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36 大丈夫
「それで? イツキくんはどうしたいんだ」
「俺は……」
スヴェンに問われて、情けなく眉尻を下げる。俺は、ラーシュと今まで通り一緒に暮らしたい。ラーシュに捨てられたくない。
できればラーシュに笑ってほしいし、頭を撫でてもらいたい。ぎゅって抱きしめてほしい。
ラーシュとの間に変な距離があるのは嫌だ。
ひとりでも大丈夫だねと突き放すように言ったラーシュのことを思い出して、またもや涙が滲んできそうになる。
「あぁ、ほら。泣くなよ」
「……うん」
スヴェンに背中を軽く叩かれて、ぎこちなく頷く。
「ラーシュさん、俺のこと面倒になったんだと思う」
俺が頼りないからだと目元を擦れば、スヴェンが「そんなことないだろ」とやや強めの口調で言う。
「言っただろ。ラーシュは他人の世話を焼くのが趣味みたいなところがあるって。面倒なんて思うわけないだろ」
「じゃあなんで」
「それはラーシュに訊いてみないとわからねぇけど」
ガシガシと頭を掻いたスヴェンは、うーんと唸ってしまう。
「もう一回ちゃんと話をしてみたらどうだ? 一緒にいたいとラーシュに泣きつくという手もあるぞ」
冗談めかして言うスヴェンだが、俺はもうすでにラーシュの前で泣いている。どうせラーシュには子供扱いされているのだ。いっそ割り切って思い切り泣きついてみるべきか。
「ありがとうございます。スヴェンさん」
「おう。どうにもならなかったら俺がどうにかしてやるよ。だからそんなに思い詰めるなよ」
「はい」
「んじゃ、俺は仕事があるから。あんまりサボるとラーシュがうるさいからな」
そう笑って騎士団本部へと引き返していくスヴェンの背中を見送って、俺は息を吐き出す。
スヴェンの言うように、ひとりで悩んでいたって仕方がない。ここは勇気を出して、真正面からラーシュと対峙するしかない。
「そうだ。ラーシュさんへのお礼を買おうかな」
冒険者活動で稼いだお金は、ラーシュへのプレゼントを買うために使うと決めていた。ラーシュに俺の正直な気持ちを伝える際に、一緒にプレゼントも渡したい。
稼いだお金は財布に入れてある。そこまでたいした額じゃないけど、小物くらいなら買えるはず。
ひとまずの目標ができて、ちょっぴり気持ちが落ち着いた。
その足で大通りに向かった俺は、賑やかな店をあちこち見て回る。ラーシュが喜ぶものをあれこれ考えながら歩くのは楽しかった。
喜んでくれるかな。喜んでくれるよね?
予算が少ないので、選べるものは限られてくる。
迷いに迷った末、俺が手に取ったのは小さなキーホルダーだった。
いつもラーシュと一緒に出かける際、彼が鍵をかけるのだが何の飾りもついていない。俺は自分の鍵にはキーホルダーをつける派だったので少し気になっていた。だって鍵だけだとカバンの中でどこにいったのかわからなくなってしまう。几帳面なラーシュは、そんなことにはならないのかもしれないけど。
銀色の鳥をモチーフにしたキーホルダー。
これにしようと決めて、購入した。紐の部分が綺麗な青色だった。ラーシュの銀髪と青い瞳の色。どちらも入っているのが決め手だった。
プレゼントも用意して、満足した俺は帰宅する。
夕食の買い物も一緒に済ませてきたので、あとはラーシュの帰りを待つだけだ。
今度こそ、ちゃんと自分の気持ちを伝える。
自分の意見を言うのが苦手で、これまでふらふらと流されながら生きてきた。別にそれでどうにかなったし、そこまで困った状況にはならなかった。
でもやっぱり自分の気持ちは大事にしたい。
そう思えるようになったのも、俺の話をちゃんと聞いて俺の意思を尊重してくれるラーシュがいたからだ。
スヴェンやミーケルが言うように、ラーシュはたしかに過保護な部分があると思う。でもそれは俺を心配してのことである。
そして俺が無理をしていないとわかれば、俺の応援をしてくれる。
最初は俺がキッチンスペースに入るとやんわり追い出していたが、俺がそれなりに包丁や火を扱えるとわかれば笑顔で任せてくれる。
冒険者活動だって危ないからと反対していたけど、俺がどうしてもやりたいと主張すれば最終的には許してくれた。
そんな優しいラーシュのことが、どうしようもなく好きになってしまった。俺はラーシュと一緒にいたい。ラーシュと離れたくない。この気持ちだけは、ちゃんと大事にしてあげたい。
ラーシュは俺を子供扱いしているから、そういった目では見てくれないかもしれない。それでも、この想いだけはちゃんと伝えたい。
結果振られたとしても、別にいいじゃないか。
どうせラーシュは俺を手放そうとしているのだ。今更気まずくなるかもなんて考えている場合じゃない。
「うん。大丈夫……」
大丈夫と自分を励ます言葉を繰り返す。
突然異世界に落ちてきたけど、こうやってどうにかなっている。そう思えば、これ以上に怖いことなんてない。
俺は一度全部を失っている身だ。
大丈夫。人生は意外とどうにでもなる。
よしっと小さく呟いて、覚悟を決めた。あとはラーシュの帰宅を待つだけである。
