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前期魔術演舞祭
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ココロ先生の授業で神話を聞いてから3日が過ぎた。衝撃的だった2つの神話を噛み潰し、飲み込むためにはまだもう少し時間がかかりそうである。
だが、そればかり考えている暇はない。前期魔術演武祭が明日に控えているのだ。
そして今日は、授業はなく、その練習に当てられている。
各々の競技に関しては、もはや言うことはないだろう。だが、大隊魔術戦に関して言えば、話にならないと言わざるを得ないだろう。
ここがAクラスとCクラスの違いなのかもしれない。
そこで俺たちは、ココロ先生の指導の下、朝早くから校舎にほど近い場所で練習を行っているのだ。
クラスメイトは全員で50名。それを攻撃を主体で行う前衛、防御をしながら攻撃を行う中衛、そして回復など援護をする後衛に分ける。
だが、そこで問題が起きた。攻撃を行うのは、この世界の者なら誰でも出来る。初等教育で自衛のために教えられるのだ。だが、問題は後衛だ。回復やその他バフをかける魔法、魔術を使えるものがいない。
ココロ先生が優秀だと認め、全競技を託そうとしたスス、ムム、カントはそれらを使うことが出来るらしい。なら、彼らは後衛でいいのではないか。
だが、そうもいかない。彼らの攻撃力はクラスでも、トップレベル。それを後衛で殺すのはもったいないということだ。
というわけで、長く揉めた結果、前衛と中衛の人数を通常より、多く設定して攻撃特化型の布陣を揃えた。
「よーし! 敵が左翼から攻めてきたよ!」
そんなことはない。これは練習。左翼から攻めてきた時の練習をしているのだ。
前衛と中衛は整った動きで、3人1組になる。そうすることにより、攻撃と防御を同時に行うことがてきるのだ。だが──
「遅いわ」
傍からそれを見ていたココロ先生は、顔を顰める。
何を基準にそう言っているのかすら分からない。俺にとっては、動きも揃っているし、十分に動けていると思う。だが、ココロ先生の中では遅いらしい。
「んー、やっぱり実戦形式でやらないと動きは鈍いわね」
それからそう加えた。言われてみればそう感じる。何だか物足りない、と。だが、実戦形式で練習など出来るのか。
「他のクラスに、頼むのはダメですよ」
そこでススがココロ先生に指摘する。
「分かってるわよ」
むぅ、とココロ先生は口先を尖らせる。これが練習初日ならまだ他クラスとの合同練習もありだろう。しかし、本番を明日に控えて合同練習をするのは、阿呆(あほ)の極みだ。勝ったとしても、負けたとしても、一日前のほぼ変化しない実力を教えるだけなのだから。そして、作戦や行動パターンまで読まれる始末で、勝てる相手にも勝てなくなる可能性が出てくる。だが、それは逆も然り。ゆえに、ここで合同練習を持ち掛けたところで受けてくれる所などあるはずが無い。
「じゃあ、紅白戦しかねぇーだろ」
日本ではしばしば行われるそれを提案してみる。
しかし、この世界ではあまり──それどころか行われ無いのかもしれない。皆は目を丸くして俺に視線を集める。
「し……知らないのか?」
皆の反応を見てから恐る恐る訊くと、ココロ先生はこくん、と、頷いた。
この様子だと紅白戦を知らない……。となると、他のクラスもやってないと見ていいだろう。はっきり言って所詮練習は練習だ。本番では相手が決められた動きをしてくるわけじゃない。だからこそ、誰もが反応に遅れる。そのタイムラグをどれほど減らせるかが勝負の分かれ道だろう。そしてそれは、経験値が多ければ多いほど少なくなる。なら──勝てる可能性はある!
