29 / 48
29 冒険者デビュー
「おはようございます!」
「あれ、珍しい。イツキくんが早起きだ」
待ちに待ったラーシュの休みの日。
今日はラーシュと一緒に冒険者ギルドへ行くことになっている。初めての依頼が保護者同伴というのは格好つかないが、こればかりは仕方がない。ラーシュは見守るだけで手は出さないと言っていたので、実質は俺ひとりで頑張ることになる。
楽しみすぎて早起きした俺は、身支度を整えて一階に降りた。キッチンスペースでは、まだラーシュが朝食の準備をしていた。
駆け込んでくる俺を見て、ラーシュが目を見開いている。いつもラーシュに起こされるまでは起きてこない俺である。自主的に起きてきたことが相当珍しかったのだろう。
「手伝います!」
ラーシュの隣に足を運ぶが、にこりと笑ったラーシュは「座ってていいよ」とやんわり俺をキッチンから追い出しにかかる。
「手伝う」
「じゃあ食器を並べてくれるかな」
フォークはそこの棚だよとフライパンで卵を焼きながら指示してくるラーシュ。まるで子供のお手伝いである。
そうして朝食を済ませると、ラーシュがどこからか俺のギルドカードを持ってきてくれた。
「はい、落としたりしないでね」
「そんなことしないよ」
カバンにしっかり仕舞って、準備万端である。
今日のラーシュは、飾りのないシャツ姿だ。騎士服より目立たないが、イケメンなので普通に目立つ。
「イツキくん、忘れ物はない?」
「ない!」
「今日のイツキくんは元気だね」
にこにこするラーシュは、いつも使っている剣を腰に下げる。軽装なのに剣は持って行くんだなと思いながら見つめていると「念のためにね」と苦笑が返ってきた。
「ところでイツキくんの武器はどうするの?」
「武器?」
冒険者ギルドへの道中、ラーシュがそんなことを訊いてくる。
「俺は簡単な仕事しかしないよ。武器を使うようなのはやらない」
動物を狩るような依頼もあるらしいが、俺には無理だと思う。なので薬草採取などの簡単な仕事を引き受けるつもりだ。だから武器は必要ないと主張するが、ラーシュは「短剣くらいは必要だよ」と言う。
「薬草だって素手で採取できるものばかりじゃないからね」
「……なるほど」
言われてみれば、その通りだ。
「でもお金ない」
眉を寄せて白状すれば、ラーシュが「じゃあ僕に買わせて」と微笑んだ。
「イツキくんの冒険者デビューのお祝いに贈らせてほしいな」
「え、いいの?」
「うん。あとで買いに行こうね」
「ありがとう!」
ちょっと悪い気もしたが、冒険者活動に必要らしいのでありがたく受け取らせてもらおうと思う。これからお金を貯めて、あとでラーシュに返してもいいし。
そうしてギルドに到着した俺は、わくわくした気分で掲示板を眺める。ゆっくり朝食を食べてから出てきたので、すでにピークの時間は過ぎていた。今日は初心者向けの簡単な仕事をやってみるだけなので、早朝の依頼争奪戦に加わる必要はない。ラーシュもそれがわかっていて、わざとピークの時間を避けたのだろう。
「ここから依頼を選ぶんだよ」
俺の背中に手を添えながら、ラーシュが掲示板を示す。たくさんの依頼書が張り出されており、冒険者はここからやりたい仕事を探すのだ。護衛依頼や貴重な素材の採取、緊急の討伐依頼などは早いもの勝ち。そういった制限のある依頼は、掲示板の依頼書を剥がして受付で申し込む必要があるらしい。
一方で俺がやるべきなのは、常時受け付けている薬草の採取など。これは人数制限や個数制限がないので、依頼書を剥がして受付に持って行く必要はないのだ。
つまり俺は、掲示板に張り出されている常時依頼の内容を確認して、そこに記載されている薬草を探せばいい。
