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番外編
悩み事5(sideデイブ)
「兄さん! 勝手にイツキくんのこと連れて行くのはやめてくれないか! びっくりするだろ」
昼過ぎ。
いつものようにエミルの店で開店準備をしていると、ラーシュが飛び込んできた。
まだ仕事の時間だろうに。
到着するなりエミルに掴みかかる勢いのラーシュは、店内を見渡してから眉をひそめた。
「イツキくんは?」
「子供たちと外に遊びに行ったぞ」
「子供たちと……」
なんだか苦い顔になったラーシュは、大きく息を吐いた。
僕がここに来たときには、すでにイツキくんの姿はなかった。エミルによると、八百屋の息子であるマルコと遊びに行ったらしい。午前中は川で釣りをしたと言っていた。子供は仲良くなるのが早いなと感心した。大人になると、初対面の人間と遊べと言われても困ってしまう。せいぜい飲みに行くくらいだろう。
「それより仕事は?」
まさか抜け出してきたんじゃないだろうなと問いかけると、カウンター席に腰掛けたラーシュが「昼から休みをとってきた」と素っ気なく答えた。
「ついでに明日も休みにしてもらった」
「じゃあ今夜は泊まっていけよ」
軽く提案するエミルに、ラーシュが苦笑まじりに頷いた。イツキくんもしばらく帰ってこないだろうし、それがいい。
「イツキくんは誰と一緒なんだ」
「マルコだよ。八百屋の」
「あぁ、彼ね」
思い出したのか、ラーシュが納得したように頷いた。マルコはたしか十五歳だったか。歳の割には落ち着いているからイツキくんが一緒でも問題はないだろう。マルコは家の手伝いで配達をやっていることもあり顔が広い。同年代くらいの友達も多いはずだ。
「ラーシュ、おまえな。昼飯くらい作っていけよ」
唐突に文句を言い始めるエミルに、ラーシュがばつの悪い顔になった。どうやらイツキくんは料理がしたいと主張しているらしく、昼は自分で作ると言って譲らないらしい。それはいいけど、イツキくんの料理はかなり大雑把だ。
「せめて料理を教えてやれよ」
「あぁ、うん。そうだね」
曖昧に応じるラーシュに、エミルがお茶を出した。
エミルは、ラーシュが今夜泊まると聞いて浮かれているらしい。それなりに仲のいい兄弟である。
「……ところで、兄さん」
「なんだ」
「ここに来るまでの間に声をかけられたんだ」
「誰に?」
「ご近所さん」
「へー」
どうでもいいと言わんばかりの態度を見せるエミルに、ラーシュが険しい表情を見せた。
「あなたも大変ねって。どういう意味だと思う?」
どうやらラーシュは、歩いている間にご近所さんからひどく憐れまれたらしい。意味がわからず聞き流したそうだが、気になって仕方がないのだろう。
「たぶんイツキくんのことだと思うんだけど。兄さん、なにか言った?」
「……」
腰に手を当てて偉そうに佇むエミルは、悪びれない顔で「あー、なるほど」と呟いた。
僕も心当たりがある。エミルは大雑把な性格だ。綺麗系の顔と性格がまるで合致していない。
口を開かないエミルに焦れたのか。ラーシュがこっちを見た。
「なにか知ってる?」
半ば睨むように見られて、僕は乾いた笑みを浮かべた。どうせ噂は本人の耳にいつか入るものだ。隠したって仕方がないだろう。
「エミルが、イツキくんはラーシュの息子だって言いふらしているから。おまけにラーシュとは血が繋がっていなくて、ラーシュは独身のまま。まぁ、うん。みんな想像力が豊かだから」
おそらくラーシュが子連れの女といい関係になったはいいが、その女が子供を置いてラーシュの元から逃げたという話になっているのだろう。子供を押し付けられて大変ね、という話に違いない。
僕の説明を聞いて、ラーシュが頭を抱えた。すべては適当なことを言いふらした君の兄が原因だ。
「兄さん! 適当なこと言わないでくれる!?」
「ほとんど事実だろ」
「まったく違う!」
そうだな。
そもそもイツキくんは二十歳で、異世界から落ちてきた子だ。ラーシュが保護者となって面倒を見ていると聞いた。
深くため息を吐くラーシュは「イツキくんはどこ?」とエミルを睨む。
「だから遊びに行った。マルコがちゃんと面倒見てるから大丈夫だよ。知ってるだろ? マルコはしっかりしている」
「なんでイツキくんが面倒を見てもらう側なんだ」
エミルの言葉を受けて不満そうな顔をするラーシュに、僕は目を瞬く。
たしかに。
マルコは十五歳で、イツキくんは本人の主張が正しければ二十歳。
しかしイツキくんが子供たちの中に混ざって一緒に遊んでいるのは別に不自然でもないと思う。というか、むしろ自然だ。あの小柄な男の子が大人に混じっているほうが違和感。
いつも配達でうちに来るマルコの姿を思い浮かべる。
……マルコのほうが大人っぽいかもしれない。おそらく身長もマルコのほうが少しだけ高いかも。
「ちょっと迎えに行ってくる」
立ち上がるラーシュに、エミルが「おう」と頷いた。
「たまには父親らしく子供と遊んでやれ」
「僕はイツキくんの父親じゃない」