コンマ二秒程でその考えに至った俺は、口端を釣り上げ不敵に微笑むと紅白戦についての説明を始める。
「紅白戦ってのは、一つのチームを二つに分けて実戦形式の練習をすることだ。紅チーム、白チームって感じで分かれることが多いから紅白戦って言うんだと思うぜ」
すると、ココロ先生は目をキラキラと輝かせる。紅白戦ごときでこんなに喜ばれるとはな。
「それは画期的です! 是非やりましょう! 今すぐやりましょう!」
ココロ先生はテンションを上げてそう言う。それはクラスメイトにも伝染していったようで、ココロ先生が言い終える頃にはほとんど全員が拳を作った手を天に掲げていた。
***
「索敵陣営へ移動!」
25名を引き連れた俺は扇形に作り上げた陣営の中央で声を上げる。その真横でマリアが訊く。
「本当にバラけていいの?」
索敵陣営。俺が考えたそれは、全員が2人1組、または3人1組でチームを作り各々がバラけるというものだ。正直見つかると一瞬で負ける。だが、先に敵を見つけることが出来たなら──包囲することが可能だ。
「まぁ、良いか悪いかというと悪いだろう。でも、これしか勝てる可能性がない。なんてたって、あの三人が敵にいるんだからな」
三人とは、言うまでもなくスス、ムム、カントだ。敵はその主力をメインとしたチーム構成。対して俺らは、マリアにイグター、ロッキーとその他といった具合だ。
「まぁ、何とかなるだろ」
策略なんてのは全くのど素人。だからこそ、決まったやり方に縛られず戦える。
「とりあえず、連絡入れてくれ」
まるで参謀のように俺の隣に立つマリアに言う。そのマリアは、こくんと頷くと魔術演武祭の時に使われる黒い直方体の箱のような無線機に手のひらをかざす。そして、そのまま言葉を放つ。
「何を伝えるの?」
獰猛な笑みをこほし、俺は口を開く。
「イグター。テメェの班、今どこにいる?」
しばしの時間があいてから、その箱から声が届く。
「いまは、ちょうどF地点かな」
F地点か……。今回、俺はこの戦いにあたり戦場を区域分けした。意味があるのかは分からなかったが、それをすることによって互いの現在地を把握出来ると考えのだ。ゆえに、チーム分けをしてから作戦時間に充てられた1時間半の9割をそれに割いたほどだ。
そしてF地点は、多少植樹などはあるが見通しがよく隠れるには場所が悪い場所だ。
だが、そこを通ることこそが敵陣へ攻め込む最短ルートであり、奇襲になるだろう。正面から攻めてくるということは、一番頭に無いことだ。こういう場面では、いかに相手の虚をつくかが勝敗を左右する。なら──
「ちょうどいい。その辺りで簡単に敵に見つからねぇ隠れ場所はあるか?」
「んー……」
「探せ。そして、隠れろ」
唸り声をあげたイグターに、俺は間髪入れずにそう言い、勝利の方程式を組み立てていく。
この戦いの勝利条件は、2つ。1つは参加者全員を戦闘不能にする。そしてもう1つは、大将旗の強奪だ。
参加者全員を戦闘不能にするのは、控えめに言っても現実味がない。だから、通常大将旗を奪うことで勝利を取るらしい。
「カーミヤくん、あったぞ」
イグターが少し喜びの帯びた声で伝えてくる。
「よしっ。隠れてろ」
短くそう述べてから、俺は全軍に告ぐ、と続ける。
「F地点周辺へ向かえ。着いた者から順に連絡を寄越せ」
了解、と続けざまに返事が返ってくるのを確認してから俺は無線機をマリアに渡す。それを無言で受け取るマリアは前方へ視線をやる。天を穿つように、聳え立つ校舎が視界に収まる。各陣営が陣地を広げる場所は与えられた場所であれば、規定はない。だが、大体は与えられた場所のうち一番遠い場所に置く。ならば、ススたちが陣地を置いたのはあの辺りだろうな。
見えるはずもない。しかし、俺は目を細め校舎を見た。
『こちら、ウルル班。F地点付近到着しました』
瞬間、マリアの手の中にある無線機に連絡が入る。マリアと目を合わせてから、小さく頷く。マリアから無線機を受け取り、
