転生ー初期装備でウハウハlifeー

リョウ

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第1章 転生

ログオローグ帝国

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 麗は見知らぬ土地に恐怖を感じ取り、再度室内へと戻った。
 自宅のようで自宅でない摩訶不思議な部屋でくつろげる気にもなれず、麗はただただ玄関先で立ちすくしていた。
 
「何が起きたんだ……」

 一人しかいない部屋に自分の声が木霊するのが分かる。麗は、どうすることもできず頭を掻きむしった。
 そして、意を決して外へと飛び出した。

 広大な新緑の草原が広がる。北側にはわずかに街らしきものが見えるが残りの方角にはこれといったものは何もなくただただ緑が広がっている。
 ささやかに吹く風はいままでに感じたことのない雰囲気と香りをのせている。
 麗の家が都会になかったとはいえ、地面はほとんどアスファルト舗装されており、新緑の香りがのる風など存在することがない。それに新緑に交じりかすかに甘い香りは何かのフルーツのようだ。
 麗は軒先でしゃがみ込み、誰かに手入れされているかのように均一の長さで生えている草に触れる。
 表面は柔らかな手触りであり、対して裏側は少しざらざら感がある。

「やっぱり夢じゃない……。夢ならこんなリアルなはずがない」

 葉の感触を指先で感じたことにより麗は完全にこれが現実であるということを受け入れた。
 そんなときだった。しゃがみ込み下を向いていた麗の頭上から可愛らしい猫なで声が降りかかってきた。

「あら。お目覚めになったのね」

 透き通るような張りのある声が滑らかに麗に耳の中へと侵入する。麗は頭で考えるよりも先に顔を上げていた。
 腰のあたりまで伸びた長い金色の髪がささやかな風に吹かれ靡いている。
 真上から差す日光によりその顔は影となり見ることができないが雰囲気でこの人は可愛いということが分かった。
 麗は突然のことに驚き、その場を動くことができなかった。
 金髪の女はそのことを不思議に思い小さく首をかしげる。

「どうなさったのですか?」

 美しい音色のような声が降り注ぐ。声のトーン、見上げた感じの身長からおそらくこの女は15歳か16歳といったことろだろうな、と麗は考えるも言葉は出ない。
 そんな麗を見かねてか、少女はガシャという音を立ててしゃがみ込んで来た。
 麗はこれまで生きてきた中で中々聞いたことのない音に目を丸くする。
 その音の正体はすぐに分かった。少女がしゃがむにつれて反射が弱くなり、銀色の鎧が露わになったのだ。
 ほぼ全身を鎧で覆っていたためにしゃがむという単純行為ですら音がなったのだ。
 そして反射が弱くなり少女の顔がよく分かる。蒼碧そうへきの双眸に自身の顔が映り込む。スッと通った鼻筋にプクっと膨らむ薄紅色の唇。少しつり上がった猫目の少女ははっきり言って美人だ。いや、美人という言葉でも言い足りないほどだ。

「あんた……何者だ?」

 身にまとっている鎧が一般人でない事を物語っており、麗はそのことを聞くべくどうにか言葉を紡いだ。
 鎧の少女はしゃがんで間もたってないのに再度立ち上がり、左手を額のあたりにもっていき敬礼をしてハッキリと発した。

「私は、ログオローグ帝国、バーチカス王直属の騎士団所属フロミネアだ。皆からはミアと呼ばれている」
「騎士……。ホンモノの騎士なのか……」

 麗は驚きのあまり声がかすれていることに気づかない。

「そうだが……。それがどうかしたのか?」

 何もないようにミアは言うが、麗にはどうかしまくりだった。鎧なんかを纏っている人を見ることすらない。そんな人が鎧を纏い、騎士と名乗る美少女を目にする。普通でいられるほうがおかしい。

「何故黙るのだ?」

 ミアは不思議そうに口先を尖らせ訊く。
 麗はただでさえ分からな状況に拍車をかけられた気分になる。

「何故って……。騎士なんて見たことないからだよ」

 麗はミアの強い雰囲気に負けじと頑張って強気で返す。

「なっ……。お主、騎士を見たこと無いのか!? 帝国のどの領地に行っても存在するものなのだぞ!」

 ──どこに行ってもって……、言うならばサラリーマンのようなものなのか?

