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第5章 ヤーベ、地元のピンチに奮い立つ!

閑話5 ギルドマスターの葛藤 中編

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「やっほー、お久~」

「お久じゃねーよ! どんだけ使役獣連れて来てるんだよ!」

副ギルドマスターのサリーナを西門にやってしばらく、ヤーベの六十一頭の使役獣登録が終わったと報告を受けた。ヤーベも来ているとのことで部屋に入るよう告げたのだが、入ってすぐのセリフがこれだ。

こいつ、本当にふざけてやがる。
挙句、使役獣のペンダントをたっぷり用意しておけだと!
ギルドの予算は厳しいっての!

そういや、まだ食事の途中だったな。ヤーベの野郎、テーブルの上にあるスラ・スタイルや唐揚げに興味津々と言ったところか。どれ、一つ俺様が解説してやるか。

「田舎モンのお前さんにゃ初めて見る食べ物かもしれねーけどな。ワイルドボアのスラ・スタイルって料理と、アースバードの唐揚げって食べ物だ。今この町で大流行りなんだぜ。王都でも流行る事間違いなしって人気の食べ物さ」

はっはっは、ヤーベのような田舎モンにゃあ、食べたことない料理だろうさ!
食べたそうにしてもやらんぞ! なんせこれは俺のメシだからな!

「これはヤーベ殿が考案した料理ではないか。カソの村の開村祭で振る舞った時の」



「ブフォッ!」



なんだと!?

「おわっ!汚い!」

「ギルドマスター、大丈夫ですか?」

サリーナがテーブルを拭いてお茶をくれる。本当にサリーナを副ギルドマスターに抜擢してよかった。それにしても・・・。

「お、お前が考えたのか!?」

「まあなんだ、そうなるかな・・・」

若干遠い目をして語るヤーベ。
なんだよ、訳ありか?
とんでもねー魔力の持ち主だから、単なる戦闘バカだと思ったら、コイツ料理も出来るのかよ。

「まあ、そのおかげでこの町の屋台街も盛り上がっている。経済的にもいい影響が期待できるってナイセーも言っていたしな。その事は素直に感謝したいところだ。特に俺はこのアースバードの唐揚げにめちゃくちゃハマっていてな・・・、これホントにうまいよな」

唐揚げを口に入れる。外側のカリッとした触感に対して中の肉のジューシーな事と言ったら! ヤーベは気にくわんことが多いが、この唐揚げだけは褒めてやってもいい。

「役に立つことが出来て何よりだよ」

こーいうトコ、良い奴っぽいんだよな、ヤーベってやつは。
裏表なく、シンプルに人が喜んでくれることを喜べる奴ってのは間違いなく良い奴なんだ。

「それで? 今日は使役獣の自慢にでも来たのか?」

六十一頭も引き連れて町にやって来るなよな。ジョーシキってものを考えろよ、ジョーシキってものをさ。

「ああ、そう言えばこの町の北にある迷宮で<迷宮氾濫スタンピード>寸前って情報が入ったんでね。ゾリアに相談に来たんだけど」

はっ? コイツ、今何て言った・・・?

迷宮氾濫スタンピード>・・・?

「・・・・・・早く言え――――――――――!!!!」

迷宮氾濫スタンピード>だとっ! 冗談じゃねぇ!

過去三百年以上記録が残っている限り<迷宮氾濫スタンピード>は一度もない。

このタイミングでか!

「ス、ス、<迷宮氾濫スタンピード>だとぉ! 本気なのか! ホントなのか! 事実なのか!」

「いや、落ち着けよ。本気だし、本当だし、事実だけど」

ローブの奥ですました顔でもしているのか、慌てることもなく淡々と説明するヤーベ。何でこいつこんなに落ち着いているんだよ!

「唐揚げの話してる場合じゃねーじゃねえか! サリーナ! そんな情報入っているか!?」

「いえ、まだギルドには何も・・・」

副ギルドマスターであるサリーナの元にもそんな情報は入って来ていない。
ヤーベの話では使役獣にいるヒヨコたちの情報収集からってことだが、かなりの広範囲から情報を収集できるみてーだな。