「了解。敵に見つからないよう隠れて待機」
『了解』
ウルルからの連絡が切れる。作戦会議中のウルルは、大人しい金色に近い茶色の髪を持つ女子で、弱々しく垂れ下がった目が特徴的だった。しかし、その瞳は強固な意志が感じられたと記憶している。
「まさか、ウルルが始めに着くとはな……」
ちょっと意外で、口をつく。
「そうかしら? 私からしてみると、そうでも無いわよ」
次々と無線機に、F地点に到着したとの連絡が入るなかマリアは呟くように言った。
「どういうことだよ」
俺は、ウルル班に言ったものをそのまま他の班にも言いながら、マリアに訊く。
「あの子、ああ見えてすっごい負けず嫌いなのよ。だから、一番じゃないにしろ、絶対早く着くと思ったわ」
クスッと微笑みながら言うマリアに、人は見かけによらねぇーんだな、と痛感した。
『ロッキー班、F地点到着しました』
そこで最後の班が到着の連絡をしてきた。幾つかの班はススたちの班と交戦するところもあったようだが、うまく撒き全班がF地点に到着した。
「正直、ここまでうまくいくとは思ってもみなかったぜ」
あまりにうまくいき過ぎて怖いほどだ。不遜に微笑みながら、俺は無線機を片手に吼える。
「ロッキー班いまから近くで一番目立つと思われる場所と騒いでくれ。出来れば、仲間割れをしているかのようにしてくれ」
『……わ、わかった……』
指令の意図があまり理解出来ていないようだ。だが、ロッキーは不承不承で返事をする。
「敵の注意がひけたなら、一気に畳み掛ける。ウルル、イグター、それからオスロ班は左翼側から、ミナソ、ククチ班は右翼側から校舎へ近づけッ!」
『了解』
その声が完全に一致する。
「ねぇ、何でロッキーなの?」
「あいつ以外に出来る奴はいねぇ」
付き合いは短い。だけど、ロッキーにしか出来ない、という直感があった。
「そうなんだ」
ここからロッキーたちが演技をしてくれるF地点は見えない。だから、信じるしかない。
──瞬間。
「いたぞ!!」
遠くからそんな声が聞こえた。どうやらロッキーの陽動作戦は上手くいっているようだ。怒号があがる。F地点は、大混乱だろうな。そんな風に思っていた時。
「ようやく見つけたぜ」
俺の真後ろから、男の声が聞こえた。
「へぇー、俺の作戦を読んだか?」
不敵に不遜に笑ってみせる。敵は1人だ。しかし、まさか見つかるとは思ってもいなかったために胸中で動揺している。
「いや、読めなかった。普通こんな所に陣営を広げるか?」
「普通じゃないことをしねぇーと勝てねぇーってことだよ」
普通を装い答える。与えられた陣地の一番敵地に近い所。その一番右端に小さく陣営を立てたのだ。どう考えたって──普通じゃない。
「マリア」
名を呼ばれたマリアは、まるで俺の眷属のように向かい合う敵に手のひらを向ける。
若草色の髪色が特徴的な、彫りの深い顔立ちの程よく筋肉のついた男はその様子にギョッとした様子だ。なぜならまだ、彼は誰にも伝えて無いのだ。俺たちの陣営がどこにあるか、ということを。
「桜雪よ 燦然と散れ!」
瞬間、桜色に色づいた雪がどこからとも無く舞い始める。
「くっそ!」
男は叫びながら、腰に下げた無線機に手を当てようとする。
「隔絶の空間 御業を以て 侵略せし」
瞬間、俺は詠唱を行った。高速詠唱なんてカッコイイものじゃない。拙く、タイミングが悪ければ噛んでしまいそうな、そんな不安要素満載の詠唱だ。つい先日教えられたばかりだ。失敗する可能性も存分に含んでいる。でも、それすらを踏まえてもここで使わなければ負ける。
たとえ紅白戦とは言え、負けたくない。どうせ明日は味方だ。出し惜しみをする意味もない。
周りから見るならば、それは刹那だっただろう。なぜなら、俺が使った魔法が加速魔法。それも自分に掛けるタイプのものだ。
加速化で無線機を奪い、相手の腹部に五連パンチを食らわせる。それだけで十分だった。
地にひれ伏す男に目をやってから、マリアを見る。
