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本編
28.もう一つの恋っ
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翌日お昼過ぎに薬が届けられた。ノーラ様とマルド様は二人ともいつもと違って表情が固い。どうしたんだろうか。
届けられたのはほぼニオイを抑えられるポーションだった。シエル様にわたしとノーラ様の二人で部屋に行って飲むように言われた。さらには「紋様がないか確認してあげて」って。
指示に従って、ノーラ様と二人で部屋に入り、ソファに座る。ポーションを持つ手が震えているのに気づき、そっと手を添えた。
「ノーラ様……」
「ごめんなさい、怖いの……もし紋様がなかったら、彼の紋様じゃなかったらって。怖いのよ。」
静かに一筋の涙を流すノーラ様をぎゅっと抱きしめる。
「大丈夫。つがいって、そんなものがなくてもお互い求め合うものだってシエル様が教えてくれたもの。きっと大丈夫」
今まで散々お世話になってきたのだ。今度はわたしが恩返しする番。ただただ彼女の背中を押すことしかできないけれど、きっと大丈夫。
覚悟を決めたノーラ様はクイっとポーションを飲み干した。普段は見られない弱気なノーラ様もクイっと一気にいくかっこいいノーラ様も素敵っ。
そして二人で紋様を探そうとしたのだけれど。
「あ、あった」
手首の辺りに大きな紋様。それも魔法陣のような図形が組み合わさっている。
実は事前にシエル様にマルド様の紋様を聞いていたのだ。それと寸分違わない黄色と茶色の紋様。ちなみに紋様に使われる色はそれぞれの目の色が必ず入っているのだそうだ。
ノーラ様の目の色は黄色。マルド様は茶色。つまりこれは間違いなくマルド様の紋様。
わたしは呆然としているノーラ様の元を離れて、ドアを開ける。
マルド様が入ってきてノーラ様に駆け寄って抱き締めていた。そしてわたしはシエル様に連れられて部屋を後にしたのだった。
馬車に乗せられ、連れて行かれたのは一面の花畑。どうやら王家の所有らしく、許可がないと入れないらしい。警備も厳重だと言うことだった。
そのお花畑に使用人の人がシートを敷いてくれて、二人で花畑を眺めた。
「ノーラ様、大丈夫かな。泣いてた」
「マルドに任せておけば大丈夫だよ。ドアの外でも、彼女の匂いに気付いてたから」
「それじゃあ……」
よかった。ずっと思ってた。あんなに仲良いのに付き合っていないなんてって。そっか、ノーラ様も同じだったんだ……
でも、本当あのマリア様、一体何人の人生をおかしくしたら気が済むのかな? 確かにゲームの仕様だと言われればそれまでだけど。それでもこの世界の人たちは普通にそれぞれ生きているのに。
「少し、二人きりにしてあげよう。きっと彼らも積もる話があるだろうから」
「そうですね」
二人でぼーっと花畑を眺めて、他愛もない話もして寝転んで。
幸せな思い出がまたひとつ、増えていった。
日が落ちてきて、暖かな空気が冷え込んだ頃にわたし達は別荘へ戻った。
そこには泣き腫らした顔のノーラ様とちょっと困り顔のマルド様が仲良く座って待っていた。
ああ、泣き腫らした顔のノーラ様、色気も増して大変美しいですっ。
「話は明日にしようか?」
「いえ、大丈夫。今話します」
どうやらいつものノーラ様に戻ったみたいだ。それになんだかシエル様と一緒の黒い空気が渦巻いている。なるほど。実は同族嫌悪というものか、仲はいいけど恋愛対象にはなり得ないみたいな感じかな。
そんな呑気なことを考えているとノーラ様は思い出した記憶を語り出した。
「あの日、わたくしはこの別荘に遊びにきていてお茶会には参加していなかったんですが、怪しげな人に薬を嗅がされて体の力が抜けてしまって、馬車に押し込められたのです。そこにいたのはマリア様で、わたくしは水のみに入れられた薬を強引に飲ませられて、意識を失い、気づいたら元いた場所にいたのです」
なんてひどい。無理やり薬を飲ませるなんて……本当許せないわっ。
「その時彼女は言ったのです。『本命はシエル様だけど、攻略に失敗したら困るから保険をかけておくわ』って」
なるほど。確かこのゲーム、攻略情報を見る限りシエル様のルートが一番難しかったはず。だから無理ならマルド様に切り替えられるようにしたのね……
「あの女の言動の意味がわからないが、なるほどな。ということはもう一人もいる可能性が高いが、それはキースに任せておこう。リストのご令嬢を招いてお茶会でも開いて、飲み物にポーションを混ぜたらすぐわかるだろう」
この一瞬で理解できるのがすごい。それにもう一人のことまで……
というかあの女呼ばわりは継続なんですね。いや、わかります。わたしだってクソ女って呼びたいもの。
「そうだね。その後捕縛しようか。王家所有の土地に無断で入るわシエルに危害を加えるわ、罪状は十分だろう」
うおっ、普段は癒し系のマルド様、なんだかノーラ様と同じく黒い空気をまとってるわっ。ギャップが凄すぎて怖い……
こういう人って怒らせたら一番怖いんだよね……気をつけなきゃ。
「まあ、ひとまずはキースからの報告待ちだな。それまではどうしようか。この場所を知っている可能性もある。場所を移すか」
「それならうちの別荘へ行きます?」
「いや、ノーラのところはルシアちゃんの領地と近いだろ。前見かけたって言ってたし、俺のところに行こう」
