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脱却
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「た、大河くんッ? 苦しいよ……」
そう言いつつも、李煌さんの腕が俺の背中に絡みつく。
(“付き合ってみる?”って、それ応答って言えるのか不明だけど。……ま、この人の精一杯な答えだったのかもしれないな)
鼻先には、ほのかに香るシャンプーの匂い。
おかしな気になりそうだ。
自重できている自分を全力で褒めたい。
言葉を交わさずとも、自然と互いの唇が触れ合う。
このくらいならと、李煌さんも許してくれたということだ。
思ったよりも柔らかい感触。
もう一段階進みたいところだが、楽しみはとっておこう。
それに折角の自重が台無しになってしまう。
唇を離し、李煌さんの頬を包み込んで顔を覗き込む。
顔が赤い。
「……暑い?」
「ううん。ちょっと火照っただけ。大河くんは逆に寒いんじゃない? さっきまで水の中にいたわけだし……」
「俺も平気。軟な鍛え方してないしな」
「……そうだったね」
クスッと笑いを零す李煌さんに、俺も笑みが零れる。
「あとさ、プレゼントは李煌さんと選びに行きたいんだけど、これからいい?」
「もちろんだよ。でも、ちゃんと髪乾かしてからね? このまま出たら確実に風邪引くから。たとえ筋肉が逞しくても」
多分、いや絶対、筋肉は関係ないと思う。
(本気なのか冗談なのか分からないな)
思わず噴き出したら、李煌さんがムッと頬を膨らませた。
「大河くんー? 今バカにしたでしょ!」
「してないしてない。ちゃんと乾かすよ」
笑い声は止まったが顔の筋肉まではなかなか戻らない。
「ほらーっ、まだ顔が笑ってる! お兄ちゃんの言う事を聞きなさい!!」
と一喝を入れられてしまった。
「はいはい、分かりました。――でも、」
李煌さんの耳元に唇を寄せる。
「李煌さんは俺のお兄ちゃんじゃなくて恋人、だろ」
そう低い声で囁いて立ち上がる。
(……っと、その顔は反則だろ)
耳まで赤くしながら眉根を下げて、悔しそうに俺を見上げる恋人の顔には、素直にやられたと思った。
「すぐ済ませてくるから靴履いて待ってて」
俺の言葉に李煌さんの顔から不機嫌な色は消え、“兄”の顔になる。
「急がなくていいから、ちゃんと乾かして来るんだよ」
まだ恋人になったばかりだ。
今まで兄として生きて来たのだから、そう簡単に自覚するのは無理のようだ。
(これからもっと俺が頑張ればいいだけの話か。――絶対自覚させてやる)
楽しい。
楽しくて仕方がない。
今のこの状況が――。
更衣室の脇に備え付けられた鏡の前に立ち、ドライヤーで髪を乾かす。
今は俺一人。
と、思っていたのだが背後で物音がした。
そして鏡に映り込んだ人物に、俺は息を呑んだ。
「――秀……!?」
鏡の中のソイツがニヤリと笑みを浮かべた。
「久し振りだな。大河」
後ろを振り返り、直接相手を視界に捉える。
と同時に耳障りなドライヤーのスイッチを切る。
「何でここに……」
確か県外の高校に出たと聞いていたが……。
「時々こっちに戻ってきて泳いでる。今日はお前を見に来たんだ。……てか、それ以外にあると思うのかよ」
挑発的な物言いは、昔より磨きが掛かっている。
そう言いつつも、李煌さんの腕が俺の背中に絡みつく。
(“付き合ってみる?”って、それ応答って言えるのか不明だけど。……ま、この人の精一杯な答えだったのかもしれないな)
鼻先には、ほのかに香るシャンプーの匂い。
おかしな気になりそうだ。
自重できている自分を全力で褒めたい。
言葉を交わさずとも、自然と互いの唇が触れ合う。
このくらいならと、李煌さんも許してくれたということだ。
思ったよりも柔らかい感触。
もう一段階進みたいところだが、楽しみはとっておこう。
それに折角の自重が台無しになってしまう。
唇を離し、李煌さんの頬を包み込んで顔を覗き込む。
顔が赤い。
「……暑い?」
「ううん。ちょっと火照っただけ。大河くんは逆に寒いんじゃない? さっきまで水の中にいたわけだし……」
「俺も平気。軟な鍛え方してないしな」
「……そうだったね」
クスッと笑いを零す李煌さんに、俺も笑みが零れる。
「あとさ、プレゼントは李煌さんと選びに行きたいんだけど、これからいい?」
「もちろんだよ。でも、ちゃんと髪乾かしてからね? このまま出たら確実に風邪引くから。たとえ筋肉が逞しくても」
多分、いや絶対、筋肉は関係ないと思う。
(本気なのか冗談なのか分からないな)
思わず噴き出したら、李煌さんがムッと頬を膨らませた。
「大河くんー? 今バカにしたでしょ!」
「してないしてない。ちゃんと乾かすよ」
笑い声は止まったが顔の筋肉まではなかなか戻らない。
「ほらーっ、まだ顔が笑ってる! お兄ちゃんの言う事を聞きなさい!!」
と一喝を入れられてしまった。
「はいはい、分かりました。――でも、」
李煌さんの耳元に唇を寄せる。
「李煌さんは俺のお兄ちゃんじゃなくて恋人、だろ」
そう低い声で囁いて立ち上がる。
(……っと、その顔は反則だろ)
耳まで赤くしながら眉根を下げて、悔しそうに俺を見上げる恋人の顔には、素直にやられたと思った。
「すぐ済ませてくるから靴履いて待ってて」
俺の言葉に李煌さんの顔から不機嫌な色は消え、“兄”の顔になる。
「急がなくていいから、ちゃんと乾かして来るんだよ」
まだ恋人になったばかりだ。
今まで兄として生きて来たのだから、そう簡単に自覚するのは無理のようだ。
(これからもっと俺が頑張ればいいだけの話か。――絶対自覚させてやる)
楽しい。
楽しくて仕方がない。
今のこの状況が――。
更衣室の脇に備え付けられた鏡の前に立ち、ドライヤーで髪を乾かす。
今は俺一人。
と、思っていたのだが背後で物音がした。
そして鏡に映り込んだ人物に、俺は息を呑んだ。
「――秀……!?」
鏡の中のソイツがニヤリと笑みを浮かべた。
「久し振りだな。大河」
後ろを振り返り、直接相手を視界に捉える。
と同時に耳障りなドライヤーのスイッチを切る。
「何でここに……」
確か県外の高校に出たと聞いていたが……。
「時々こっちに戻ってきて泳いでる。今日はお前を見に来たんだ。……てか、それ以外にあると思うのかよ」
挑発的な物言いは、昔より磨きが掛かっている。
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