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1 自己紹介とは、人生の分岐点である
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この世界は沢山の不幸であふれている。実際、幸福な人間よりも不幸な人間の方が多いのだろう。
人は不幸を共有し、慰め合うことで救われようと試みる。もしくは下の人間を見て安心しようとする人もいるだろう。
一方で悩みや不幸を共有できずに救われない人間もいる。それらの人間は救われないまま深く、深く沈んでいく。
もし人間を救われる側と救われない側に分けようとするならば、俺は間違いなく救われない側の人間だ。
この日本に才堂慧玄という1人の天才がいた。幼少期で麒麟児と呼ばれ、後にいくつもの業界に進出。技術、経済あらゆる側面で偉業を成し、日本を育てた男とまで言われた人物である。
そして第2の才堂を作るべく生み出されたのが私立才堂学園高等部。学園といっても高等部以外は作られていない。それは、ある程度育った天才を選別するためである。実際、初めは全国から選りすぐりの人間を集めていたが、どうやらそんな天才は都合よく生まれて来ないらしい。
結局、才堂慧玄の才能の一つを越える人物を多数生み出す方向に舵を切ったらしい。元々あった推薦枠に加えて、一般受験枠が去年に新設され、様々な分野の天才や秀才が入学することになった。
そんな成り立ちもあって通常の高校よりもはるかに設備が充実している。大手財閥である才堂グループからの多額の出資によって学園都市が形成されているため、夢のような学生生活が確約されているのは言うまでもないだろう。
そんな将来有望な人間まみれの人間の中で俺は3年間を過ごす。2日前の入学式でその事実を身をもって認識した。
「…以上だ。これからの三年間が文武そして才を伸ばしていけるものであることを願う」
担任の挨拶と共にホームルームが終わり、生徒たちが自由に会話を始めた。私立といっても高校のみであるため進学組と新入組の壁なんてものがなく、全方位が初対面だ。コミュ力の高い者、容姿端麗な者、そういった人間が真っ先にコミュニティを作り、余った者同士で新たなコミュニティを形成する。そこは他の高校と何ら変わりないのだろう。
生徒の主体性を尊重し、伸ばす。そのためにあえてホームルームでは自己紹介の機会を設けなかったのだろう。残念なことに俺は四隅の一枠を賜ってしまったために、関われる人間が制限されている。右横の生徒はすでに他の生徒と話し始めてしまっている。身を乗り出してまで前の人に話しかける熱意もない。自然に学園都市のパンフレットに視線が移る。
幸い、一人でいることには慣れている。というか一人の方が気楽だ。なぜなら…
「あ、あああの!」
パンフレットで学校周辺の施設を確認していると、声をかけられた。ただここで声を出すのはリスクがある。聞き間違いに対して返事をした場合、ただただ気まずい空気になる。ここでの正しい行動は顔を上げることだ。
顔を上げると、前の席に座っていた人がこちらに体を向けている。声を出しても平気そうだ。
「ん?」
「ふぁあ、えっと…」
声をかけてきた女子も何を話すかまでは考えていなかったようだ。おそらくこの空気の中で何もしていなかったことが居た堪れなくなったのだろう。仕方ない。
「俺は鷹野瀬透。これからよろしく」
「わっ、私は天坂真白です!よろしくお願いします。」
「何で敬語なんだ?」
「あ、ごめん…直すね」
天坂。第一印象は不器用な良い人。緊張するタイプだが、一生懸命と評価を受けるタイプでもある。人に好かれる人。
「すごい学校だよねここ。飲食店や映画館にアウトレットまであって」
「だな」
「ちゃんとお小遣い計画立てないとすぐに金欠になりそうだね」
実際、高校生にとっては最高の施設だろう。一般客が居ないので定員オーバーなんてことはほとんどないだろう。そんな空間で金欠になるのはとても簡単だ。だが、
「そのための特別通貨システムなんだろな」
