四季物語 冬の山~ララとカイヤックブール~

ホーク・ハイ

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太陽と希望

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「ベラよ、心配をかけました」
グリアナンは、優しい光りを一筋、ベラに向けて話した。
「許しは得たのか?」
ベラは、太陽の光りをまぶしがらずに、ジッと見つめて落ち着いて訊いた。
「はい……。長い年月が経ちましたが、こうしてまた、皆の前に現れることができました」
グリアナンの言葉に、ベラはゆっくりと大きくうなずいた。
「〟四季変わりのインディオ〝の若き女戦士よ……」
グリアナンは、ノーツに光りを向けた。ノーツは、ララから離れると、その場に凛々しく立ち尽くした。
「私の娘、カイヤックブールがとても許しがたいことをしました。謝って許されることではないのはわかっています。でも、せめてもの誠意をさせてください」
グリアナンは、ノーツの握っている左の拳に光りを当てた。ノーツが手を開くと、砕けた石が光り輝いて浮かび上がった。
砕けた石がグリアナンと重なると、ノーツは赤い光りを浴びた。石はゆっくりと元の形を変えると、そこに赤く光ったハモーの姿が現れた。
「父様!」
ノーツは、一歩踏み出して叫んだ。目には、また涙がたまっているが、けして泣いてはいなかった。
「ノーツ。本当に大きくなったな……。オレも鼻が高い」
ハモーは、悪戯っぽく人差し指で鼻をさすった。その顔に、ノーツは思わず吹いてしまった。
「笑うなよ!」
強めにハモーは言ったが、すぐに笑顔に戻った。
「ノーツ、お前とゆっくり話したいが、そうもしていられない。オレが死んだとき、まだ小さかったお前が、ベラと共に戦っている姿を見て、もうオレは、この世に何も思い残すことはなくなった。ノーツ、立派な戦士になったな」
ハモーは、赤く光る手をノーツの頭に乗せた。ノーツは、一度顔を伏せたが、すぐに涙をふき、ハモーに向かって微笑んだ。
「お前に渡すものがある」ハモーは、右の拳を握り前に突き出した。
「ノン、チラムセチナオヲ(我、神の使いなり)」
ハモーは、拳に集中し呪文を唱えた。すると、ハモーの拳に、先ほどノーツが放った弓が現れた。
「父様、これは……」
ノーツは、その弓を見て驚いた。弓の真ん中に鷲の木彫りの装飾がされていた。
「この弓は、お前が生まれたときに、オレと杯をかわしたドワーフの武器職人〟ドドガガフ〝に作ってもらったものだ。お前の名前〟ノォツ(鷲)〝を飾った最高傑作だ。だが、これはオレの弓ではない。今のお前なら――」
ハモーは、さらに手を出してノーツの前に弓を突き出した。ノーツがもらうのを戸惑うと、ハモーはノーツの胸に弓を押し当てた。ノーツは、弓を落としそうになり、慌てて弓を受け取った。
「早く受け取れよ」
ハモーは、優しい笑顔で言った。
「でも父様、私、弓へたくそなのよ……」
ノーツは、ハモーに申し訳なさそうに話した。
「練習しろ」そう言うと、ノーツとハモーは、見つめ合って笑った。
そのノーツの凛々しさに、ララは泣いている自分が恥ずかしくなり、涙を拭いてスッと立ち上がって二人の光景を見つめた。シュワルツがララに寄り添うように近づくと、ララは頭の毛をなでた。
「時間だ。もう行かなきゃ」
ハモーは、赤い光りを放って石に戻っていく。
「父様!」
ノーツは、石に駆け寄り泣きながらハモーを呼んだ。
「お前は立派な戦士になれる。ジョ・ジョリンヌの言うことを聞いて、最高の戦士になれ!」
ハモーは優しい笑顔を残し、真っ赤に光る石に戻った。ノーツは、石を見上げながらその場に膝をつき、人目もはばからず大きな声で泣いた。ララも頬を流れる涙を手の平で拭いて、しっかりとノーツを見守っていた。
「パルカ、お願いします」
グリアナンに頼まれたゴッド・マザーは、宙に浮く赤い石を手にとって優しく息をかけた。
「〟四季変わりのインディオ〝の若き女戦士よ。石を清めさせてもらいました。父は、しっかりと成仏できましたよ」
ゴッド・マザーは、しわくちゃの手をノーツの前にそっと差し出した。ノーツが涙を拭きながら見ると、ゴッド・マザーの手の平の上に赤い目のような細い線の入った黒い石が乗せられていた。
「この石の名は〟ティガ・ロッソ〝。父の形見です。大事にしなさい」
優しい笑顔のゴッド・マザーの手から、ノーツは石を取った。
「父様……」
ノーツは、弓と石を抱きしめて立ち上がる。
「ゴッド・マザー、冬の小さな太陽グリアナン、ありがとう」
ノーツは、手で口を叩いて声を出し、ミタ・インディオのお礼をした。
「アワヮヮヮヮ!」
その声は、哀しみを乗り越えた強い声だった。ゴッド・マザーは、頭を小さく下げ、ノーツのお礼に答えた。

