山に捨てられた元伯爵令嬢、隣国の王弟殿下に拾われる

しおの

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 ある日、裏庭で手入れをしていた。ソフィアは収穫した野菜を運んでくれていて一人になっていた時、足元に手紙が落ちてきたのに気がつき、落ちてきた方を見るも誰もいない。見覚えのある便箋だ。
 とりあえず服の中にしまって部屋へ持ち帰り中身を見ることにした。

『お姉様へ
 こんなところに隠れていたのね。山の小屋に行ったけど別の人が住んでいると聞いて探していたのよ。そこを早く出ないとそこの人間もろとも消してあげる。早くしないとどうなっても知らないわよ』

 どうやって居場所を突き止めたのかわからない。隣国に来ているから見つからないと思っていたのに……
 この手紙、どうしよう。さっきまでの幸せな気持ちが一気に沈んでいった。
 机の引き出しに手紙をしまう。
 以前ならすぐに出ていく決心ができるのに、今はそれもすぐに決められなくて。
 いつの間にかここが自分が思っているよりも居心地のいい場所になっていたことに気づき、頬には涙が伝っていた。



 夕食の時間になっていたのだろう。ソフィアが呼びにきてくれた。
「セリーヌ様、夕食の準備が……セリーヌ様?どうされたのです?」
 駆け寄ってきてくれた彼女はわたしの涙に気づき、焦った表情をしていて申し訳なく思ってしまった。
 そのことはすぐに彼に伝わってしまったみたいで、部屋まで来てくれていた。
「どうした?何があった」
 誤魔化す言い訳も思いつかず、机の引き出しを開け取り出した手紙を差し出した。

「なるほど」
 苦い表情をした彼は侍従のルカ様を呼び出して何か指示をしていた。
「さてセリーヌ。君に選択肢を提示しよう」
 出ていけと言われるのかしらと思い、俯いて手をぎゅっと握った。そんなわたしの隣に座って彼は手を上から握ってくれる。
「一つは、わたしと一緒に君の生家へいくこと。その場合は、俺の婚約者として行ってもらう」
 その提案に目を見開き思わず彼の顔を見てしまう。すごく優しい表情でわたしを見てくれている。
「二つ目は、この屋敷の中から出ないこと。庭もだめだな。外には一切出ずに生活する。」
 パチパチと瞬きしてしまっているわたしを見てくすくす笑う彼。なんだか最近ずっとこれだ。
「一つ目は、俺の婚約者になれば妹の暴挙をこれから先限りなく、なくすことができる。これからも自由に外出できるよ。ただし外に出るときは俺と一緒が条件だけど。さて、どうする?」
 そんなの、どちらを選ぶか決まってる。
 わたしは彼の婚約者となって実家へ戻ることとなった。



 次の日、朝からバタバタしていた。湯浴みからマッサージからドレスから着替えから。忙しそうに動いているのは侍女やメイドでわたしはただされるがままだ。けれどコルセットがきつくて疲れてしまう。耳にはあの日買ってもらったイヤリングが輝いていた。
 なぜこんなに着飾るのかというと、実は婚約するにあたり王宮に行かないといけないらしい。国王陛下からの許可がないと婚約できないのだそうだ。仮の婚約者ということは……と提案してみたけれど、今後のためにも正式に婚約した方がいいと言われてしまった。

 彼にエスコートされ、馬車に乗る。そのままついて行ったんだけど、周りの視線が痛い。なんだか奇妙なものを見るような視線だ。確かにわたしは他国の人間だし、きっと彼の地位が高いのもあるのだろう。
「気にするな。もの珍しいだけだろう」
 彼がそう言っていたので気にしないことにした。
 どんどん奥に進んでいく様子に少しずつ緊張が強くなる。生家のあるグロリア国ですら謁見などしたことがないのだから当然だ。

 ピタッと立ち止まると、扉前の騎士が扉を開ける。
 中には国王陛下らしき人がいて慌てて頭を下げる。けれど隣の彼は礼をする様子はない。あれ? と思っていると突然彼が口を開く。
「兄上、俺婚約するから許可をくれ」
 その言葉にびっくりして思わず顔をあげたが、国王陛下からまだ許可をもらっていない。慌ててもう一度頭を下げた。

「楽にしていいよ、セリーヌ嬢。ノア、君はもう少し私を敬うという気持ちはないのかい?」
「兄上のことは尊敬している。婚約の許可が欲しい」
 はあ……と国王陛下のため息が聞こえる。というかノア様って国王陛下の弟?ということは王弟殿下……?
 初めて知る事実に思わずふらついてしまう。そんな人とわたしはずっと暮らしていたの?
 そんなわたしを抱き止めながら彼は話を進めていた。
「そもそも、セリーヌ嬢は同意しているのかい?事情はこちらも聞いているけれど」
「婚約は同意している。何も問題ない」
「セリーヌ嬢、本当かい?脅されてない?」
「あ……婚約は同意していたんですけど、まさか王弟殿下だとは思わなくて」
 素直に話すと国王陛下は再びため息をついた。彼は飄々としているし、一体何がどうなっているのかわたしの頭では理解でき
なかった。

 とりあえず、婚約は認められたらしくその場でサインを書いた。フルネームで書いてくれと言われサインする。その際に陛下から
「もう逃げることは難しいと思うから、何かあればすぐに私にいってくれ」
 って言われたけれど彼が「そんな必要はない」といい、手を繋がれ馬車に乗せられてしまった。
 仲がいいのか悪いのかよくわからない兄弟だ。


  
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