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番外編
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「ラーシュ、おまえ! 子育てなんてしてる場合か! どこで拾ってきた!?」
「子育てって。まさかイツキくんに会ったのか!?」
大声で怒鳴りあう声にビビりながら、俺はおそるおそる部屋を覗いた。
執務机から中途半端に腰を浮かせたラーシュが、エミルに険しい表情を見せていた。そんなふたりを驚愕の表情で見つめるスヴェンの姿も発見した。
息を呑んで見守っていると、スヴェンが俺に気がついた。
「イツキくん。なんでエミルと一緒に……」
そのスヴェンの声で、ラーシュの目が俺を捉えた。
ようやく俺の存在を認識したラーシュが、慌てたように寄ってくる。
「イツキくん。どこでエミルと知り合ったの!?」
「おまえの家に行ったらその子がいたんだよ。なんだよ一緒に住んでるって。結婚もまだのくせに、他人の子供を育てている場合か!」
俺の代わりに答えたエミルは、相当怒っているらしかった。けれどもラーシュは、エミルのことを完全に無視して俺を抱き上げた。
「ちょっと、ラーシュさん」
「イツキくん。知らない人が来ても対応しなくていいって言ったよね? 玄関開けたの?」
「あ……」
そう言えばそうだった。
しかし居留守がエミルにバレて、ドアを蹴破られる勢いだったのだから仕方がない。
そう説明したところ、ラーシュの眉間にますます深い皺が刻まれてしまった。
「そんな危ない人間、余計に対応したらダメでしょ」
なんでドアを開けたのとラーシュに険しい顔で言われて、「ごめんなさい」と肩を落とす。
どう見ても怒っているラーシュは、俺をソファにおろした。
「またよくわからない人について行って。イツキくんの危機感はどこに行ったのさ。知らない人にはついて行かないって何度言えばわかるの!」
「ご、ごめんなさい」
ひたすら謝る俺と、怒った顔のラーシュ。
スヴェンが「いや、それより」とエミルに視線をやった。
「あいつをどうにかしろよ」
スヴェンに言われて、ラーシュが渋々といった感じでエミルと向き合った。
「で? 突然どうしたの。イツキくんまで巻き込んで」
「どこの子? まさか勝手に拾ってきたわけじゃないだろうな? おまえは昔からよく犬とか猫とか拾ってきてただろ。さすがに人間の子供を拾うのはまずいと思うけど」
「拾ってない」
素早く否定したラーシュは、ソファにぼんやり座る俺の頭をぽんぽん叩いた。
「イツキくんは僕の恋人だよ」
「……は?」
さらりと吐き出された言葉に、照れてしまう。
顔を俯ける俺であるが、エミルは信じられないと目を見開いた。と思った直後、エミルがすごい勢いでラーシュの胸ぐらに掴みかかった。その勢いで、ラーシュが二、三歩よろめく。
「ラーシュ!! おまえ子供に手を出すとか正気か!?」
「ちょっ、兄さん落ち着いて」
兄さん?
目を丸くして、エミルとラーシュを見比べる。言われてみれば髪色とかが同じだ。
「ラーシュさんの、お兄さん」
確認するように呟けば、スヴェンが「あんま似てないだろ」と苦い顔で言った。
「たまにふらっとラーシュの顔を見に来るんだ。普段は隣町に住んでる」
「そうなんですね」
俺のことを完全に子供だと誤解しているエミルは、今にもラーシュをぶん殴りそうな様子であった。
けれどもラーシュも負けない。エミルの手を振り解いて、「話を聞け!」と一喝している。
「イツキくんはこう見えて大人だ」
「嘘をつくな!」
「嘘ではなくて」
決着がつかないようだったので、俺はカバンに入っていたギルドカードを取り出して見せた。年齢欄の部分をエミルに示すと、「十八!?」と驚愕の悲鳴と共にカードを引ったくられた。
「あ……」
「十八なわけあるか! これ本物?」
じっとカードを見つめるエミルに、ラーシュが「本物だよ」と言った。とはいえ年齢欄は嘘なんだけど。本当の俺は二十歳である。
「そういうわけだから放っておいてくれないか」
「余計に放っておけるか! なんで十八なのにこんなに小さいんだ。おまえの世話の仕方が悪いんじゃないのか!?」
ガバリと俺を振り返ったエミルが「ちゃんと飯は食ってるのか!?」と俺の両肩を掴んできた。
「た、食べてます」
「ラーシュにいじめられてないか!?」
「それはないです。ラーシュさんは優しいです」
「君、ラーシュに騙されてないか!?」
勢いよくラーシュを疑うエミルに、スヴェンが「おい、いい加減静かにしろ」と苦言を呈している。
エミルは綺麗系のお兄さんなのに、口を開くと勢いがすごい。そのギャップに驚いていると、ラーシュが俺をエミルから引き剥がした。
「兄さん。イツキくんが怯えてるから」
怯えてはいない。ただエミルの勢いに圧倒されているだけで。
「とにかく今日は帰ってくれないか。また今度改めて説明するから。一応いまは仕事中なんだけど」
「わかった。また今度話そう。行くよ、イツキくん」
え、俺?
