転生ー初期装備でウハウハlifeー

リョウ

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第1章 転生

転生

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 淡い緑色の学生服に、それと同じ色の学生ズボンを穿いた少年がいた。彼の名前は小園麗こぞのれい。毎日をダラダラと送っているどこにでもいる高校生だ。
 麗はいつものように学校に行っていた。

「はーい、授業始めるわよ」

 若い女の先生が白チョークを片手に声を上げている。その先生に対して生徒たちも友だち同士のような返事をしていた。
 それは麗も例外ではなかった。

「せんせー。授業なんてしなくていいじゃないですかー」
「ダメです。授業するから先生なんです」

 柔らかく温かさいっぱいの声で優しく言う。
 それに対して他の生徒たちも「えー」だの何だのと声を上げていた。

「それはそうと。ほら見て、これ」

 先生が偽りのない笑顔を浮かべながら虹色に輝く一枚の貝殻を見せた。

「綺麗でしょー!」

 授業が何だ、と言っていたことなどすっかり忘れ去り自分の手にある虹色に輝く貝殻にうっとりしている。
 麗はそれをヒョイっと取ると物色を始めた。

「あー、それ私の宝物なのよ? 返して!」
「まあ、落ち着けよ。んー、これなら安くても五万で売りさばいてやるぜ」

 麗は先生の制止を無視し、その貝殻を見つめ続けてから自信あり気にそう告げた。

「もぅ。麗くんはすぐ値段にしたがるー! 私にとっては値段のつけられないものなんだよ?」
「それは無い。この世に値段の付けられないものなんて人間だけた。でも、人間だって奴隷なんてものだったら値段はつく。だから値段のつけられないものなんてのは夢物語なんだよ」

 麗は淡々とそう述べた。感情もなく、ただ数学の公式を暗唱するかのように述べた。

「うぅ……。麗くん、ひどい」

 ちなみにこの先生は新任で泣き虫だ。弄るとすぐこうなる。

「あー、悪かった」

 涙をこぼそうとしている先生に麗が焦ったように詰め寄る。

「本当に思ってる?」

 涙で濡れた長いまつげの下から漆黒の双眸を向けて訊く。

「ああ。親の受け売りみたいなもんだからな」

 早口でそう言い切った。麗の両親はネゴシエーター、交渉人と呼ばれる職業についていており、それにより麗もかなりの交渉術を持っていたのだ。

「じゃあ、授業始めるね」

 目元をうっすらと濡らした先生はそれらを手で拭いさった。
 そんな時だった。
『こっちへ来てくださいませんか?』
 可憐で凛とした声で麗に語りかける。
 どこからかは見当もつかない。でも、その声はしっかりと麗の耳に鮮明に届いたのだった。


 茜色の強い陽射しが六つの授業を終えた麗を襲っていた。目が痛いほどの西陽は傾斜角20度ほどで見渡す限りをオレンジで染めている。
「だから学校はヤダなんだよ」
 麗は1人でボソッと呟く。
 その声は誰に届くことなく、空へと舞い上がる。強い西陽を感じながら校門を抜けると右方向へと歩を取る。百メートル程先には駄菓子屋があり、小学生の自転車が列を作って止めてある。麗はそれを横目で見ながら通り過ぎ、道なりに進んでいく。
 後方からは校門を左へ進むとある遮断機が閉まり、カンカンカンという音が聞こえる。
 麗は気にもとめず交差点を左方向に曲がる。道を挟んで右手には貸し倉庫があり、左手には家が並んでいる。白色ベースで茶色や黒などの色使いの家が大半だ。
 七十メートルほどまっすぐ歩くとまた交差点が見えてくる。今度は、しっかり信号もついている。慣れた手つきで押しボタン式信号機の下に取り付けられている黄色の押しボタン箱の中央にある赤いボタンを押す。
 うっすらと赤い文字が汚れたディスプレイに『おまちください』の文字が浮かび上がる。
 麗は、信号が青になるのをぼーっとして待つ。
 そういえば、信号考えたやつすげーよな。ぼーっとしているときほどそんなことを思う。
 信号が青に変わったのを確認すると麗は、歩き始める。白線とアスファルトの黒がボーダーになっている。
 横断歩道を渡り終えると、すぐ栗原北幼稚園くりはらきたようちえんが見えてくる。敷地面積は幼稚園にしたらそこそこ大きいように思えるが他を知らないから何ともいえないのが実状だ。

「近いようで遠いよな」

 澄み渡る茜が支配する空を仰ぐ。桜も散り、ゴールデンウィークも終わった。もうすぐ梅雨入りだろうと数日前天気予報で言っていたので、ここまで澄み切った空が見れるのは後ほんの数日かもしれない。
 麗は、そんな空を一瞥してから再度歩き始めた。右側には住宅が、左側には田んぼが広がっている。
 いつも通り、右側の家の表札を見ながら歩く。はじめに「正直」さんから始まる。次に「出口」さん、「家出」さん、「田舎」さんと続き、家が途切れる。
 よくここまで珍苗字がそろったものだ。麗は、この道を通るとき毎度毎度そう思うのだった。

