異世界転移した俺は今日も保護者の騎士様に甘やかされています

岩永みやび

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番外編

可愛い2(sideラーシュ)

「よお、イツキくん」
「スヴェンさん。こんにちは、こんばんは?」

 首を傾げながら挨拶するイツキくんは、可愛いと思う。思わず頬が緩む僕に、スヴェンが呆れたような目を向けてくる。

 もはやスヴェンにどう思われようが構わない。

 ぺこりと小さくお辞儀したイツキくんは、お腹空いたねと僕を見上げる。その目がきらきらと輝いているように見えるのは、僕の気のせいではないだろう。

 スヴェンが選んだ店は、なんだか洒落た外観だった。普段はもっと普通の安い酒場にばかり足を運んでいるはずである。どうして急に、こんな店に。

 戸惑う僕をよそに、イツキくんは素直に喜んでいる。

 まぁ、イツキくんが喜んでいるのなら別にいいか。
 そう切り替えて、店に入る。

「イツキくん、好きなの頼んでいいぞ」

 スヴェンがイツキくんに、そう声をかけている。今日のスヴェンは、やけにイツキくんに対して親切だ。店も、おそらくイツキくんが好みそうなところを選んだのだろう。

 嬉々としてメニューに目を通すイツキくんは、すごく浮かれている。忙しなく視線が動いて、頬が緩んでいる。

 やがて魚料理を選んだイツキくんは、早くも満足そうな顔だ。短く息を吐いて、ひと仕事終えたみたいな表情をしている。まだ何も終わってないんだけどな。

 苦笑して、隣に座るイツキくんを眺める。

 僕のことを時折見上げて、小さく微笑むイツキくんが可愛くて仕方がない。じっとイツキくんのことを見つめていると、スヴェンが呆れを含んだ声を出した。

「おい、ラーシュ。はやく注文。そんなイツキくんばっかり眺めてどうする」

 スヴェンのからかうような言い方に、イツキくんがなぜかピシッと姿勢を正した。そのまま僕とスヴェンを静かに見比べて、僕の膝を叩いてくる。

「なんで俺を見るの」
「イツキくんが可愛いから」
「可愛くない!」

 小声だが、怒った口調で言うイツキくんは多分怒ってはいない。その頭をぽんぽんと撫でて、注文を済ませる。どさくさに紛れて、スヴェンが僕の分の酒も頼んでいる。イツキくんはジュースだな。

 前に酒を飲ませたことがあったが、口に合わなかったらしい。顔をしかめてこれじゃないという感じの表情をしていた。どうやらもっと甘い酒を想像していたらしい。あれも十分に甘かったと思うんだけどな。

 あと一緒に暮らしていてわかったことだが、イツキくんは辛いものやクセのあるものが苦手。料理をする際に割とハーブなどの香辛料を使っていたのだが、イツキくんが苦手らしいと気がついてからは使用するのを控えている。

 逆にイツキくんは甘いものが大好きだ。

「イツキくん。ラーシュに嫌なことされてない?」
「されてないです」
「何か悩みがあったら俺が聞くぞ?」
「悩み事はミーケルさんに相談するので大丈夫です」
「おいおい、冷たいなぁ」

 スヴェンのふざけた言葉に淡々と返すイツキくんは、先程からずっと僕のグラスに視線をちらちらやっている。

 まさか飲んでみたいと言い出すつもりじゃないだろうな。さりげなく、イツキくんからグラスを遠ざける。

「ラーシュさん、それ美味しい?」
「甘くないよ」

 遠ざけたのに、イツキくんは諦めなかった。首を伸ばして、興味津々にグラスを見てくる。

「前に飲んだとき、美味しくないって言ってなかった?」

 にこりと微笑んでから、イツキくんの口には合わないよと伝える。けれどもイツキくんは、なぜか誇らしげな顔になった。

「今日は飲める気がする!」

 それは普通に気のせいだと思うよ。
 一体どこから湧いてきた自信なのか。イツキくんがグラスに手を伸ばしてくる。慌ててグラスを奪って、中身を一気に飲み干した。

「あー、なにするの」
「いや、イツキくんは飲めないでしょ」
「一気飲みはダメだよ」
「はいはい」

 一気と言っても、グラスには半分も残っていなかった。

 僕とイツキくんのやり取りを眺めていたスヴェンが、ニマニマと意地の悪い笑みを浮かべている。この状況を確実に面白がっていた。

 スヴェンの表情を見たイツキくんが、拗ねたように半眼となった。それから誤魔化すように、皿に残っていた魚料理を僕に押し付ける。

「食べて」
「はいはい」

 どうやら量が多かったらしい。
 ちびちびとジュースを飲むイツキくんは、もう満腹なのだろうか。暇そうに店内を見渡している。僕としてはもう少し食べてほしい。イツキくんは少食すぎて心配になる。

 一方のスヴェンはまだ飲む気だ。
 僕、明日も仕事なんだよな。というかスヴェンも仕事だろ。

 スヴェンが適当に頼んだつまみの中から、イツキくんが好きそうなものを選んでイツキくんの前に置いておく。気がついたイツキくんが、ちまちまと食べ始める。

 よしよしと眺めて、僕はイツキくんが苦手そうなものを食べることにする。

「……よかったな、イツキくん」

 僕の行動をすべて見ていたスヴェンが、ニヤニヤしながらイツキくんに声をかける。顔をあげたイツキくんは、きょとんとしている。

 イツキくんはそのままでいい。
 僕が好きで世話を焼いているのだ。不思議そうに僕を見たイツキくんの頭を撫でて、僕はにこりと微笑んだ。
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