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君恋7
7-11
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戸惑いの色が混じった声で呼ばれ、気持ちが緩んでしまいそうになる。
だが、今度は腕を掴まれたことで身体が強張り力が入ってしまう。
そんな俺に、榊さんは手を緩めた。
次いで、小さな嘆息するような音が聞こえて来た。
「少し焦っていたんだ。お前は誰からも好かれる奴だからな」
(……それはあんたもだろ)
「昼間、坂部さんに訊かれたんだ」
(坂部……あぁ、バスの運転手のあの人か。……そっか、だからあの時彼と同じ缶コーヒーを……)
でもどうしてココで坂部さんが話に出て来るのかと不思議に思う。
「お前の事、綺麗な人だけど相手はいないのか? と……」
(――っ!?)
つい「はあ!?」と口から零れそうになるのをグッと耐える。
「好意が無い限り、普通同性の男の事を他人に詮索したりしないだろ。本当に、優一は男女問わず好かれて困る。だから俺は『います』と答えた」
(……え?)
「本人に許可なく言うことじゃないが、敵を増やすのは不本意だったからな。そう言わずにはいられなかった」
(……)
「ただでさえ、職場が離れていて不安で一杯だっていうのに。――まあ、それを一応謝っておきたくてな」
(なんで――)
俺に打ち明けなければ謝る必要もなかったはずだ。
(それなのに、この人は……)
坂部さんが俺に直接詮索してきても良いように、話を合わせやすくするために打ち明けたのか、と最初は思ったが、榊さんは私利私欲で口裏を合わせるようなことはしない人だ。
今はそう思える。
俺は、ふぅ……と、小さく息を吐いて気持ちを落ち着かせた。
(けど、さっきの機嫌の悪さと関係ないだろ……)
肩にあった手は、今は引っ込められている。
俺は袖で顔を隠したまま、もそもそと彼に背を向けた。
この人がこうして声をかけてくれたことは、素直に嬉しいと思う。
凄く安心したのも確かだ。
でも、今更顔を向けるのは……非常に照れ臭くて無理だ。
そのことを知ってか知らずか、榊さんは話を続けた。
「夕飯食べた後に、お前が外に出て行くのを見て後を追おうと思ったんだが、雪乃に捉まってな。少ししてお前が帰って来るのが見えたんだ、部屋から。津田に笑いかけるお前を見て、嫉妬した」
(……そんなことで?)
「お前はそんなことでって思うかもしれないが、」
(っ……)
「前にも言ったが、俺には簡単に向けては貰えないモノだからな、物凄く悔しく思えたよ。滅多に会わない津田にまでそんな顔を向けるのか、と。…すげぇガキだってお前なら言うんだろうな」
うん、今思いかけた。
(でも、俺も抱かなかったことがないわけじゃない。神条さんのことが好きだった時は、すげぇ嫉妬してたし……。それに――)
「それに加え、」
(――?)
少し楽しげに切り出す榊さんの声に、耳を傾ける。
「雪乃とキスしているところを見たらブチ切れそうになったな。あれは堪えた」
(ブチ切れって……そんな風に見えなかったぞ?)
「それでも冷静になれたのは、雪乃のお蔭だ」
(なんだそりゃ)
全く意味が分からない。
「雪乃の部屋にいるときに言われたんだ。自分の好きという気持ちを押しつけるのは優しさじゃないよ、とな。さっきのキスだって、雪乃が俺に見せる為だったようだし」
(――――は?)
思わずパチリと目を開く。
涙はいつの間にか止まっていた。
「正確には、俺に見られた時に優一がどう反応するか、見たかったんだろうな」
(なんだ、って……?)
ムクリ、と上体を起こす。
(要するに、結果的に二人に俺は嵌められたわけか。へえ……)
だが、今度は腕を掴まれたことで身体が強張り力が入ってしまう。
そんな俺に、榊さんは手を緩めた。
次いで、小さな嘆息するような音が聞こえて来た。
「少し焦っていたんだ。お前は誰からも好かれる奴だからな」
(……それはあんたもだろ)
「昼間、坂部さんに訊かれたんだ」
(坂部……あぁ、バスの運転手のあの人か。……そっか、だからあの時彼と同じ缶コーヒーを……)
でもどうしてココで坂部さんが話に出て来るのかと不思議に思う。
「お前の事、綺麗な人だけど相手はいないのか? と……」
(――っ!?)
つい「はあ!?」と口から零れそうになるのをグッと耐える。
「好意が無い限り、普通同性の男の事を他人に詮索したりしないだろ。本当に、優一は男女問わず好かれて困る。だから俺は『います』と答えた」
(……え?)
「本人に許可なく言うことじゃないが、敵を増やすのは不本意だったからな。そう言わずにはいられなかった」
(……)
「ただでさえ、職場が離れていて不安で一杯だっていうのに。――まあ、それを一応謝っておきたくてな」
(なんで――)
俺に打ち明けなければ謝る必要もなかったはずだ。
(それなのに、この人は……)
坂部さんが俺に直接詮索してきても良いように、話を合わせやすくするために打ち明けたのか、と最初は思ったが、榊さんは私利私欲で口裏を合わせるようなことはしない人だ。
今はそう思える。
俺は、ふぅ……と、小さく息を吐いて気持ちを落ち着かせた。
(けど、さっきの機嫌の悪さと関係ないだろ……)
肩にあった手は、今は引っ込められている。
俺は袖で顔を隠したまま、もそもそと彼に背を向けた。
この人がこうして声をかけてくれたことは、素直に嬉しいと思う。
凄く安心したのも確かだ。
でも、今更顔を向けるのは……非常に照れ臭くて無理だ。
そのことを知ってか知らずか、榊さんは話を続けた。
「夕飯食べた後に、お前が外に出て行くのを見て後を追おうと思ったんだが、雪乃に捉まってな。少ししてお前が帰って来るのが見えたんだ、部屋から。津田に笑いかけるお前を見て、嫉妬した」
(……そんなことで?)
「お前はそんなことでって思うかもしれないが、」
(っ……)
「前にも言ったが、俺には簡単に向けては貰えないモノだからな、物凄く悔しく思えたよ。滅多に会わない津田にまでそんな顔を向けるのか、と。…すげぇガキだってお前なら言うんだろうな」
うん、今思いかけた。
(でも、俺も抱かなかったことがないわけじゃない。神条さんのことが好きだった時は、すげぇ嫉妬してたし……。それに――)
「それに加え、」
(――?)
少し楽しげに切り出す榊さんの声に、耳を傾ける。
「雪乃とキスしているところを見たらブチ切れそうになったな。あれは堪えた」
(ブチ切れって……そんな風に見えなかったぞ?)
「それでも冷静になれたのは、雪乃のお蔭だ」
(なんだそりゃ)
全く意味が分からない。
「雪乃の部屋にいるときに言われたんだ。自分の好きという気持ちを押しつけるのは優しさじゃないよ、とな。さっきのキスだって、雪乃が俺に見せる為だったようだし」
(――――は?)
思わずパチリと目を開く。
涙はいつの間にか止まっていた。
「正確には、俺に見られた時に優一がどう反応するか、見たかったんだろうな」
(なんだ、って……?)
ムクリ、と上体を起こす。
(要するに、結果的に二人に俺は嵌められたわけか。へえ……)
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