当然のようにエミルに手招きされて面食らう。それはラーシュも同じだったらしい。眉間に皺を寄せたラーシュが「イツキくんは置いて行っていいから」と告げた。
「置いて行けるか! イツキくんは僕が育てる」
「はぁ!?」
ラーシュの悲鳴じみた声に、俺はビクッと肩を跳ねさせた。
「なんでそうなる!」
「おまえに任せるとイツキくんが可哀想だろ! ひとりで留守番なんてさせて。面倒見られないなら拾うな!」
「だから拾ったわけでは」
もしかしてエミルには、俺が犬猫の類いに見えているのだろうか。
強引に俺の手を取ったエミルが「じゃあな!」と捨て台詞を吐いて荒々しく執務室のドアを開け放った。
「イツキくんは置いて」
「置いて行けるか、バーカ!」
こちらに手を伸ばすラーシュを振り切って、エミルは勢いよくドアを閉めた。すぐにラーシュが追ってくるが、エミルはそれを「おまえは仕事中だろうが」という言葉で追い払ってしまう。
「今日はうちに連れて帰るから。おまえはせいぜい仕事してろ」
「イツキくん。仕事終わったら迎えに行くから」
「来なくていい!」
ラーシュのことを突っぱねるエミル。
対する俺は、突然の展開に立ち尽くすことしかできなかった。
「子育てって。まさかイツキくんに会ったのか!?」
大声で怒鳴りあう声にビビりながら、俺はおそるおそる部屋を覗いた。
執務机から中途半端に腰を浮かせたラーシュが、エミルに険しい表情を見せていた。そんなふたりを驚愕の表情で見つめるスヴェンの姿も発見した。
息を呑んで見守っていると、スヴェンが俺に気がついた。
「イツキくん。なんでエミルと一緒に……」
そのスヴェンの声で、ラーシュの目が俺を捉えた。
ようやく俺の存在を認識したラーシュが、慌てたように寄ってくる。
「イツキくん。どこでエミルと知り合ったの!?」
「おまえの家に行ったらその子がいたんだよ。なんだよ一緒に住んでるって。結婚もまだのくせに、他人の子供を育てている場合か!」
俺の代わりに答えたエミルは、相当怒っているらしかった。けれどもラーシュは、エミルのことを完全に無視して俺を抱き上げた。
「ちょっと、ラーシュさん」
「イツキくん。知らない人が来ても対応しなくていいって言ったよね? 玄関開けたの?」
「あ……」
そう言えばそうだった。
しかし居留守がエミルにバレて、ドアを蹴破られる勢いだったのだから仕方がない。
そう説明したところ、ラーシュの眉間にますます深い皺が刻まれてしまった。
「そんな危ない人間、余計に対応したらダメでしょ」
なんでドアを開けたのとラーシュに険しい顔で言われて、「ごめんなさい」と肩を落とす。
どう見ても怒っているラーシュは、俺をソファにおろした。
「またよくわからない人について行って。イツキくんの危機感はどこに行ったのさ。知らない人にはついて行かないって何度言えばわかるの!」
「ご、ごめんなさい」
ひたすら謝る俺と、怒った顔のラーシュ。
スヴェンが「いや、それより」とエミルに視線をやった。
「あいつをどうにかしろよ」
スヴェンに言われて、ラーシュが渋々といった感じでエミルと向き合った。
「で? 突然どうしたの。イツキくんまで巻き込んで」
「どこの子? まさか勝手に拾ってきたわけじゃないだろうな? おまえは昔からよく犬とか猫とか拾ってきてただろ。さすがに人間の子供を拾うのはまずいと思うけど」
「拾ってない」
素早く否定したラーシュは、ソファにぼんやり座る俺の頭をぽんぽん叩いた。
「イツキくんは僕の恋人だよ」
「……は?」
さらりと吐き出された言葉に、照れてしまう。
顔を俯ける俺であるが、エミルは信じられないと目を見開いた。と思った直後、エミルがすごい勢いでラーシュの胸ぐらに掴みかかった。その勢いで、ラーシュが二、三歩よろめく。
「ラーシュ!! おまえ子供に手を出すとか正気か!?」
「ちょっ、兄さん落ち着いて」
兄さん?
