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夏祭り 後編
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僕は浴衣の袖を拭き終えた佳澄と一緒に歩を進めていた。
だが、拭き終えたとはいえ生地が生地だし、佳澄も「この程度で時間をあまりかけたくない」と言うからしっかりとは乾ききってはいない。
「なんか、お腹すいてきた」
子どものような呟きが隣から聞こえてきた。
「まぁ、大分いい時間になって来たしね。なにか食べよっか」
時間は19時を過ぎていた。たしかに小腹がすく時間ではある。
しかし予定ではこの時間に待ち合わせ場所集合だったな。早めに着いといて良かったかな?なぜか佳澄も早くに来てくれたし。
「それじゃあ、なに食べる?」
「お祭りの屋台と言ったら焼きそばでしょ!」
予想以上にガッツリだな。ホントにお腹減ってたんだ。気づいてあげれなかったのが少し悔やまれる……。
「焼きそばの屋台ってどこにあったっけ?………お、フランクフルトか」
焼きそばの屋台を探し歩いていると、フランクフルトの屋台を見つけた。
値段は………350円、か。ん~、ここ数年でまた高くなってるな。まぁ、買うんだけど。
「佳澄、ちょっとフランクフルト買ってくるわ。あ、食べるなら一緒に買ってくるよ?」
「いや、私はいいかな。焼きそば食べれなくなるかもだし」
「そっか。じゃあ行ってくるね」
そう言い残し、僕は屋台へ向かった。
ちなみに僕はフランクフルトは塩コショウ派だ。前はケチャップだったが味覚が変わったのか、一昨年くらいから塩コショウだ。……まぁ、どうでもいい情報だったな。
そんなことを考えながらフランクフルトを購入し、先程別れた場所に戻ったのだが、佳澄がいない。
「あれ?どこいった?」
そう呟き、辺りを見回すと少し遠くで渋い顔をした佳澄を見つけた。
「あー、いたいた。あのさ、別の屋台に行くなら一声掛けて欲しかったな。急にいなくなられたら心配するでしょ」
「ごめんね。ついフラーっと来ちゃって」
まったく、危なっかしいなぁ。
ところで、ここはいったい何の……綿菓子か。
美味しいっちゃ美味しいんだけど、いかんせん値段が高い。たったこれだけで500円もする。
「で、さっきから何渋い顔してるの?」
「いや、食べたいけど高いから買おうか買わまいか迷ってるんだよね……」
あ、やっぱりそれか。
「そういう時は思い切って買ってみたら?なんなら買ってあげるよ」
「いや、いいよ。タダで買ってもらうなんて。綿菓子もかなりいい値段してるし」
ん~。けど僕的には希望を叶えてあげたいって思ってるんだよなぁ。……あ、そうだ。
「じゃあさ、綿菓子を買ってあげる代わりに一口食べさせて」
「え、爽輔はそれでいいの?」
「うん。全然いいよ」
「そ、それじゃあお言葉に甘えて。あと、その前にそれ食べちゃいな。冷めちゃうよ?」
おっと、そうだった。フランクフルトを買って手に持ったままだった。
パクパクっと食べてその流れで綿菓子を一つ購入した。
「爽輔、ありがとね」
「どういたしまして。じゃあどこか座ろっか」
「そだね。じゃあ、あそこでいっか」
丁度よくベンチがあったのでそこに二人で座った。
「それじゃあ、はい。先にいいよ」
「あぁ、それじゃあいただきます」
ぱくっと綿菓子を食べると、口の中にふわっとした感触とともに甘みもふわっと広がった。
さっき食べたばっかのフランクフルトの塩コショウの味はすっとなくなった。甘さって強いね。
「うん、おいしい。ありがとね」
「どういたしまして。じゃあ私も………ん~、おいしい~!」
ほっぺに手を当てて美味しがる姿がまた可愛い。
しかも佳澄はこういうのをぶりっことかじゃなくて素でやっているところがホントにズルい。まぁ、そんなところに惹かれてるんだけどね。
「ふー、ごちそうさま。それじゃあ、次なにする?」
そうこうしてるうちにどうやら綿菓子を食べ終えたようだ。っと、そうだそうだ。昨日調べておいたじゃないか。
「あ、そういや足痛くない?下駄なんか慣れてないでしょ?」
「足?ぜーんぜん大丈夫だよ」
「ホントに……?」
「ホントホント!大丈夫だって」
笑顔でそう言ってくるが、少しだけ笑顔が引きつっていた。
「………ちょっと足見せて。………ほら、擦れてる。我慢してたでしょ?」
「うっ……ごめん、私もちょっとでも多く楽しみたくて言えなかった」
「ううーん。僕のほうこそ、気づいてあげられなくてごめんね。それじゃあ、はい、絆創膏。あと、ちょっと下駄貸して」
「ありがと……って、なんで下駄貸さなきゃいけないの?」
「鼻緒のとこ、ちょっと硬いんじゃない?揉みほぐしたりした?」
「何もしてないや……。じゃあ、お願いするね」
「うん、まかせて」
そう言い下駄を借り、鼻緒に手をかけた。するとほんのりと温もりを感じた。
そりゃそうか。脱ぎたてなんだし。………うん、脱ぎ……たて………ダメだ!意識するな!無心でやれ!ただ単に作業をこなせ!