「わが友、冬の女王ベラリサ……」
次に、光りが差したのはベラだった。
「あなたには、大変お世話になりました。礼を言います」
グリアナンは一度、まぶしく光って礼を表した。
「気にするな。お前には、娘のリンネが世話になっているからな。お互い様だ。だが――」
ベラは、雪の上に横たわるカイヤックブールを見つめた。
「お前の娘は、助けられなかった……」
ベラがたそがれていると、グリアナンが優しい光りでベラを一層強く包み込んだ。
「そんなことはありません。娘も、最後にあなたの優しさを感じ、幸せだったと思います」
ベラはその言葉に、無表情を貫いたが、目から涙が一筋静かに流れた。
「お前にも感謝します。勇敢なる白き狼よ。ありがとう」
グリアナンが、ララの隣にいるシュワルツに光を当てて言った。シュワルツは、グリアナンのお礼に答えるように、優しく強く遠吠えをした。
「よかったね」シュワルツの頭を、嬉しそうにララはなでていた。シュワルツは、体を激しく振っていた。
「そして、〟定めの子〝ララ……」
グリアナンの言葉に、ベラもシュワルツ、ゴッド・マザーまでもがララを見た。
グリアナン優しい光りをララに当てるが、ララは自分のことを呼ばれているのか、確信が持てないままグリアナンを見上げた。
「〟定めの子〝……?」
ララは、険しい顔でグリアナンを見た。
「どういうこと?」
「まずは、お礼をさせてください。あなたは、わが娘カイヤックブールの憎悪の心を清め、安らかに眠らせてくれました。本当にありがとう」
グリアナンは、ベラと同様、一度まぶしく光った。ララは、照れくさそうに頬を掻いた。
「そうかな……。 でも、死んでしまったら意味ないよね……」
ララはうつむくと、申し訳なさそうに話した。グリアナンは、よりまぶしくララに優しく光りを当てた。
「そんなことはありません。生きる者には、死んでも意味はあります。意味のない者がいないように、死んでも意味のない者などいないのです」
グリアナンの言葉に、ララは少し気持ちが軽くなったような気がした。グリアナンの言葉は、優しくララの心に響いた。ララの顔に笑顔が戻った。
「ここから話は変わりますが――」
グリアナンがそう言うと、一同に緊張が走った。ベラも、グリアナンを怖い顔で見ている。それとは対照的に、ノーツとシュワルツは心配そうにララを見ていた。ララは、固唾をのんでグリアナンを見ていた。
「〟定めの子〝ララ。あなたは、宿命を背負って生まれてきた子です。これから起こることを、あなたは自分の力で、みんなの助けを借りて乗り越えなければなりません。
しかし、あなたに近寄る人の中には、いい人もいれば悪い人もいます。このことを知っているのは、まだほんの少数です。だけどその中には、あなたを利用して、善からぬことを企む人たちもいることを忘れないでください。
その力を間違えれば、この星に存在するすべての世界が滅んでしまいかねません。それほど、あなたにはとてつもない力があるのです」
グリアナンの話は、ララにとって現実味のない話で、ララはどう表情に表していいかわからなかった。
「私、さっぱりわからないんだけど……」
ララは、困惑の表情でグリアナンにつぶやいた。
「どういうことだ!?」
ベラも、グリアナンを睨みつけて叫んだ。ララがベラを見ると、ベラはかなり動揺していた。何か引っかかることでもあるのかとララは訊きたかったが、ベラの表情を見るととても聞けなかった。
「わが友よ。察しているみたいですが、その通りです。幻ウサギも、ことを知っている数少ない者の一人です。あなた方〟季節の王家〝は、ララを助けるために準備をしなければなりません」
グリアナンは、低い声で重々しく話した。
「敵は……?」
ベラは、歯を噛みしめて訊いた。
「堕天使……とだけ言っておきましょう」
グリアナンの言葉を聞いて、ベラはうつむいて考えた。
「ベラ、さっぱりわかんない」
ララは、ベラの顔を見上げて訊くが、ベラの表情は曇ったままだった。
「すまぬ。今は何も言えない。まだ私も、確信が持てないのだ……」
ベラは、ララから目をそむけるように話した。ララはベラを見て、疎外感を覚えた。ノーツを見ても、ノーツも目をそむける。シュワルツでさえ、ララの顔を見なかった。
ララは、その場にうつむいてたたずんでいた。
「大丈夫です、〟定めの子〝ララ。時がくれば、心強い仲間たちが必ずあなたの前に現れます。だが、あなたの力はまだ小さい。時はまだ遠く、敵もまだあなたのことをうかがっているところ。敵は、すぐには来ないと思われます。
それでも敵は、準備をしています。敵が準備をしている分、あなたも準備する時間があります。これから、時と仲間があなたを強くします」
「でも私、そんな力ないよ」
ララは、心配そうにグリアナンに言った。グリアナンは、優しい光りをずっとララに照らしていた。
「力とは、心の強さ……。想いの強さです」
グリアナンはその言葉を最後に、その話をしなくなった。ララは、どうしていいかわからなくなり、その場でもじもじしていた。
それから、ララに話しかける者はいなかった。