「まぁ、お主だからな」
「変……だと……?」
「そうだ。髪色も黒だし。瞳も黒。二つとも黒のヒトなど聞いたことがない。黒炎精霊ダークエルフなら頷けるも、耳はヒト型だ。お主……、一体何者なのだ?」

 ミアは神妙な顔つきで訊く。麗はどうやって答えるか一瞬悩んでから口を開いた。

「俺は麗だ。小園麗。兵庫県住みの高校生だ」

 偽りのない真実を告げた。しかし、ミアはただでさえ大きな瞳を更に大きく開き、異界の言葉を聞いたような表情を浮かべた。

「ヒョウゴケン? コウコウセイ? 麗は何を言っておるのだ?」

 ミアはカタコトの日本語で兵庫県と高校生を言う。あまりにお決まりの片言に麗は思わず噴き出しそうになった。
 それを必死に我慢し、肯定の意を示すべく頷いた。

「それより騎士様は何故こんなところに?」

 状況に少し慣れてきた麗は騎士ミアを敬うように訊く。

「それよりではない! が、まぁよい。私はモール大平原に突如として現れた謎の建物を調べにきたのだ。そしてその中でお主……えっと……麗が眠っていた。悪いとは思ったが中を物色させても貰った」
「物色って……、犯罪じゃねぇーか! 不法侵入だろ!」

 そう声を張り上げる麗に対してミアは人差し指を突き立て、「ちっちっち」と言いながら左右に小さく動かした。

「私は騎士長バリオー様の命令の下で動いたのだ。そして、騎士長には皇帝とほぼ同等の権力を与えられる。故に私は不法侵入などという下等な法を犯したことにはならないのだ」

 ミアは誇らしげに装甲によって分厚く膨れ上がった胸を張る。
 それからミアは一転して真剣そのものの表情を刻んだ。

「先ほど、建物の中を物色させてもらったと言っただろ?」
「あぁ」
「そこで思ったことがあったのだ。異質のモノに見たことのない家具……、ここは迷宮区ダンジョンなのでは、と。幸い私は迷宮区を抜け出せた。迷宮区に迷い込んだら最後、死しか無いと聞いていたから驚きはしたが運が良かったと解釈した」

 ──この女……、なかなか訳がわからんぞ。

「で、何が言いたんだ?」

 麗は面倒くさげに言う。しかし、そんなことを微塵も感じ取らないミアは笑えるほど真面目に言葉を繋ぐ。

「お主が迷宮区の番人なのではないのか、ということだ」

 ──番人……。そうきたか。麗は何とも言えず苦笑いを浮かべる。

「もし俺が番人だったらどうするってんだよ?」

 ミアは一瞬戸惑った様子を見せるも、すぐに不敵な笑みを浮かべた。

「抹殺するのみ」
「怖ぇよっ! それに目がマジなんだよ!」

 ミアの鋭く開かれた眼光に恐怖を感じ、慌てて声を張り上げる。

「嘘だ。だが、とりあえず連行して騎士長の元へ連れていく」
「嘘か……」

 麗は心底のため息をつき、安心する。

「それでお主は番人なのか?」
「違う。俺はただの高校生だ。騎士様には分かんねぇかもしれないけど、高校生なんだ」
「だから、コウコウセイとは何なのだ」

 ミアは知らない単語の連発に少し口を尖らせる。その顔がまた一段と可愛く感じられ、麗は微妙に頬を色づかせた。

「何を赤くしておる。私は騎士だぞ。コウコウセイなどど訳の分からんのはよいから出身国を告げるのだ」
「出身国、ね……。日本だ」
「ニホン……?」
「おう。日本。ジャパンだ」
「ニホン。ジャパン……。聞いたことない上にお主の母国は二つもあるというのか!」