───よし、一通り終わったな。あとは、結び目はどうかな?………変な衝撃が加わらなきゃ大丈夫かな。
「はい、多分これでさっきよりは楽になったと思うよ」
「ホント、何から何までありがとね。こういうの、自分で覚えなきゃダメなんだろうけど、私覚えるのって苦手で」
「僕は全然気にしてないよ。むしろほんも……いや、なんでもない。よし、それじゃあそろそろ行こっか。あ、もう少し休んだほうがいいかな?」
あぶなかった。まーた恥ずかしいセリフ言うとこだったよ。
「足はもう大丈夫だよ。かなり休めたし。で、次は何するの?」
「焼きそば食べるんでしょ?」
「あ、そだったね。すっかり忘れてたよ」
「それじゃあやめとく?」
「うーん、なんかもう焼きそばの気分じゃなくなっちゃった」
相変わらずだなぁ。それじゃあホントにどうしよっかな。そうだ、時間は……っと。……ってもう20時を回ってる!時間が経つの早いなぁ。
「あ、そうだ。ちょっとさ、そこの神社行ってみない?」
「え、神社?ここ結構高いよ?佳澄登れる?」
「なに?バカにしてる?私、爽輔より体力あるよ?」
「そ、そういう意味じゃなくて!足的にだよ!」
「それなら大丈夫!あ、言っておくけど今度は嘘じゃないからね」
あぁ。顔を見たらなんとなくだけどわかるよ。
「わかったよ。それじゃあ行こっか」
そうして、二人で神社に続く階段を登った。
※
「爽輔、大丈夫?」
「な、なんとか………」
今僕たちは神社の石段に座っている。
ところで、なぜ僕がこんなにも死にかけているのかと言うと、足がやばい。
階段を二人で登ってきてたんだが、途中で佳澄が「つかれた~」とか言って急に背中に乗ってきたから、そのままおんぶして登ったらこうなった。
「なんか……ごめんね」
「いや、大丈夫。この程度ちょっと休めば戻るよ」
それに、おんぶしたときに佳澄からなんの香りかはわからないけど、めっちゃいい匂いがしたから、それでチャラというかなんというか。
「そういえばさ、前にもこんなことなかったっけ?」
「前にも?………あー、そういえばあったかもね」
7年くらい前だっただろうか。家族同士でピクニックに行ったとき、佳澄に色々なとこに連れてかれ、挙げ句の果てに「疲れて動けない」みたいなことを言い、僕がおぶって戻ったんだよな。
………よく考えなくてもあれから僕たち全然変わらないな。
それからも佳澄と色々な昔話をした。
昔、家族同士で海に行ったときに僕らが迷子になって二人で大泣きしたこと。
小学校のときに流行ってた遊びや想い出話。
高校受験の受験勉強のときの話。
そのときに、佳澄は付きっきりで勉強を教えてくれたな。
ちなみに僕は頭は悪くはない。が、佳澄が志望してた高校は僕の頭脳では難しかった。それでも僕は佳澄と同じ高校に行きたかったんだ。まぁ、このことは本人には言ってないけどね。
とまぁ、色々な話をずっとした。言い方は少し悪いが、想い出話がかなり捗った。
いつもよりも会話が弾んだからか、なんかこれが最後の会話みたいに………なんて、縁起が悪いな。
あと、なんか下のほうが騒がしいな。
あ、そういえば今って何時なんだろう。会話が盛り上がってすっかりと忘れていた。
そう思って時計を確認しようとしたと同時に、ヒュ~という気の抜けた音の後、ドンと大きな音が響いた。