そんな内容をつらつら説明してくれるラーシュの横で、俺はとんでもない事実に直面していた。
「ここら辺が常時依頼だね。ここに書いてある薬草を外で集めて、そのままカウンターに持っていけばいいよ。依頼書を剥がして持っていく必要はないからね」
「……あの、ラーシュさん」
「うん?」
こちらを見下ろすラーシュに、俺はカバンの肩紐をぎゅっと握りしめた。
「俺、文字読めない」
「……あ」
ラーシュも失念していたらしい。
困ったように首を傾げたラーシュであるが、すぐに「大丈夫だよ」と優しく背中を撫でてくれる。
「文字が読めないって受付の人に言えばいいよ。間違ってもそこら辺の冒険者には言わないでね」
「どうして?」
「信頼できるかわからないから。受付の人は正規の職員だから、冒険者よりは信頼できると思うよ」
とりあえず今日はこれにしようとラーシュに言われるがまま、俺は外に出る。
薬草はほとんど森の中にある。
みんな近くの森に行くらしいので、ラーシュの案内でそこへ向かう。
「森の奥は危険な動物もいるから。イツキくんは奥まで行ったらダメだよ」
「わかった」
森の入り口付近は人通りも多いため野生の動物は寄り付かないらしい。奥へ行かないといい薬草は採取できないが、俺は別に本気で稼ぎたいわけじゃないので大丈夫。
こうして森の入り口付近で、ラーシュに教えてもらいながら目当ての薬草を採取する。ラーシュが用意していてくれた布製の袋に詰めて、ギルドで買い取ってもらった。
子供のお小遣い程度の額だったが、俺にとっては初めての稼ぎである。満足気に受け取った報酬を眺めていると、ラーシュが微笑ましい目で「よかったね」と一緒に喜んでくれた。
こうして俺は、無事に冒険者デビューを果たしたのであった。
「あれ、珍しい。イツキくんが早起きだ」
待ちに待ったラーシュの休みの日。
今日はラーシュと一緒に冒険者ギルドへ行くことになっている。初めての依頼が保護者同伴というのは格好つかないが、こればかりは仕方がない。ラーシュは見守るだけで手は出さないと言っていたので、実質は俺ひとりで頑張ることになる。
楽しみすぎて早起きした俺は、身支度を整えて一階に降りた。キッチンスペースでは、まだラーシュが朝食の準備をしていた。
駆け込んでくる俺を見て、ラーシュが目を見開いている。いつもラーシュに起こされるまでは起きてこない俺である。自主的に起きてきたことが相当珍しかったのだろう。
「手伝います!」
ラーシュの隣に足を運ぶが、にこりと笑ったラーシュは「座ってていいよ」とやんわり俺をキッチンから追い出しにかかる。
「手伝う」
「じゃあ食器を並べてくれるかな」
フォークはそこの棚だよとフライパンで卵を焼きながら指示してくるラーシュ。まるで子供のお手伝いである。
そうして朝食を済ませると、ラーシュがどこからか俺のギルドカードを持ってきてくれた。
「はい、落としたりしないでね」
「そんなことしないよ」
カバンにしっかり仕舞って、準備万端である。
今日のラーシュは、飾りのないシャツ姿だ。騎士服より目立たないが、イケメンなので普通に目立つ。
「イツキくん、忘れ物はない?」
「ない!」
「今日のイツキくんは元気だね」
にこにこするラーシュは、いつも使っている剣を腰に下げる。軽装なのに剣は持って行くんだなと思いながら見つめていると「念のためにね」と苦笑が返ってきた。
「ところでイツキくんの武器はどうするの?」
「武器?」
冒険者ギルドへの道中、ラーシュがそんなことを訊いてくる。
「俺は簡単な仕事しかしないよ。武器を使うようなのはやらない」
動物を狩るような依頼もあるらしいが、俺には無理だと思う。なので薬草採取などの簡単な仕事を引き受けるつもりだ。だから武器は必要ないと主張するが、ラーシュは「短剣くらいは必要だよ」と言う。
