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本編

13.終わったっ

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 試験の日程は全部で三日間。どれも午前中で終わって午後に勉強する時間があるのだ。
 試験中、わたしが小首をかしげると冷たい冷気と共に鋭い視線が飛んでくる。ガクブルだ……
 なんとかその視線を掻い潜って頑張った。わたしえらいっ。
 ちなみに冷たい冷気が来た時、他の生徒たちもブルリと背中を震わせていたけれど。彼らは大丈夫だったのだろうか。わたしは慣れたから平気になったけれど。
 試験終了の合図と共に生徒たちが一斉に席を立つ。テスト問題を話題に出し、あれやこれやと盛り上がるものもいれば、さっさと帰るもの、自習室に向かうものと様々だ。
 わたしはというと有無を言わさず生徒会室へ連行され、下校時刻になるまで勉強させられた……

 そんな日々からようやく解放される。試験三日をどうにかくぐり抜けたのだ。この後はいつもの四人でお疲れ様会をすることになっている。お疲れ様会と言ってもみんなでお茶やお菓子を食べて過ごすだけなんだけれど。
 ルンルン気分で生徒会室に入ったわたしは一気に気分が下がった。なぜか問題用紙を持ってくるよう言われ、それを広げさせられる。
 そして一つ一つシエル様が確認するのだ。間違った部分は徹底的に叩き込まれた……
 お疲れ様会とは一体……わたし達がそんな様子だったからノーラ様とマルド様も苦笑しながら答え合わせをしていた。ごめんなさい……
 ようやく答え合わせが終わり、間違えた部分の復習を終えてティータイムだ。ほっと一息つく。
「やっと終わったね。お疲れ様」
「はい……本当に疲れました」
 主にシエル様のスパルタで……
 ノーラ様とマルド様は憐れむような視線を送ってくる。わかってくれる人がいるのはありがたい。機嫌のいいわたしは彼の言葉を聞き流してしまっていた……



 いつも通りシエル様と馬車に乗る。もう毎日の送り迎えが当たり前になっていて、特に気にすることもなく馬車での時間を楽しんだ。
 降りた先は見慣れぬ風景。あれ、ここどこ?
「デートしよう」
 彼に手を引かれて降り立ったのは王都の街。小首を傾げていると彼はすたすた歩き出した。連れられたのはアクセサリーショップで。やたらと高そうな宝石が並んでいた。
「え、あのシエル様……?」
 呼びかけてみるも彼は装飾品選びに熱心だ。視線の先には緑色の宝石の数々。ブレスレットからネックレスからイヤリングから髪飾りから。
 値段の書かれていない時点で高価なものだとわかる。ビクビクしながら彼を待っているとようやく一つに決めたようだ。
 彼はそのままわたしの髪に触れて髪飾りをつける。
「うん、似合ってる」
 満面の笑みで微笑まれ、ちょっとだけどきりとした。どうやら満足されたようで。
「今度からそれつけてきてね」
 なんて黒い空気を漂わせながら言われたわたしは何度も頷いた。なくせないじゃない……




 ようやく解放されたわたしは自室へ戻る。というかうちの使用人たちももう王子殿下が来ることに驚かなくなっていて、当たり前のように受け入れていた。慣れって怖い……
 自室に戻るとローラは着替えを手伝ってくれて、動きやすいドレスを着せてくれた。
「あらお嬢様。とても素敵な髪飾りですね」
 そういえばと思い、ローラに外してもらった。化粧台の上に置かれたそれは蝶の形をしており、ところどころ黄緑色の石がはめこまれている。
 とても可愛い髪飾りで、シエル様はセンスがいいのね、なんて呑気に眺めていた。
「この石のお色、王子殿下の目の色ですね。お嬢様相当気に入られているようでよかったです」
 ……ん? そう言われてみればそうね。貴族社会では自分の色のものをプレゼントするのは求愛行動の一つだ。そしてそれを身につけるということはわたしはその人のものであると公言して歩くようなもの……
 ぎゃーーっ。なんか気に入られてる? でも待って。ノーラ様の薬は匂いを完全に無くしてるはずで。
 効いてない……?
 とりあえず確認してみよう。
 そう決めてわたしは次の日を迎えた。



 いつものようにキラキラの彼と寝ぼけているわたし。馬車の中でわたしは彼に質問してみることにした。
「シエル様。わたしの匂い消えてます……?」
 なんと切り出せばいいかわからないので直球だ。回りくどい聞き方をしても結局は吐かされるからどちらにしても変わらないのだけど。
「うん。消えてるね。さすがマーガスト家の薬だ」
 綺麗さっぱり消えているらしい。ということは今は何も特殊な状況ではないということで。それでもいつもと変わらない様子の彼に小首を傾げる。
 匂いが消えてるのになんでいつも通りなんだろうか。
「ルシア?匂いなんてなくても僕は君から離れる気もないし離してあげる気もないよ」
 うっ、釘を刺されてしまった。そんなわたしをくすくす笑いながら彼は髪を撫でてくる。
「つけてくれたんだ。ありがとう」
 ほぼ強制的でしたけどねっ。わたしに拒否権なんてなかったですけどねっ。
 ちょっと不貞腐れているわたしとご機嫌の彼を乗せた馬車は、無事に学園へ着いてしまった。
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