え!?もう始まっちゃった!?あんなに時間確認したのに……。
「あ、花火だ!どこどこ?」
なんて、僕の考えてることなんかいざ知らず呑気に花火の場所を探す佳澄。
僕も探したが前方には花火は無い。おそらくというか確実に後ろだろう。後ろから聞こえるし。
うぅ……このために来てたのにまさかそれが見れないなんて……。いやまぁめっちゃ楽しかったけどさ。
「どこで見れるかな~。っと、あれ?なにこれ」
佳澄がふらふら~っと神社の周りを歩いていると、何かを見つけたようだ。
「爽輔ー!線香花火見つけた!これやらない?」
「でも落とし物でしょ?勝手に使うのはあれじゃない?」
「2本くらいなら大丈夫でしょ。ほらほら、やろうよ」
流されるように線香花火を渡された。
「ところで、火は?」
そう。花火は本体だけあってもできない。さすがの僕も火は持ち歩いてはいない。
「一緒にライター落ちてたからこれでいいでしょ」
なんて好都合なこと。
この線香花火といい、ライターといい、神様がくれたものなのだろうか。まぁ、それはいいとしてさっそく火を点けよう。
「「………………」」
火を点けてから沈黙が続いている。だが、この沈黙は心地良い。
このパチパチと小さく弾ける花火。それに儚さを感じる。まるで、今のこの空気間のように一瞬で消えるような………なんか自分でも何言ってるかわからなくなっちゃった。
「「あっ」」
そんなことを考えていると二人同時に花火が落ちた。
「終わったね。ところで、今って何時くらい?」
「そうだね。えっと、21時は過ぎてるからもうそろそろ帰ったほうがいいんじゃないかな」
けどその前に一つやっておきたい事がある。
「そうだね。それじゃあ最後に降りるの頑張ろっか!」
「待って、佳澄」
やばい。心臓の音が激しい。落ち着け。鼓動を治めろ。
「ん?なに?」
「あの……さ」
……ダメだ!心が拒否してきている。今じゃないと。だが、この空気のまま終わりたいという気持ちもある。
告白してOKがでたらプラスになるがフラレたら両者マイナスになる。だが、僕がなにもしなければこのまま終われる。
「もし……良かったらさ……来年も一緒に……お祭り来ない?」
………やはり僕は、ホントにヘタレだ。覚悟を決めていたっていうのに、いざその場になったらなにも言えない。
「もちろん!全然いいよ」
あぁ、今のこの笑顔で僕は満足しきっている。けど、僕はホントにこのままでいいのか。………明日からじっくり考えよう。
「ありがとね。それじゃあ帰ろっか」
そう言い、僕たちは階段を降り、帰路を辿った。
※
今僕たちは家の近くの交差点まで来ていた。
「もう暗いし家まで送っていこっか?」
「いや、ここからすぐだからそこの信号までで大丈夫。そこからは家の方向逆だしね」
そうだけど……いや、一人で帰りたいって思ってる可能性もあるかな。
「……そっか。それじゃあ、またね」
「うん!バイバイ、爽輔!」
そう挨拶を交わし、僕は横断歩道を渡った。
はぁ~……結局告白できなかったな……。
なんて、今更少し後悔していると、前方から車が走ってきた。なんの変哲も無いただの車だ。だが、僕はそんな車に違和感を覚えた。
……なんか、フラフラしてる……?
