13 / 30
本編
13.終わったっ
しおりを挟む
試験の日程は全部で三日間。どれも午前中で終わって午後に勉強する時間があるのだ。
試験中、わたしが小首をかしげると冷たい冷気と共に鋭い視線が飛んでくる。ガクブルだ……
なんとかその視線を掻い潜って頑張った。わたしえらいっ。
ちなみに冷たい冷気が来た時、他の生徒たちもブルリと背中を震わせていたけれど。彼らは大丈夫だったのだろうか。わたしは慣れたから平気になったけれど。
試験終了の合図と共に生徒たちが一斉に席を立つ。テスト問題を話題に出し、あれやこれやと盛り上がるものもいれば、さっさと帰るもの、自習室に向かうものと様々だ。
わたしはというと有無を言わさず生徒会室へ連行され、下校時刻になるまで勉強させられた……
そんな日々からようやく解放される。試験三日をどうにかくぐり抜けたのだ。この後はいつもの四人でお疲れ様会をすることになっている。お疲れ様会と言ってもみんなでお茶やお菓子を食べて過ごすだけなんだけれど。
ルンルン気分で生徒会室に入ったわたしは一気に気分が下がった。なぜか問題用紙を持ってくるよう言われ、それを広げさせられる。
そして一つ一つシエル様が確認するのだ。間違った部分は徹底的に叩き込まれた……
お疲れ様会とは一体……わたし達がそんな様子だったからノーラ様とマルド様も苦笑しながら答え合わせをしていた。ごめんなさい……
ようやく答え合わせが終わり、間違えた部分の復習を終えてティータイムだ。ほっと一息つく。
「やっと終わったね。お疲れ様」
「はい……本当に疲れました」
主にシエル様のスパルタで……
ノーラ様とマルド様は憐れむような視線を送ってくる。わかってくれる人がいるのはありがたい。機嫌のいいわたしは彼の言葉を聞き流してしまっていた……
いつも通りシエル様と馬車に乗る。もう毎日の送り迎えが当たり前になっていて、特に気にすることもなく馬車での時間を楽しんだ。
降りた先は見慣れぬ風景。あれ、ここどこ?
「デートしよう」
彼に手を引かれて降り立ったのは王都の街。小首を傾げていると彼はすたすた歩き出した。連れられたのはアクセサリーショップで。やたらと高そうな宝石が並んでいた。
「え、あのシエル様……?」
呼びかけてみるも彼は装飾品選びに熱心だ。視線の先には緑色の宝石の数々。ブレスレットからネックレスからイヤリングから髪飾りから。
値段の書かれていない時点で高価なものだとわかる。ビクビクしながら彼を待っているとようやく一つに決めたようだ。
彼はそのままわたしの髪に触れて髪飾りをつける。
「うん、似合ってる」
満面の笑みで微笑まれ、ちょっとだけどきりとした。どうやら満足されたようで。
「今度からそれつけてきてね」
なんて黒い空気を漂わせながら言われたわたしは何度も頷いた。なくせないじゃない……
ようやく解放されたわたしは自室へ戻る。というかうちの使用人たちももう王子殿下が来ることに驚かなくなっていて、当たり前のように受け入れていた。慣れって怖い……
自室に戻るとローラは着替えを手伝ってくれて、動きやすいドレスを着せてくれた。
「あらお嬢様。とても素敵な髪飾りですね」
そういえばと思い、ローラに外してもらった。化粧台の上に置かれたそれは蝶の形をしており、ところどころ黄緑色の石がはめこまれている。
とても可愛い髪飾りで、シエル様はセンスがいいのね、なんて呑気に眺めていた。
「この石のお色、王子殿下の目の色ですね。お嬢様相当気に入られているようでよかったです」
……ん? そう言われてみればそうね。貴族社会では自分の色のものをプレゼントするのは求愛行動の一つだ。そしてそれを身につけるということはわたしはその人のものであると公言して歩くようなもの……
ぎゃーーっ。なんか気に入られてる? でも待って。ノーラ様の薬は匂いを完全に無くしてるはずで。
効いてない……?
