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第5話:古城探索は楽じゃない? でも色気でサクッと攻略
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次の街へ向かうべく、ユナはゆるりと歩を進めていた。
途中、雑木林を抜けた先で不意に視界が開け、草むらの向こうに怪しげな建物が見える。
「……あれ、あんなところに古城?」
遠目にもわかるほど壁が崩れ、蔦が絡みついている朽ちかけの城。
見るからに「ここには何か出そう」という雰囲気だが、ユナはそれほど興味を惹かれない。
しかし、城の手前には何やら集団の人影があり、がやがやと騒いでいるのがわかった。
「ん……?」
近づいてみると、冒険者らしき面々が地図を広げて相談している。全員合わせて四人ほど。
長い槍を持ったリーダー格の青年、弓を背負った少女、ローブを着た魔法使い風の男性、そして補助役らしき女性。
彼らはユナに気づくと、最初は警戒の眼差しを向けたが、すぐに彼女の姿を見て目を丸くする。
「おい、バニーガールだぞ……何でこんなとこに?」
「す、すごい格好……」
一同が戸惑っていると、ユナはぺこりと軽く頭を下げる。
「通りすがりだけど。ここ、入るの?」
「そうなんだ。俺たち、朽ちかけたこの城を探索する予定でさ。噂じゃ宝物庫が残ってるとか、アンデッドがうじゃうじゃ出るとか……」
リーダー格の青年が説明する。どうやらギルドで受けた依頼の一環らしい。
しかしメンバーはあともう一人欲しいようで、ちょうど通りかかったユナを“これは運命かも”と思ったようだ。
「ねえ、一緒に行かない? バニー……いや、あなた、冒険者なんでしょ?」
ユナは微妙な顔で答える。
「一応登録はしてるけど……あんまり興味ないかも。ソロのほうが楽だし」
「そんなこと言わずに! 頼むよ。もしモンスターが多すぎたら、俺たちだけじゃ厳しいかもしれないし……」
青年たちは必死でユナを勧誘してくる。
弓の少女も「戦力は多いほうが安全だし、あなた……結構強そうに見える」と期待の眼差し。
ユナは少し迷った末、「まぁ……ちょっとだけなら手伝ってもいいけど」と渋々首を縦に振った。
「本当!? 助かるよ。よし、早速行こう!」
---
古城の中はやはり暗く、カビ臭い空気が漂う。石造りの廊下はひび割れ、至る所に蜘蛛の巣が張っている。
魔法使いの男性が淡い光の魔法を使い、先頭の青年が槍を構えて慎重に進む。ユナは一番後ろをマイペースに歩いていた。
「うわ……本当にアンデッドが出そうだね」
弓の少女が不安そうに言ったその瞬間、奥のほうからゴトゴトという足音が聞こえてきた。
ガイコツの戦士やゾンビのような姿が、ぞろぞろとこちらへ向かってくる。
「やっぱり出やがった……! 気を引き締めて!」
リーダー格が構えをとり、パーティーは一斉に身構える。
しかし、それより早くアンデッドたちの視線がユナに集中した。
「……?」
アンデッドと言えば、生気のない眼で襲ってくるイメージだが、なぜか彼らの動きが止まり、ガタガタと武器を落としはじめる。
そのままユナを見るたびに痙攣して、溶けるように地面へ崩れ去っていった。
「え、なにこれ……?」
ユナは首をかしげるが、どうやら例の“色気”や“バニー姿”の謎オーラに当てられてしまったらしい。
いくら相手が亡者でも、なぜか惑わされて本来の力を出せなくなるようだ。
「そ、そんな……アンデッドがあっさり……」
あまりにも拍子抜けする展開。パーティーの面々は目を丸くしている。
この調子で進んでいくと、立ち塞がるアンデッドはみなユナを見た瞬間に動揺し、ぼろぼろと倒れていく。
リーダー格はおろか、誰も戦闘らしい戦闘をする必要がなく、あっという間に城の奥へ到達してしまった。
「もうボス部屋みたいなとこまで来ちゃった……」
魔法使いの男性が驚きの声を上げ、弓の少女も「あたし、矢を一本も使ってない……」とあっけにとられる。
ボスらしき甲冑をまとったアンデッドも、ユナを見るやいなやガタガタ震え、勝手に倒れて終了。
こんな形で探索終了するとは、誰も予想していなかった。
---
「うわあ……何というか、すごいね。宝箱もそのまま残ってる……」
