夏祭り

白い恋人

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夏祭り   前編

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 みんなは『夏』と聞いたら何を思い浮かべる?
 海や山、そして夏祭り。このように、夏は楽しいもの尽くしで1番好きな季節だと言う人も多いだろう。
 だが、僕は違う。夏は一番嫌いだ。
 なぜなら、夏のある日に君が消えてしまったのだから。
 そう、まるで、打ち上げ花火のように………。





「……一緒にお祭りなんか初めてじゃないのに1時間前に来ちゃったな」
 今日は夏祭り。幼馴染と一緒に行く予定で、19時集合だったのに、やけに緊張してしまい18時に集合場所に来てしまった。
 は~、こんな早く来てるって知られたら気持ち悪いとか思われちゃうかな……。
 そんなネガティブなことを考えていると、トントンと肩を叩かれた。
 バッと振り向くとそこには──。
「やっほー爽輔。集合時間の1時間前になにやってるの?」
 浴衣姿の佳澄がいた。
 そう。待ち合わせをしている幼馴染とは、この子のことだ。
 そして何を隠そう、僕の大好きな子だ。もちろん、異性として。
 まぁ、向こうは僕のことなんか、なんとも思ってないんだろうけど。
 そこで、ふと一つの疑問が浮かんだ。なぜ彼女も集合時間の1時間前にここにいるのか、と。
 だが、そんなどうでもいい疑問は一瞬にして消えた。
 理由は簡単。佳澄の浴衣姿がただただ美しいからだ。
 こんな時に「まるで〇〇のよう」みたいに言葉で表せられたらいいのだが………なんか、この言い方は某食レポの人みたいだな。まぁ、僕には言葉のレパートリーが少ないから無理だ。
「どうしたの?爽輔。さっきからボーッとして」
「……ふぇ?」
「クスッ。ふぇってなにさふぇって」
 うわっ!ビックリして変な声出ちゃった!やばい……恥ずい。
 ダメだ。ちょっと落ち着こう。すぅーー、はぁーー。よし、落ち着いた。
「で……え、えと、なに?」
 ダメだ。落ち着けてない。
「ん、あぁ。爽輔がさっきからボーッとしてたからどうしたのかなって」
 えーーーっと、佳澄のこと考えてたなんか言えないな。えと、んと、どうしよ。なんて言おう。えっと──。
「んー?」
「い、いや、佳澄の浴衣姿が可愛くて、つい見とれちゃって、それで、それ……で………」
 …………っ‼僕はいったい何を言ってるんだ‼
 ていうかやばい、めっちゃ恥ずかしい……。今絶対顔真っ赤だよ……。
「い、いや、今のは違くて……」
「ふ、ふーん。そんなこと考えてたんだ~」
「ホント、もう、やめてください……」
「ふふっ、じゃあこの辺でやめてあげる」
 はぁ、やっと終わっ……てないな。本番はここからだ。
「じゃあ爽輔。予定より早いけど行こっか」
「う、うん」
 少し先で下駄のカランコロンという音をたてながら歩いている佳澄の後を急ぎ足で情けなさそうに追う僕であった。

         ※

「うわ~、人いっぱいだね」
 お祭り会場に着いて、彼女が放った第一声はそれだった。
 たしかに、ここ数年の中では恐らく1番多い。その理由はあれしかないだろう。
 それは、今日の21時に行われる打ち上げ花火。噂で聞くところ、今年の花火は特別で異性と一緒に見ると結ばれるだかなんとか。
 もちろん僕もそれが目的だ。
 そして彼女にそのことは伝えていない。それ目的だと思われたら断られかねないし。………ていうか、言える訳がない。
 幸い、彼女は噂話にめっぽう疎い。だからこんな噂なんか聞いていないだろう。
「わっ、と。あはは、ホント人多いね」
「そ、そうだね」
 周りには人がわんさかいる状態で、いつ転んでもおかしくない状況だ。
 これはチャンスなんじゃないか?人混みで危ないから手を繋ぐってのはよく聞くし。
 うーん、でもどうだろうか。勝手に手を繋いで嫌がられる可能性も無くはない。
 でも、こんなチャンスを逃すのはもったいない。………よし。
「あの、佳澄。はぐれたりしたら危ないから手を………」
 と、手を差し伸べようとした瞬間、
「あっ、爽輔、金魚すくいだって!やろ!」
 と、金魚すくいの屋台の方へ急ぎ足で行ってしまった。
 僕は差し伸べかけた手をスッとポケットにしまい込んだ。
 大丈夫。まだチャンスはあるはずだ。そのために今はしっかり楽しもう。
「うん、いいよ」
 金魚すくいか。懐かしいな。
 僕は昔やったことがあるけど、一匹もすくえなかった。それ以来1度もやっていない。
「おじさん!二人分お願い!」
「あいよ!」
 二人分のポイを貰いその場にしゃがみ込む。
「ところで、自分からやりたいって言うってことは金魚すくい得意なの?」
「ううーん、あまり得意じゃないかな」
「じゃあなんで?」
「せっかくお祭りに来たんだし、全部回る気でいないと。それに楽しいからね」
 全部回るってのは無理だと思うけど………。まぁ、佳澄っぽいか。
「ふふっ、そうだね。それじゃあお互い頑張ろっか」
 そう言い、二人で水槽の中に視線を集中させた。
 それから二人して黙々とすくおうとするもお互い全然すくえない。けど、茜音のポイは全然破れていない。
 ん?僕?一匹目をすくおうとしたら破れたよ。一発で。
 ちらっと横を見てみると、佳澄は無邪気な顔をしながら金魚を追っている。
 あ!今のおしい。取れそうだったのに。おっ、その金魚取れそ……って、ちょっと!
「佳澄!袖濡れてる!」
「え?あ!ホントだ……って、あっ!あ~………」
「あっ‼」
 僕が話しかけた直後、佳澄が強く手を動かしてしまいポイが破れてしまった。
「ご、ごめん!佳澄。取れそうだったのに」
「全然大丈夫だよ。逆に濡れてるのを教えてくれてありがとね」
「け、けど……」
「いいからいいから。ほら、次なにやる?」
 なんか強引に押しとおされた気が……。
「そ、それじゃあなにやろっか……っと、その前に濡れた袖をちょっとでも乾かさなきゃね」
 そう言い、持ってきていたカバンの中からタオルを取り出し佳澄に渡す。
「そだね、ありがと。……って、なんでタオルなんか持ってるの?」
「そんなの、何が起こるかわからないじゃん。例えば、急に雨が降る可能性だってあるしさ」
「ふふっ。ホント、昔から用意周到って言うか色々と女子力高いよね。それじゃ、ありがたく使わせてもらうよ」
 ………はたして、男子なのに女子力高いって言葉は喜んでいいものなのだろうか?
 浴衣の袖を拭いている佳澄を横目に僕はそんなことを考えていた。
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