異世界転移した俺は今日も保護者の騎士様に甘やかされています

岩永みやび

文字の大きさ
42 / 48
番外編

もっと触って1

「イツキくん。いま何時だと思ってるんだい。はやく寝なさい」

 ソファでいつものようにごろごろしていると、ラーシュが呆れたように声をかけてくる。

 俺とラーシュは、晴れて恋人になったはずである。しかしラーシュは、一向に俺に手を出してこない。恋人なのに、いまだに触れるだけの子供っぽいキスまでである。これはおかしい。ちょっと不満に思っていた俺は、クッションを抱えてラーシュを見上げた。

「イツキくん。聞いてる?」
「ラーシュさん」
「どうしたの?」

 はやく寝ろと言うラーシュだが、俺が呼べば心配そうな面持ちで近寄ってきてくれる。ソファに座る俺の前に屈んで片膝をついたラーシュは、俺の額に手を当ててくる。熱はないから。すぐに俺の体調確認するのはやめてほしい。俺は意外と丈夫だから。

 熱がないことを確認して、ラーシュの大きな手が離れていく。それを咄嗟に掴むと、ラーシュが「どうしたの?」と優しく問いかけてくる。

「……」

 じっとラーシュの綺麗な瞳を見つめる。水面を連想させる澄んだ青い瞳は、穏やかに俺を見ている。

 そのただひたすらに優しい色を眺めながら、もじもじとクッションを抱える。

「イツキくん?」

 どうしたのと優しい声と共に頭を撫でられた。
 ラーシュに頭を撫でてもらうのは好き。でもせっかく恋人になったんだから、それ以上をやりたい。

「……ラーシュさん。キスして」

 消え入るような声で訴えると、ラーシュが目を瞬いた。けれどもすぐに小さく笑ったラーシュは、俺の前髪を掻き上げる。

 そのまま額に優しいキスが落ちてきた。

「はい。おやすみ」
「……違うの」
「え? なにが違うの?」

 首を傾げるラーシュに、頬を膨らませる。それ本気で訊いているのか? それじゃあただのおやすみのキスだ。

 しかしラーシュが動く気配がないので、俺が動くしかない。

「口にして」

 勇気を振り絞ってラーシュを見上げれば、ちょっと驚いた顔になったラーシュがすぐに柔らかく笑った。

「今日のイツキくんは甘えん坊だね」
「ん」

 なんだか嬉しそうなラーシュが、俺を抱っこする。そのまま二階に運ばれて行く。

 俺をベッドにおろしたラーシュは、にこりと微笑んでから唇を押し当ててきた。

「はい、おやすみ。寝坊しないでね」

 ちょっと待て。これじゃあキスの場所が額から唇に変わっただけじゃないか。相変わらず子供っぽいキスに、俺は急いでラーシュの袖を掴んだ。

「イツキくん。夜更かししないよ」

 もう寝なさいと親みたいなことを言うラーシュに、俺は勢いで声を張り上げた。

「そうじゃなくて! 恋人っぽいキスして!」
「……」

 ラーシュが固まってしまった。
 俺もちょっと急だったかもしれない。突然恥ずかしさが込み上げてきて、ベッドの上で縮こまる。

 けれども俺も男だ。しかも二十歳。普通に性欲はある。

 ここまで言ってしまったら仕方がない。
 もうどうにでもなれという気分で、ラーシュの腕を引っ張る。笑顔が消えたラーシュは、されるがままにベッドに片手をついた。だが正気に戻ったらしく、「イツキくん」と咎めるような声を出す。

