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第二章 流される夜
6話 二度目は突然に
しおりを挟む拓也との初めての夜から数日経った。
みいなはスマホを見ても、一向に連絡が来ないことに、
「やっぱり1回きりだったのかな……」と胸がざわついていた。
仕事の休憩時間、無意識にスマホを触ってしまうたび、
(期待してたの、わたし……?)
そんな自分を誤魔化すみたいに深呼吸する。
そして三日後。
夕方の終わりかけ、通知が震えた。
📱
「みいなちゃん、今日ヒマ?」
「連絡ないから、俺、みいなちゃんのことばっか考えてたよ」
「会いたい」
心臓が一段跳ねた。
「……嘘、来た……」
思わず小声で漏れたその響きが、
自分がどれだけ待っていたかをいちばんよく知っていた。
「ね、美咲、見て。
ほら……拓也くんから……!」
終業後のロッカールームで画面を見せると、美咲は眉を寄せた。
「……そう、かもね。気になってるのかも」
「え?違うの?」
「“本気なら”さ、翌日とかに連絡来るよ。
数日空いて、夜に……しかも当日誘うって。
まあ、遊びの人もよくやるパターン」
「……そっか」
胸の奥が、ちょっとしぼむ。
美咲はため息をつきつつ、真正面から聞いた。
「みいな、会いたいの?」
しばらく沈黙。
そして、みいなは素直に頷いた。
「……うん。
だってまた会いたいって言ってくれてるし……」
美咲はほんの少しだけ目を伏せて、
「じゃあ行ってきなよ。
ただ、信用しすぎないでね。そこだけは守って」
「……わかった」
夜の待ち合わせ場所。
街灯の下で拓也が手を振った。
「みいなちゃん!
なんか急に呼んじゃってごめんね。
……会いたかったから」
その声が思ったよりも柔らかくて、
みいなは胸の奥がふわっと温かくなる。
「……う、うん。来れてよかった」
「じゃあ行こっか」
自然に手を取られる。
その温度に、断れない理由がまたひとつ増える。
「みいなちゃん、今日食べたいものある?」
「え、拓也くんは?」
「んー。じゃあ俺のおすすめ行こうよ。
今日すごい楽しみにしてたんだ」
「わたしも……かも」
ただ“誘われた”だけじゃなく、
“楽しみにしてた”と言われると、心がほどけていく。
……こういうところが、ハマってしまう理由だと分かっているのに。
食べ終えたころ、拓也はおしぼりを弄びながら、少し照れたように言った。
「ねぇ、明日早いの?」
「ん……こないだと同じだよ。9時半」
「そっか。じゃあ……今日も、もう少し一緒にいたいなって思ってさ」
その言い方がずるい。
“押してる”のに“お願いしてる”みたいな声。
「あ……」
みいなが返事に迷った一瞬。
拓也は続けた。
「今日も……さ。
あの可愛いみいなちゃん、見たい」
子犬みたいな眼差しで見上げてくる。
(……そんな顔されたら、断れないよ)
「……うん。いいよ」
途端に、拓也の顔がぱぁっと明るくなる。
「ほんと?嬉しい」
その笑顔を向けられた瞬間、
胸の奥がきゅっと締まる。
“また求められた”という安心が、身体の中心に落ちてくる。
外に出た瞬間、夜の空気がふたりの間をすっと冷やす。
その温度差の中で、拓也がふいに横目でみいなを見た。
「……今日さ。
みいなちゃん、俺の前だと表情ちょっと柔らかいよね」
歩きながら、ほとんど触れない距離で手首を軽く引かれる。
「前より……俺のこと受け入れてくれてる感じする。それ、なんか……嬉しい」
声の温度が落ちて、ほんの少しだけ近い。
(……そんな言い方、ずるい)
本当はまだ迷っていた気持ちの真ん中に、
その“特別扱い”みたいな一言が静かに落ちる。
「……行こっか」
拓也が穏やかに笑った瞬間、
みいなの中で、迷いはそっと形を変えた。
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