偽りの聖女と罵られ追放された公爵令嬢ですが、辺境の『氷の公爵』に溺愛されて本当の力を開花させました。元婚約者には今からざまぁの時間です

ふうか

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そのころ、カシウスは

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軋む扉の音が、静まり返った部屋に微かに溶けていく。

 カシウスは腕の中の少女をそっと寝台に降ろした。毛皮敷きの上に横たえられた身体は、雪の中で見たときよりもさらに軽く感じられた。布団を掛ける手つきは無駄がなく、それでいて荒さはどこにもなかった。

 吐く息が白く揺れる。暖炉の火は落としてある。薪を足すべきか一瞬だけ迷い、彼は手袋を外した。指先から魔力がじんわりと溢れ、火床の灰の奥に潜む火種を静かに撫でる。ぱち、と赤い光が生き返り、炎が小さく波打った。

 焚火とは違う、魔力で制御された熱が部屋の空気を押し上げていく。少女の頬に、わずかな血色が戻るのが見えた。

「……野草の種、か」

 外套の内ポケットから、先ほど拾った布袋を取り出す。掌に転がる袋は薄く、指の腹に小さな粒の感触が伝わった。

 こんなものを握り締めたまま倒れるとは。呆れるべきか、感心すべきか――判断を保留したまま、袋を机に置く。

 窓の外ではまだ雪が降っている。月は雲に隠れ、森の闇は深い。吹雪ではないが、外にいたままなら朝までもたなかっただろう。

 寝台の方へ視線を戻す。少女――名前は知らない。年頃は十代の後半か、それより少し下か。唇は乾き、まつげには雪の名残がわずかに貼りついていた。

 助けた理由を口にするつもりはない。言葉にすれば、余計な憶測を生むだけだ。

 ただ――

 雪を踏んだとき、微かに感じた魔力の残滓。辺境には存在しないはずの性質。それが視界に引っかかった。ただそれだけの話だ。

 椅子に腰掛け、無言で炎を見つめる。薪が崩れ、音を立てて火の粉が弾けた。

「……人でなしではないつもりだがな」

 誰に聞かせるわけでもなく、小さく呟く。声はすぐ熱に溶けて消えた。

 外套を脱ぎかけて、やめる。少女が眠る寝台から目を離さず、彼は窓辺に立った。背を向けながらも、耳は微かな呼吸音を拾い続けている。

 遠くで狼が吠えた。雪面が月明かりを含み、淡く光る。

 その夜、彼はひとつも眠らなかった。
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