー!」

 追い打ちをかけるように。亜沙子は訊かれる前に吐き捨てた。言葉の刃が刺さった、グサッって音が聞こえて来そうだよ。
 その上、テンションを間違えているだろうとしか言いようのない琴音さんが、亜沙子と同じように言う。
 この数分で少し痩せた?
 そう聞きたくなるほど、げっそりとした様子の綾人さんが俺を見る。
 蜘蛛の糸よりも細く、弱く、脆い。僅かな希望に賭けて。

「え、えっと。俺も無いんですけど」
「だよね.......」

 何も話を聞いてなかったし。今日聞いたばかりだから、仕方ないだろう。そうは思いつつも、綾人さんの覇気の無くした表情を見ると。何故か申し訳ないような気になる。

「まぁ、でも。一応訊いてはみますよ」
「ほ、本当?」
「期待はしないでくださいよ」

 極小の灯り程の希望だろう。でも、何も聞かなければその灯りすらないのだから。
 そんな俺の垂らした希望の糸に、綾人さんは縋り付くように声を洩らす。そんな目で見ないで。ほんとに希望すらないかもしれないのに。

「じゃあ、とりあえずは稜くん次第ってことだし?」
「まぁ、あとは一応海斗には聞いておくよ」

 亜沙子の言葉を受け、綾人さんはスマホを取り出しながら言う。それから慣れた手つきで、素早くメッセージを打っている。

「で、稜くんは誰に聞いてみるつもりだし?」
「んー、まぁ。そうだな、俺らとは違う視点から意見が貰えるかなってことで。夢叶先生から」

 一瞬、夢叶と呼び捨てになってしまいかけた。危ない危ない。綾人さんは知ってるけど、亜沙子と琴音さんは俺と夢叶の関係を知らないんだ。

「ふーん。先生、ね.......」

 スマホを取り出し、夢叶にLINEを送ろうとした時。不意に、冷たい声が隣から飛んでくる。
 え、えっと。なんでそんなに冷淡な感じなの?
 一抹の不安を感じながら、俺は夢叶にバーベキューに必要なものを持っていないか、とLINEを送った。

「バーベキューする日とかはまた準備が整い次第考えるってことで」

 スマホの画面から視線を上げた綾人さんは、短くそうまとめてから、飲み物を一気に飲み干してから席を立つ。

「りょーかい!」

 返事だけは元気に、完璧に。でも、本当にわかっているかどうかは分からない琴音さんの声に。綾人さんは分かりやすく嬉しそうな表情を浮べる。

「んじゃ、俺も」

 遊んでばっかで。遊びに行くことばかりに頭を取られていたから。夏休みの宿題が何も手についていないのだ。
 まだ半分以上お茶が残ったコップを片手に持ち、ゆっくりと立ち上がる。
 答えあれば写すんだけど、なかなか答えを配ってくれないんだよな。何が登校日に提出しろ、だよ。答えが無いと解けるわけないだろ。

 そんなことを思いながら、居室を出て自室に入る。
 やはり何も無い殺風景な部屋だ。まぁ、何かを増やすお金も無いんだけど。
 いつも見ている部屋を一瞥してから、学習机の上にコップを置き、キャスター付きの椅子に腰を下ろす。

「何からはじめるか.......」

 机の上の。唯一物が積まれていない、勉強をするための僅かなスペースに広げてある冊子。
 そこに書いてあるのは、夏休みの課題の数々。てか、夏休みなのに勉強三昧になるじゃん。毎年思うけど、宿題は無くていいと思う。
 そんなことを思っていると、不意に部屋のドアがノックされた。

「ん?」
「ちょっといい?」

 それに反応した俺に、外から声が飛んでくる。声の主は亜沙子だ。

「いいけど」
「じゃあ、入るね」

 きぃー、と蝶番が軋む音が部屋中に響く。それと同時に、亜沙子の曇った表情が覗く。そして、入ってくると同時に、亜沙子は静かな声で言った。

「教えて。先生とどうなったのか」
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