疲れた顔で言い返すラーシュは、またもやため息を落としてから店を出て行った。
昼過ぎ。
いつものようにエミルの店で開店準備をしていると、ラーシュが飛び込んできた。
まだ仕事の時間だろうに。
到着するなりエミルに掴みかかる勢いのラーシュは、店内を見渡してから眉をひそめた。
「イツキくんは?」
「子供たちと外に遊びに行ったぞ」
「子供たちと……」
なんだか苦い顔になったラーシュは、大きく息を吐いた。
僕がここに来たときには、すでにイツキくんの姿はなかった。エミルによると、八百屋の息子であるマルコと遊びに行ったらしい。午前中は川で釣りをしたと言っていた。子供は仲良くなるのが早いなと感心した。大人になると、初対面の人間と遊べと言われても困ってしまう。せいぜい飲みに行くくらいだろう。
「それより仕事は?」
まさか抜け出してきたんじゃないだろうなと問いかけると、カウンター席に腰掛けたラーシュが「昼から休みをとってきた」と素っ気なく答えた。
「ついでに明日も休みにしてもらった」
「じゃあ今夜は泊まっていけよ」
軽く提案するエミルに、ラーシュが苦笑まじりに頷いた。イツキくんもしばらく帰ってこないだろうし、それがいい。
「イツキくんは誰と一緒なんだ」
「マルコだよ。八百屋の」
「あぁ、彼ね」
思い出したのか、ラーシュが納得したように頷いた。マルコはたしか十五歳だったか。歳の割には落ち着いているからイツキくんが一緒でも問題はないだろう。マルコは家の手伝いで配達をやっていることもあり顔が広い。同年代くらいの友達も多いはずだ。
「ラーシュ、おまえな。昼飯くらい作っていけよ」
唐突に文句を言い始めるエミルに、ラーシュがばつの悪い顔になった。どうやらイツキくんは料理がしたいと主張しているらしく、昼は自分で作ると言って譲らないらしい。それはいいけど、イツキくんの料理はかなり大雑把だ。
「せめて料理を教えてやれよ」
「あぁ、うん。そうだね」
曖昧に応じるラーシュに、エミルがお茶を出した。
エミルは、ラーシュが今夜泊まると聞いて浮かれているらしい。それなりに仲のいい兄弟である。
「……ところで、兄さん」
「なんだ」
「ここに来るまでの間に声をかけられたんだ」
「誰に?」
「ご近所さん」
「へー」
どうでもいいと言わんばかりの態度を見せるエミルに、ラーシュが険しい表情を見せた。
「あなたも大変ねって。どういう意味だと思う?」
どうやらラーシュは、歩いている間にご近所さんからひどく憐れまれたらしい。意味がわからず聞き流したそうだが、気になって仕方がないのだろう。
「たぶんイツキくんのことだと思うんだけど。兄さん、なにか言った?」
「……」
腰に手を当てて偉そうに佇むエミルは、悪びれない顔で「あー、なるほど」と呟いた。
僕も心当たりがある。エミルは大雑把な性格だ。綺麗系の顔と性格がまるで合致していない。
口を開かないエミルに焦れたのか。ラーシュがこっちを見た。
「なにか知ってる?」
半ば睨むように見られて、僕は乾いた笑みを浮かべた。どうせ噂は本人の耳にいつか入るものだ。隠したって仕方がないだろう。
「エミルが、イツキくんはラーシュの息子だって言いふらしているから。おまけにラーシュとは血が繋がっていなくて、ラーシュは独身のまま。まぁ、うん。みんな想像力が豊かだから」
おそらくラーシュが子連れの女といい関係になったはいいが、その女が子供を置いてラーシュの元から逃げたという話になっているのだろう。子供を押し付けられて大変ね、という話に違いない。
僕の説明を聞いて、ラーシュが頭を抱えた。すべては適当なことを言いふらした君の兄が原因だ。
「兄さん! 適当なこと言わないでくれる!?」
「ほとんど事実だろ」
「まったく違う!」
そうだな。
そもそもイツキくんは二十歳で、異世界から落ちてきた子だ。ラーシュが保護者となって面倒を見ていると聞いた。
深くため息を吐くラーシュは「イツキくんはどこ?」とエミルを睨む。
「だから遊びに行った。マルコがちゃんと面倒見てるから大丈夫だよ。知ってるだろ? マルコはしっかりしている」
「なんでイツキくんが面倒を見てもらう側なんだ」
エミルの言葉を受けて不満そうな顔をするラーシュに、僕は目を瞬く。
たしかに。
マルコは十五歳で、イツキくんは本人の主張が正しければ二十歳。
しかしイツキくんが子供たちの中に混ざって一緒に遊んでいるのは別に不自然でもないと思う。というか、むしろ自然だ。あの小柄な男の子が大人に混じっているほうが違和感。
いつも配達でうちに来るマルコの姿を思い浮かべる。
……マルコのほうが大人っぽいかもしれない。おそらく身長もマルコのほうが少しだけ高いかも。
「ちょっと迎えに行ってくる」
立ち上がるラーシュに、エミルが「おう」と頷いた。
「たまには父親らしく子供と遊んでやれ」
「僕はイツキくんの父親じゃない」
疲れた顔で言い返すラーシュは、またもやため息を落としてから店を出て行った。
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