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第7話:貴族の御庭騒動とあっさり解決
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「……なんだか豪華な屋敷があるね」
ユナはバニー姿のまま、丘の上に建つ立派な屋敷を見上げていた。石造りの門と広大な庭園、厳かな雰囲気が漂っている。
通りがかっただけだが、何やら使用人が慌てて門の外をうろついているのが目に入り、つい足を止める。
「あの……すみません! そこの方!」
使用人らしき初老の男性が、ユナを見つけて駆け寄ってきた。息を切らせながら、「ちょうどよいところに」と声をかける。
「領主様の森に、怪物が出るという情報がありまして……。先ほども近隣の農民が恐ろしい姿を見たと……」
「怪物? へえ、それで困ってるんですか?」
「ええ、少し前から森の木々が折られたり、獣の唸り声が響いたり……領主様もお困りなのです。もしよろしければ、あなたのような……その、冒険者さんに退治をお願いできませんか?」
使用人はユナの露出高めの格好に一瞬戸惑いながらも、必死に頼んでくる。
ユナは一拍考えたあと、「まあ、ちょっと覗いてみるくらいなら」と興味本位で頷いた。
---
貴族の屋敷の裏手に広がる森。背の高い木々がうっそうと茂っており、中は薄暗い。
ユナはバニー耳を小さく動かしつつ、木漏れ日の下を進んでいく。
「怪物ってどんな感じかなあ。今度はイノシシとかじゃないといいけど」
多少の緊張感もあるが、心のどこかで「まあ、なんとかなるでしょ」と思っている。
やがて森の奥から、獣の唸り声とガサガサと暴れる音が聞こえてきた。
「うわ、すごい怒ってる?」
近づいてみると、そこには大きなドラゴンの亜種のような尻尾を持つ怪物がいた。胴体はトカゲに近いが、背には棘のような突起が並び、口からは牙がのぞいている。
しかし、よく見るとその尻尾の先が太い木の割れ目に挟まって動けなくなっている様子だ。
「……あれ? もしかして、尻尾が引っかかっただけ?」
尻尾を抜けなくて暴れているだけなのか、怪物はギャウギャウ吠えては地面を掻くが、どうにも身動きがとれないようだ。
ユナは「あらら……」と拍子抜けしながら、近づいてみる。
「……もしかして、助けてあげたらおとなしくなる?」
怪物が凶悪な顔で睨んでくるものの、ユナがバニー姿で“きょとん”とした態度をとると、なんだか向こうも威嚇しきれず微妙に困惑している。
とりあえず尻尾が挟まっている木の割れ目を確認すると、折れかけた枝のようなものががっちり噛んでいて外れない状態になっていた。
「よいしょ……」
ユナがその枝を軽く蹴り折ると、パキンと音を立てて割れ目が緩む。すると怪物の尻尾がすぽっと抜け、いきなり自由になった。
直後、怪物が勢いよく後ずさって「ブガッ……!」と唸る。
「……あ、ごめんね。痛かった?」
バニー耳を揺らしながら心配そうに声をかけるユナ。
一方、怪物はというと尻尾をぶんぶん振り回し、しばらくは警戒していたが、痛みも治まったのか、やがてその場を逃げるように走っていく。
ドドドッという地響きを残し、森の奥へ消えていった。
「これで終わり……なのかな」
あまりのあっさりぶりに拍子抜けしつつ、ユナは後を追う気にもならない。そもそも討伐するつもりもなかったし、ただ挟まっていただけなら仕方ない。
尻尾が外れて怪物が森の向こうへ逃げ去ったことで、特にもう騒ぎの原因は解決したも同然だろう。
---
屋敷の近くまで戻ると、使用人や領主らしき貴族が待ち構えていた。
領主は上品そうな顔で手袋をはめ、むしろ「怪物と戦う姿を見るのでは」と身構えていたのかもしれない。だが、ユナが戻ってきた時には特に傷もなく、ただのんきな表情。
「お、おお、どうだったね? 怪物は退治できたのか?」
「退治というか……尻尾が挟まってただけだったので、外してあげたら逃げちゃいましたよ」
「……は?」
貴族をはじめ、その場の誰もが目を丸くする。
何やら凶悪な怪物だと聞いていたのに、そんな簡単に解決してしまうとは想定外のようだ。
「そ、それは……もう戻ってこないのか?」
