異世界転移した俺は今日も保護者の騎士様に甘やかされています

岩永みやび

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番外編

冒険者イツキ3

 ラーシュと共に帰宅して、夕飯とお風呂を済ませる。いつもはここでラーシュに文字を教えてもらうのだが、今日のラーシュはそんな気分じゃなかったらしい。

「イツキくん。知らない人に連れて行かれそうになったら大声で助けを呼ぶんだよ? 黙ってされるがままはダメだからね」
「うん」
「本当にわかってる?」

 なにやら疑うような目を向けてきたラーシュは、俺と並んでソファに座る。

「僕はイツキくんのことが心配で……」
「うん。ごめんなさい」
「謝ってほしいわけじゃないんだけど」

 なんだか複雑な気分に陥っているらしいラーシュは、眉尻を下げて俺を見つめてくる。

 しばらく互いに見つめ合っていたのだが、不意にラーシュが動いた。

 こちらにゆっくり手を伸ばしてきたラーシュ。その行き先をじっと眺めていれば、俺の眼前まで迫ってくる。そのまま鼻を軽くつままれて「へぁ?」と変な声がもれた。

 なにをするんだと眉間に力を入れてラーシュを見やると、険しい表情の彼と目が合った。

「イツキくんの危機感はどこに行ったの?」
「え、普通にあるよ」
「ないよ」

 お願いだからもう少し危機感を持ってと真剣な顔で言われて、納得できないけど「わかった」と応じておく。

 そんな俺の雑な内心を察したのだろう。ラーシュが苦い顔になった。

「僕がイツキくんに変なことしようとしてたらどうするの。少しは人を疑うことも覚えてほしいんだけど」
「ラーシュさんは変なことしないから」
「っ」

 なぜか俺からさっと顔を背けたラーシュは、額を押さえてしまう。

「……イツキくん可愛い」
「え?」

 すぐに俺を抱きしめたラーシュは、可愛い可愛いと繰り返す。そんなに言われると普通に照れてしまう。

 翌日。

 仕事に向かうラーシュを見送って、俺はいつも通りの日常を送る。家事を済ませて、少しだけ文字の勉強も進めてみる。もうすっかりこの世界での生活に慣れてしまった。

 そうして昼からは買い物に出る。
 今日の夕飯は何にしようかと考えながら歩くのは楽しい。一緒にラーシュの喜ぶ顔も浮かんでくるから。

 店の並ぶ通りをうろうろしていると、背後から「おい」と低い声が飛んできた。

「はい?」

 もしかして俺を呼んでいるのだろうか。おそるおそる振り返ると、そこには冒険者のモーリスがいた。昨日の出来事が一気によみがえってきて、咄嗟にその場から逃走を試みる。

 けれども相手は優秀な冒険者。あっという間に首根っこを掴まれてしまう。

「わっ、!」

 ラーシュに言われた危機感という言葉を思い出して、すぐに悲鳴をあげようとする。けれどもその前に、モーリスが俺の口を手のひらで塞いだ。

「おい、静かにしろ。まだ何もしてねぇだろうが!」

 押し殺した声ではあったが、迫力のある一喝だった。首をすくめて固まる俺に「いいか? 絶対に声を出すなよ」と言い聞かせてきたモーリスに、わかったと何度も頷く。

「よし」

 偉そうに言ったモーリスは、手を離してくれた。
 約束通りというよりも、喉が強張って声が出ないという方が正しかった。

「ちょっとこっちに来い」

 カッチコチに固まる俺の手を引いて、モーリスは冒険者ギルド方面へと歩き出す。

 完全に悲鳴をあげるタイミングを逃してしまった。ギルドが見えてきたのだが、モーリスはそれを無視して歩き続ける。やがて俺が普段から薬草採取のために立ち入っている森の入り口付近にたどり着いた。

 そこでようやく足を止めたモーリスは、周囲を見回して人影がないことを確認した。

「おまえ、名前は」
「……イツキ、です」

 モーリスの鋭い眼光に負けて、正直に名乗った。ガラの悪そうな見た目をしているモーリスである。歳はラーシュと近いんじゃないだろうか。けれども優しい顔立ちのラーシュとは違って険しい表情をしている。正直言って怖かった。

「歳は」
「えっと。十八」
「嘘をつくな」

 ギロリと睨まれて、俺は情けなく眉尻を下げる。嘘をついたことが完全にばれている。

「すみません。本当は二十歳です」
「ガキのくせにいい度胸だな」

 今度は正直に答えたのに、ますます睨まれてしまった。そういえば、俺はこの世界基準だと子供にしか見えないんだった。

「なんでガキのくせに冒険者なんてやってんだ。親はどうした。どうやってギルドで登録した」

 一気に質問されて、あわあわと立ち尽くす。

 まず前提からして間違っている。俺は二十歳で大人なのだ。だから本来であれば何の問題もなく冒険者登録ができる。だがこの見た目である。ゾイやスヴェンの手を借りて、どうにか登録してもらったという経緯がある。

 そのことを理解してもらうには、まずは俺が異世界からやってきたことを説明する必要があった。

 この世界、異世界から何かが落ちてくるのは決して珍しいことではない。だが人間が落ちてくるのは珍しい。

 俺が異世界人であることを口外してはいけないと、誰かに言われたわけではない。意外と異世界人の存在に理解があるらしいので、素直に白状しても問題ないだろう。

 モーリスの鋭い目線から逃れたい一心で、俺はたどたどしく説明を試みた。黙って聞いていたモーリスは、最後に「なるほど」と神妙な顔で頷いた。

「おまえも大変だな」
「あ、はい。ありがとうございます……?」

 なぜか同情されたので、曖昧にお礼を述べておいた。
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