「薬草だって素手で採取できるものばかりじゃないからね」
「……なるほど」
言われてみれば、その通りだ。
「でもお金ない」
眉を寄せて白状すれば、ラーシュが「じゃあ僕に買わせて」と微笑んだ。
「イツキくんの冒険者デビューのお祝いに贈らせてほしいな」
「え、いいの?」
「うん。あとで買いに行こうね」
「ありがとう!」
ちょっと悪い気もしたが、冒険者活動に必要らしいのでありがたく受け取らせてもらおうと思う。これからお金を貯めて、あとでラーシュに返してもいいし。
そうしてギルドに到着した俺は、わくわくした気分で掲示板を眺める。ゆっくり朝食を食べてから出てきたので、すでにピークの時間は過ぎていた。今日は初心者向けの簡単な仕事をやってみるだけなので、早朝の依頼争奪戦に加わる必要はない。ラーシュもそれがわかっていて、わざとピークの時間を避けたのだろう。
「ここから依頼を選ぶんだよ」
俺の背中に手を添えながら、ラーシュが掲示板を示す。たくさんの依頼書が張り出されており、冒険者はここからやりたい仕事を探すのだ。護衛依頼や貴重な素材の採取、緊急の討伐依頼などは早いもの勝ち。そういった制限のある依頼は、掲示板の依頼書を剥がして受付で申し込む必要があるらしい。
一方で俺がやるべきなのは、常時受け付けている薬草の採取など。これは人数制限や個数制限がないので、依頼書を剥がして受付に持って行く必要はないのだ。
つまり俺は、掲示板に張り出されている常時依頼の内容を確認して、そこに記載されている薬草を探せばいい。
そんな内容をつらつら説明してくれるラーシュの横で、俺はとんでもない事実に直面していた。
「ここら辺が常時依頼だね。ここに書いてある薬草を外で集めて、そのままカウンターに持っていけばいいよ。依頼書を剥がして持っていく必要はないからね」
「……あの、ラーシュさん」
「うん?」
こちらを見下ろすラーシュに、俺はカバンの肩紐をぎゅっと握りしめた。
「俺、文字読めない」
「……あ」
ラーシュも失念していたらしい。
困ったように首を傾げたラーシュであるが、すぐに「大丈夫だよ」と優しく背中を撫でてくれる。
「文字が読めないって受付の人に言えばいいよ。間違ってもそこら辺の冒険者には言わないでね」
「どうして?」
「信頼できるかわからないから。受付の人は正規の職員だから、冒険者よりは信頼できると思うよ」
とりあえず今日はこれにしようとラーシュに言われるがまま、俺は外に出る。
薬草はほとんど森の中にある。
みんな近くの森に行くらしいので、ラーシュの案内でそこへ向かう。
「森の奥は危険な動物もいるから。イツキくんは奥まで行ったらダメだよ」
「わかった」
森の入り口付近は人通りも多いため野生の動物は寄り付かないらしい。奥へ行かないといい薬草は採取できないが、俺は別に本気で稼ぎたいわけじゃないので大丈夫。
こうして森の入り口付近で、ラーシュに教えてもらいながら目当ての薬草を採取する。ラーシュが用意していてくれた布製の袋に詰めて、ギルドで買い取ってもらった。
子供のお小遣い程度の額だったが、俺にとっては初めての稼ぎである。満足気に受け取った報酬を眺めていると、ラーシュが微笑ましい目で「よかったね」と一緒に喜んでくれた。
こうして俺は、無事に冒険者デビューを果たしたのであった。
あなたにおすすめの小説
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる
塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった!