少し不安になった僕は車を目で追った。
すると、その車が信号を渡った直後、左にガクンと曲がった。不運にも、その先に人影があった。
しかもその人影が歩いている場所は………『僕が先程までいた場所』だった。
「佳澄!!」
瞬間、僕は走り出し声を掛けた。だがその声は届かず、佳澄はその車に鈍い音と共に撥ねられた。
距離は目測で10m強飛ばされていた。
僕は急いで佳澄の元へ行き、抱きかかえ、
「佳澄!!僕の声が聞こえるか!?聞こえるなら何か反応を……!!」
と、声を掛けた。が、もちろん反応は無い。軽自動車だったとは言え、スピードはかなりあったし、それが直撃したとなれば………。
「そんな………約束したじゃないか……。また来年もお祭り行こうって……。それにまだ、僕の気持ちを伝えてすらいないのに………。もっと………一緒に、いたかったのに………」
気づいたら周りには人だかりができていた。
そして僕は周りの目なんか気にせずただひたすら泣いた。泣いて……泣いて………………泣いて……。
それからしばらくして救急車とパトカーのサイレンの音が聞こえてきた。誰かが通報したのだろう。
その後、僕は佳澄の親と一緒に病院で警察と話していた。
僕は未成年であったが、現場を見ていたのが僕だけだったので連れてこられたようだ。
それと、佳澄の状態を医師から聞かされた。
医師によると、即死だったようだ。
佳澄は体は華奢な方だし、当たりどころも悪かったみたいだ。
涙は、さっき出尽くしたと思っていたのに、まだ溢れ出てきた。
佳澄の両親も泣いていた。当然だ。大事な一人娘が亡くなったのだ。
僕は二人に謝罪をした。「僕がしっかりと佳澄についてあげていたら」と。だが、二人は僕を責めることなく優しく「爽輔くんはなにも悪くない」と慰めてくれた。
家に帰って、今日起こったことを思い返してみた。
楽しかったことはいっぱいあった。けど後悔することも多かった。
足が擦れていることに気づいてあげれなかったこと。家まで送ってあげなかったこと。そして、告白できなかったこと。
何もかも、もう死んじゃったら何もしてあげれないじゃないか……。
後悔
それは一生残るもの。あの時ああすれば良かった、こうすれば良かった。人生はそんな後悔の連続。取り返しのつくものもあれば、取り返しのつかないものもある。それが何なのかは誰にもわからない。
だが、僕はもう取り返しのつかない後悔はしたくない。だから、僕なんかのこんな言葉を聞いてくれるなら聞いてほしい。
『後悔のない選択を……』
だが、拭き終えたとはいえ生地が生地だし、佳澄も「この程度で時間をあまりかけたくない」と言うからしっかりとは乾ききってはいない。
「なんか、お腹すいてきた」
子どものような呟きが隣から聞こえてきた。
「まぁ、大分いい時間になって来たしね。なにか食べよっか」
時間は19時を過ぎていた。たしかに小腹がすく時間ではある。
しかし予定ではこの時間に待ち合わせ場所集合だったな。早めに着いといて良かったかな?なぜか佳澄も早くに来てくれたし。
「それじゃあ、なに食べる?」
「お祭りの屋台と言ったら焼きそばでしょ!」
予想以上にガッツリだな。ホントにお腹減ってたんだ。気づいてあげれなかったのが少し悔やまれる……。
「焼きそばの屋台ってどこにあったっけ?………お、フランクフルトか」
焼きそばの屋台を探し歩いていると、フランクフルトの屋台を見つけた。
値段は………350円、か。ん~、ここ数年でまた高くなってるな。まぁ、買うんだけど。
「佳澄、ちょっとフランクフルト買ってくるわ。あ、食べるなら一緒に買ってくるよ?」