とりあえず確認してみよう。
そう決めてわたしは次の日を迎えた。
いつものようにキラキラの彼と寝ぼけているわたし。馬車の中でわたしは彼に質問してみることにした。
「シエル様。わたしの匂い消えてます……?」
なんと切り出せばいいかわからないので直球だ。回りくどい聞き方をしても結局は吐かされるからどちらにしても変わらないのだけど。
「うん。消えてるね。さすがマーガスト家の薬だ」
綺麗さっぱり消えているらしい。ということは今は何も特殊な状況ではないということで。それでもいつもと変わらない様子の彼に小首を傾げる。
匂いが消えてるのになんでいつも通りなんだろうか。
「ルシア?匂いなんてなくても僕は君から離れる気もないし離してあげる気もないよ」
うっ、釘を刺されてしまった。そんなわたしをくすくす笑いながら彼は髪を撫でてくる。
「つけてくれたんだ。ありがとう」
ほぼ強制的でしたけどねっ。わたしに拒否権なんてなかったですけどねっ。
ちょっと不貞腐れているわたしとご機嫌の彼を乗せた馬車は、無事に学園へ着いてしまった。
試験中、わたしが小首をかしげると冷たい冷気と共に鋭い視線が飛んでくる。ガクブルだ……
なんとかその視線を掻い潜って頑張った。わたしえらいっ。
ちなみに冷たい冷気が来た時、他の生徒たちもブルリと背中を震わせていたけれど。彼らは大丈夫だったのだろうか。わたしは慣れたから平気になったけれど。
試験終了の合図と共に生徒たちが一斉に席を立つ。テスト問題を話題に出し、あれやこれやと盛り上がるものもいれば、さっさと帰るもの、自習室に向かうものと様々だ。
わたしはというと有無を言わさず生徒会室へ連行され、下校時刻になるまで勉強させられた……
そんな日々からようやく解放される。試験三日をどうにかくぐり抜けたのだ。この後はいつもの四人でお疲れ様会をすることになっている。お疲れ様会と言ってもみんなでお茶やお菓子を食べて過ごすだけなんだけれど。
ルンルン気分で生徒会室に入ったわたしは一気に気分が下がった。なぜか問題用紙を持ってくるよう言われ、それを広げさせられる。
そして一つ一つシエル様が確認するのだ。間違った部分は徹底的に叩き込まれた……
お疲れ様会とは一体……わたし達がそんな様子だったからノーラ様とマルド様も苦笑しながら答え合わせをしていた。ごめんなさい……
ようやく答え合わせが終わり、間違えた部分の復習を終えてティータイムだ。ほっと一息つく。
「やっと終わったね。お疲れ様」
「はい……本当に疲れました」
主にシエル様のスパルタで……
ノーラ様とマルド様は憐れむような視線を送ってくる。わかってくれる人がいるのはありがたい。機嫌のいいわたしは彼の言葉を聞き流してしまっていた……
いつも通りシエル様と馬車に乗る。もう毎日の送り迎えが当たり前になっていて、特に気にすることもなく馬車での時間を楽しんだ。
降りた先は見慣れぬ風景。あれ、ここどこ?