「もう寝なさい」
「いやだ。なんで恋人なのにキスしてくれないの」
「しただろう?」
「あんな子供っぽいのやだ」

 俺は大人なのと上目遣いでラーシュを見れば、彼は非常に苦い顔をしていた。

「ラーシュさん、俺のこと子供だと思ってるでしょ」
「そんなこと」

 あるのかないのかどっちだ。
 微妙なところで言葉を切ったラーシュは、困ったように首を傾げてしまった。

「……俺、ラーシュさんとしたい」
「っ」

 なぜか険しい表情になったラーシュは、たっぷり時間をかけて悩んでしまう。俺としては、人生において一番くらいの決死の覚悟で言っているのだ。お願いだから断らないで。

 何度も言うが俺は二十歳で、ラーシュとは恋人同士。拒む理由なんてないだろうに。

 うるうるとラーシュを見つめていると、やがて彼が意を決したように眉間に深い皺を刻んだ。

「嫌だったら言ってね」
「! うん!」

 ぶんぶんと勢いよく頷く俺に、ラーシュが困った顔で微笑む。そのまま俺のベッドにあがってきたラーシュに、心臓がバクバクと音を立てた。

 ベッドに向かい合って座ると、ラーシュが手を伸ばしてくる。俺の後頭部に手を添えて、ラーシュが顔を近付けてきた。お綺麗な顔がすぐ近くにきて今更ながらにドキドキする。思わずぎゅっと目を閉じれば、ラーシュの小さな笑い声が聞こえてきた。

「笑わないで」
「ごめん。緊張してるイツキくんが可愛くて」
「っ! 緊張なんてしてない!」
「はいはい。嫌だったら言ってね」

 俺の心を見透かすラーシュの唇が、俺の唇に触れた。ここまではいつも通りである。

「ん」

 緊張にぎゅっと唇を引き結んでいたのだが、そこへ割って入ろうと言わんばかりにラーシュの舌先が俺の唇に触れた。思わず肩に力が入る俺に、ラーシュが困ったように「イツキくん」と呼びかけてくる。

「口あけて」
「んー」
「ちょっとイツキくん」

 どこか楽しそうに笑ったラーシュは「嫌になった? やめる?」と不都合なことを言い出す。慌てた俺は、勇気を振り絞って口を少しあけた。

「んっ!」

 再びキスしてきたラーシュの舌が、今度は中に入ってくる。ビクッと身体を震わせる俺を宥めるように、ラーシュの舌が口内を撫でていく。

「ふっ、ん」
「イツキくん。息は止めないでいいんだよ」

 鼻で呼吸するんだよと優しく言われて、従っておく。

 ラーシュの大きな手のひらで、後頭部を支えられる。再び口内に侵入してきた舌が、まるで歯列を確認するかのように、丁寧に弄っていく。

「う、っん」

 ラーシュの舌が、誰にも触られることのない場所を暴いていく。その感覚に、ビクビクと身体が震えた。

 上顎をなぞられて、未知の感覚に背中がゾクゾクした。必死になってラーシュにしがみついて、その背中を強く握った。

 自分でも顔が真っ赤になっているであろうことがわかる。

 なんだかもういっぱいいっぱいの俺であったが、まだまだ序の口だったらしい。今度は舌を絡めるように弄られて、甘い吐息がもれた。

 ようやくラーシュの口が離れていく。つうと唾液が糸を引いて、その卑猥な光景にぶわっと顔に熱が集まった。思わずベッドに背中から倒れ込んだ。ラーシュが「おっと」と言いながら心配そうな目を向けてくるも、その顔を直視できない。

「んんー!」

 顔を覆って恥ずかしさに耐えていると、ラーシュが頭を撫でてくれる。いつの間にか、ベッドに仰向けで倒れる俺にラーシュが覆い被さる体勢になっていた。

 くすくすと忍び笑いが降ってくる。

「イツキくん、可愛い」
「うぇ……!」

 俺の首元に顔を近づけたラーシュが、前触れもなくキスしてきた。触れるだけのくすぐったい感覚に、ふにゃりと力が抜ける。

 そのまま場所を変えてキスを落としてくるラーシュに、俺はだらしなく「あっ」と声をあげることしかできない。

「うにゃ!」

 ラーシュが俺の耳を甘噛みした途端、変な声が出た。

「いやっ、いまのは違っ」

 ふるふると震える俺に、ラーシュが「びっくりさせちゃったね」と眉尻を下げた。

 びっくりしたのは事実だが、それを表に出してしまったことが恥ずかしい。もう力も入らなくて肩で息をしていると、ラーシュが優しい笑みと共に唇に触れるだけのキスをしてきた。

「おやすみ、イツキくん」

 手際よく俺に布団をかけたラーシュは、何事もなかったかのように部屋を出て行った。

「……はぇ?」

 突然の放置に、遅れて間抜けな声が出た。

 え、もう終わり?

