【完結】脇役令嬢だって死にたくない

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5.約束


「その細腕で本当に剣が振れるのか?」

 重ねられる質問に、ミアの口元は更に大きく歪んだ。
 この少年、嫌味ではなく純粋に疑問に思っているのだろうが、どうにも癇に障るところがある。

 ひとつ息を吐いてから、ミアは少年と向き合っていた体を方向転換させ、

 ──ビュッ!

 風と共に流れてきた葉を切って見せた。
 二つに裂けてはらりとまた風に靡く。
 そうして鮮やかな切り口を晒しながら芝の上に音もなく着地した。
 その様を視線で見送った後、ミアは少年へと目を向ける。

「女だからと甘く見ないで。少なくともどこかの箱入り風の坊やよりは振るえるんじゃないかしら」

 語尾に「フン」とでも付きそうな様子で言うが、当の少年にはそんな嫌味が通じていないようで、ズンズンとこちらに迫ってきた。

 驚いて後ずさるが腕を引かれて距離を詰められる。
 存外強い力にも驚きつつ、間近で見る黒真珠のような瞳の奥に、好奇心という名の灯が揺らめいていることに気付いた。

「すごいな」

 声音もわずかに弾んでいる気がする。
 触れている部分を見つめて「肉体強化の魔法か。なるほど」と、独り言のように呟いて納得している。
 そう見てわかるということは、彼も同じく魔力を持つ者だということだ。

「魔法も剣筋も繊細で、見事だ」

「……ど、どぅも……」

 綻ぶような些細な笑みだったが、本心らしい賞賛と共に向けられるとミアも先ほどまでの怒りなど忘れてたじろぐしかなかった。

「是非、手合わせをしないか」

 そんな誘いを受けて余計にたじろぐ。
 手合わせ、彼は確かに手合わせと言ったけれど──疑問符を浮かべながら少年を眺める。
 丸腰である。
 言わずとも察したのか、少年は「ああ…」と憂鬱そうにぼやいた。

「そうだ、今日は剣を持っていないんだった……」

 今日は、ということはいつもは持っているということなのか。

「貴方こそ、そんなに小さな体で剣を振るえるの?」

 今度は少年の方が表情を曇らせる番だった。
 曇らせるといってもスンと冷たい表情になるということで、端正な顔をしているせいもあって余計に冷ややかで怖かった。

 ミアは慌てて「ただ、疑問で、悪い意味ではなくて、」と言い訳のように並べた。
 単純に疑問に思ったことをつい口に出してしまい、さっきの少年はこういう気持ちだったのかとバツが悪くなる。

「……では明日おなじ時間に、君と『箱入り風の坊や』と、どちらの方が腕が立つか明らかにしようか」

 ミアが放った嫌味はちゃっかり受け取られていて、それを妙に強調して言う少年に思わず口元が引き攣った。居たたまれない。
 しかしそれ以上に偶然の産物による機会に胸が高鳴る。

(先生以外の方と剣を交えるなんて、はじめてだわ)

 なのでミアは快く頷いた。
 お互いに年相応の闘争心が逸ってか、自己紹介などし合うこともないままその日は解散となった。
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