「俺は……」
スヴェンに問われて、情けなく眉尻を下げる。俺は、ラーシュと今まで通り一緒に暮らしたい。ラーシュに捨てられたくない。
できればラーシュに笑ってほしいし、頭を撫でてもらいたい。ぎゅって抱きしめてほしい。
ラーシュとの間に変な距離があるのは嫌だ。
ひとりでも大丈夫だねと突き放すように言ったラーシュのことを思い出して、またもや涙が滲んできそうになる。
「あぁ、ほら。泣くなよ」
「……うん」
スヴェンに背中を軽く叩かれて、ぎこちなく頷く。
「ラーシュさん、俺のこと面倒になったんだと思う」
俺が頼りないからだと目元を擦れば、スヴェンが「そんなことないだろ」とやや強めの口調で言う。
「言っただろ。ラーシュは他人の世話を焼くのが趣味みたいなところがあるって。面倒なんて思うわけないだろ」
「じゃあなんで」
「それはラーシュに訊いてみないとわからねぇけど」
ガシガシと頭を掻いたスヴェンは、うーんと唸ってしまう。
「もう一回ちゃんと話をしてみたらどうだ? 一緒にいたいとラーシュに泣きつくという手もあるぞ」
冗談めかして言うスヴェンだが、俺はもうすでにラーシュの前で泣いている。どうせラーシュには子供扱いされているのだ。いっそ割り切って思い切り泣きついてみるべきか。
「ありがとうございます。スヴェンさん」
「おう。どうにもならなかったら俺がどうにかしてやるよ。だからそんなに思い詰めるなよ」
「はい」
「んじゃ、俺は仕事があるから。あんまりサボるとラーシュがうるさいからな」
そう笑って騎士団本部へと引き返していくスヴェンの背中を見送って、俺は息を吐き出す。
スヴェンの言うように、ひとりで悩んでいたって仕方がない。ここは勇気を出して、真正面からラーシュと対峙するしかない。
「そうだ。ラーシュさんへのお礼を買おうかな」
冒険者活動で稼いだお金は、ラーシュへのプレゼントを買うために使うと決めていた。ラーシュに俺の正直な気持ちを伝える際に、一緒にプレゼントも渡したい。
稼いだお金は財布に入れてある。そこまでたいした額じゃないけど、小物くらいなら買えるはず。
ひとまずの目標ができて、ちょっぴり気持ちが落ち着いた。
その足で大通りに向かった俺は、賑やかな店をあちこち見て回る。ラーシュが喜ぶものをあれこれ考えながら歩くのは楽しかった。
喜んでくれるかな。喜んでくれるよね?
予算が少ないので、選べるものは限られてくる。
迷いに迷った末、俺が手に取ったのは小さなキーホルダーだった。
いつもラーシュと一緒に出かける際、彼が鍵をかけるのだが何の飾りもついていない。俺は自分の鍵にはキーホルダーをつける派だったので少し気になっていた。だって鍵だけだとカバンの中でどこにいったのかわからなくなってしまう。几帳面なラーシュは、そんなことにはならないのかもしれないけど。
銀色の鳥をモチーフにしたキーホルダー。
これにしようと決めて、購入した。紐の部分が綺麗な青色だった。ラーシュの銀髪と青い瞳の色。どちらも入っているのが決め手だった。
プレゼントも用意して、満足した俺は帰宅する。
夕食の買い物も一緒に済ませてきたので、あとはラーシュの帰りを待つだけだ。
今度こそ、ちゃんと自分の気持ちを伝える。
自分の意見を言うのが苦手で、これまでふらふらと流されながら生きてきた。別にそれでどうにかなったし、そこまで困った状況にはならなかった。
でもやっぱり自分の気持ちは大事にしたい。
そう思えるようになったのも、俺の話をちゃんと聞いて俺の意思を尊重してくれるラーシュがいたからだ。
スヴェンやミーケルが言うように、ラーシュはたしかに過保護な部分があると思う。でもそれは俺を心配してのことである。
そして俺が無理をしていないとわかれば、俺の応援をしてくれる。
最初は俺がキッチンスペースに入るとやんわり追い出していたが、俺がそれなりに包丁や火を扱えるとわかれば笑顔で任せてくれる。
冒険者活動だって危ないからと反対していたけど、俺がどうしてもやりたいと主張すれば最終的には許してくれた。
そんな優しいラーシュのことが、どうしようもなく好きになってしまった。俺はラーシュと一緒にいたい。ラーシュと離れたくない。この気持ちだけは、ちゃんと大事にしてあげたい。
ラーシュは俺を子供扱いしているから、そういった目では見てくれないかもしれない。それでも、この想いだけはちゃんと伝えたい。
結果振られたとしても、別にいいじゃないか。
どうせラーシュは俺を手放そうとしているのだ。今更気まずくなるかもなんて考えている場合じゃない。
「うん。大丈夫……」
大丈夫と自分を励ます言葉を繰り返す。
突然異世界に落ちてきたけど、こうやってどうにかなっている。そう思えば、これ以上に怖いことなんてない。
俺は一度全部を失っている身だ。
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よしっと小さく呟いて、覚悟を決めた。あとはラーシュの帰宅を待つだけである。
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