「なぁ、成功したろ?」
「……今日はね」
マリアは俺の魔法発動の成功にホッとしたような表情を浮かべながらも、声は尖っている。
「心配しすぎだっての」
「心配するわよ! 遊空魔法のとき、死にかけたんだよ?」
乾いた笑みを浮かべてから俺は小さく、囁くように言う。
「それは……悪かった」
瞬間──、マリアが腰につけた無線機と地にひれ伏すススたちのチームの男から奪った無線機から同時に音が飛び出した。
「そこまで! カーミヤ大将チームの勝ち!」
女性──ココロ先生の声だ。
「嘘っ……。私たちの勝ち?」
その言葉をそのまま理解出来なかったようで、マリアは声を震わせながら、俺を見る。実際、俺も信じ難くはあった。だが、負ける気はしなかった。だがら、マリアを見つめ返し小さく頷いてやった。
瞬間、マリアは真珠の如く大粒の涙を零して大きな声で泣いた。
***
陽は大きく傾いた。いつになったら沈むのだと思っていたそれは、もう半分を地平線に沈ませている。
校舎の前、四列に並んだ俺たちココロ先生の生徒は、眼前に立つココロ先生に視線をぶつけている。
「今日は本当にお疲れ様」
短い労いの言葉。だが、そこには心からの気持ちが乗っているように感じられた。
「明日もこの調子で頑張って下さい」
はい、と大きな声があがる。
「それで明日の大隊魔術戦の事だけど、大将は担当の教師──つまりは私ということになるわ。で、ここからは提案なのだけど、参謀役としてマリアさん、カーミヤくん、それからカントくんを置こうと思うの」
ざわつきを見せる。だが、それも無理ないだろう。三人が抜けることによって今日した練習の幾つかが無駄になるのだ。
「わいはいいと思う」
さっ、と立ち上がりイグターが言った。それを機に、俺が指揮した生徒たちが次々と立ち上がり、ココロ先生の案に賛同する意を示した。
いつの間にか、スス以外の全員が立ち上がっていた。それを見たススは、不承不承立ち上がる。
「俺も……賛成……です」
こうして、俺は明日の大隊魔術戦を参謀役として参加することになったのだ。
だが、そればかり考えている暇はない。前期魔術演武祭が明日に控えているのだ。
そして今日は、授業はなく、その練習に当てられている。
各々の競技に関しては、もはや言うことはないだろう。だが、大隊魔術戦に関して言えば、話にならないと言わざるを得ないだろう。
ここがAクラスとCクラスの違いなのかもしれない。
そこで俺たちは、ココロ先生の指導の下、朝早くから校舎にほど近い場所で練習を行っているのだ。
クラスメイトは全員で50名。それを攻撃を主体で行う前衛、防御をしながら攻撃を行う中衛、そして回復など援護をする後衛に分ける。
だが、そこで問題が起きた。攻撃を行うのは、この世界の者なら誰でも出来る。初等教育で自衛のために教えられるのだ。だが、問題は後衛だ。回復やその他バフをかける魔法、魔術を使えるものがいない。
ココロ先生が優秀だと認め、全競技を託そうとしたスス、ムム、カントはそれらを使うことが出来るらしい。なら、彼らは後衛でいいのではないか。
だが、そうもいかない。彼らの攻撃力はクラスでも、トップレベル。それを後衛で殺すのはもったいないということだ。
というわけで、長く揉めた結果、前衛と中衛の人数を通常より、多く設定して攻撃特化型の布陣を揃えた。
「よーし! 敵が左翼から攻めてきたよ!」
そんなことはない。これは練習。左翼から攻めてきた時の練習をしているのだ。
前衛と中衛は整った動きで、3人1組になる。そうすることにより、攻撃と防御を同時に行うことがてきるのだ。だが──
「遅いわ」
傍からそれを見ていたココロ先生は、顔を顰める。
何を基準にそう言っているのかすら分からない。俺にとっては、動きも揃っているし、十分に動けていると思う。だが、ココロ先生の中では遅いらしい。
「んー、やっぱり実戦形式でやらないと動きは鈍いわね」