「さあ、どうですかね。でも怪我もしただろうし、あんな思いをしたら二度と来ないんじゃないかな」
さらりと言うユナに、貴族は一瞬呆然。けれど、すぐにほっと安堵の表情に変わった。
背後の使用人たちも顔を見合わせ、「よかった……これで領地が荒らされずに済む」と胸をなでおろしている。
「と、とにかく助かった! 本当にありがとう。ぜひお礼をさせてくれ。高価な礼金を用意させるが、受け取ってくれるか?」
領主は拍手を一つ打ち、側近がなにやら宝箱らしき箱を抱えてきた。中には金貨や宝石といった高額報酬になりそうなものがぎっしり。
だが、ユナはそれを見て興味なさそうに首を振る。
「うーん、ちょっと重そうですね。持ち歩くのも大変だし……わたしはいらないですよ」
「い、いらない……!?」
貴族はショックを受けたように目を見開き、「こんな大金を辞退するとは……」と絶句。周囲の者も「本気か?」とざわつき出す。
ユナはたいして気にする様子もなく、バニー姿のまま軽く手を振る。
「はい、じゃあわたしはこれで。ありがとうございましたー」
「ま、待って! せめて屋敷でお茶でも……」
貴族が引き留めようとするが、ユナは「次の街へ行きたいし」と笑って答え、さっさと門の外へ出てしまう。
使用人たちは唖然としながら見送るしかなかった。
---
「まあ、重い荷物持っても荷札になるだけだし……いいよね」
屋敷を離れ、再び街道に戻ったユナは、バニー耳を揺らしながら呟く。あの怪物が本当に猛威を振るっていたら、また展開は違ったかもしれないが、今回も問題なく解決してしまった。
報酬を辞退するのはもったいないかもしれないが、ユナにとっては特に必要性を感じない。
「次の街では何があるかな……」
妹の手がかりは依然として見つかっていないが、旅を続けるうちになんとかなるだろう。
ユナはそんな他愛もないことを考えながら、いつもの調子で歩き始める。あとには大金を惜しんだ貴族の嘆きと、「それでも領地が救われた」という感謝の言葉が残るのみ――。
こうして、また一つの騒動は驚くほどあっさりと幕を下ろしたのだった。
ユナはバニー姿のまま、丘の上に建つ立派な屋敷を見上げていた。石造りの門と広大な庭園、厳かな雰囲気が漂っている。
通りがかっただけだが、何やら使用人が慌てて門の外をうろついているのが目に入り、つい足を止める。
「あの……すみません! そこの方!」
使用人らしき初老の男性が、ユナを見つけて駆け寄ってきた。息を切らせながら、「ちょうどよいところに」と声をかける。
「領主様の森に、怪物が出るという情報がありまして……。先ほども近隣の農民が恐ろしい姿を見たと……」
「怪物? へえ、それで困ってるんですか?」
「ええ、少し前から森の木々が折られたり、獣の唸り声が響いたり……領主様もお困りなのです。もしよろしければ、あなたのような……その、冒険者さんに退治をお願いできませんか?」
使用人はユナの露出高めの格好に一瞬戸惑いながらも、必死に頼んでくる。
ユナは一拍考えたあと、「まあ、ちょっと覗いてみるくらいなら」と興味本位で頷いた。
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貴族の屋敷の裏手に広がる森。背の高い木々がうっそうと茂っており、中は薄暗い。
ユナはバニー耳を小さく動かしつつ、木漏れ日の下を進んでいく。
「怪物ってどんな感じかなあ。今度はイノシシとかじゃないといいけど」
多少の緊張感もあるが、心のどこかで「まあ、なんとかなるでしょ」と思っている。
やがて森の奥から、獣の唸り声とガサガサと暴れる音が聞こえてきた。
「うわ、すごい怒ってる?」
近づいてみると、そこには大きなドラゴンの亜種のような尻尾を持つ怪物がいた。胴体はトカゲに近いが、背には棘のような突起が並び、口からは牙がのぞいている。
しかし、よく見るとその尻尾の先が太い木の割れ目に挟まって動けなくなっている様子だ。
「……あれ? もしかして、尻尾が引っかかっただけ?」
尻尾を抜けなくて暴れているだけなのか、怪物はギャウギャウ吠えては地面を掻くが、どうにも身動きがとれないようだ。
ユナは「あらら……」と拍子抜けしながら、近づいてみる。