「そうだな」
こうしてわたし達は、マルド様の別荘へ行くこととなった。
届けられたのはほぼニオイを抑えられるポーションだった。シエル様にわたしとノーラ様の二人で部屋に行って飲むように言われた。さらには「紋様がないか確認してあげて」って。
指示に従って、ノーラ様と二人で部屋に入り、ソファに座る。ポーションを持つ手が震えているのに気づき、そっと手を添えた。
「ノーラ様……」
「ごめんなさい、怖いの……もし紋様がなかったら、彼の紋様じゃなかったらって。怖いのよ。」
静かに一筋の涙を流すノーラ様をぎゅっと抱きしめる。
「大丈夫。つがいって、そんなものがなくてもお互い求め合うものだってシエル様が教えてくれたもの。きっと大丈夫」
今まで散々お世話になってきたのだ。今度はわたしが恩返しする番。ただただ彼女の背中を押すことしかできないけれど、きっと大丈夫。
覚悟を決めたノーラ様はクイっとポーションを飲み干した。普段は見られない弱気なノーラ様もクイっと一気にいくかっこいいノーラ様も素敵っ。
そして二人で紋様を探そうとしたのだけれど。
「あ、あった」
手首の辺りに大きな紋様。それも魔法陣のような図形が組み合わさっている。
実は事前にシエル様にマルド様の紋様を聞いていたのだ。それと寸分違わない黄色と茶色の紋様。ちなみに紋様に使われる色はそれぞれの目の色が必ず入っているのだそうだ。
ノーラ様の目の色は黄色。マルド様は茶色。つまりこれは間違いなくマルド様の紋様。
わたしは呆然としているノーラ様の元を離れて、ドアを開ける。
マルド様が入ってきてノーラ様に駆け寄って抱き締めていた。そしてわたしはシエル様に連れられて部屋を後にしたのだった。
馬車に乗せられ、連れて行かれたのは一面の花畑。どうやら王家の所有らしく、許可がないと入れないらしい。警備も厳重だと言うことだった。
そのお花畑に使用人の人がシートを敷いてくれて、二人で花畑を眺めた。
「ノーラ様、大丈夫かな。泣いてた」
「マルドに任せておけば大丈夫だよ。ドアの外でも、彼女の匂いに気付いてたから」
「それじゃあ……」
よかった。ずっと思ってた。あんなに仲良いのに付き合っていないなんてって。そっか、ノーラ様も同じだったんだ……
でも、本当あのマリア様、一体何人の人生をおかしくしたら気が済むのかな? 確かにゲームの仕様だと言われればそれまでだけど。それでもこの世界の人たちは普通にそれぞれ生きているのに。
「少し、二人きりにしてあげよう。きっと彼らも積もる話があるだろうから」
「そうですね」
二人でぼーっと花畑を眺めて、他愛もない話もして寝転んで。
幸せな思い出がまたひとつ、増えていった。
日が落ちてきて、暖かな空気が冷え込んだ頃にわたし達は別荘へ戻った。
そこには泣き腫らした顔のノーラ様とちょっと困り顔のマルド様が仲良く座って待っていた。
ああ、泣き腫らした顔のノーラ様、色気も増して大変美しいですっ。
「話は明日にしようか?」
「いえ、大丈夫。今話します」
どうやらいつものノーラ様に戻ったみたいだ。それになんだかシエル様と一緒の黒い空気が渦巻いている。なるほど。実は同族嫌悪というものか、仲はいいけど恋愛対象にはなり得ないみたいな感じかな。
そんな呑気なことを考えているとノーラ様は思い出した記憶を語り出した。
「あの日、わたくしはこの別荘に遊びにきていてお茶会には参加していなかったんですが、怪しげな人に薬を嗅がされて体の力が抜けてしまって、馬車に押し込められたのです。そこにいたのはマリア様で、わたくしは水のみに入れられた薬を強引に飲ませられて、意識を失い、気づいたら元いた場所にいたのです」
なんてひどい。無理やり薬を飲ませるなんて……本当許せないわっ。
「その時彼女は言ったのです。『本命はシエル様だけど、攻略に失敗したら困るから保険をかけておくわ』って」
なるほど。確かこのゲーム、攻略情報を見る限りシエル様のルートが一番難しかったはず。だから無理ならマルド様に切り替えられるようにしたのね……
「あの女の言動の意味がわからないが、なるほどな。ということはもう一人もいる可能性が高いが、それはキースに任せておこう。リストのご令嬢を招いてお茶会でも開いて、飲み物にポーションを混ぜたらすぐわかるだろう」
この一瞬で理解できるのがすごい。それにもう一人のことまで……
というかあの女呼ばわりは継続なんですね。いや、わかります。わたしだってクソ女って呼びたいもの。
「そうだね。その後捕縛しようか。王家所有の土地に無断で入るわシエルに危害を加えるわ、罪状は十分だろう」
うおっ、普段は癒し系のマルド様、なんだかノーラ様と同じく黒い空気をまとってるわっ。ギャップが凄すぎて怖い……
こういう人って怒らせたら一番怖いんだよね……気をつけなきゃ。
「まあ、ひとまずはキースからの報告待ちだな。それまではどうしようか。この場所を知っている可能性もある。場所を移すか」
「それならうちの別荘へ行きます?」
「いや、ノーラのところはルシアちゃんの領地と近いだろ。前見かけたって言ってたし、俺のところに行こう」
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こうしてわたし達は、マルド様の別荘へ行くこととなった。
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