それからそう加えた。言われてみればそう感じる。何だか物足りない、と。だが、実戦形式で練習など出来るのか。
「他のクラスに、頼むのはダメですよ」
そこでススがココロ先生に指摘する。
「分かってるわよ」
むぅ、とココロ先生は口先を尖らせる。これが練習初日ならまだ他クラスとの合同練習もありだろう。しかし、本番を明日に控えて合同練習をするのは、阿呆(あほ)の極みだ。勝ったとしても、負けたとしても、一日前のほぼ変化しない実力を教えるだけなのだから。そして、作戦や行動パターンまで読まれる始末で、勝てる相手にも勝てなくなる可能性が出てくる。だが、それは逆も然り。ゆえに、ここで合同練習を持ち掛けたところで受けてくれる所などあるはずが無い。
「じゃあ、紅白戦しかねぇーだろ」
日本ではしばしば行われるそれを提案してみる。
しかし、この世界ではあまり──それどころか行われ無いのかもしれない。皆は目を丸くして俺に視線を集める。
「し……知らないのか?」
皆の反応を見てから恐る恐る訊くと、ココロ先生はこくん、と、頷いた。
この様子だと紅白戦を知らない……。となると、他のクラスもやってないと見ていいだろう。はっきり言って所詮練習は練習だ。本番では相手が決められた動きをしてくるわけじゃない。だからこそ、誰もが反応に遅れる。そのタイムラグをどれほど減らせるかが勝負の分かれ道だろう。そしてそれは、経験値が多ければ多いほど少なくなる。なら──勝てる可能性はある!
コンマ二秒程でその考えに至った俺は、口端を釣り上げ不敵に微笑むと紅白戦についての説明を始める。
「紅白戦ってのは、一つのチームを二つに分けて実戦形式の練習をすることだ。紅チーム、白チームって感じで分かれることが多いから紅白戦って言うんだと思うぜ」
すると、ココロ先生は目をキラキラと輝かせる。紅白戦ごときでこんなに喜ばれるとはな。
「それは画期的です! 是非やりましょう! 今すぐやりましょう!」
ココロ先生はテンションを上げてそう言う。それはクラスメイトにも伝染していったようで、ココロ先生が言い終える頃にはほとんど全員が拳を作った手を天に掲げていた。
***
「索敵陣営へ移動!」
25名を引き連れた俺は扇形に作り上げた陣営の中央で声を上げる。その真横でマリアが訊く。
「本当にバラけていいの?」
索敵陣営。俺が考えたそれは、全員が2人1組、または3人1組でチームを作り各々がバラけるというものだ。正直見つかると一瞬で負ける。だが、先に敵を見つけることが出来たなら──包囲することが可能だ。
「まぁ、良いか悪いかというと悪いだろう。でも、これしか勝てる可能性がない。なんてたって、あの三人が敵にいるんだからな」
三人とは、言うまでもなくスス、ムム、カントだ。敵はその主力をメインとしたチーム構成。対して俺らは、マリアにイグター、ロッキーとその他といった具合だ。
「まぁ、何とかなるだろ」
策略なんてのは全くのど素人。だからこそ、決まったやり方に縛られず戦える。
「とりあえず、連絡入れてくれ」
まるで参謀のように俺の隣に立つマリアに言う。そのマリアは、こくんと頷くと魔術演武祭の時に使われる黒い直方体の箱のような無線機に手のひらをかざす。そして、そのまま言葉を放つ。
「何を伝えるの?」
獰猛な笑みをこほし、俺は口を開く。
「イグター。テメェの班、今どこにいる?」
しばしの時間があいてから、その箱から声が届く。
「いまは、ちょうどF地点かな」
F地点か……。今回、俺はこの戦いにあたり戦場を区域分けした。意味があるのかは分からなかったが、それをすることによって互いの現在地を把握出来ると考えのだ。ゆえに、チーム分けをしてから作戦時間に充てられた1時間半の9割をそれに割いたほどだ。
そしてF地点は、多少植樹などはあるが見通しがよく隠れるには場所が悪い場所だ。
だが、そこを通ることこそが敵陣へ攻め込む最短ルートであり、奇襲になるだろう。正面から攻めてくるということは、一番頭に無いことだ。こういう場面では、いかに相手の虚をつくかが勝敗を左右する。なら──