「……もしかして、助けてあげたらおとなしくなる?」
怪物が凶悪な顔で睨んでくるものの、ユナがバニー姿で“きょとん”とした態度をとると、なんだか向こうも威嚇しきれず微妙に困惑している。
とりあえず尻尾が挟まっている木の割れ目を確認すると、折れかけた枝のようなものががっちり噛んでいて外れない状態になっていた。
「よいしょ……」
ユナがその枝を軽く蹴り折ると、パキンと音を立てて割れ目が緩む。すると怪物の尻尾がすぽっと抜け、いきなり自由になった。
直後、怪物が勢いよく後ずさって「ブガッ……!」と唸る。
「……あ、ごめんね。痛かった?」
バニー耳を揺らしながら心配そうに声をかけるユナ。
一方、怪物はというと尻尾をぶんぶん振り回し、しばらくは警戒していたが、痛みも治まったのか、やがてその場を逃げるように走っていく。
ドドドッという地響きを残し、森の奥へ消えていった。
「これで終わり……なのかな」
あまりのあっさりぶりに拍子抜けしつつ、ユナは後を追う気にもならない。そもそも討伐するつもりもなかったし、ただ挟まっていただけなら仕方ない。
尻尾が外れて怪物が森の向こうへ逃げ去ったことで、特にもう騒ぎの原因は解決したも同然だろう。
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屋敷の近くまで戻ると、使用人や領主らしき貴族が待ち構えていた。
領主は上品そうな顔で手袋をはめ、むしろ「怪物と戦う姿を見るのでは」と身構えていたのかもしれない。だが、ユナが戻ってきた時には特に傷もなく、ただのんきな表情。
「お、おお、どうだったね? 怪物は退治できたのか?」
「退治というか……尻尾が挟まってただけだったので、外してあげたら逃げちゃいましたよ」
「……は?」
貴族をはじめ、その場の誰もが目を丸くする。
何やら凶悪な怪物だと聞いていたのに、そんな簡単に解決してしまうとは想定外のようだ。
「そ、それは……もう戻ってこないのか?」
「さあ、どうですかね。でも怪我もしただろうし、あんな思いをしたら二度と来ないんじゃないかな」
さらりと言うユナに、貴族は一瞬呆然。けれど、すぐにほっと安堵の表情に変わった。
背後の使用人たちも顔を見合わせ、「よかった……これで領地が荒らされずに済む」と胸をなでおろしている。
「と、とにかく助かった! 本当にありがとう。ぜひお礼をさせてくれ。高価な礼金を用意させるが、受け取ってくれるか?」
領主は拍手を一つ打ち、側近がなにやら宝箱らしき箱を抱えてきた。中には金貨や宝石といった高額報酬になりそうなものがぎっしり。
だが、ユナはそれを見て興味なさそうに首を振る。
「うーん、ちょっと重そうですね。持ち歩くのも大変だし……わたしはいらないですよ」
「い、いらない……!?」
貴族はショックを受けたように目を見開き、「こんな大金を辞退するとは……」と絶句。周囲の者も「本気か?」とざわつき出す。
ユナはたいして気にする様子もなく、バニー姿のまま軽く手を振る。
「はい、じゃあわたしはこれで。ありがとうございましたー」
「ま、待って! せめて屋敷でお茶でも……」
貴族が引き留めようとするが、ユナは「次の街へ行きたいし」と笑って答え、さっさと門の外へ出てしまう。
使用人たちは唖然としながら見送るしかなかった。
---
「まあ、重い荷物持っても荷札になるだけだし……いいよね」
屋敷を離れ、再び街道に戻ったユナは、バニー耳を揺らしながら呟く。あの怪物が本当に猛威を振るっていたら、また展開は違ったかもしれないが、今回も問題なく解決してしまった。
報酬を辞退するのはもったいないかもしれないが、ユナにとっては特に必要性を感じない。
「次の街では何があるかな……」
妹の手がかりは依然として見つかっていないが、旅を続けるうちになんとかなるだろう。
ユナはそんな他愛もないことを考えながら、いつもの調子で歩き始める。あとには大金を惜しんだ貴族の嘆きと、「それでも領地が救われた」という感謝の言葉が残るのみ――。
こうして、また一つの騒動は驚くほどあっさりと幕を下ろしたのだった。
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