「デートしよう」
彼に手を引かれて降り立ったのは王都の街。小首を傾げていると彼はすたすた歩き出した。連れられたのはアクセサリーショップで。やたらと高そうな宝石が並んでいた。
「え、あのシエル様……?」
呼びかけてみるも彼は装飾品選びに熱心だ。視線の先には緑色の宝石の数々。ブレスレットからネックレスからイヤリングから髪飾りから。
値段の書かれていない時点で高価なものだとわかる。ビクビクしながら彼を待っているとようやく一つに決めたようだ。
彼はそのままわたしの髪に触れて髪飾りをつける。
「うん、似合ってる」
満面の笑みで微笑まれ、ちょっとだけどきりとした。どうやら満足されたようで。
「今度からそれつけてきてね」
なんて黒い空気を漂わせながら言われたわたしは何度も頷いた。なくせないじゃない……
ようやく解放されたわたしは自室へ戻る。というかうちの使用人たちももう王子殿下が来ることに驚かなくなっていて、当たり前のように受け入れていた。慣れって怖い……
自室に戻るとローラは着替えを手伝ってくれて、動きやすいドレスを着せてくれた。
「あらお嬢様。とても素敵な髪飾りですね」
そういえばと思い、ローラに外してもらった。化粧台の上に置かれたそれは蝶の形をしており、ところどころ黄緑色の石がはめこまれている。
とても可愛い髪飾りで、シエル様はセンスがいいのね、なんて呑気に眺めていた。
「この石のお色、王子殿下の目の色ですね。お嬢様相当気に入られているようでよかったです」
……ん? そう言われてみればそうね。貴族社会では自分の色のものをプレゼントするのは求愛行動の一つだ。そしてそれを身につけるということはわたしはその人のものであると公言して歩くようなもの……
ぎゃーーっ。なんか気に入られてる? でも待って。ノーラ様の薬は匂いを完全に無くしてるはずで。
効いてない……?
とりあえず確認してみよう。
そう決めてわたしは次の日を迎えた。
いつものようにキラキラの彼と寝ぼけているわたし。馬車の中でわたしは彼に質問してみることにした。
「シエル様。わたしの匂い消えてます……?」
なんと切り出せばいいかわからないので直球だ。回りくどい聞き方をしても結局は吐かされるからどちらにしても変わらないのだけど。
「うん。消えてるね。さすがマーガスト家の薬だ」
綺麗さっぱり消えているらしい。ということは今は何も特殊な状況ではないということで。それでもいつもと変わらない様子の彼に小首を傾げる。
匂いが消えてるのになんでいつも通りなんだろうか。
「ルシア?匂いなんてなくても僕は君から離れる気もないし離してあげる気もないよ」
うっ、釘を刺されてしまった。そんなわたしをくすくす笑いながら彼は髪を撫でてくる。
「つけてくれたんだ。ありがとう」
ほぼ強制的でしたけどねっ。わたしに拒否権なんてなかったですけどねっ。
ちょっと不貞腐れているわたしとご機嫌の彼を乗せた馬車は、無事に学園へ着いてしまった。
50
あなたにおすすめの小説
美醜逆転の世界で騎士団長の娘はウサギ公爵様に恋をする
ゆな
恋愛
糸のような目、小さな鼻と口をした、なんとも地味な顔が美しいとされる美醜逆転の世界。ベルリナ・クラレンスはこの世界では絶世の美少女だが、美の感覚が他の人とズレていた。
結婚適齢期にも関わらず、どの令嬢からも忌避される容姿の公爵様が美形にしか見えず、歳の差を乗り越え、二人が幸せになるまでのお話。
🔳男女両視点でかいています。
場面が重複する場合があります。
🔳"美醜逆転の世界で純情騎士団長を愛でる"のスピンオフとなります。本作を読んでいなくてもお楽しみいただける内容となっています。
🔳R18は後半 ※を付けますので、苦手な方はご注意ください
『完結・R18』公爵様は異世界転移したモブ顔の私を溺愛しているそうですが、私はそれになかなか気付きませんでした。
カヨワイさつき
恋愛
「えっ?ない?!」
なんで?!
