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第二章 人形の怪
【壱】ー1
しおりを挟む【壱】
「やっぱり地下の存在は知らなかったみたいね」
「そんなことがあり得るのか? 杜撰にも程があるだろ」
今日は紺のスーツ姿の貴人にそう返しながら頭を左右に揺らす騰蛇。
二人は自分の主を伺うように揃って視線を向けた。
数日前に仕事で地方の山へ赴いた御屋敷晴明は、依頼対象の廃虚で餓鬼が湧く地下を偶然見つけてしまった。
調査と厄祓いの結果を兼ねてその旨の報告を今しがた依頼人にしてきたばかりだ。
もちろん対処はしたが、今後何が起こるか分からないことも伝えた。それをどう捉えるかは本人次第だが……。
二人の視線を受けた晴明はふと息を吐き淡々と告げる。
「外部から刺激しない限りは問題ありません。餓鬼を嗾けたモノがまた動き出さない限りは、ですが」
「そのこと、伝えなくて良かったのか?」
騰蛇の懸念も尤もだ。しかし晴明は首を振る。
「餓鬼については必要ありません。伝えたところで今はどうにもなりませんし、余計な不安を煽るだけです。此方側が騒ぎ立てれば眠っている邪のモノを無駄に起こすだけ」
それだけは避けるべきだ。
郊外の山の麓にある古民家の前で車を止めると、助手席から真っ先に下りた貴人が玄関の引き戸を開けながら軽い調子で話を締め括る。
「まあ何かあれば連絡してくるだろうし、護符も渡しておいたからきっと大丈夫よ。地下も様子を見て潰すか検討するってことだしね」
「……ま、何か起きたらその時だな」
「そゆことよ♪」
貴人の明るい返しを聞きながら開いた玄関の隙間から騰蛇の白く長い身体がするりと滑り込んでいく。
「そういえば、次の依頼人が来るのって今日じゃなかったかしら?」
「ええ。今日の夕方頃の予定です」
貴人の問い掛けには玄関に入ったタイミングで答える。視線の先にある時計は午後二時を指していた。
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