特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。
春野くんち―僕の日常は、過保護な兄弟たちに囲まれている―
猫に恋するワサビ菜
BL
春野家の朝は、いつも賑やかで少しだけ過保護。
穏やかで包容力のある長男・千隼。
明るくチャラめだが独占欲を隠さない次男・蓮。
家事万能でツンデレ気味な三男・凪。
素直になれないクールな末っ子・琉生。
そして、四人の兄弟から猫のように可愛がられている四男の乃空。
自由奔放な乃空の振る舞いに、兄たちは呆れながらも、とろけるような笑顔で彼を甘やかす。
悪役の運命から逃げたいのに、独占欲騎士様が離してくれません
ちとせ
BL
執着バリバリなクールイケメン騎士×一生懸命な元悪役美貌転生者
地味に生きたい転生悪役と、全力で囲い込む氷の騎士。
乙女ゲームの断罪予定悪役に転生してしまった春野奏。
新しい人生では断罪を回避して穏やかに暮らしたい——そう決意した奏ことカイ・フォン・リヒテンベルクは、善行を積み、目立たず生きることを目標にする。
だが、唯一の誤算は護衛騎士・ゼクスの存在だった。
冷静で用心深く、厳格な彼が護衛としてそばにいるということはやり直し人生前途多難だ…
そう思っていたのに───
「ご自身を大事にしない分、私が守ります」
「あなたは、すべて私のものです。
上書きが……必要ですね」
断罪回避のはずが、護衛騎士に執着されて逃げ道ゼロ!?
護られてるはずなのに、なんだか囚われている気がするのは気のせい?
警戒から始まる、甘く切なく、そしてどこまでも執着深い恋。
一生懸命な転生悪役と、独占欲モンスターな護衛騎士の、主従ラブストーリー!
【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】
ゆらり
BL
帝国の侵略から国境を守る、レゲムアーク皇国第一魔導騎士団の駐屯地に派遣された、新人の魔導騎士ネウクレア。
着任当日に勃発した砲撃防衛戦で、彼は敵の砲撃部隊を単独で壊滅に追いやった。
凄まじい能力を持つ彼を部下として迎え入れた騎士団長セディウスは、研究機関育ちであるネウクレアの独特な言動に戸惑いながらも、全身鎧の下に隠された……どこか歪ではあるが、純粋無垢であどけない姿に触れたことで、彼に対して強い庇護欲を抱いてしまう。
撫でて、抱きしめて、甘やかしたい。
帝国との全面戦争が迫るなか、ネウクレアへの深い想いと、皇国の守護者たる騎士としての責務の間で、セディウスは葛藤する。
独身なのに父性強めな騎士団長×不憫な生い立ちで情緒薄めな甘えたがり魔導騎士+仲が良すぎる副官コンビ。
甘いだけじゃない、骨太文体でお送りする軍記物BL小説です。番外は日常エピソード中心。ややダーク・ファンタジー寄り。
※ぼかしなし、本当の意味で全年齢向け。
★お気に入りやいいね、エールをありがとうございます! お気に召しましたらぜひポチリとお願いします。凄く励みになります!
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
追放されたオメガの食堂~嵐の夜に保護した銀狼の獣人王と幼いもふもふ孤児たちに手料理を振る舞ったら、溺愛されました~
水凪しおん
BL
名門貴族の生まれでありながら、オメガであることを理由に家族から見捨てられた青年・リオン。
彼は国境の森の奥深くで、身を隠すようにして小さな食堂を営んでいた。
ある嵐の夜。
激しい雨風に打たれながら食堂の扉を叩いたのは、大柄で威圧的な銀狼の獣人・ガレルと、彼に抱えられた幼い2人のもふもふ獣人の孤児たちだった。
警戒心も露わな子供たちと、不器用ながらも彼らを守ろうとするガレル。
リオンは彼らを食堂へ招き入れ、得意の温かい手料理を振る舞う。
「……うまい食事だった」
リオンの作る素朴で心温まる料理と、彼自身から漂う穏やかな匂いに、ガレルや子供たちは次第に心を開いていく。
誰からも必要とされないと思っていたリオンだったが、ガレルからの真っ直ぐな愛情と、子供たちからの無邪気な懐きによって、少しずつ自身の価値と居場所を見出していく。
美味しいご飯が紡ぐ、孤独だった青年と不器用な獣人王の、甘く温かいスローライフ・ラブストーリー。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。