「いや、私はいいかな。焼きそば食べれなくなるかもだし」
「そっか。じゃあ行ってくるね」
そう言い残し、僕は屋台へ向かった。
ちなみに僕はフランクフルトは塩コショウ派だ。前はケチャップだったが味覚が変わったのか、一昨年くらいから塩コショウだ。……まぁ、どうでもいい情報だったな。
そんなことを考えながらフランクフルトを購入し、先程別れた場所に戻ったのだが、佳澄がいない。
「あれ?どこいった?」
そう呟き、辺りを見回すと少し遠くで渋い顔をした佳澄を見つけた。
「あー、いたいた。あのさ、別の屋台に行くなら一声掛けて欲しかったな。急にいなくなられたら心配するでしょ」
「ごめんね。ついフラーっと来ちゃって」
まったく、危なっかしいなぁ。
ところで、ここはいったい何の……綿菓子か。
美味しいっちゃ美味しいんだけど、いかんせん値段が高い。たったこれだけで500円もする。
「で、さっきから何渋い顔してるの?」
「いや、食べたいけど高いから買おうか買わまいか迷ってるんだよね……」
あ、やっぱりそれか。
「そういう時は思い切って買ってみたら?なんなら買ってあげるよ」
「いや、いいよ。タダで買ってもらうなんて。綿菓子もかなりいい値段してるし」
ん~。けど僕的には希望を叶えてあげたいって思ってるんだよなぁ。……あ、そうだ。
「じゃあさ、綿菓子を買ってあげる代わりに一口食べさせて」
「え、爽輔はそれでいいの?」
「うん。全然いいよ」
「そ、それじゃあお言葉に甘えて。あと、その前にそれ食べちゃいな。冷めちゃうよ?」
おっと、そうだった。フランクフルトを買って手に持ったままだった。
パクパクっと食べてその流れで綿菓子を一つ購入した。
「爽輔、ありがとね」
「どういたしまして。じゃあどこか座ろっか」
「そだね。じゃあ、あそこでいっか」
丁度よくベンチがあったのでそこに二人で座った。
「それじゃあ、はい。先にいいよ」
「あぁ、それじゃあいただきます」
ぱくっと綿菓子を食べると、口の中にふわっとした感触とともに甘みもふわっと広がった。
さっき食べたばっかのフランクフルトの塩コショウの味はすっとなくなった。甘さって強いね。
「うん、おいしい。ありがとね」
「どういたしまして。じゃあ私も………ん~、おいしい~!」
ほっぺに手を当てて美味しがる姿がまた可愛い。
しかも佳澄はこういうのをぶりっことかじゃなくて素でやっているところがホントにズルい。まぁ、そんなところに惹かれてるんだけどね。
「ふー、ごちそうさま。それじゃあ、次なにする?」
そうこうしてるうちにどうやら綿菓子を食べ終えたようだ。っと、そうだそうだ。昨日調べておいたじゃないか。
「あ、そういや足痛くない?下駄なんか慣れてないでしょ?」
「足?ぜーんぜん大丈夫だよ」
「ホントに……?」
「ホントホント!大丈夫だって」
笑顔でそう言ってくるが、少しだけ笑顔が引きつっていた。
「………ちょっと足見せて。………ほら、擦れてる。我慢してたでしょ?」
「うっ……ごめん、私もちょっとでも多く楽しみたくて言えなかった」
「ううーん。僕のほうこそ、気づいてあげられなくてごめんね。それじゃあ、はい、絆創膏。あと、ちょっと下駄貸して」
「ありがと……って、なんで下駄貸さなきゃいけないの?」
「鼻緒のとこ、ちょっと硬いんじゃない?揉みほぐしたりした?」
「何もしてないや……。じゃあ、お願いするね」
「うん、まかせて」
そう言い下駄を借り、鼻緒に手をかけた。するとほんのりと温もりを感じた。
そりゃそうか。脱ぎたてなんだし。………うん、脱ぎ……たて………ダメだ!意識するな!無心でやれ!ただ単に作業をこなせ!