「ちょうどいい。その辺りで簡単に敵に見つからねぇ隠れ場所はあるか?」
「んー……」
「探せ。そして、隠れろ」
唸り声をあげたイグターに、俺は間髪入れずにそう言い、勝利の方程式を組み立てていく。
この戦いの勝利条件は、2つ。1つは参加者全員を戦闘不能にする。そしてもう1つは、大将旗の強奪だ。
参加者全員を戦闘不能にするのは、控えめに言っても現実味がない。だから、通常大将旗を奪うことで勝利を取るらしい。
「カーミヤくん、あったぞ」
イグターが少し喜びの帯びた声で伝えてくる。
「よしっ。隠れてろ」
短くそう述べてから、俺は全軍に告ぐ、と続ける。
「F地点周辺へ向かえ。着いた者から順に連絡を寄越せ」
了解、と続けざまに返事が返ってくるのを確認してから俺は無線機をマリアに渡す。それを無言で受け取るマリアは前方へ視線をやる。天を穿つように、聳え立つ校舎が視界に収まる。各陣営が陣地を広げる場所は与えられた場所であれば、規定はない。だが、大体は与えられた場所のうち一番遠い場所に置く。ならば、ススたちが陣地を置いたのはあの辺りだろうな。
見えるはずもない。しかし、俺は目を細め校舎を見た。
『こちら、ウルル班。F地点付近到着しました』
瞬間、マリアの手の中にある無線機に連絡が入る。マリアと目を合わせてから、小さく頷く。マリアから無線機を受け取り、
「了解。敵に見つからないよう隠れて待機」
『了解』
ウルルからの連絡が切れる。作戦会議中のウルルは、大人しい金色に近い茶色の髪を持つ女子で、弱々しく垂れ下がった目が特徴的だった。しかし、その瞳は強固な意志が感じられたと記憶している。
「まさか、ウルルが始めに着くとはな……」
ちょっと意外で、口をつく。
「そうかしら? 私からしてみると、そうでも無いわよ」
次々と無線機に、F地点に到着したとの連絡が入るなかマリアは呟くように言った。
「どういうことだよ」
俺は、ウルル班に言ったものをそのまま他の班にも言いながら、マリアに訊く。
「あの子、ああ見えてすっごい負けず嫌いなのよ。だから、一番じゃないにしろ、絶対早く着くと思ったわ」
クスッと微笑みながら言うマリアに、人は見かけによらねぇーんだな、と痛感した。
『ロッキー班、F地点到着しました』
そこで最後の班が到着の連絡をしてきた。幾つかの班はススたちの班と交戦するところもあったようだが、うまく撒き全班がF地点に到着した。
「正直、ここまでうまくいくとは思ってもみなかったぜ」
あまりにうまくいき過ぎて怖いほどだ。不遜に微笑みながら、俺は無線機を片手に吼える。
「ロッキー班いまから近くで一番目立つと思われる場所と騒いでくれ。出来れば、仲間割れをしているかのようにしてくれ」
『……わ、わかった……』
指令の意図があまり理解出来ていないようだ。だが、ロッキーは不承不承で返事をする。
「敵の注意がひけたなら、一気に畳み掛ける。ウルル、イグター、それからオスロ班は左翼側から、ミナソ、ククチ班は右翼側から校舎へ近づけッ!」
『了解』
その声が完全に一致する。
「ねぇ、何でロッキーなの?」
「あいつ以外に出来る奴はいねぇ」
付き合いは短い。だけど、ロッキーにしか出来ない、という直感があった。
「そうなんだ」
ここからロッキーたちが演技をしてくれるF地点は見えない。だから、信じるしかない。
──瞬間。
「いたぞ!!」
遠くからそんな声が聞こえた。どうやらロッキーの陽動作戦は上手くいっているようだ。怒号があがる。F地点は、大混乱だろうな。そんな風に思っていた時。
「ようやく見つけたぜ」
俺の真後ろから、男の声が聞こえた。
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不敵に不遜に笑ってみせる。敵は1人だ。しかし、まさか見つかるとは思ってもいなかったために胸中で動揺している。
