吸血鬼なご主人様の侍女になりました。

しおの

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 しばらくして、サヨさんが食事を運んできてくれた。見たこともないものがたくさんで、目を瞬かせる。
「これ、食べてもいいんですか……?」
「ええ、アメリア様のために用意した食事ですので。お好きなものがありましたら教えてくださいませ」
「わ、ありがとうございますっ。いただきます」
 フォークとナイフが置いてあって、あんまり使い方もよくわからなかったけど、前世の記憶を頼りに食べる。どれもこれも美味しくてほっぺたが落ちそう……
 暖かいたくさんの食事をお腹いっぱい食べた。こんなにたくさん食べたの初めて。前世でもあまりたくさん食べられなかったから、とても嬉しい。



 ――チリーン
 あれ、これって、お呼び出し?
 そう思っていると部屋の隅にある扉が開かれる。
「これが聞こえたら、こっちからくるんだよ。ほら」
 腕を掴まれて扉をくぐる。そこにはわたしの部屋よりもちょっと狭い部屋に大きなベッドが一つ。
 ここ、寝室……?
 少年の部屋に繋がってると思ってたけど違うんだ……
「はい、ここ座って」
 指定されたのは彼の膝の上で。なんでそんなところに? って思ったけど、命令なら逆らえない。素直に従った。
「そういえば名を名乗っていなかったね。俺はクロウ。クロウ・サーバント。サーバント侯爵家嫡男だ。クロウと呼ぶように」
 お名前はクロウというのか。侯爵家、侯爵家って結構身分の高い貴族だった気がするんだけど……
 ってことはクロウ様? いやでもお名前を呼ぶのは恐れ多い気がする。
「あ、あの、名前を呼ぶのはちょっと恐れ多いと言いますか……ご主人様とお呼びしてもいいでしょうか?」
「……まあ、今は許そうか。だけどいずれは名前で呼んでもらうから」
「はい、ご主人様」
 わたしの肩に彼が顎を乗せる。そのままカプリと齧り付かれ、血を啜られる。体の力が抜けていく感覚と妙な浮遊感。これなんだろう。
「んっ」
 最後にぺろりと舐められ、どうやら食事は終わったみたい。というかわたしこんなに血を抜かれて大丈夫かしら……
 ぼーっとする頭の中で何かを思い出していた。



 吸血鬼であるクロウは学園でとある少女と出会う。そこでは二人で困難を乗り越え、最後には結ばれる。




 ハッと気がついた時には布団の中だった。いつの間に寝ていたんだろうか……
 ん? 隣に誰かいる……?
「きゃあっ」
「なんだ起きたの?」
「えっ、わたし……」
 しっかり服は脱がされていて何故か隣で眠っていたわたし。一体何が……
「これも仕事のうちだ。さ、早く寝ろ」
 頭の中は混乱していたけれど、再び頭がぼーっとしてきていつの間にか眠ってしまっていた。




 目覚めると一人でベッドに眠っていたようだ。むくりと起き上がると眠たい目を擦りながら自分の部屋へと向かう。サヨさんが既に部屋に来ていて、何も言わずにメイド服を着せてくれた。
「さ、主人がお待ちですよ。起こしに行ってあげてください」
 サヨさんに促されて隣の部屋の扉を叩く。返事がないけど、サヨさんは入ってもいいって言ってたから、扉を開いて中に入る。部屋のベッドにはご主人様が眠っていて。
「ご主人様、ご主人様っ。朝です。起きてください」
「……おはよう。ご飯ちょうだい」
 そうしてわたしは朝と夜、彼の朝食として血を差し出すことになった。
 この時のわたしはまだ十歳。少年ことクロウ様は十二歳である。



 ご主人様の食事の後はいつも気を失っていた。サヨさん曰く貧血状態だという。その後はいつも薬を飲まされるとすぐに回復して動けるようになっていた。
 元気になったわたしは、いつの間にか用意をされていた本棚に置いてある本をずっと読んでいる。物語が書かれた小説や、この国の歴史、礼儀作法の本まで様々だ。
 きっとお勉強しろってことだと思う。小説は一日一冊にして歴史書を読む。
 その歴史書は吸血鬼について書かれているもので、夢中になって読み込んでいた。
 昔からこの国には吸血鬼の一族がいたのだという。ただ、人の生き血を啜るという彼らの時性や夜行性であることから忌み嫌われていたのだという。そこでひっそりと誰もいない森の奥で生活することになった。
 何時ごろだろうか、そのうちの一人がとある人間の娘に恋をして、やがて子を成した。そこから吸血鬼の血が徐々に薄まっていき、日中も活動できるようになった。
 彼らの特徴である黒髪に赤い目、それに見目麗しい容姿からすぐに社会にも溶け込んでいくようになった。
 食事についても独自に人工の血液を開発したり、輸血用の血液を分けてもらったりと人から血をもらう必要性がなくなっていった。
 また彼らは人間よりも身体能力が優れており頭脳明晰。そのため徐々にその地位を上げていったのだとか。
 ただ稀に、先祖返りというのか吸血鬼の血が強く出てしまい、人から血をもらわねばならないことがあるのだとか。

 そうなんだ。ということは、彼はきっと先祖返りということなのだろうか。この屋敷にはご主人様とサヨさん、執事長さんにメイドが数名のみで他には誰もいないみたい。ご両親もいないみたいだった。
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