すると、ゴッド・マザーが沈黙を破り離し始めた。
「私の仕事はまだ終わっていない――」
ゴッド・マザーはそう言うと、左手の親指のから光る糸のようなものを伸ばした。ララは、その糸をジッと見ていた。
「何あれ?」
「〟命の糸〝だ」
ベラの表情が戻り、落ち着いた口調で言った。
〟命の糸〝を、カイヤックブールの体に縛り、玉止めをするように糸を引っ張り、長くあまった糸をたがねで切った。すると、カイヤックブールの体は光りの泡となった。そして、引っ張ってできた糸の玉を中心に光りの玉ができた。
「私の仕事は、命も断ち切ることもするが、命を与えることも仕事です」
ゴッド・マザーは、ララに優しく話した。その優しい顔に、ララも安心したのかさっきまでの曇った顔がほころんだ。

ララは、光りの中心を見た。ララの目が、驚きと神秘の遭遇にまんまるに見開いた。
光りの中で、赤ん坊がうずくまっていたのだ。
「この子は、〟希望の子〝。グリアナンの新しい命。名は、カイヤックブール」
ゴッド・マザーはグリアナンに宣言するかのように、声高らかに叫んだ。
「神のご慈悲……か」
ベラは、グリアナンを見上げながら言った。ララは、その目が本心を語る目に見えた。とても嬉しそうな目だった。
「ゴッド・マザー、ベラ、そしてララ――」
冬の小さな太陽グリアナンが話し始めた。
「改めてお礼を言わせてください。今回は神のご慈悲もあり、新しい命を授かることができました。もう二度と、この子から離れません。ララ、人間たちには大変な恐怖を与えてしまったことを許して下さい。私は、この〟希望の子〝カイヤックブールを大切に育て、今度は人間たちに、幸せを与えるようしっかり育てたいと思います」
「うん! この子ならきっとできるよ!」
「ありがとう……」
ララの言葉に、グリアナンが笑っているようにララには見えた。ベラとノーツの顔も、自然とほころんだ。
カイヤックブールを包んだ光りの玉が、グリアナンの方に飛んでいく。その姿を、ララたちはじっと見つめていた。
グリアナンのそばに光りの玉が近づくと、ララはまぶしさに右手で光撃をさえぎる。
グリアナンは最後に笑うように光ると、空高く昇り、それから動かなくなった。

