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第二章 人形の怪
【肆】ー1
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大の大人を抱えているにもかかわらず足取りの軽い雨月は後ろを振り向かないまま歩き続けていた。
その後ろをはぐれないように騰蛇が追走する。
闇に包まれた空間は何も見えず音も聞こえない。
雨月の迷いのない足運びから彼が頻繁に使っている道なのだろうと推察する。
場所や道順を悟られないように視界を遮断したような作りであることから、行き着く先は雨月の秘密の場所なのだろう。
しかしこの移動手段は彼らしくないように思う。
「あんたならもっと簡単に移動できるんじゃないのか?」
普通の妖ならともかく、彼ほどの力を持った大妖は瞬きをする間に行きたい場所へ移動することができるはずだ。
結界の向こう側や特殊な場所は難しいだろうが、ここは彼の縄張りなのだから……。
騰蛇の意見に笑うような息遣いが聞こえてきた。
「もちろんできるが、これから行く場所は人間界とは相容れぬ場所。体に負荷を掛けてしまう」
雨月の返答に少しだけ詰めていた息を吐く。
「やっぱり妖界か! この状況でも晴明至上主義だし……」
「もちろん。今の彼には酷だろう?」
ごもっともな理由に口を閉じるしかない。
昔も晴明を気に入っていたことは知っているが、今世ではどうも気にかけ方が違って見える。
何処がどう違うのか言葉にするのは難しいが……。
そんな思考を巡らせている間に二枚の襖に辿り着いた。何も無い空間に襖だけが立ちはだかっているのは異様な光景だ。
雨月が近寄るとひとりでにそれは開き、何十畳もある和室が目の前に広がった。
畳の上に立つと開いた襖はパンと閉じ、そのままふっと消えてしまった。
座敷の奥へと歩いて行く雨月の後ろを少し離れてついていきながら騰蛇は問う。
「ここは何処だ? 何故晴明を連れてきた?」
あの状況だったから正直なところ助かったが、何故急に現れて連れ去ったのか理由くらいは知っておきたい。
雨月は答えないまま奥に敷かれた一式の布団に晴明を寝かせると、彼の頬に掛かる髪をそっと指先で撫でるように払った。
横で座り込んだままじっと晴明の顔を覗き込んでいる。
それは心配しているようでもあり、漸く手に入れた芸術品を愛でているようでもあった。
その後ろをはぐれないように騰蛇が追走する。
闇に包まれた空間は何も見えず音も聞こえない。
雨月の迷いのない足運びから彼が頻繁に使っている道なのだろうと推察する。
場所や道順を悟られないように視界を遮断したような作りであることから、行き着く先は雨月の秘密の場所なのだろう。
しかしこの移動手段は彼らしくないように思う。
「あんたならもっと簡単に移動できるんじゃないのか?」
普通の妖ならともかく、彼ほどの力を持った大妖は瞬きをする間に行きたい場所へ移動することができるはずだ。
結界の向こう側や特殊な場所は難しいだろうが、ここは彼の縄張りなのだから……。
騰蛇の意見に笑うような息遣いが聞こえてきた。
「もちろんできるが、これから行く場所は人間界とは相容れぬ場所。体に負荷を掛けてしまう」
雨月の返答に少しだけ詰めていた息を吐く。
「やっぱり妖界か! この状況でも晴明至上主義だし……」
「もちろん。今の彼には酷だろう?」
ごもっともな理由に口を閉じるしかない。
昔も晴明を気に入っていたことは知っているが、今世ではどうも気にかけ方が違って見える。
何処がどう違うのか言葉にするのは難しいが……。
そんな思考を巡らせている間に二枚の襖に辿り着いた。何も無い空間に襖だけが立ちはだかっているのは異様な光景だ。
雨月が近寄るとひとりでにそれは開き、何十畳もある和室が目の前に広がった。
畳の上に立つと開いた襖はパンと閉じ、そのままふっと消えてしまった。
座敷の奥へと歩いて行く雨月の後ろを少し離れてついていきながら騰蛇は問う。
「ここは何処だ? 何故晴明を連れてきた?」
あの状況だったから正直なところ助かったが、何故急に現れて連れ去ったのか理由くらいは知っておきたい。
雨月は答えないまま奥に敷かれた一式の布団に晴明を寝かせると、彼の頬に掛かる髪をそっと指先で撫でるように払った。
横で座り込んだままじっと晴明の顔を覗き込んでいる。
それは心配しているようでもあり、漸く手に入れた芸術品を愛でているようでもあった。
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