吸血鬼なご主人様の侍女になりました。

しおの

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 それから、ご主人様が学園に通うようになってから朝の食事の時に頬にキスをされるようになった。今までしたことなんてなかったのに急にされるから案の定真っ赤になってしまって。
 それをみて満足そうに笑って学園へ通うのだ。一体なんなのだろうか。お年頃になって女性に興味を抱いたとか……?
 だったらわたしじゃなくてもご主人様なら引く手数多だと思うんだけど。身近にいて手頃だったからとかかな。それだったらなんだか悲しいな……食事もそうだしなんだか都合のいい女みたい。
 まあ、わたしはそれでご主人様に引き取られたから、そう割り切ることが一番いいんだろうな。

 屋敷にいる時よりも時間を持て余してしまう。本もそんなに持ってきていないし、することもないのだ。
 ふらふらと部屋の中を歩き回ったり、ソファに座ったりしているうちに、お昼になったようだ。ご主人様が昼食を持ってきてくれて、彼にジロジロみられながら食事をした。
 わたしは「何かお仕事ないですか?」って聞いたら「暇なのの?」って言われて、たくさんのテキストを渡される。
「これ、やっておいて。いい暇つぶしになるでしょう?」
 どっさりと積まれたテキストの量に唖然とする。いや確かに、確かにすることがないなって思っていたけど……
 こんなに積まれると思わなかった……
 がっくり肩を落としたわたしの頭を撫でてくれて。
「それやったらいいことあるよ」
 意味深な言葉を残してご主人様は授業に戻っていった。


 ペンを持ってドキドキしながらテキストを開く。なんだか学校の勉強みたい。前世はほとんど病室生活だったけど、両親が教科書を買ってくれて、時々勉強を見てくれていた。
 なんだか嬉しくなって、真剣に向き直る。
 あれ……? これ屋敷で読んだ本のやつだ。思ったよりもすらすら解けてしまって楽しくなる。テキストをやるのが楽しくて、夢中になりすぎてご主人様が帰ってきたのに気づかないくらいだった。
「アメリア、食事持ってきたから食べよう」
 声をかけられてようやく気がついたわたしはハッとする。
 あ、そうだった。もうご飯の時間……
 急いでテキストを片付ける。ナイフとフォークをとって食べようと思ったらご主人様のフォークが口元に差し出された。
「口開けて」
 命令なので、逆らえないけれど、恥ずかしい……
 最近こんなことばかりだ。一体何がしたいのだろう。わたしにこんなことをして楽しんでるご主人様の考えていることがわからない。
 小説の知識では、仲の良い男女、特に恋人同士でなければしないことだと記憶している。けれどご主人様にとってわたしは生きていくための食糧にすぎない。どういうことなのだろう……
 なんだか心の奥がツキリと痛んだ気がした。



「ほう、もうここまで進んだの? さすがアメリア」
 頭を撫でて褒めてくれるご主人様。でもこんな関係、普通の関係じゃない。そもそも侍女の私に侍女がついていること自体がおかしいと思う。
 普通は侍女は主人の世話をする係で、こんなふうに寧ろ世話をされるなんてあり得ないことで。ぐるぐるの思考で頭がくらくらする。
 聞いたら早いんだろうけど、聞く勇気も資格もないもの。
「どうしたの。何かあった?」
「……いえ、なんでもないです」
 怪訝そうな顔でこちらを見るご主人様だったけど、自分の教科書を開き、わたしを呼ぶ。
「さ、一緒に勉強しよう」
「……? わたしもですか?」
「君の勉強だよ」
 どうやらわたしはまた勉強をすることになるらしい。いや知識は財産というけれど、わたしは平民。読み書きができれば生活するのに困らない職につくことができる。なのになぜ、こんなにもお勉強をしないといけないのかしら。
 でも、勉強するのは好きだから結局やるんだけれど。
 こうして一緒に勉強している分には兄と妹だ。わたしにもお兄さんがいたらこんな感じなのかな……
 一つ一つ優しく教えてくれて、わたしはすぐに解くことができた。その度に褒めてくれるので嬉しくなった。

 それからわたしの日常には勉強が追加された。
 確かに暇は潰せるけれど、ずっと勉強ばかりだとちょっと飽きてくる。あまり手もつかず、ソファでぼーっとしていたけど、そんなわたしをご主人様は苦笑してみていて、特に怒ることもなかった。
 けれどご主人様との勉強は日課になった。今日も今日とて勉強だ。一人でやると進まない勉強も誰かと一緒なら楽しいものなのだ。
「何か好きなことはないの?」
「好きなこと……特にないと思います」
「……そう」
 ちょっと寂しそうな顔をしたご主人様になんだか申し訳なく思ってしまって、「ごめんなさい」って言ったら「いや、俺が悪い」って言ってわたしを撫でる。
 どうしてご主人様が謝るのかと首を傾げたけど、それ以上何も言わなかったのでそのまま勉強の続きをしていた。
 
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