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君恋7
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しおりを挟む社員旅行二日目。
まずは朝食をとる為、1号店2号店の面々で深緑に囲まれた感じのいいレストランを訪れた。
「結局、神条オーナーは今日の午後合流なんですか」
俺の向かいに座った津田が緩く肩を竦めて呟いた。
「そう連絡はあったけど……、どうかしたのか?」
「いえ、なかなかお会い出来る機会がないので、できれば早いうちから会えてたらなって」
「ああ見えて多忙な人だからな。夜にでもじっくり話すといい。いろいろ聞きたい事あるんだろ?」
「そうなんですよねー。海外での知識ってなかなか得られるものじゃないですし」
将来、自分の店を持ちたいという津田の気持ちを考えればこういった機会は貴重なものだろう。
(俺も昔はいろいろ考えてたけど、今はアンティークのこと以外考えてる余裕ないからな……。俺って青春とかしたっけ?)
全く記憶にない。
そもそも青春って何? って話だ。
「そういえば、英店長もオーナーとお会いするの久し振りなんですよね?」
「まあな。たまに電話で話すくらいで、現れる時はいつも突然だ」
「ふふ。でも、声が聞けるだけいいじゃないですか。俺なんて電話を掛ける事すら恐れ多くて」
津田の言葉には少し首を捻る。
(オーナーとはいえ、あの人だし……。気負う必要はないと思うけどなぁ)
幼馴染という立場を棚に上げてそんなことを思う。
目の前に運ばれてきたサラダとスープ、クロワッサンとハムエッグに、腹がキュルルと音を立てた。
(このスープにパンをつけて食べると美味いんだよなー)
千切ったクロワッサンを好きなように食べる。
「相変わらず朝は小食なんだな」
「っ!?」
突然耳元で囁かれて肩が跳ね上がった。
前にお粥を作ってくれた時のことを思い出してしまい頭を左右に振る。
「わ、悪いですか」
「そうは言ってないだろ。いちいち突っかかるな」
俺の朝食を覗き込む榊さんにムッと顔を顰めた。
よりによって隣が榊さんとは、平穏に過ごしたい希望がもうなくなってしまった。
「榊さんは、ちゃんと朝食食べるんですね」
「当たり前だろう。俺を何だと思ってるんだ」
「……どっちが突っかかってるんだか」
ただ、一緒に朝食を食べることが新鮮過ぎて、違和感から出た言葉だった。
「今日は歩くんだから、しっかりコレも食べろ」
小さく呟いた文句は綺麗にスルーされた。
そして俺の皿に乗せられたのは、箸で半分に割られた焼き魚だった。
「洋食に焼き魚って……合わないじゃないですかっ」
「そんなことはないぞ。地元で獲れた新鮮な川魚らしいからな。栄養はいいはずだ」
「そういう問題じゃないですよ! まったくッ。……これじゃあ折角の香ばしいクロワッサンが台無しだ」
「なら、俺も手伝ってやろうか?」
「なんでこういう話だけ聞いてるんですか! ――ちょ、本当に取った!? しっかり食べろって言ったのはどこの誰だっ!」
クロワッサンを一つ摘み上げた榊さんが、お構いなしにそれを齧る。
「ん、なかなか美味いな。まだ温かいし、焼き立てか?」
「あんた、人の話聞いてないだろ」
ああ言えばこう言うで、まるで子供の喧嘩だ。
そこへ、津田の笑い声が割り入って来た。
「あはは。なんかお二人、痴話喧嘩してるみたいですね」
(痴話――!?)
「全然違う!」
と、俺は全否定したが、榊さんは黙って食事を続けている。
「ちょっと、榊さんも否定くらいして下さいよ。言い返さないなんてあんたらしくもない」
ピタリ。
榊さんの箸が止まった。
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