───よし、一通り終わったな。あとは、結び目はどうかな?………変な衝撃が加わらなきゃ大丈夫かな。
「はい、多分これでさっきよりは楽になったと思うよ」
「ホント、何から何までありがとね。こういうの、自分で覚えなきゃダメなんだろうけど、私覚えるのって苦手で」
「僕は全然気にしてないよ。むしろほんも……いや、なんでもない。よし、それじゃあそろそろ行こっか。あ、もう少し休んだほうがいいかな?」
あぶなかった。まーた恥ずかしいセリフ言うとこだったよ。
「足はもう大丈夫だよ。かなり休めたし。で、次は何するの?」
「焼きそば食べるんでしょ?」
「あ、そだったね。すっかり忘れてたよ」
「それじゃあやめとく?」
「うーん、なんかもう焼きそばの気分じゃなくなっちゃった」
相変わらずだなぁ。それじゃあホントにどうしよっかな。そうだ、時間は……っと。……ってもう20時を回ってる!時間が経つの早いなぁ。
「あ、そうだ。ちょっとさ、そこの神社行ってみない?」
「え、神社?ここ結構高いよ?佳澄登れる?」
「なに?バカにしてる?私、爽輔より体力あるよ?」
「そ、そういう意味じゃなくて!足的にだよ!」
「それなら大丈夫!あ、言っておくけど今度は嘘じゃないからね」
あぁ。顔を見たらなんとなくだけどわかるよ。
「わかったよ。それじゃあ行こっか」
そうして、二人で神社に続く階段を登った。
※
「爽輔、大丈夫?」
「な、なんとか………」
今僕たちは神社の石段に座っている。
ところで、なぜ僕がこんなにも死にかけているのかと言うと、足がやばい。
階段を二人で登ってきてたんだが、途中で佳澄が「つかれた~」とか言って急に背中に乗ってきたから、そのままおんぶして登ったらこうなった。
「なんか……ごめんね」
「いや、大丈夫。この程度ちょっと休めば戻るよ」
それに、おんぶしたときに佳澄からなんの香りかはわからないけど、めっちゃいい匂いがしたから、それでチャラというかなんというか。
「そういえばさ、前にもこんなことなかったっけ?」
「前にも?………あー、そういえばあったかもね」
7年くらい前だっただろうか。家族同士でピクニックに行ったとき、佳澄に色々なとこに連れてかれ、挙げ句の果てに「疲れて動けない」みたいなことを言い、僕がおぶって戻ったんだよな。
………よく考えなくてもあれから僕たち全然変わらないな。
それからも佳澄と色々な昔話をした。
昔、家族同士で海に行ったときに僕らが迷子になって二人で大泣きしたこと。
小学校のときに流行ってた遊びや想い出話。
高校受験の受験勉強のときの話。
そのときに、佳澄は付きっきりで勉強を教えてくれたな。
ちなみに僕は頭は悪くはない。が、佳澄が志望してた高校は僕の頭脳では難しかった。それでも僕は佳澄と同じ高校に行きたかったんだ。まぁ、このことは本人には言ってないけどね。
とまぁ、色々な話をずっとした。言い方は少し悪いが、想い出話がかなり捗った。
いつもよりも会話が弾んだからか、なんかこれが最後の会話みたいに………なんて、縁起が悪いな。
あと、なんか下のほうが騒がしいな。
あ、そういえば今って何時なんだろう。会話が盛り上がってすっかりと忘れていた。
そう思って時計を確認しようとしたと同時に、ヒュ~という気の抜けた音の後、ドンと大きな音が響いた。
え!?もう始まっちゃった!?あんなに時間確認したのに……。
「あ、花火だ!どこどこ?」
なんて、僕の考えてることなんかいざ知らず呑気に花火の場所を探す佳澄。
僕も探したが前方には花火は無い。おそらくというか確実に後ろだろう。後ろから聞こえるし。
うぅ……このために来てたのにまさかそれが見れないなんて……。いやまぁめっちゃ楽しかったけどさ。
「どこで見れるかな~。っと、あれ?なにこれ」
佳澄がふらふら~っと神社の周りを歩いていると、何かを見つけたようだ。
「爽輔ー!線香花火見つけた!これやらない?」
「でも落とし物でしょ?勝手に使うのはあれじゃない?」
「2本くらいなら大丈夫でしょ。ほらほら、やろうよ」
流されるように線香花火を渡された。
「ところで、火は?」
そう。花火は本体だけあってもできない。さすがの僕も火は持ち歩いてはいない。
「一緒にライター落ちてたからこれでいいでしょ」
なんて好都合なこと。
この線香花火といい、ライターといい、神様がくれたものなのだろうか。まぁ、それはいいとしてさっそく火を点けよう。
「「………………」」
火を点けてから沈黙が続いている。だが、この沈黙は心地良い。