古城の最奥で見つけた宝箱を開けると、古びた銀製の装飾品や古文書が出てきた。依頼報酬としては十分すぎるらしい。
リーダー格の青年は大喜びで、ユナにお礼を言う。
「ありがとう、本当に助かったよ。きみのおかげで死傷者ゼロどころか、モンスターとほとんど戦わずに済んだ。是非、このままうちのパーティーに入ってくれないか?」
周囲のメンバーも「お願い!」と目を輝かせている。
しかしユナはバニー耳をひょこっと動かしながら、「うーん……」と考える素振りを見せる。
「ごめんね、わたし、ソロが気楽だし……妹を探す旅してるから」
「妹……? そうか、探し人がいるんだな……」
青年は惜しそうに視線を落とすが、ユナの意志は固そうだ。
みんなが「残念だ……」とうなだれる中、ユナは申し訳なさげに苦笑する。
「でもこれでアンデッド退治は楽々終わったし、宝箱も手に入ったから良かったよね。わたしはここで失礼するね」
「ああ……本当にありがとう。良かったら報酬の一部でも受け取ってくれないか?」
「ううん、いいや。荷物増えるし」
ユナはそっけなく断り、身軽に踵を返す。
「それじゃあ、またどこかで」というリーダー格の呼びかけに振り返ることなく、古城の出口へ向かっていった。
---
外に出ると、先ほどの雑木林からほんの少し日差しが射し込み、城の崩れかけた外壁が淡く照らされている。
アンデッドたちを瞬殺(?)してしまった探索は、予想外にあっけなく終了したけれど、ユナにとってはどこか他人事のような感覚だった。
「妹、いないし……興味もないし……」
バニー姿で森を抜ける。気が向けば宝物だって手に入るかもしれないが、ユナは面倒ならそれもいらない。
肩の力を抜いて次の目的地へ向かう足取りは軽い。
「さて、そろそろ街に着いたら宿を探すか。お腹すいちゃったし」
アンデッドにまるで恐怖心を抱かないまま、のんきに古城を後にするユナ。彼女の異常な幸運と色気は、これからも色々な騒動を巻き起こすのだろう。
そうとも知らず、森の小道で鼻歌まじりに旅を続けるバニーガール――妹の行方を確かめるのは、もう少し先の話になりそうだ。
途中、雑木林を抜けた先で不意に視界が開け、草むらの向こうに怪しげな建物が見える。
「……あれ、あんなところに古城?」
遠目にもわかるほど壁が崩れ、蔦が絡みついている朽ちかけの城。
見るからに「ここには何か出そう」という雰囲気だが、ユナはそれほど興味を惹かれない。
しかし、城の手前には何やら集団の人影があり、がやがやと騒いでいるのがわかった。
「ん……?」
近づいてみると、冒険者らしき面々が地図を広げて相談している。全員合わせて四人ほど。
長い槍を持ったリーダー格の青年、弓を背負った少女、ローブを着た魔法使い風の男性、そして補助役らしき女性。
彼らはユナに気づくと、最初は警戒の眼差しを向けたが、すぐに彼女の姿を見て目を丸くする。
「おい、バニーガールだぞ……何でこんなとこに?」
「す、すごい格好……」
一同が戸惑っていると、ユナはぺこりと軽く頭を下げる。
「通りすがりだけど。ここ、入るの?」
「そうなんだ。俺たち、朽ちかけたこの城を探索する予定でさ。噂じゃ宝物庫が残ってるとか、アンデッドがうじゃうじゃ出るとか……」
リーダー格の青年が説明する。どうやらギルドで受けた依頼の一環らしい。
しかしメンバーはあともう一人欲しいようで、ちょうど通りかかったユナを“これは運命かも”と思ったようだ。
「ねえ、一緒に行かない? バニー……いや、あなた、冒険者なんでしょ?」
ユナは微妙な顔で答える。
「一応登録はしてるけど……あんまり興味ないかも。ソロのほうが楽だし」
「そんなこと言わずに! 頼むよ。もしモンスターが多すぎたら、俺たちだけじゃ厳しいかもしれないし……」
青年たちは必死でユナを勧誘してくる。
弓の少女も「戦力は多いほうが安全だし、あなた……結構強そうに見える」と期待の眼差し。
ユナは少し迷った末、「まぁ……ちょっとだけなら手伝ってもいいけど」と渋々首を縦に振った。
「本当!? 助かるよ。よし、早速行こう!」
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古城の中はやはり暗く、カビ臭い空気が漂う。石造りの廊下はひび割れ、至る所に蜘蛛の巣が張っている。
