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第三章 見つめて、手放して
17話 初めて、断った日
しおりを挟む「大地ってさ……ほんと、優しいっていうかさ……」
みいなはグラスを持ったまま、言葉を探すみたいに視線を少し落とした。
炭火の匂いがふわっと立ちのぼって、掘りごたつの中はじんわり暖かい。
そのとき。
──ピコン
スマホが小さく震える音。
テーブルの端で光った画面に、反射的に目が吸い寄せられた。
「あ、ごめんね、ちょっと」
みいなはそう言いながら、スマホを持ち上げる。
📱拓也
「みいなちゃん、いま何してる~?
俺飲み会なくなってさー、暇してる。
会いたいな~」
(……拓也、くん)
胸の奥が、きゅっと音を立てる。
さっきまで大地に向けていた気持ちが、急に引き戻される感じ。
そのわずかな間を、大地はちゃんと見逃さなかった。
「……どうした?」
箸を置いて、みいなの顔を見る。
「……もしかして、例のあいつか?」
一瞬、みいなは黙る。
嘘をつく理由もないし、ついたところで意味もない。
「うん……」
小さく頷く。
「なんて?」
声は低くて静か。でも、探るみたいな色がある。
「……飲み会なくなったから、今から会えないかって」
大地は箸を置いた。
グラスを触るでもなく、ただ、みいなを見る。
「ふーん」
その一言は淡々としてたけど、続く沈黙が少しだけ強かった。
「で、どうすんの」
みいなは、無意識にスマホを握り直していた。
今までなら、
“ちょっとだけなら”
“ごはんだけだし”
そんな言い訳が、勝手に頭に浮かんでた。
でも今日は、違う。
「……断るよ」
言葉にした瞬間、自分でも少し驚いた。
「今日は、大地と……飲んでるし」
大地は、ふっと息を吐いた。
「それ、理由にしていいんだよ」
「……え?」
「“今日は友達と飲んでる”
それだけで十分。気ぃ使う必要ない」
みいなは、もう一度スマホを見る。
画面は、返事を待ったまま。
指が止まる。
ほんの数秒。でも、その間にいろんな記憶がよぎる。
夜は優しくて、
朝はあっさりしてて、
それでも呼ばれると、また行ってしまっていた自分。
(……断るの、はじめてだ)
ゆっくりと文字を打つ。
📱
「ごめんね
今日は友達と飲んでるからまた今度にしよ」
送信。
既読がつく前に、画面を伏せた。
「……送った?」
「うん」
声が、少しだけ震えた気がする。
大地は何も言わず、グラスを持ち上げた。
「えらいじゃん」
その一言が、妙に胸に沁みる。
みいなは苦笑いして、肩をすくめた。
「なんかさ……
断っただけなのに、変な感じ」
「そりゃそうだろ」
大地は軽く笑った。
「でもな、それ
“流されなかった”ってことだから」
みいなは、じんわり温くなったグラスを両手で包む。
胸の奥にあったザワザワが、
完全じゃないけど、少しだけ静まっていた。
(……今日、来てよかったかも)
そう思った自分に、ちょっとだけ驚きながら。
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