家に帰ると出し忘れたゴミのように、ビニール袋がポツンとあるだけだった。
自分の誕生日=中学生卒業後の日、母親に捨てられた私は生活の為、年齢を偽りバイトを掛け持ちしていたが……気づいたら見知らぬ場所に。
黒は尊く神に愛された色、白は"色なし"と呼ばれ忌み嫌われる色。
しかも小柄で黒髪に黒目、さらに女性である私は、皆から狙われる存在。
10人に1人いるかないかの貴重な女性。
小柄で黒い色はこの世界では、凄くモテるそうだ。
それに対して、銀色の髪に水色の目、王子様カラーなのにこの世界では忌み嫌われる色。
独特な美醜。
やたらとモテるモブ顔の私、それに気づかない私とイケメンなのに忌み嫌われている、不器用な公爵様との恋物語。
じれったい恋物語。
登場人物、割と少なめ(作者比)
転生令嬢は婚約者を聖女に奪われた結果、ヤンデレに捕まりました
高瀬ゆみ
恋愛
侯爵令嬢のフィーネは、八歳の年に父から義弟を紹介された。その瞬間、前世の記憶を思い出す。
どうやら自分が転生したのは、大好きだった『救国の聖女』というマンガの世界。
このままでは救国の聖女として召喚されたマンガのヒロインに、婚約者を奪われてしまう。
その事実に気付いたフィーネが、婚約破棄されないために奮闘する話。
タイトルがネタバレになっている疑惑ですが、深く考えずにお読みください。
※本編完結済み。番外編も完結済みです。
※小説家になろうでも掲載しています。
男として王宮に仕えていた私、正体がバレた瞬間、冷酷宰相が豹変して溺愛してきました
春夜夢
恋愛
貧乏伯爵家の令嬢である私は、家を救うために男装して王宮に潜り込んだ。
名を「レオン」と偽り、文官見習いとして働く毎日。
誰よりも厳しく私を鍛えたのは、氷の宰相と呼ばれる男――ジークフリード。
ある日、ひょんなことから女であることがバレてしまった瞬間、
あの冷酷な宰相が……私を押し倒して言った。
「ずっと我慢していた。君が女じゃないと、自分に言い聞かせてきた」
「……もう限界だ」
私は知らなかった。
宰相は、私の正体を“最初から”見抜いていて――
ずっと、ずっと、私を手に入れる機会を待っていたことを。
【完結】異世界召喚 (聖女)じゃない方でしたがなぜか溺愛されてます
七夜かなた
恋愛
仕事中に突然異世界に転移された、向先唯奈 29歳
どうやら聖女召喚に巻き込まれたらしい。
一緒に召喚されたのはお金持ち女子校の美少女、財前麗。当然誰もが彼女を聖女と認定する。
聖女じゃない方だと認定されたが、国として責任は取ると言われ、取り敢えず王族の家に居候して面倒見てもらうことになった。
居候先はアドルファス・レインズフォードの邸宅。
左顔面に大きな傷跡を持ち、片脚を少し引きずっている。
かつて優秀な騎士だった彼は魔獣討伐の折にその傷を負ったということだった。
今は現役を退き王立学園の教授を勤めているという。
彼の元で帰れる日が来ることを願い日々を過ごすことになった。
怪我のせいで今は女性から嫌厭されているが、元は女性との付き合いも派手な伊達男だったらしいアドルファスから恋人にならないかと迫られて
ムーライトノベルでも先行掲載しています。
前半はあまりイチャイチャはありません。
イラストは青ちょびれさんに依頼しました
118話完結です。
ムーライトノベル、ベリーズカフェでも掲載しています。
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
獣人の世界に落ちたら最底辺の弱者で、生きるの大変だけど保護者がイケオジで最強っぽい。
真麻一花
恋愛
私は十歳の時、獣が支配する世界へと落ちてきた。
狼の群れに襲われたところに現れたのは、一頭の巨大な狼。そのとき私は、殺されるのを覚悟した。
私を拾ったのは、獣人らしくないのに町を支配する最強の獣人だった。
なんとか生きてる。
でも、この世界で、私は最低辺の弱者。
転生令嬢は騎士からの愛に気付かない
上原緒弥
恋愛
【5/13 完結しました】城の図書館で司書として働く男爵家令嬢アシュリーには、前世の記憶がある。そのため現世での結婚事情に馴染めず、結婚せずにいようと決めていた。しかし21歳の誕生日を前にして父親から婚約の話を切り出される。躱す方法を探していたある日、上司が変装して同伴者として舞踏会へ参加するよう告げてきた。当日向かった会場で上司と別れて行動することになったアシュリーは、憧れの騎士団の副団長・ヴィルヘルムに話相手になって貰えることになったのだけれど……押しているのに気付いてもらえない騎士団副団長と、自分に自信がない男爵令嬢の恋の話。性描写が含まれる話には、※を付けています。ムーンライトノベルス様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる