君だけに恋を囁く

煙々茸

文字の大きさ
73 / 74
君恋7

7-12

しおりを挟む
 黙ったままの俺に不安を覚えたのか、彼らしからぬ戸惑いの声で俺を呼んだ。
「……優一?」
「なんで、さっき機嫌悪かったんですか。神条さんの考えを読んでいたんなら、そうならないはずでしょう?」
「ならないわけないだろう。考えに気付いたのはアイツの笑った顔を見た時だし、気付いたとしてもお前に触れたことに変わりはないんだからな」
(っ……あの人は、俺が苦しむのを分かっていてあんなことをしたのか? いや、違う……苦しみを与えたのは、俺自身だ。榊さんに見られて焦ったのも確かだし、誤解、解かなきゃって……そんな必要ないはずなのに、そうじゃなかった……)
 俯いたまま眉間に深く皺を刻んでいると、大きな溜息が背後から聞こえて来た。
「雪乃に言われて感情を押し付けないようにと思っていたが――もう限界だ」
「え……ちょ――!?」
 呟きと共に後ろから目の前に手が伸びて来て、俺の頬に触れた。
 そのままぐるんと後ろを向かされてしまい、突然変わった景色に目を丸くする。
「……優一、泣いてたのか……?」
「っっ!? あ、あんたには関係ない!」
 赤くなっている目元に触れようとする指を咄嗟に払い除ける。
 が、
「関係ないなら見せられるだろ」
 と更に強い力で顔を掴まれて上を向かされた。
 こんな顔を間近で見られちまうとか、冗談じゃない。
 そう思うのに、この人の強い力と視線に身体が動かない。
「お前は、雪乃とのことを俺に見られてどう思ったんだ?」
「っ……」
「ああ、勘違いするなよ? 尋問したいわけじゃない。ただ、お前の気持ちが知りたいだけだ」
「……、……」
「俺の態度のせいで、泣いてくれた。俺はそう思いたいんだが……ダメか?」
 困ったような笑みを浮かべながら、俺を見つめる瞳。
 そんな訊き方は、卑怯だ。
 もう今までのように、この手を払い除けることなんてできないのに……。
 向き合おうって決めたのは俺だ。
「……うっ」
 また涙が滲む。
 苦手が、いつの間にか好きに変わった事に、はっきりと気付いてしまった。
 苦しくて、認めてしまいたいと……心から思ってしまった――。
 零れそうになる涙を、榊さんの舌が優しく掬う。
「お前の気持ちは分かった。これからゆっくり、言葉にしてもらうからな。覚悟しとけ」
 俺に軽く口付けて、眼鏡を外した榊さんは次に激しいキスをした。
「ん……っ……ちょ、待て……」
「今まで随分待ったのに、まだダメだと言うのかお前は」
(この人、なんか色々根に持ってる?)
 涙はすっかり引っ込み、呆れた顔を向ける。
「そうじゃなくて。ちょっと、気になってることがあるんですけど……」
「……何だ?」
 全く見当がつかないといった顔で俺を見つめて来る。
 その瞳をジッと見つめ返す。
「なんで、神条さんが俺と榊さんのこと知ってるんですか?」
「…………あー……」
「あー、じゃない!! あんた何喋ってくれたんだ!」
 俺から視線を逸らした榊さんの胸倉をガッチリ掴んで揺さぶる。
「あの人にはずっと黙っておきたかったのに秘密を漏らした上に協力させるとかもうあの人に合わせる顔ねーんだけど!!?」
「ゆ、優一落ち着け……」
「落ち着いてられるか! ――あっ、まさか俺があの人のこと好きだった事まで話してないだろうなあ?」
「それは……」
(ここで言い淀むのかよ……!)
 どういう神経してんだこの人は! と更にガクガクと揺さぶる。
「何してくれちゃってんだよオイ。もう店にも居られねーんだけどぉ?」
「だから、落ち着けッ」
 揺する俺の手を榊さんが強く掴む。
「そのことは話していない」
「本当かよ……」
「ああ。俺が話さなくても、アイツは気付いていたからな」
(……え……?)
 言っている事が良く分からない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

兄貴同士でキスしたら、何か問題でも?

perari
BL
挑戦として、イヤホンをつけたまま、相手の口の動きだけで会話を理解し、電話に答える――そんな遊びをしていた時のことだ。 その最中、俺の親友である理光が、なぜか俺の彼女に電話をかけた。 彼は俺のすぐそばに身を寄せ、薄い唇をわずかに結び、ひと言つぶやいた。 ……その瞬間、俺の頭は真っ白になった。 口の動きで読み取った言葉は、間違いなくこうだった。 ――「光希、俺はお前が好きだ。」 次の瞬間、電話の向こう側で彼女の怒りが炸裂したのだ。

天の求婚

紅林
BL
太平天帝国では5年ほど前から第一天子と第二天子によって帝位継承争いが勃発していた。 主人公、新田大貴子爵は第二天子派として広く活動していた亡き父の跡を継いで一年前に子爵家を継いだ。しかし、フィラデルフィア合衆国との講和条約を取り付けた第一天子の功績が認められ次期帝位継承者は第一天子となり、派閥争いに負けた第二天子派は継承順位を下げられ、それに付き従った者の中には爵位剥奪のうえ、帝都江流波から追放された華族もいた そして大貴もその例に漏れず、邸宅にて謹慎を申し付けられ現在は華族用の豪華な護送車で大天族の居城へと向かっていた 即位したての政権が安定していない君主と没落寸前の血筋だけは立派な純血華族の複雑な結婚事情を描いた物語

死ぬほど嫌いな上司と付き合いました

三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。 皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。 涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥ 上司×部下BL

義兄が溺愛してきます

ゆう
BL
桜木恋(16)は交通事故に遭う。 その翌日からだ。 義兄である桜木翔(17)が過保護になったのは。 翔は恋に好意を寄せているのだった。 本人はその事を知るよしもない。 その様子を見ていた友人の凛から告白され、戸惑う恋。 成り行きで惚れさせる宣言をした凛と一週間付き合う(仮)になった。 翔は色々と思う所があり、距離を置こうと彼女(偽)をつくる。 すれ違う思いは交わるのか─────。

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

はじまりの朝

さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。 ある出来事をきっかけに離れてしまう。 中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。 これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。 ✳『番外編〜はじまりの裏側で』  『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。

【完結】取り柄は顔が良い事だけです

pino
BL
昔から顔だけは良い夏川伊吹は、高級デートクラブでバイトをするフリーター。25歳で美しい顔だけを頼りに様々な女性と仕事でデートを繰り返して何とか生計を立てている伊吹はたまに同性からもデートを申し込まれていた。お小遣い欲しさにいつも年上だけを相手にしていたけど、たまには若い子と触れ合って、ターゲット層を広げようと20歳の大学生とデートをする事に。 そこで出会った男に気に入られ、高額なプレゼントをされていい気になる伊吹だったが、相手は年下だしまだ学生だしと罪悪感を抱く。 そんな中もう一人の20歳の大学生の男からもデートを申し込まれ、更に同業でただの同僚だと思っていた23歳の男からも言い寄られて? ノンケの伊吹と伊吹を落とそうと奮闘する三人の若者が巻き起こすラブコメディ! BLです。 性的表現有り。 伊吹視点のお話になります。 題名に※が付いてるお話は他の登場人物の視点になります。 表紙は伊吹です。

人の噂は蜜の味

たかさき
BL
罰ゲームがきっかけで付き合うフリをする事になったチャラい深見と眼鏡の塔野の話。

処理中です...