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17歳
649 贈り物
しおりを挟む「ルイス様、ルイス様」
「うん?」
なんとなくパーティーもお開きになり自室に戻る途中。俺を追うように小走りにやってきたアロンが、声をひそめて手招きしてくる。
『なに?』
なぜか勝手に返事をする綿毛ちゃんは、積極的にアロンに近付いていく。けれどもアロンは当然のように無視してしまう。
オーガス兄様にもらった羊のぬいぐるみを抱えていた俺。アロンが「それなんですか」と羊の頭をむぎゅっと押してくる。
「オーガス兄様にもらったの」
「へー。オーガス様も変なもの用意しますね」
「ねー」
正確にはラッセルに用意させたらしいけど。お世辞にも可愛い顔とはいえない。ラッセルのセンスをちょっと疑ってしまう。彼は以前にも、ファッションに自信がないといった感じの事を言っていた。あんなにかっこいいお兄さんなのに意外だ。イケメンはセンスがいいというのは俺の思い込みだったらしい。
「それで。なに?」
廊下で足止めされた俺は、アロンを見上げる。いつまで経ってもアロンの方が背が高い。もうアロンの身長を抜くのは無理かもしれない。いやでも俺だってまだ十七だし。てかみんな背高くない?
そんなことを考えていれば、アロンが「いいもの用意しましたよ」とドヤ顔してみせた。
これはあれだ。誕生日プレゼントだ。
わくわくと期待に満ちた目を向ければ、アロンが俺の手から羊を奪い取った。
「ちょっと持ってて」
『持てませーん』
「いいから持ってて」
『持てません。見てわかるでしょ』
綿毛ちゃんにぬいぐるみを持っておけと無茶振りするアロンに、綿毛ちゃんが頑張って言い返している。けれども諦めないアロンは片膝をつくと、綿毛ちゃんの背中にぬいぐるみを置こうと奮闘し始める。
『やめてくださぁい。無理でーす。落ちる落ちる』
ひとりで騒がしい綿毛ちゃんは、やがて諦めたように人間姿になった。
「まったくもう。持っておけばいいんでしょ」
ぷんぷん怒る綿毛ちゃんは、羊のぬいぐるみを抱えてアロンを睨みつけている。「綿毛ちゃん、髪結んで」と小声でお願いしておけば、アロンが「こいつはどうでもいいんですよ」と酷いことを言う。
「ルイス様。ちょっといいですか」
改めて俺の前に片膝をついたアロンは、上着の内ポケットから小さな箱を取り出した。
「なにそれ」
なんだかきらきらしている。ブローチ?
赤っぽい色のきらきらした石だ。宝石? 窓から差し込む光を受けて輝いている。
ちょっと小さめなのでそんなに目立たなくていいかもしれない。ぼけっと眺めていれば、アロンが「失礼します」と言いながら俺の左胸あたりに手を伸ばしてくる。器用に俺の上着にブローチをつけてくれるアロンは、満足気な顔で頷いた。
そしてついでのように、フランシスからもらったネクタイを外してしまう。
「ちょっと」
「だって赤と青は似合いませんよ」
「えー?」
奪ったネクタイを綿毛ちゃんに預けて、アロンが「お似合いですよ」と微笑みかけてくる。綿毛ちゃんも「似合う似合う」と言ってくれる。
さっと立ち上がったアロンは、流れるような仕草で俺の左手をとると、その甲にそっと口付けてきた。びっくりして慌てて手を引けば、アロンが悪戯っぽく笑った。
「そういえば、カミールから贈り物が届いていますよ」
「え」
それは嬉しいかも。
部屋に持って行かせますねと言うアロンは、俺の背中を押して先に戻っておくよう促してくる。
人間姿の綿毛ちゃんと一緒に自室に戻って鏡を確認する。胸元で輝くブローチをぼんやり眺めていれば、ティアンが入ってきた。
「あれ。どうしたんですか、それ」
「アロンにもらった」
どう? とティアンを振り返れば、無言でなにかを考え込んでしまう。
「似合わない?」
ちょっと不安になって尋ねれば、ティアンが「いえ、お似合いですよ」と小さく笑みを浮かべる。
「俺は美少年だから。なんでも似合ってしまう」
「はいはい。そうですね」
軽く応じてくるティアンは、なにを思ったのか。鏡を眺める俺の背後に立って、突然抱きしめるかのように手を回してきた。
「え、なに」
びっくりして声をあげる俺に、ティアンが無言でブローチに触れてくる。どうやら曲がっていたらしい。俺が動いたからだろう。
「はい。いいですよ」
「あ、うん。どうも」
いや後ろから抱き込む必要あったか?
普通に前にまわってやればよくない?
しかしわざわざ文句を言うのもおかしい気がして、それ以上は黙っておく。アロンが俺にベタベタ触るのはいつものことだけど、ティアンに同じようなことされると少し動揺してしまう。
「ルイス様?」
黙り込んだ俺の顔をティアンが覗き込んでくる。咄嗟にティアンから距離をとってしまう。
なんだか気まずいぞ。
いや俺が勝手に気まずいと思っているだけ?
