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番外編
買い物
ラーシュが仕事のこの日。
昼過ぎののんびりとした時間帯に、俺は街をうろうろしていた。いまだに夕食はラーシュが作っているのだが、日々の買い物は完全に任せてもらえている。買い物メモを片手に、ふらふらと大通りを歩いていた。
よく行く店の人とは、顔見知りになって立ち話程度はするくらいの仲になった。
当初と比べて、随分と自分がこの街に馴染んだ気がする。
「イツキくん。今日は魚は?」
「今日は大丈夫。また今度来ます」
「それは残念!」
明るく笑う魚屋の店主は「気をつけて」と声をかけてくれる。それに頷きを返してから、買い物を続ける。
途中で子供たちとすれ違って「今日は遊ばないの?」と声をかけられる。どうも俺は子供たちの仲間だと思われているらしい。俺は二十歳なんだけどな。今日は買い物があるから無理だと言うが「少しくらいいいでしょ」と強引に手を引かれて広場に向かう羽目になる。しばらく遊べば、みんな満足してくれる。そうして子供たちと別れて、大通りに戻る。
途中で子犬を引き取ってくれたご近所さんのところに寄って、様子をみる。俺が行くと「見ていく?」とこころよく迎えてくれるので、お言葉に甘えてお邪魔させてもらう。
そうこうしているうちに、買い物は終わらないのに時間だけが過ぎていく。慌てて買い物に戻ると、すっかり夕方になっていた。
「あれ? イツキくんだ」
「ラーシュさん!」
背後から呼ばれて振り返ると、仕事帰りらしいラーシュがいた。パタパタとそちらに駆け寄ると「なにしてるの?」と不思議そうに首を傾げるラーシュ。
「えっと、買い物」
「まだだったの?」
「う、うん」
いつもであれば、とっくに買い物なんて終わっている時間である。ラーシュが不審に思うのも無理はない。
「今日は遅いんだね。じゃあ一緒に行こうか」
にこりと微笑まれて、小さく頷く。
隣に並んだラーシュが、手を繋いでくれた。こんな人目のあるところで恥ずかしい気もするが、嫌ではない。
照れくさい気持ちを抱えたまま街を歩くと、魚屋の店主が「あれ、イツキくん。まだ買い物してたのか?」と訝しげに声をかけてきた。
「あ、えっと」
「なんだラーシュさんと一緒か」
ラーシュさんのこと迎えに行ったのか? と笑顔で訊かれて、愛想笑いで流しておく。けれどもラーシュは流されてくれなかった。
「イツキくん。いつから買い物してるの?」
眉を寄せたラーシュに問われて、ぎくりと肩を揺らす。
「……お昼から?」
「こんな時間まで何をしてたの?」
心配そうに俺を見るラーシュの圧に負けて、俺は今日一日の出来事を説明する羽目になってしまった。
広場で子供たちと遊んで、あとは子犬を見に行った。我ながら随分と子供っぽい行動である。二十歳の一日じゃないだろうと恥ずかしさに俯いてしまう。
けれどもラーシュは笑わなかった。
「楽しかった? 子犬は元気だった?」
「え、うん。元気だったよ。ちょっと大きくなってた」
「そう。それはよかった」
穏やかな声で言われると、途端に安心してしまう。
「ラーシュさんは、優しいね」
ぽつりと溢れた言葉に、ラーシュが「うん?」と控えめに首を傾げた。その動きに合わせて、ラーシュの綺麗な髪がはらりと揺れた。
ひとりで何度も訪れて買い物している街だけど、隣にラーシュがいるだけで楽しさが倍増するから不思議。
ちょっぴりラーシュの方に寄って、繋いだ手をちょっと振ってみる。楽しそうに目を細めるラーシュは「イツキくん、ご機嫌だね」と言った。
たまには、こういうのもいいかもしれない。
何気ない日常と言うのだろうか。些細なことで、すごく満たされた気持ちになる。
「ラーシュさん。今日も一緒にご飯作ろうね」
「いいよ。お腹空いたね」
優しいラーシュの声に、うんと応じる。
繋いだ手に、ラーシュがちょっぴり力を込めた。その些細な動作が嬉しくて頬が緩んだ。
「俺ね、エミルさんに料理教えてもらってるんだ」
本当はしばらく内緒にしておこうと思っていたのだが、ラーシュの顔を見ているとつい言ってしまった。
少しだけ目を見張ったラーシュは「あぁ、なるほど」とのんびり頷いた。
「それで最近、兄さんのところに行っているんだね」
「うん。黙っててごめんなさい」
てっきり怒られるかと思っていたのに、ラーシュは怒らなかった。あいていた方の手で俺の頭を優しく撫でて、微笑んだ。
「謝らなくていいよ。ありがとう」
「……うん」
ぎゅっとラーシュの手を握って、俺たちは帰路を急いだ。