 正直ラーシュのせいで、心臓が音を立てている。
 身体の中でくすぶる熱が、ぐるぐると行き場を失って迷走している。

 肩で息をしながら、呆然と天井を見つめた。ここで放置は、普通に酷くないか?
感想 6

あなたにおすすめの小説

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる

塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった! 特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。

春野くんち―僕の日常は、過保護な兄弟たちに囲まれている―

猫に恋するワサビ菜
BL
春野家の朝は、いつも賑やかで少しだけ過保護。 穏やかで包容力のある長男・千隼。 明るくチャラめだが独占欲を隠さない次男・蓮。 家事万能でツンデレ気味な三男・凪。 素直になれないクールな末っ子・琉生。 そして、四人の兄弟から猫のように可愛がられている四男の乃空。 自由奔放な乃空の振る舞いに、兄たちは呆れながらも、とろけるような笑顔で彼を甘やかす。

【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】

ゆらり
BL
 帝国の侵略から国境を守る、レゲムアーク皇国第一魔導騎士団の駐屯地に派遣された、新人の魔導騎士ネウクレア。  着任当日に勃発した砲撃防衛戦で、彼は敵の砲撃部隊を単独で壊滅に追いやった。  凄まじい能力を持つ彼を部下として迎え入れた騎士団長セディウスは、研究機関育ちであるネウクレアの独特な言動に戸惑いながらも、全身鎧の下に隠された……どこか歪ではあるが、純粋無垢であどけない姿に触れたことで、彼に対して強い庇護欲を抱いてしまう。  撫でて、抱きしめて、甘やかしたい。  帝国との全面戦争が迫るなか、ネウクレアへの深い想いと、皇国の守護者たる騎士としての責務の間で、セディウスは葛藤する。  独身なのに父性強めな騎士団長×不憫な生い立ちで情緒薄めな甘えたがり魔導騎士+仲が良すぎる副官コンビ。  甘いだけじゃない、骨太文体でお送りする軍記物BL小説です。番外は日常エピソード中心。ややダーク・ファンタジー寄り。  ※ぼかしなし、本当の意味で全年齢向け。 ★お気に入りやいいね、エールをありがとうございます! お気に召しましたらぜひポチリとお願いします。凄く励みになります!

悪役の運命から逃げたいのに、独占欲騎士様が離してくれません

ちとせ
BL
執着バリバリなクールイケメン騎士×一生懸命な元悪役美貌転生者 地味に生きたい転生悪役と、全力で囲い込む氷の騎士。 乙女ゲームの断罪予定悪役に転生してしまった春野奏。 新しい人生では断罪を回避して穏やかに暮らしたい——そう決意した奏ことカイ・フォン・リヒテンベルクは、善行を積み、目立たず生きることを目標にする。 だが、唯一の誤算は護衛騎士・ゼクスの存在だった。 冷静で用心深く、厳格な彼が護衛としてそばにいるということはやり直し人生前途多難だ… そう思っていたのに─── 「ご自身を大事にしない分、私が守ります」 「あなたは、すべて私のものです。 上書きが……必要ですね」 断罪回避のはずが、護衛騎士に執着されて逃げ道ゼロ!? 護られてるはずなのに、なんだか囚われている気がするのは気のせい? 警戒から始まる、甘く切なく、そしてどこまでも執着深い恋。 一生懸命な転生悪役と、独占欲モンスターな護衛騎士の、主従ラブストーリー!

ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!

由汰のらん
ファンタジー
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。 しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。 そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。 「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」 やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった。しかしハルの血が特殊だと知ったダンピールはハルを連れ帰って? いっそ美味しい『血』(治癒)と『体液』(バフ)と『癒し』を与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された

楽矢
BL
【完結/番外編準備中】 目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。 何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。 記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。 ---------- ※注) かっこいい攻はいません。 タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意! 貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。 ハッピーエンドです。 激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします! 全16話 完結済み 他サイトにも同作品を投稿しています。 様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。 初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです! ---------- 追記:読んでくださった皆さま、本当にどうもありがとうございました!! 完結しましたが回収しきれていないエピソードが私の中でいくつかあるので笑、後日番外編をアップしたいなと現在準備中です。 詳しい更新日まだ未定ですが、もしよろしかったらゼヒまた覗いてやってくださいねー!