 それから少し歩いて駅前の道を少し歩いたところにある自宅へと戻った。
 まだ差し込む西日は弱まらない様子だが、うっすらと東の空が闇色に染められようとしていた。

「あっ、一番星」

 ふと見上げた東の空の地平線付近で見つけた、弱弱しくも必死で輝こうとしている星を見つけた。星に対する知識は乏しいためそれが何星だとかいうのはわからなかったが、底知れないパワーを感じられた。

「ただいま」

 閑散とした家に向かって声を出す。声は家の奥のほうまで入っていくも誰からの返事も返ってこない。虚しくなりつつも、麗は洗面所へ行き手洗いうがいをする。
 そしてリビングへと入る。
 どうやらお父さんとお母さんは一度帰宅したようだった。
 食卓テーブルの上にパチンコ屋の広告の裏に数行だけ書かれたメモが置いてあった。
 『おかえりなさい。明日からアメリカで大事な交渉があるので、次帰ってこれるのは半年後くらいになりそうです。
 一緒に置いているお金は自由に使ってください』
 愛情を見つけるのが難しい簡素な手紙だ。それと同じように置いてある茶封筒。そこそこふくらみのある封筒だが、別段盛り上がることもない。
 麗はなんの感情も抱かずに封筒を開ける。中には帯された一万円札の束にプラスアルファ数十枚の一万円札が入れてあった。
 子供に渡すには適切ではない額だ。
 しかし、麗は盛り上がることもなく冷たい目でそれを見て、ため息をついた。

「額とかじゃないんだよ。母さんたちは何もわかってない」

 封筒をそっと自室へと持っていき、鍵のついた引き出しにしまいながら他の家庭のことを考えていた。


 その日は突然に訪れた。いつもと同じ。ただ違うのは学校へ向かう生徒の足取りの軽さぐらいだ。照り付ける陽光は自分が溶けてしまいそうなほど強い。まだ午前八時にもなっていないのに鳴き叫ぶセミたちは、やかましいのほかに表現のしようがない。
 こんな暑い日になぜ足取りが軽いのか、それは今日が学校最終日だからだ。つまり、言い換えれば明日から夏休み、ということだ。
 ーーそら浮かれるよな。
 麗はため息交じりにそう思いながら、一人重たい足取りで学校へと向かっていた。

 学校に着いた麗は、夏休みに入ってからのことを試行錯誤していた。
 ーーどうせ一人だ。旅にでも出ようか。
 そんなことも考えていたところに一人の人影が現れた。長い髪の先がうつむく麗の視界にチラチラと入る。

「ねぇ、夏休み最終日の花火大会。一緒に行かない?」

 可愛らしい声が頭上からふってくる。もう最終日のこと言ってんのかよ、そんな風に思いながら顔を上げる。
 ぷくっとした頬が薄紅色に染まっている。まん丸の目は栗色で愛らしさが詰まっている。なびく髪も目と同じ栗色だ。きれいに手入れされているであろうその髪からは甘くいい匂いがした。
 心配そうにのぞき込んでくるその顔はどこか大人びていて慈愛に満ちているように感じられた。
 ーー天使っぽい。天使見たことないけどこんな感じなんだろな。てか、こんな美人クラスに居たっけ?ーー
 