この日、数百年ぶりにすべての世界で、太陽が昇った日となった。

ゴッド・マザーは、ふと前を見た。すると、ララたちの前を何事もなかったかのように、バブーシュカが大きな荷物を背負って歩いていた。
あまりにも先ほどまでの出来事とギャップがあり過ぎる平和さに、ララたちはキョトンとバブーシュカを見ていた。
「ははは! プレゼント配りかぁ!?」
コリンは、いつの間にか元の姿のボギービーストに戻っていた。
「いつの間にか戻ってるし……」
ララは、腕を組んで顔をしかめた。さっきまで起こっていたことが、コリンを見ていると、まるで夢を見ていたみたいに思えて、なんだか笑えてきた。笑いが伝染し、ノーツも顔を下に向け笑い始めた。ベラもうつむき、鼻を押さえて微笑んだ。それを見たララは、とても嬉しくなった。人を睨み、さげすんでいた、ベラの本当の顔を見られたような気がした。
「何、笑ってんだよ!?」
コリンは、自分を見て笑っているララたちを見て怒った。怒っているコリンがさらに笑えて、ララたちは大声で笑った。コリンはさらに激怒するが、ララたちの笑い声は止まらない。張りつめた緊張と怖ろしい恐怖からの解放で、笑いが止まらなかった。
ララは思った。みんなも怖かったんだと。ベラも可愛がっていたカイヤックブールが元に戻って嬉しかったんだと。みんな涙を流して笑った。
「何だよ!」
コリンはふて腐れているが、みんなの笑いにつられ、最後はコリンが一番笑っていた。
「もうここには用はない、コドル・ナーゲンまで送ろう」
ベラが空に向かって杖を振るうとしたとき、コリンの顔が一瞬にして曇った。
「まさか――いきなりダメだっ……てえぇぇぇ!」
コリンの叫び声が響く中、ララたちは雪の精に包まれた。

ララたちは、コドル・ナーゲンの中央広場を歩いていた。
「コリン、大丈夫?」
ララたちの前を、フラフラしながら歩いているコリンを、心配そうに見つめてララが訊いた。
「大丈……うぷっ!夫だったら……、こんな歩き方にならない……」
コリンは、たまに嗚咽しながらフラついていた。ララとノーツは口を押さえて笑っていた。
「すまぬが、私はここでお別れだ」
ベラが、突然立ち止り話した。
「え、ここで?」
ララは、寂しそうにベラに訊いた。
「ララ、今回の働き、本当に感謝している。お前のおかげで、わが友の娘を救うことができた。ありがとう」
ベラは話し終えると、数百年ぶりに昇った冬の太陽を見上げた。ララも額に手を置いて太陽を見た。
太陽は、燦々と地上を照らしている。ララは光りに目を細めながら微笑んだ。
「シュワルツ、ララとノーツを頼む」
ベラの命令を察したかのように、シュワルツはお座りをすると、一回吠えて答えた。
「では、ララ。また会うことになるだろう。コリン、しっかり頼むぞ」
ベラは、コリンを睨みつけて話した。
「何が?」
コリンは、ベラの話している意味がわからず、顔をしかめて訊き返した。
「では――」
ベラはサッと振り向くと、目の前に現れた雪の渦の中に入り、雪の結晶となって消えた。
「行っちゃった……」
ララは、何も言えずにお別れしたのを寂しく思ったが、ベラの表情が出会ったときよりも優しくなっていたことが嬉しかった。ベラにまた会いたい、ララは心の底から願った。
「街外れまで送るよ」
ララがノーツに言うと、ノーツは恥ずかしそうに小さくうなづいた。