 ミアはアタフタしている。漫画なら目がくるくる回っているかバッテンになっているだろう。アニメなら頭の上から蒸気がボンって出ている感じであろう。

「いや、一つだよ。日本もジャパンも同じ国のことだ。そういう騎士様はどこ出身なんだ?」
「わっ、私か? 私は東方のシンバル国だ」

 ──聞いたことないな……。って、なんで俺たち会話が成立してるんだ?

「そ、そうか。ところで、今話している言葉は何語なのだ?」

 麗は疑問に思ったことを口にする。すると、ミアは深いため息を付いて『こいつバカなのか?』というふうな目で見た。

「ログオローグ語だ」

 さらりとミアは告げた。
 ──ログオローグ語と日本語は同じってことなのか……?
 新たな疑問が生み出されるもそれはミアに聞いても仕方がない事だと思い、心の中に留めた。
 真上から降り注ぐ陽が麗の額に水泡の汗を浮かび上がらせる。対して、分厚い鎧を着込んだミアは全く汗をかいてないように見受けられる。現地の人とそうでない人の違いなのか、麗はそう思いながら額の汗を腕で拭う。
 それから朗らかで生暖かい風が吹き、地面に生えた草がサワサワと音をたてて揺れる。
 遥か遠くまで広がる大平原が一体となって揺れる。まさに幻想的な風景であった。

「まぁとりあえず麗が目を覚ましたのは良いことだ」
「どういうことだ?」
「各地で忽然と現れる迷宮区について解明する手がかりとなるかもしれないからだ」

 麗はミアの言っている意味が分からなく、首をかしげた。それに対してミアも意味がわからなさそうに首をかしげる。両者共に首をかしげている画は傍から見ればシュールでしかない。

「どういう意味だ?」
「どういうって、麗を騎士長バリオー様に献上するのだよ」

 麗は一瞬にして血の気が引いたのを感じた。ミアはそれを感じ取り、声に出して笑った。

「麗、お主は本当に面白いな。お主は番人ではないのであろう?」

 ミアの年相応の笑顔に一瞬ドキッとしたが、麗はうんうんと素早く何度も頷いた。

「なら怯えることなどなかろう。お主は体験したままを証言すればよい」
「本当か?」
「あぁ、本当だ」

 ミアの強い物言いに麗は思わず笑みをこぼした。

「では、行くぞ」

 ミアの一言に麗は「おう」と返した。刹那、ミアは指笛を高らかに鳴らした。
 するとどこからともなく大平原の地面を蹴る音がした。パカラッパカラッ、とヒヅメが軽快な音を繰り出す。
 現れたのは茶色の光沢のある毛並みの馬だ。ミアの隣まで来た馬はスピードを緩め、止まった。それを確認するやミアはその馬の頭を撫で始めた。

「よーしっ。よく来たなー、ホース」

 ──ホースって……。ネーミングセンスなさ過ぎだろ。
 思わず吹き出してしまいそうなのを堪える。

「麗、お前も乗れ」

 いつの間にか馬の背に乗っていたミアが催促する。麗は恐る恐る馬に手をかける。

「ちがーう!」

 ミアから怒鳴られる。何がどうなったのか分からず麗の目は点となる。

「馬はこうやって乗るんだよ」

 それから数分間みっちり馬の乗り方をレクチャーされ、ようやく背に乗ることが実現した。

「じゃあ、しっかり捕まっとけよ!!」

 ミアは麗の返事を待たずしてホースを叩いた。ホースはヒヒィーンという鳴き声を上げ大平原を疾駆した。水平線上に僅かに見える都市まちを目指して……。
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