「いや、読めなかった。普通こんな所に陣営を広げるか?」
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「マリア」
名を呼ばれたマリアは、まるで俺の眷属のように向かい合う敵に手のひらを向ける。
若草色の髪色が特徴的な、彫りの深い顔立ちの程よく筋肉のついた男はその様子にギョッとした様子だ。なぜならまだ、彼は誰にも伝えて無いのだ。俺たちの陣営がどこにあるか、ということを。
「桜雪よ 燦然と散れ!」
瞬間、桜色に色づいた雪がどこからとも無く舞い始める。
「くっそ!」
男は叫びながら、腰に下げた無線機に手を当てようとする。
「隔絶の空間 御業を以て 侵略せし」
瞬間、俺は詠唱を行った。高速詠唱なんてカッコイイものじゃない。拙く、タイミングが悪ければ噛んでしまいそうな、そんな不安要素満載の詠唱だ。つい先日教えられたばかりだ。失敗する可能性も存分に含んでいる。でも、それすらを踏まえてもここで使わなければ負ける。
たとえ紅白戦とは言え、負けたくない。どうせ明日は味方だ。出し惜しみをする意味もない。
周りから見るならば、それは刹那だっただろう。なぜなら、俺が使った魔法が加速魔法。それも自分に掛けるタイプのものだ。
加速化で無線機を奪い、相手の腹部に五連パンチを食らわせる。それだけで十分だった。
地にひれ伏す男に目をやってから、マリアを見る。
「なぁ、成功したろ?」
「……今日はね」
マリアは俺の魔法発動の成功にホッとしたような表情を浮かべながらも、声は尖っている。
「心配しすぎだっての」
「心配するわよ! 遊空魔法のとき、死にかけたんだよ?」
乾いた笑みを浮かべてから俺は小さく、囁くように言う。
「それは……悪かった」
瞬間──、マリアが腰につけた無線機と地にひれ伏すススたちのチームの男から奪った無線機から同時に音が飛び出した。
「そこまで! カーミヤ大将チームの勝ち!」
女性──ココロ先生の声だ。
「嘘っ……。私たちの勝ち?」
その言葉をそのまま理解出来なかったようで、マリアは声を震わせながら、俺を見る。実際、俺も信じ難くはあった。だが、負ける気はしなかった。だがら、マリアを見つめ返し小さく頷いてやった。
瞬間、マリアは真珠の如く大粒の涙を零して大きな声で泣いた。
***
陽は大きく傾いた。いつになったら沈むのだと思っていたそれは、もう半分を地平線に沈ませている。
校舎の前、四列に並んだ俺たちココロ先生の生徒は、眼前に立つココロ先生に視線をぶつけている。
「今日は本当にお疲れ様」
短い労いの言葉。だが、そこには心からの気持ちが乗っているように感じられた。
「明日もこの調子で頑張って下さい」
はい、と大きな声があがる。
「それで明日の大隊魔術戦の事だけど、大将は担当の教師──つまりは私ということになるわ。で、ここからは提案なのだけど、参謀役としてマリアさん、カーミヤくん、それからカントくんを置こうと思うの」
ざわつきを見せる。だが、それも無理ないだろう。三人が抜けることによって今日した練習の幾つかが無駄になるのだ。
「わいはいいと思う」
さっ、と立ち上がりイグターが言った。それを機に、俺が指揮した生徒たちが次々と立ち上がり、ココロ先生の案に賛同する意を示した。
いつの間にか、スス以外の全員が立ち上がっていた。それを見たススは、不承不承立ち上がる。
「俺も……賛成……です」
こうして、俺は明日の大隊魔術戦を参謀役として参加することになったのだ。
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この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
神に同情された転生者物語
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