二人はゆっくりと歩いていたが、何も会話がなく黙々と歩いていた。二人の間を歩いていたシュワルツは、気まずい雰囲気を心配しているか、交互に二人の顔を見た。
「あのさ、さっきのことだけど――」
ノーツが、うつむきながら重い口を開いた。
「何……?」
ララは、何を言われるのか心配そうに小さな声で訊いた。コリンは、二人の会話など気にも留めず、悠々と二人の前を歩いていた。
「さっきの〟定めの子〝の話のとき、私、ララにどうやって接していいかわからなくなっちゃって……。ララから顔をそむけてしまった。もしかしたら、ララを傷つけちゃったかなって思って……」
ノーツの顔から、申し訳なさそうな感じを受けたララは、笑顔で話し始めた。
「全然! 傷ついてないよ! だって、私はいつも一人だし……」
「ララは一人じゃない!」
ノーツは、ララの言葉を強く否定した。
「あ、ありがとう……」
ノーツに圧倒されたララは、顔を引きつって礼を言った。
「ゴ、ゴメン……。急に大きな声出して……」
「ノーツ、気にしないで」
「でもね、今ははっきりしている。私は、ララを守る。〟定めの子〝だからじゃない。何て言うのかな……」
「〟ともだち〝だから?」
「〟ともだち〝って?」
「〟ともだち〝って、なんて言うのかな……、一緒に楽しんだり、泣いたり笑ったり、同じ時間を過ごす仲間……みたいな」
「〟ともだち〝……か。なんか、嬉しい言葉だね。私にも、〟ともだち〝が出来た!」ノーツの顔が、だんだん明るくなってきた。
「〟ともだち〝は、裏切らないし、いつでも助けてくれる人だからね。だから、私もノーツが困っていたら、すぐ助けに行くわ」
「うん! 私も!」
二人はお互いの顔を見つめて笑い合った。シュワルツも一安心といった表情だった。
「チッ! 何だよ! 太陽が出てるっていうのに、誰もいないじゃん!」
二人は、コリンを見た。コリンは、街を見渡して怒っていた。
「せっかく、カイヤックブールを倒したっていうのに。宴の準備は?」
コリンは、ララたちに向き直って訊いた。ララとノーツは頭を抱えて振っていた。
「でも、確かにこれじゃあ、太陽が昇ったことわからないよね」
ノーツは建物に近づくと、壁をなぞりながら歩いて言った。ララも何かいい方法はないかと考えた。
「そうだ! ララ、歌ってみたら」
ノーツは、名案が浮かんだことを嬉しそうにララに言った。
「えぇ……」
ララは、かったるそうに返事をした。今は、とても歌う気分じゃなかった。
「ララの歌じゃ、誰も起きないよ」
コリンは、ララをバカにしたように言った。ララは、コリンにバカにされて腹が立ち、睨みつけて言い返した。
「コリンの話なんか誰も聞かないしね。つまんないから」
「誰の話がつまらないんだよ! ララの歌の方がつまらないだろ!」
「コリンの話しよりはマシよ!」
「子どもがいきがるなよ!」
「人形がエラそうにしないで!」
二人は、ののしり合いながら顔を近づけ睨み合っていた。
「まるで子供のケンカね……。ね、シュワルツ」
ノーツもシュワルツも、二人を見て頭を抱えた。
「誰が子供だって!?」
二人は、ノーツに向かって怒鳴りつけた。
「ゴ、ゴメンなさい……」
ノーツとシュワルツは、二人の迫力のすごさに、壁に張り付いて謝った。ララとコリンは、向き合い睨み合うと、フンと鼻を鳴らし、顔をそむけふて腐れた。
「ダメだこりゃ……」
ノーツは、肩すくめてシュワルツを見た。シュワルツは、もう疲れたと言っているかのように、その場にへたりこんだ。
「あんたも大変だね……」
ノーツもその場に座り込み、シュワルツの頭をなでた。ノーツが二人に向き直ったとき、またララとコリンは言い争っていた。
「人形が知ったかぶらないでよ」
ララは、コリンに向かって雪玉を投げた。コリンは、ぶつかる寸前でよけ、舌を出してララをバカにした。
「どこ狙ってんだ!」
コリンは雪玉を作り、ララの顔めがけて投げつけた。
「キャァッ!」雪玉は、ララの額にクリーンヒットした。