魔法使いの男性が淡い光の魔法を使い、先頭の青年が槍を構えて慎重に進む。ユナは一番後ろをマイペースに歩いていた。
「うわ……本当にアンデッドが出そうだね」
弓の少女が不安そうに言ったその瞬間、奥のほうからゴトゴトという足音が聞こえてきた。
ガイコツの戦士やゾンビのような姿が、ぞろぞろとこちらへ向かってくる。
「やっぱり出やがった……! 気を引き締めて!」
リーダー格が構えをとり、パーティーは一斉に身構える。
しかし、それより早くアンデッドたちの視線がユナに集中した。
「……?」
アンデッドと言えば、生気のない眼で襲ってくるイメージだが、なぜか彼らの動きが止まり、ガタガタと武器を落としはじめる。
そのままユナを見るたびに痙攣して、溶けるように地面へ崩れ去っていった。
「え、なにこれ……?」
ユナは首をかしげるが、どうやら例の“色気”や“バニー姿”の謎オーラに当てられてしまったらしい。
いくら相手が亡者でも、なぜか惑わされて本来の力を出せなくなるようだ。
「そ、そんな……アンデッドがあっさり……」
あまりにも拍子抜けする展開。パーティーの面々は目を丸くしている。
この調子で進んでいくと、立ち塞がるアンデッドはみなユナを見た瞬間に動揺し、ぼろぼろと倒れていく。
リーダー格はおろか、誰も戦闘らしい戦闘をする必要がなく、あっという間に城の奥へ到達してしまった。
「もうボス部屋みたいなとこまで来ちゃった……」
魔法使いの男性が驚きの声を上げ、弓の少女も「あたし、矢を一本も使ってない……」とあっけにとられる。
ボスらしき甲冑をまとったアンデッドも、ユナを見るやいなやガタガタ震え、勝手に倒れて終了。
こんな形で探索終了するとは、誰も予想していなかった。
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「うわあ……何というか、すごいね。宝箱もそのまま残ってる……」
古城の最奥で見つけた宝箱を開けると、古びた銀製の装飾品や古文書が出てきた。依頼報酬としては十分すぎるらしい。
リーダー格の青年は大喜びで、ユナにお礼を言う。
「ありがとう、本当に助かったよ。きみのおかげで死傷者ゼロどころか、モンスターとほとんど戦わずに済んだ。是非、このままうちのパーティーに入ってくれないか?」
周囲のメンバーも「お願い!」と目を輝かせている。
しかしユナはバニー耳をひょこっと動かしながら、「うーん……」と考える素振りを見せる。
「ごめんね、わたし、ソロが気楽だし……妹を探す旅してるから」
「妹……? そうか、探し人がいるんだな……」
青年は惜しそうに視線を落とすが、ユナの意志は固そうだ。
みんなが「残念だ……」とうなだれる中、ユナは申し訳なさげに苦笑する。
「でもこれでアンデッド退治は楽々終わったし、宝箱も手に入ったから良かったよね。わたしはここで失礼するね」
「ああ……本当にありがとう。良かったら報酬の一部でも受け取ってくれないか?」
「ううん、いいや。荷物増えるし」
ユナはそっけなく断り、身軽に踵を返す。
「それじゃあ、またどこかで」というリーダー格の呼びかけに振り返ることなく、古城の出口へ向かっていった。
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外に出ると、先ほどの雑木林からほんの少し日差しが射し込み、城の崩れかけた外壁が淡く照らされている。
アンデッドたちを瞬殺(?)してしまった探索は、予想外にあっけなく終了したけれど、ユナにとってはどこか他人事のような感覚だった。
「妹、いないし……興味もないし……」
バニー姿で森を抜ける。気が向けば宝物だって手に入るかもしれないが、ユナは面倒ならそれもいらない。
肩の力を抜いて次の目的地へ向かう足取りは軽い。
「さて、そろそろ街に着いたら宿を探すか。お腹すいちゃったし」
アンデッドにまるで恐怖心を抱かないまま、のんきに古城を後にするユナ。彼女の異常な幸運と色気は、これからも色々な騒動を巻き起こすのだろう。
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