魔力を持たずに生まれてきた私が帝国一の魔法使いと婚約することになりました

ふうか

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婚約編

20 王都へ②

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 魔道具屋を出たレティシアたちは小さなカフェに入ってお茶をすることにした。イサイアスが案内したカフェは広場に面しており二人が座ったテラス席からは街の様子がよく見えた。午後の広場には元気よく走り回る子どもたちやそれを見守る母親、散歩に来た老夫婦、仕事の合間に休憩に立ち寄った若者など様々な人でにぎわっている。

 初めて街へ訪れたレティシアには今日見るなにもかもが新鮮だった。カフェではレティシアは木苺のタルト、イサイアスは桃のジェラートを頼んだ。普段から公爵家専属のシェフが作るスイーツを食べているレティシアからしても優しい味でとても美味しかった。

「気に入った?」

「ええ、とっても!」

 甘酸っぱい木苺と甘いタルト生地が絶妙なバランスをとっている。ルビーのように真っ赤に熟れた木苺は見た目にも美しく、レティシアは頬を抑えてうっとりと目を細める。そんなレティシアを見てイサイアスも嬉しそうに笑った。



「あれ?イサイアスじゃないか。」

 突然かけられた声に顔を上げると、広場からこっちに向って燃えるような赤髪の青年が歩いてきた。

「ヘンリック?」

 どうやらイサイアスの知り合いの様で、イサイアスより少し背が高い彼は人懐っこい笑みを見せた。

「イサイアス、お前婚約したんじゃなかったっけ? こんなところで女とデートしてていいのかよ。やっぱり政略って噂はほんとだったのか。」

「なんだって?」

 思わぬ言葉に眉間にしわを寄せるイサイアスと対照的に、ヘンリックは面白そうというふうにレティシアのほうを見やるとイサイアスにニヤッと悪い笑みを浮かべてみせた。

「皇弟子息様は公爵令嬢に弱みを握られて仕方なく婚約したって噂だぜ? イサイアスは何回頼んでも婚約者殿には合わせてくれねえし、よっぽど不細工なのか?」

「ヘンリック、その噂の出どころを後で詳しく聞かせてくれ。」

「は? 別にいいけど。それよりその可愛いお嬢さんはだれ? どっかの商家の子?」

「お前の目の前にいるのが俺の婚約者だよ。レティシア・レイエアズマン公爵令嬢だ。」

「はあ!?」

 心底呆れたというふうにため息をつきつつイサイアスがそう告げると、ヘンリックはぴしりと音を立てて固まった。レティシアは慌てて立ち上がるとヘンリックにお辞儀をする。

「お、おいおい冗談だろ? 何だって公爵令嬢様がこんな平民街にデートに来てるんだよ。」

「今日は俺の視察だ。 別にデートというわけじゃ......」

「どっからどうみてもデートじゃねえか。なんで貴族街のほうに行かねぇんだよ。」

「別にいいだろ、そんなことは。」

「よかねえよ、お前公爵家嫡男だろ、俺ならまだしもお前ちゃんと金あるじゃねえか。というかレティシア嬢もこんな所でいいのかよ。」

「あの、ええっと。私は別に構いませんが…その、貴方は?」

 レティシアが突然現れたヘンリックに戸惑っていると、

「おっと、これは失礼。俺はヘンリック・イルクナー。イルクナー男爵の次男坊です。次期公爵夫人殿、以後お見知りおきを。」

芝居がかった仕草でヘンリックが名を告げた。その様子にくすりと笑みをこぼしてレティシアももう一度頭を下げる。

「レティシア・レイエアズマンです。こちらこそよろしくお願いしますわ。」

 「別によろしくしなくていい」とイサイアスが小さく呟いた。レティシアには聞こえていなかったが、ヘンリックにはバッチリ聞こえていたようで意外そうにイサイアスを見てケラケラと笑った。

「分かりやすく惚れてんじゃねえか。」

「うるさいな。」

 照れたようにイサイアスがヘンリックを軽くにらむと、ヘンリックはますますおかしそうに声をあげて笑った。

「で? ほんとにどうして平民街なんかに?」

「ほんっとしつこいぞ、ヘンリック。」

「気になるんだよなあ。なんか理由があるんじゃねえの?」

 イサイアスはヘンリックの興味深々な様子に早々に白旗をあげると、大したことじゃないと前置きをして訳を話すことにしたようだった。

「今回の婚約のこと、よく思っていない奴も少なくないだろ? そんな中、貴族街なんか行ってみろ、ハイエナの群れに生肉抱えて飛び込むようなもんだぞ。シアをそんな所に連れていくわけないだろう。」

 ため息をつきつつ心底うっとうしそうにイサイアスがそういうと、なるほど、とヘンリックも納得したように頷いた。

 イサイアスの視察に着いてきているだけのつもりだったレティシアは、イサイアスの隠れた心遣いに申し訳なくも嬉しく、照れたように頬を染めた。

 婚約者同士二人揃って恥ずかしそうに微笑み合う様子にヘンリックは呆れながらも立ち上がる。

「じゃあ俺はもう行くわ。噂の件は手紙で。それではお二人さん楽しんで。」

 ひらひらと手を振りながら去っていくヘンリックの背中を見送った。

「イルクナー家はアルハイザー家うちと関係が深い家でね、ヘンリックとも昔からの知り合いなんだ。」

「そうなのね。すごく明るい方だった。」

「そうだね、まあ悪いやつじゃないし、これからも関わる機会は多いと思うよ。」

 そうしてイサイアスとレティシアもお店を出るべく立ち上がると、またいくつかのお店を見て日が暮れる前に2人はアルハイザー邸に戻った。
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