目を丸くして、エミルとラーシュを見比べる。言われてみれば髪色とかが同じだ。
「ラーシュさんの、お兄さん」
確認するように呟けば、スヴェンが「あんま似てないだろ」と苦い顔で言った。
「たまにふらっとラーシュの顔を見に来るんだ。普段は隣町に住んでる」
「そうなんですね」
俺のことを完全に子供だと誤解しているエミルは、今にもラーシュをぶん殴りそうな様子であった。
けれどもラーシュも負けない。エミルの手を振り解いて、「話を聞け!」と一喝している。
「イツキくんはこう見えて大人だ」
「嘘をつくな!」
「嘘ではなくて」
決着がつかないようだったので、俺はカバンに入っていたギルドカードを取り出して見せた。年齢欄の部分をエミルに示すと、「十八!?」と驚愕の悲鳴と共にカードを引ったくられた。
「あ……」
「十八なわけあるか! これ本物?」
じっとカードを見つめるエミルに、ラーシュが「本物だよ」と言った。とはいえ年齢欄は嘘なんだけど。本当の俺は二十歳である。
「そういうわけだから放っておいてくれないか」
「余計に放っておけるか! なんで十八なのにこんなに小さいんだ。おまえの世話の仕方が悪いんじゃないのか!?」
ガバリと俺を振り返ったエミルが「ちゃんと飯は食ってるのか!?」と俺の両肩を掴んできた。
「た、食べてます」
「ラーシュにいじめられてないか!?」
「それはないです。ラーシュさんは優しいです」
「君、ラーシュに騙されてないか!?」
勢いよくラーシュを疑うエミルに、スヴェンが「おい、いい加減静かにしろ」と苦言を呈している。
エミルは綺麗系のお兄さんなのに、口を開くと勢いがすごい。そのギャップに驚いていると、ラーシュが俺をエミルから引き剥がした。
「兄さん。イツキくんが怯えてるから」
怯えてはいない。ただエミルの勢いに圧倒されているだけで。
「とにかく今日は帰ってくれないか。また今度改めて説明するから。一応いまは仕事中なんだけど」
「わかった。また今度話そう。行くよ、イツキくん」
え、俺?
当然のようにエミルに手招きされて面食らう。それはラーシュも同じだったらしい。眉間に皺を寄せたラーシュが「イツキくんは置いて行っていいから」と告げた。
「置いて行けるか! イツキくんは僕が育てる」
「はぁ!?」
ラーシュの悲鳴じみた声に、俺はビクッと肩を跳ねさせた。
「なんでそうなる!」
「おまえに任せるとイツキくんが可哀想だろ! ひとりで留守番なんてさせて。面倒見られないなら拾うな!」
「だから拾ったわけでは」
もしかしてエミルには、俺が犬猫の類いに見えているのだろうか。
強引に俺の手を取ったエミルが「じゃあな!」と捨て台詞を吐いて荒々しく執務室のドアを開け放った。
「イツキくんは置いて」
「置いて行けるか、バーカ!」
こちらに手を伸ばすラーシュを振り切って、エミルは勢いよくドアを閉めた。すぐにラーシュが追ってくるが、エミルはそれを「おまえは仕事中だろうが」という言葉で追い払ってしまう。
「今日はうちに連れて帰るから。おまえはせいぜい仕事してろ」
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