それにしても<迷宮氾濫スタンピード>か・・・、事実であればとんでもないことになるな。

「ギルドマスター、緊急発令を掛けますか?」

副ギルドマスターのサリーナが心配そうな顔で聞いてくる。
だが、ヤーベの報告だけで事を進めるわけにはいかん。
俺たちも自分の情報網で確認をしなければ。

「いや、まだ情報が足りん。ヤーベが嘘を言っているとは思わんが、ギルドも情報が欲しい。職員を迷宮に大至急派遣してくれ。それから衛兵詰め所に行って、迷宮管理担当に現地管理の交代員を送るタイミングで情報を取る様に指示してくれ。<迷宮氾濫スタンピード>なんてことになれば、どれだけの被害が出るかわからん」

「わかりました」

「それから、指示を出したら、お前が直接代官邸に赴いて代官のナイセーに取り次いでもらって事情を説明して来てくれ。出来ればすぐにでもこちらで打ち合わせを行いたいと申し入れてくれ。それから、情報は統制しろ。変に伝わるとパニックになりかねん」

「了解しました。それではすぐに対応します」

こんな時でも冷静なサリーナ。本当に頼りになるぜ。





さて、<迷宮氾濫スタンピード>の情報をヤーベから引き出そうと会話を続ける。どれくらい余裕がありそうか聞いたら、ほとんどないとか言いやがる。なんでだよ!

大体、カソの村の村長のひいひいひいひいひい爺さんの知り合いでガーリー・クッソーさん(108)の書き残した資料って!何だよそれ!知らねーよ!

そのうちCランクパーティ<呪島の解放者>のケガ情報が入って来た。
そして迷宮にオーガが出たとの報告が入る。

「オーガ!」

「オーガってヤバイのか?」

ヤーベが聞いてくる。こいつは魔物の事なんも知らねーからな。

「単体でゴブリンがEランク、オークがDランクだが、オーガは単体でもCランクだ。これが複数出ると、それぞれワンランクアップの危険度になる」

・・・あれ? そういやヤーベが使役してるのって、Cランクモンスターの狼牙じゃなかったか?それが六十頭? いや、六十一頭か。あれれ、<迷宮氾濫スタンピード>で出てくる魔物の数にもよるが、ヤーベの軍団だけで結構迎撃行けるんじゃね?

「・・・あれ? そういや、狼牙たちはCランクの分類だったか?」

「・・・そうだな。狼牙は単体でもCランク認定だ。お前は軍団で率いているから、Bランク脅威認定だな」

「勝手に脅威認定しないでくれ」

ヤーベが文句を言ってくるが、お前それだけの戦力を有しているって自覚しろよな。
てか、魔力53万のオメー自身がガチガチの脅威でヤベーヤツだけどな!

「だが、今はこれほど力強い味方はいねーと思ってるよ」

今ほどヤーベがいてくれてよかったと思ったことはない。
何せ魔力53万の男だしな。ヤベーけど。

「どれほど期待に応えられるかはわからんがな」

いやいや、ヤーベよ、おんぶにだっこでお前の力を借りるとしよう!
そして協議は代官のナイセーも交えて進んでいく。

俺は町の外壁を使った防御を提案するが、ナイセー殿が渋い顔をする。そりゃそうだよな、町の外壁で防御するのは、もはや背水の陣だからな。失敗は許されない。

どうせならヤーベが突撃して俺TUEEEEで魔物を蹴散らしてくれると最高なんだが・・・。

議論を進めていると、ギルド内でなにやらざわざわしている。。
俺はサリーナと顔を見合わせる。

トントン

扉がノックされた。

「はい」

サリーナが首を傾げながら扉を開けると、
そこには頭にヒヨコを乗せた狼牙がいた。
コイツ、狼牙にしてはずいぶんと図体がデカくないか?

「おいおい、ギルド内に使役獣を入れるのは禁止されているんだがな」

「そうなんです、ローガちゃん。建物内には入ってはだめなのですよ・・・」

そう言いながら跪いて巨大な狼牙の首に手を回しふさふさの毛に埋めるサリーナ。
だ、大丈夫か?

「こ、これが使役獣の狼牙? なんと立派な・・・」

代官のナイセーも初めて見る巨大な狼牙に驚いている。
もしかして、この狼牙Cランクどころの騒ぎじゃないんじゃないか?

ヤーベと狼牙とヒヨコは何か意思疎通しているようだ。

調教師テイマー>ってすげえな。ちょっと羨ましいぜ。

あれ?なんかヤーベがびっくりしてないか?

「どうした!」

「何があったのです?」

「<迷宮氾濫スタンピード>が始まって、迷宮から魔物が溢れ出たって」

「「えええーーーーーーー!!」」

もう!?もうなのか!早すぎない!?ねえ!
こーなったら、もう、ヤーベよ!
その力、全力で貸してくれ!
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