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「うわあ……すごい人だかり」
ユナはバニー姿のまま、大都市に設営された武闘大会の会場へやって来た。
さすがに大会当日とあって、入り口から既に大勢の観客が押し寄せている。カラフルな旗やのぼりが並び、各地から集まった武芸者たちが意気揚々と闘志を燃やしているのが見える。
「ここが大会の会場かぁ……広いなあ」
巨大な円形闘技場のような建物で、観客席も相当な数がある。ちょうど予選が始まったところらしく、アナウンス(?)のような声が響きわたっていた。
「さーて、妹がいるかと思ったけど……どうだろう」
噂では“ナナ”なる人物が大会に出場すると聞き、ユナはこの場所に来たわけだが、あまりにも人が多すぎて誰が誰だか分からない。
とりあえず観客席に腰をおろして、リングで戦う選手をぼんやり眺めることにする。
---
「赤コーナー! ランディ・ザ・スピードスター! 青コーナー! ミラ・アイアンフィスト!」
リングでは選手紹介の声が響き、盛り上がった観衆がわーっと歓声をあげる。
ユナはぱちぱちと拍手はするが、それほど闘技に熱があるわけでもないため「へぇ、みんなすごい筋肉だなあ」くらいの感想しか浮かばない。
「妹、ナナ……いたらアナウンスされてるかな?」
試合をいくつか見ても“ナナ”らしき名前は呼ばれないし、周囲を見渡してもそんな人影は見当たらない。噂がデマだったのか、それとも別の日に登場するのか――どちらにせよ今は痕跡がない。
「うーん、いないのかな」
少し肩をすくめて立ち上がるユナ。すると、そのタイミングでスタッフらしき男が近づいてきた。
「失礼、そちらのバニーガールさん……もしや飛び入り参加をご希望でしょうか?」
「え? いや、全然。そんな予定ないですけど」
「そうですか。今、大会では飛び入り参加枠を募集していて、女性選手が少ないものですから、あなたのような方が出てくれると盛り上がるかと……」
スタッフはやけに熱心に勧誘してくる。恐らくバニー姿のユナがひときわ目立つため、観客を惹きつける要素として期待しているのだろう。
だがユナは「体力使うの嫌だし……そもそも興味ない」とあっさり断る。
「そう……残念です。でも、もし気が変わったら声をかけてくださいね」
スタッフは落胆した様子で去っていく。一方、周囲の観客の中には「バニーが試合出るのか?」と色めき立っている人もいたが、ユナはのんびりと首を振るだけ。
---
しかし、ひとたび目立つとそれだけ注目が集中してしまうのがこの場の性か、いつの間にかユナのまわりにひそひそ話が広がりはじめた。
「なあ、あれってもしかしてすごい腕力持ってる子じゃないか?」「昔噂になったバニーの冒険者ってやつか?」
…などなど、どこから出たか分からない噂も飛び交い、やたら興味を持たれている雰囲気。
中には「ぜひ試合に出てくれ!」と直接声をかけてくる者もいて、小さな騒ぎに発展しかけていた。
「い、いや、だから……わたし戦うつもりないんですよ」
ユナが苦笑いで断り続けるが、興奮した観客や選手たちは聞く耳を持たないらしい。あげくの果てには「腕試しだけでも」「せめてエキシビションで一分だけ戦って」などとしつこく絡まれ始める。
(うわ、めんどくさ……)
さすがに困り果てたユナだが、タイミングよく別の試合が始まり、そちらが面白そうなカードだったため、人々の関心はそっちに向かう。
さらに、なぜかユナの“色気オーラ”にあてられた一部の男性たちがフラフラと倒れかけたことで周りが騒がしくなり、そのまま有耶無耶に。
---
結局、妹ナナとやらは見つからないまま。
ユナは肩を落として帰ろうかとも思ったが、すでに日も傾いてきたので、いったん街の宿に泊まることにする。
大会は明日も続くのだが、今のところナナらしき選手のエントリーは見当たらないという話だった。
「んー、本当にデマ情報だったのかな。とりあえず、明日も少し覗いてみて、いなかったら移動しよ」
ホテルのような大きな宿にチェックインし、ユナはバニー姿のままベッドに転がる。武闘大会は盛り上がっているが、彼女にはあまり興味が持てない。それより妹を見つけたいが、今日は空振り。
とはいえ焦りや落胆といった感情はほとんどない。「まあ仕方ないよね」と思いつつ、モフモフの枕に顔をうずめてゆるゆるくつろぐ。
外からはまだ観客の熱気や歓声が遠く聞こえてくる。大都市らしく夜も賑やかだが、ユナはもう眠気に誘われて目を閉じるところだ。
こうして、妹の手がかりを得ることなく、バニー姿のまま今日も一日が過ぎていく。明日こそは会えるのか、それとも何も起きずに去るだけなのか――ユナ自身も分からないまま夢の中へ落ちていった。
ユナはバニー姿のまま、大都市に設営された武闘大会の会場へやって来た。