「……もう!」
「ちょっと、なんですか」
目についたティアンの足を蹴ってやる。いまだに人間姿の綿毛ちゃんが「喧嘩しないでぇ」と口を挟んでくるけど無視しておいた。
「うん?」
なんとなくパーティーもお開きになり自室に戻る途中。俺を追うように小走りにやってきたアロンが、声をひそめて手招きしてくる。
『なに?』
なぜか勝手に返事をする綿毛ちゃんは、積極的にアロンに近付いていく。けれどもアロンは当然のように無視してしまう。
オーガス兄様にもらった羊のぬいぐるみを抱えていた俺。アロンが「それなんですか」と羊の頭をむぎゅっと押してくる。
「オーガス兄様にもらったの」
「へー。オーガス様も変なもの用意しますね」
「ねー」
正確にはラッセルに用意させたらしいけど。お世辞にも可愛い顔とはいえない。ラッセルのセンスをちょっと疑ってしまう。彼は以前にも、ファッションに自信がないといった感じの事を言っていた。あんなにかっこいいお兄さんなのに意外だ。イケメンはセンスがいいというのは俺の思い込みだったらしい。
「それで。なに?」
廊下で足止めされた俺は、アロンを見上げる。いつまで経ってもアロンの方が背が高い。もうアロンの身長を抜くのは無理かもしれない。いやでも俺だってまだ十七だし。てかみんな背高くない?
そんなことを考えていれば、アロンが「いいもの用意しましたよ」とドヤ顔してみせた。
これはあれだ。誕生日プレゼントだ。
わくわくと期待に満ちた目を向ければ、アロンが俺の手から羊を奪い取った。
「ちょっと持ってて」
『持てませーん』
「いいから持ってて」
『持てません。見てわかるでしょ』
綿毛ちゃんにぬいぐるみを持っておけと無茶振りするアロンに、綿毛ちゃんが頑張って言い返している。けれども諦めないアロンは片膝をつくと、綿毛ちゃんの背中にぬいぐるみを置こうと奮闘し始める。
『やめてくださぁい。無理でーす。落ちる落ちる』
ひとりで騒がしい綿毛ちゃんは、やがて諦めたように人間姿になった。
「まったくもう。持っておけばいいんでしょ」
ぷんぷん怒る綿毛ちゃんは、羊のぬいぐるみを抱えてアロンを睨みつけている。「綿毛ちゃん、髪結んで」と小声でお願いしておけば、アロンが「こいつはどうでもいいんですよ」と酷いことを言う。
「ルイス様。ちょっといいですか」
改めて俺の前に片膝をついたアロンは、上着の内ポケットから小さな箱を取り出した。
「なにそれ」
なんだかきらきらしている。ブローチ?
赤っぽい色のきらきらした石だ。宝石? 窓から差し込む光を受けて輝いている。
ちょっと小さめなのでそんなに目立たなくていいかもしれない。ぼけっと眺めていれば、アロンが「失礼します」と言いながら俺の左胸あたりに手を伸ばしてくる。器用に俺の上着にブローチをつけてくれるアロンは、満足気な顔で頷いた。
そしてついでのように、フランシスからもらったネクタイを外してしまう。
「ちょっと」
「だって赤と青は似合いませんよ」
「えー?」
奪ったネクタイを綿毛ちゃんに預けて、アロンが「お似合いですよ」と微笑みかけてくる。綿毛ちゃんも「似合う似合う」と言ってくれる。
さっと立ち上がったアロンは、流れるような仕草で俺の左手をとると、その甲にそっと口付けてきた。びっくりして慌てて手を引けば、アロンが悪戯っぽく笑った。
「そういえば、カミールから贈り物が届いていますよ」
「え」
それは嬉しいかも。
部屋に持って行かせますねと言うアロンは、俺の背中を押して先に戻っておくよう促してくる。
人間姿の綿毛ちゃんと一緒に自室に戻って鏡を確認する。胸元で輝くブローチをぼんやり眺めていれば、ティアンが入ってきた。
「あれ。どうしたんですか、それ」
「アロンにもらった」
どう? とティアンを振り返れば、無言でなにかを考え込んでしまう。
「似合わない?」
ちょっと不安になって尋ねれば、ティアンが「いえ、お似合いですよ」と小さく笑みを浮かべる。
「俺は美少年だから。なんでも似合ってしまう」
「はいはい。そうですね」
軽く応じてくるティアンは、なにを思ったのか。鏡を眺める俺の背後に立って、突然抱きしめるかのように手を回してきた。
「え、なに」
びっくりして声をあげる俺に、ティアンが無言でブローチに触れてくる。どうやら曲がっていたらしい。俺が動いたからだろう。
「はい。いいですよ」
「あ、うん。どうも」
いや後ろから抱き込む必要あったか?
普通に前にまわってやればよくない?
しかしわざわざ文句を言うのもおかしい気がして、それ以上は黙っておく。アロンが俺にベタベタ触るのはいつものことだけど、ティアンに同じようなことされると少し動揺してしまう。
「ルイス様?」
黙り込んだ俺の顔をティアンが覗き込んでくる。咄嗟にティアンから距離をとってしまう。
なんだか気まずいぞ。
いや俺が勝手に気まずいと思っているだけ?
「……もう!」
「ちょっと、なんですか」
目についたティアンの足を蹴ってやる。いまだに人間姿の綿毛ちゃんが「喧嘩しないでぇ」と口を挟んでくるけど無視しておいた。
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