昼過ぎののんびりとした時間帯に、俺は街をうろうろしていた。いまだに夕食はラーシュが作っているのだが、日々の買い物は完全に任せてもらえている。買い物メモを片手に、ふらふらと大通りを歩いていた。
よく行く店の人とは、顔見知りになって立ち話程度はするくらいの仲になった。
当初と比べて、随分と自分がこの街に馴染んだ気がする。
「イツキくん。今日は魚は?」
「今日は大丈夫。また今度来ます」
「それは残念!」
明るく笑う魚屋の店主は「気をつけて」と声をかけてくれる。それに頷きを返してから、買い物を続ける。
途中で子供たちとすれ違って「今日は遊ばないの?」と声をかけられる。どうも俺は子供たちの仲間だと思われているらしい。俺は二十歳なんだけどな。今日は買い物があるから無理だと言うが「少しくらいいいでしょ」と強引に手を引かれて広場に向かう羽目になる。しばらく遊べば、みんな満足してくれる。そうして子供たちと別れて、大通りに戻る。
途中で子犬を引き取ってくれたご近所さんのところに寄って、様子をみる。俺が行くと「見ていく?」とこころよく迎えてくれるので、お言葉に甘えてお邪魔させてもらう。
そうこうしているうちに、買い物は終わらないのに時間だけが過ぎていく。慌てて買い物に戻ると、すっかり夕方になっていた。
「あれ? イツキくんだ」
「ラーシュさん!」
背後から呼ばれて振り返ると、仕事帰りらしいラーシュがいた。パタパタとそちらに駆け寄ると「なにしてるの?」と不思議そうに首を傾げるラーシュ。
「えっと、買い物」
「まだだったの?」
「う、うん」
いつもであれば、とっくに買い物なんて終わっている時間である。ラーシュが不審に思うのも無理はない。
「今日は遅いんだね。じゃあ一緒に行こうか」
にこりと微笑まれて、小さく頷く。
隣に並んだラーシュが、手を繋いでくれた。こんな人目のあるところで恥ずかしい気もするが、嫌ではない。
照れくさい気持ちを抱えたまま街を歩くと、魚屋の店主が「あれ、イツキくん。まだ買い物してたのか?」と訝しげに声をかけてきた。
「あ、えっと」
「なんだラーシュさんと一緒か」
ラーシュさんのこと迎えに行ったのか? と笑顔で訊かれて、愛想笑いで流しておく。けれどもラーシュは流されてくれなかった。
「イツキくん。いつから買い物してるの?」
眉を寄せたラーシュに問われて、ぎくりと肩を揺らす。
「……お昼から?」
「こんな時間まで何をしてたの?」
心配そうに俺を見るラーシュの圧に負けて、俺は今日一日の出来事を説明する羽目になってしまった。
広場で子供たちと遊んで、あとは子犬を見に行った。我ながら随分と子供っぽい行動である。二十歳の一日じゃないだろうと恥ずかしさに俯いてしまう。
けれどもラーシュは笑わなかった。
「楽しかった? 子犬は元気だった?」
「え、うん。元気だったよ。ちょっと大きくなってた」
「そう。それはよかった」
穏やかな声で言われると、途端に安心してしまう。
「ラーシュさんは、優しいね」
ぽつりと溢れた言葉に、ラーシュが「うん?」と控えめに首を傾げた。その動きに合わせて、ラーシュの綺麗な髪がはらりと揺れた。
ひとりで何度も訪れて買い物している街だけど、隣にラーシュがいるだけで楽しさが倍増するから不思議。
ちょっぴりラーシュの方に寄って、繋いだ手をちょっと振ってみる。楽しそうに目を細めるラーシュは「イツキくん、ご機嫌だね」と言った。
たまには、こういうのもいいかもしれない。
何気ない日常と言うのだろうか。些細なことで、すごく満たされた気持ちになる。
「ラーシュさん。今日も一緒にご飯作ろうね」
「いいよ。お腹空いたね」
優しいラーシュの声に、うんと応じる。
繋いだ手に、ラーシュがちょっぴり力を込めた。その些細な動作が嬉しくて頬が緩んだ。
「俺ね、エミルさんに料理教えてもらってるんだ」
本当はしばらく内緒にしておこうと思っていたのだが、ラーシュの顔を見ているとつい言ってしまった。
少しだけ目を見張ったラーシュは「あぁ、なるほど」とのんびり頷いた。
「それで最近、兄さんのところに行っているんだね」
「うん。黙っててごめんなさい」
てっきり怒られるかと思っていたのに、ラーシュは怒らなかった。あいていた方の手で俺の頭を優しく撫でて、微笑んだ。
「謝らなくていいよ。ありがとう」
「……うん」
ぎゅっとラーシュの手を握って、俺たちは帰路を急いだ。
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