さすがに大会当日とあって、入り口から既に大勢の観客が押し寄せている。カラフルな旗やのぼりが並び、各地から集まった武芸者たちが意気揚々と闘志を燃やしているのが見える。
「ここが大会の会場かぁ……広いなあ」
巨大な円形闘技場のような建物で、観客席も相当な数がある。ちょうど予選が始まったところらしく、アナウンス(?)のような声が響きわたっていた。
「さーて、妹がいるかと思ったけど……どうだろう」
噂では“ナナ”なる人物が大会に出場すると聞き、ユナはこの場所に来たわけだが、あまりにも人が多すぎて誰が誰だか分からない。
とりあえず観客席に腰をおろして、リングで戦う選手をぼんやり眺めることにする。
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「赤コーナー! ランディ・ザ・スピードスター! 青コーナー! ミラ・アイアンフィスト!」
リングでは選手紹介の声が響き、盛り上がった観衆がわーっと歓声をあげる。
ユナはぱちぱちと拍手はするが、それほど闘技に熱があるわけでもないため「へぇ、みんなすごい筋肉だなあ」くらいの感想しか浮かばない。
「妹、ナナ……いたらアナウンスされてるかな?」
試合をいくつか見ても“ナナ”らしき名前は呼ばれないし、周囲を見渡してもそんな人影は見当たらない。噂がデマだったのか、それとも別の日に登場するのか――どちらにせよ今は痕跡がない。
「うーん、いないのかな」
少し肩をすくめて立ち上がるユナ。すると、そのタイミングでスタッフらしき男が近づいてきた。
「失礼、そちらのバニーガールさん……もしや飛び入り参加をご希望でしょうか?」
「え? いや、全然。そんな予定ないですけど」
「そうですか。今、大会では飛び入り参加枠を募集していて、女性選手が少ないものですから、あなたのような方が出てくれると盛り上がるかと……」
スタッフはやけに熱心に勧誘してくる。恐らくバニー姿のユナがひときわ目立つため、観客を惹きつける要素として期待しているのだろう。
だがユナは「体力使うの嫌だし……そもそも興味ない」とあっさり断る。
「そう……残念です。でも、もし気が変わったら声をかけてくださいね」
スタッフは落胆した様子で去っていく。一方、周囲の観客の中には「バニーが試合出るのか?」と色めき立っている人もいたが、ユナはのんびりと首を振るだけ。
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しかし、ひとたび目立つとそれだけ注目が集中してしまうのがこの場の性か、いつの間にかユナのまわりにひそひそ話が広がりはじめた。
「なあ、あれってもしかしてすごい腕力持ってる子じゃないか?」「昔噂になったバニーの冒険者ってやつか?」
…などなど、どこから出たか分からない噂も飛び交い、やたら興味を持たれている雰囲気。
中には「ぜひ試合に出てくれ!」と直接声をかけてくる者もいて、小さな騒ぎに発展しかけていた。
「い、いや、だから……わたし戦うつもりないんですよ」
ユナが苦笑いで断り続けるが、興奮した観客や選手たちは聞く耳を持たないらしい。あげくの果てには「腕試しだけでも」「せめてエキシビションで一分だけ戦って」などとしつこく絡まれ始める。
(うわ、めんどくさ……)
さすがに困り果てたユナだが、タイミングよく別の試合が始まり、そちらが面白そうなカードだったため、人々の関心はそっちに向かう。
さらに、なぜかユナの“色気オーラ”にあてられた一部の男性たちがフラフラと倒れかけたことで周りが騒がしくなり、そのまま有耶無耶に。
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結局、妹ナナとやらは見つからないまま。
ユナは肩を落として帰ろうかとも思ったが、すでに日も傾いてきたので、いったん街の宿に泊まることにする。
大会は明日も続くのだが、今のところナナらしき選手のエントリーは見当たらないという話だった。
「んー、本当にデマ情報だったのかな。とりあえず、明日も少し覗いてみて、いなかったら移動しよ」
ホテルのような大きな宿にチェックインし、ユナはバニー姿のままベッドに転がる。武闘大会は盛り上がっているが、彼女にはあまり興味が持てない。それより妹を見つけたいが、今日は空振り。
とはいえ焦りや落胆といった感情はほとんどない。「まあ仕方ないよね」と思いつつ、モフモフの枕に顔をうずめてゆるゆるくつろぐ。
外からはまだ観客の熱気や歓声が遠く聞こえてくる。大都市らしく夜も賑やかだが、ユナはもう眠気に誘われて目を閉じるところだ。
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