このパチパチと小さく弾ける花火。それに儚さを感じる。まるで、今のこの空気間のように一瞬で消えるような………なんか自分でも何言ってるかわからなくなっちゃった。
「「あっ」」
そんなことを考えていると二人同時に花火が落ちた。
「終わったね。ところで、今って何時くらい?」
「そうだね。えっと、21時は過ぎてるからもうそろそろ帰ったほうがいいんじゃないかな」
けどその前に一つやっておきたい事がある。
「そうだね。それじゃあ最後に降りるの頑張ろっか!」
「待って、佳澄」
やばい。心臓の音が激しい。落ち着け。鼓動を治めろ。
「ん?なに?」
「あの……さ」
……ダメだ!心が拒否してきている。今じゃないと。だが、この空気のまま終わりたいという気持ちもある。
告白してOKがでたらプラスになるがフラレたら両者マイナスになる。だが、僕がなにもしなければこのまま終われる。
「もし……良かったらさ……来年も一緒に……お祭り来ない?」
………やはり僕は、ホントにヘタレだ。覚悟を決めていたっていうのに、いざその場になったらなにも言えない。
「もちろん!全然いいよ」
あぁ、今のこの笑顔で僕は満足しきっている。けど、僕はホントにこのままでいいのか。………明日からじっくり考えよう。
「ありがとね。それじゃあ帰ろっか」
そう言い、僕たちは階段を降り、帰路を辿った。
※
今僕たちは家の近くの交差点まで来ていた。
「もう暗いし家まで送っていこっか?」
「いや、ここからすぐだからそこの信号までで大丈夫。そこからは家の方向逆だしね」
そうだけど……いや、一人で帰りたいって思ってる可能性もあるかな。
「……そっか。それじゃあ、またね」
「うん!バイバイ、爽輔!」
そう挨拶を交わし、僕は横断歩道を渡った。
はぁ~……結局告白できなかったな……。
なんて、今更少し後悔していると、前方から車が走ってきた。なんの変哲も無いただの車だ。だが、僕はそんな車に違和感を覚えた。
……なんか、フラフラしてる……?
少し不安になった僕は車を目で追った。
すると、その車が信号を渡った直後、左にガクンと曲がった。不運にも、その先に人影があった。
しかもその人影が歩いている場所は………『僕が先程までいた場所』だった。
「佳澄!!」
瞬間、僕は走り出し声を掛けた。だがその声は届かず、佳澄はその車に鈍い音と共に撥ねられた。
距離は目測で10m強飛ばされていた。
僕は急いで佳澄の元へ行き、抱きかかえ、
「佳澄!!僕の声が聞こえるか!?聞こえるなら何か反応を……!!」
と、声を掛けた。が、もちろん反応は無い。軽自動車だったとは言え、スピードはかなりあったし、それが直撃したとなれば………。
「そんな………約束したじゃないか……。また来年もお祭り行こうって……。それにまだ、僕の気持ちを伝えてすらいないのに………。もっと………一緒に、いたかったのに………」
気づいたら周りには人だかりができていた。
そして僕は周りの目なんか気にせずただひたすら泣いた。泣いて……泣いて………………泣いて……。
それからしばらくして救急車とパトカーのサイレンの音が聞こえてきた。誰かが通報したのだろう。
その後、僕は佳澄の親と一緒に病院で警察と話していた。
僕は未成年であったが、現場を見ていたのが僕だけだったので連れてこられたようだ。
それと、佳澄の状態を医師から聞かされた。
医師によると、即死だったようだ。
佳澄は体は華奢な方だし、当たりどころも悪かったみたいだ。
涙は、さっき出尽くしたと思っていたのに、まだ溢れ出てきた。
佳澄の両親も泣いていた。当然だ。大事な一人娘が亡くなったのだ。
僕は二人に謝罪をした。「僕がしっかりと佳澄についてあげていたら」と。だが、二人は僕を責めることなく優しく「爽輔くんはなにも悪くない」と慰めてくれた。
家に帰って、今日起こったことを思い返してみた。
楽しかったことはいっぱいあった。けど後悔することも多かった。
足が擦れていることに気づいてあげれなかったこと。家まで送ってあげなかったこと。そして、告白できなかったこと。
何もかも、もう死んじゃったら何もしてあげれないじゃないか……。
後悔
それは一生残るもの。あの時ああすれば良かった、こうすれば良かった。人生はそんな後悔の連続。取り返しのつくものもあれば、取り返しのつかないものもある。それが何なのかは誰にもわからない。
だが、僕はもう取り返しのつかない後悔はしたくない。だから、僕なんかのこんな言葉を聞いてくれるなら聞いてほしい。
『後悔のない選択を……』
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