ララは、額の当たった雪を手で払いながらコリンを睨みつける。コリンは、ララを指差して笑っていた。
「ほら、倒れろよ! ミタ・インディオのようにさ」
コリンは、白眼になって倒れるようにおどけながらララに言った。それはまるで、ミタ・インディオをバカにする言い方だった。
「やったわね……」
「ちょっと待った!」
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「ノーツに何するの!」
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「おお、シュワルツ。ありがとう」
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シュワルツの鋭い眼光に、ララは後ずさりした。シュワルツは、ララに向かって跳び上がり、ララとは反対向きに着地すると、後ろ足で地面を掻き上げ、大量の雪をララに掛け始めた。
「うわっ! ちょ、シュワルツ!」
ララは両腕で顔を覆いながら叫んだ。その声を聞いたノーツは、飛び上がるように起きると、シュワルツに体当たりをした。シュワルツは、雪の上に倒れこむ。
「ララに手を出すな!」
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「あ、ゴメン……」
ノーツが立ち尽くしていると、ララはニヤッと笑い、ノーツの顔に雪玉を投げつけた。
「やったわね……」
ノーツは雪玉をかわして、ララに、そしてコリンに雪玉を投げる。シュワルツも三人に向かって雪をかけた。もう誰をめがけてではなく、ただの雪合戦のように楽しみ、笑って遊んでいた。
「ちきしょう……」
コリンは、シュワルツが舞い上げる雪に向かって笑いながら走った。しかし、あまりの勢いに、コリンは家の間にある小さな雪山にぶつかった。
「ううぅ、つめてぇ!」
コリンは雪山のてっぺんから顔を出し、声を震わせて叫んだ。
すると、雪山が突然音を立てて崩れ始め、コリンは雪崩に流されるように雪山から落ちた。
「イテテテ……あれ?」
雪山から雪が亡くなると、そこは小さな家だった。ドアが、誰かに叩かれているかのように、ドスンドスンと音が鳴っている。ララたちは雪合戦を止め、小さな家のドアを見た。
すると、勢いよくドアが弾け壊れ、ネズミが怒ったように飛び出した。
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「うわぁ!」
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ララは、目を見開いてノーツに訊いたが、ノーツも見開いて首を横に振った。二人が窓を見ると、青色の二つの点はいなくなっていた。しかし、家の中から話し声が聞こえてきた。
――ママ、外に誰かいるよ!
――そんなわけないでしょ
――でも、騒々しいよな
――あなた、ちょっと見てきてよ
――ねえ、僕も外に出てもいい?
――ダメだ! 下がってなさい
――あなたは、こっちに来なさい
――チェッ!
話し声が終わると、窓にさっきより大きな青色の二つの点がキョロキョロ動き、ドアが激しく揺れたあと静かにゆっくりと開いた。出てきたのは、耳の尖がった色白の男だった。
「おお、エルフだ!」
コリンは、シュワルツの頭の上であぐらをかいて嬉しそうだった。
「エルフ……。映画で見たことある。本当にいるんだ……」
ララは、エルフの男をもの珍しそうに見ていた。エルフの男は、ドアからゆっくり顔を出しララたちを見た。そして、まぶしそうに太陽を見た。
すると、エルフの男を皮切りに、次々とドアが開き、外に住人体が出てきた。

「太陽が――グリアナンが戻ってきた!」


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