「今から最終日のこと決めるのか?」
「うん、だって麗くんとはもう会えないじゃん?」
「いや、まぁそうだけど……。だからって……」
「いいじゃーん」

 透き通るような瞳に強く見据えられ、麗はたじろいだ。

「わかったよ、最終日、開けとくよ」
「うん! ありがとっ!」

 嬉しそうに頷き、きびすを返す天使のようなクラスメイト。それを止めるように麗は声をかけた。

「おい、ちょっと待て」
「えっ!?」

 声を裏返し、戸惑ったように立ち止まる。

「一応、連絡先交換しとくか?」
「……うんっ!!」

 一瞬のフリーズ経てから満面の笑みを浮かべ小走りで麗のもとへ駆け寄った。

「これ俺のLIMEのQR」
「うん」

 ピンクの可愛らしいケースに入ったスマホがスカートのポケットから現れる。慣れた手つきで画面をスワイプし、タッチする。
 
「じゃあ、読み取るよ」
「おう」

 麗の友達追加爛に新たな名前が刻まれる。海保みほ。トプ画はチワワの画像で、癒しが得られる。
 麗はその名前を追加する。それと同時に海保からメッセージが届いた。

『登録ありがとっ。よろしくね♪』

 短いあいさつ文に加えて、ゆるキャラのスタンプが送られてきた。麗は微笑を浮かべ、フリック打ちで返事を返す。

『おう。じゃあ、最終日楽しみにしてるから』

 すぐに既読が付く。海保はLIME越しではなく、口頭で返事をした。
 その言葉に麗は静かに親指を立てて答えた。


 真夏のギラギラとした太陽が空高くから地上を照らしつける。そんな中、帰路を行く。
 一歩、歩みを進めるために汗が額から流れ落ちる。ポタポタと舗装されたアスファルトに落ちる汗は落ちた刹那に蒸発していく。
 麗はあごまで流れてきた汗を左手の甲で拭う。
 学校指定のYシャツが汗で背中にぴったりと張り付く。ただの暑いというレベルではない。
 特殊な苗字の人の家が並ぶ前を通り過ぎる。刹那、一台の車が横を取りすぎる。
 いつもはめったに通らない道に車が通ったことに驚きながら、麗は家へと急いだ。
 いつもはそう遠く感じない家までの距離をかなり長く感じた麗。ため息交じりに誰も待たない自宅のカギを開けた。
 ガチャリという音がして、鍵が開く。麗は、ゆっくりと扉を開ける。中からうっすらと冷気が流れ出てくる。
 麗は薄ピンク色のタイルが敷かれた玄関に入ると扉を閉め、内から鍵をかける。
 それから学校指定の革靴を脱ぎ、廊下と呼ぶにはあまりに短い通路のような廊下を歩き、迷いなく脱衣所へと向かう。茶色の引き戸を開ける。蒸し暑く湿気の多い脱衣場にはいると汗でびっしょりとなり、脱ぐのすら難しくなったYシャツを脱ぎ、洗濯物用の籠にいれる。次に学生ズボンを脱ぎ入れる。
 全裸になった麗の体は見た目以上に締まっていた。腹筋は割れており、胸筋もほどほどにありスポーツマンのような体つきだ。
 麗をほとんど冷水のシャワーを浴びて、火照った体を冷やした。
 浴室から出て、脱衣場に戻った麗は濡れた体をバスタオルで拭きとる。
 麗はそのままパンツだけ穿いてリビングへと戻る。テーブルの上には朝食を食べたままの形が残っている。
 マグカップにパンのトレー。トレーの中にはパンのカスが残っている。その真横にはひらっきぱなしの新聞。三つある椅子のうち一つだけ飛び出ており、いかにもだれか座っていたことを示唆している。
 麗はそれらに目もくれず60型のテレビの前に設置されている薄茶色のソファーに体を預けて横たえる。
 そして快適な温度をエアコンで保った室内で目をつぶる。
 エアコンの作動音を耳に残しながら眠りについた。



 どれほどの時間が経ったであろう。麗には全く分からなかった。ただ何となくお腹がすき充分寝たような気がしたから目を開けた。
 エアコンの作動音がしない。同じ部屋のようで同じ部屋でない。麗はそう感じ、起き上がる。まだ微妙に残っていた眠気が一気に吹き飛んだ。
 眠っているのは同じソファーだ。体を起こし、後ろを確認するとそこにテーブルは無かった。代わりにそこには机があった。その上にマグカップは存在するもパンのトレーは存在しない。
 麗は立ち上がり、辺りを見渡す。そこで部屋の東側に設置してある棚に目が止まった。

「これも同じやつだ……」

 独りでにつぶやきながら棚に近づき三段ある棚のうち一番上から開けた。
 そこにあったのは大量のペン類とメモ用紙のために置いてある広告の裏紙や未使用のコピー用紙など文具類が入っていた。

「ここも家のままか……」


 次に二段目を開ける。そこに入っていたのは大量の電池だった。単三、単四にとどまらず、単二や単一など用途の少ない電池までもがきっちり揃えられていた。
 一つ二つ頷いてから麗は三段目を開けた。本来ならば輪ゴムと電話帳、保険証などが入ってるはずの場所。しかし、そこにあったのは百均などで買える輪ゴムの箱だけだった。使用中の箱一つと未使用の箱が一つ。
 
「これだけ……なのか?」


 不思議に思い部屋中を見渡すも部屋は1回り近く小さくなっており、あと残すはキッチンだけだった。小さくなったキッチンに足を踏み入れても何も無かった。そしてそのまま自宅と同じ大きさの部屋に釣り合わないほど大きな冷蔵庫の中身は1ミリの変化もなくあった。
 麗は何がどうなっているのか全く分からないまま部屋に唯一存在している出入口の扉を開けた。
 キィーっという軋む音がする。そして開かれた先にあったのは見たこともない広大な平野と北側に霞むようにして見えるのは見たことも無い不思議な世界だった。

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