現代社会では能力のある人間から財を築いていく。そのシステムを丸々導入したのが技能報酬制度(Skill Reward System)だ。技能報酬制度、通称SRSでは、様々な分野で結果を出した生徒に対して学園側から生徒に対して、Skill Credit(SC)と呼ばれる特別な通貨が報酬として支給される。この特別通貨システムは才堂学園都市内全域に導入されているため、ここでは日本円と同価値の物として扱われる。生徒に才能・能力を使って稼ぐという経験をさせることで競争社会で生き残るスキルを持たせることが目的なのだろう。
また、獲得したSCの額は就職や大学入試で大きなアドバンテージになる。高校生活だけでなく、今後の人生でも使える特別通貨というものはエリート主義者にとって喉から手が出るほど欲しい物ということだ。
「いいなぁ。過去には一年生で2000万SCを稼いだ人もいるんだって」
「まぁ俺にはあまり関係のない話だ。回収可能なSCを取って節約生活をするのも一つの経験だ」
「そうだね。私も何か賞を取れるようなものも持ってないし」
と庶民的な思考が合致して会話が軌道に乗りそうなとき、1人の女子生徒が俺たちに話しかけてきた。
「2人とも!これから一年よろしくね!わたし星宮望愛!アイドル志望!」
いかにもキラキラしたオーラを纏った人物がやってきた。アイドル志望。ここの学校にはそういう人達もいるのか。
「わ、私、天坂真白。よろしくね」
「鷹野瀬透だ。よろしく」
「私、将来スター級のアイドルになりたいの!良かったら応援してくれないかな?!」
スター級。アイドル界のエリート志向にはこの学校はピッタリだろう。そしてこの学校でトップを目指すということは、少なくともクラス全員の応援は必須。
「もちろんだよ。頑張ってね星宮さん」
「望愛ちゃんでいいよ!みんなの夢も全力で応援してる!私で良ければいつでも力になるね!これから仲良くしてねー!」
その一言で充分だった。
俺はこの女、星宮望愛を信用しない。
人は不幸を共有し、慰め合うことで救われようと試みる。もしくは下の人間を見て安心しようとする人もいるだろう。
一方で悩みや不幸を共有できずに救われない人間もいる。それらの人間は救われないまま深く、深く沈んでいく。
もし人間を救われる側と救われない側に分けようとするならば、俺は間違いなく救われない側の人間だ。
この日本に才堂慧玄という1人の天才がいた。幼少期で麒麟児と呼ばれ、後にいくつもの業界に進出。技術、経済あらゆる側面で偉業を成し、日本を育てた男とまで言われた人物である。
そして第2の才堂を作るべく生み出されたのが私立才堂学園高等部。学園といっても高等部以外は作られていない。それは、ある程度育った天才を選別するためである。実際、初めは全国から選りすぐりの人間を集めていたが、どうやらそんな天才は都合よく生まれて来ないらしい。
結局、才堂慧玄の才能の一つを越える人物を多数生み出す方向に舵を切ったらしい。元々あった推薦枠に加えて、一般受験枠が去年に新設され、様々な分野の天才や秀才が入学することになった。
そんな成り立ちもあって通常の高校よりもはるかに設備が充実している。大手財閥である才堂グループからの多額の出資によって学園都市が形成されているため、夢のような学生生活が確約されているのは言うまでもないだろう。
そんな将来有望な人間まみれの人間の中で俺は3年間を過ごす。2日前の入学式でその事実を身をもって認識した。
「…以上だ。これからの三年間が文武そして才を伸ばしていけるものであることを願う」
担任の挨拶と共にホームルームが終わり、生徒たちが自由に会話を始めた。私立といっても高校のみであるため進学組と新入組の壁なんてものがなく、全方位が初対面だ。コミュ力の高い者、容姿端麗な者、そういった人間が真っ先にコミュニティを作り、余った者同士で新たなコミュニティを形成する。そこは他の高校と何ら変わりないのだろう。
生徒の主体性を尊重し、伸ばす。そのためにあえてホームルームでは自己紹介の機会を設けなかったのだろう。残念なことに俺は四隅の一枠を賜ってしまったために、関われる人間が制限されている。右横の生徒はすでに他の生徒と話し始めてしまっている。身を乗り出してまで前の人に話しかける熱意もない。自然に学園都市のパンフレットに視線が移る。
幸い、一人でいることには慣れている。というか一人の方が気楽だ。なぜなら…
「あ、あああの!」
パンフレットで学校周辺の施設を確認していると、声をかけられた。ただここで声を出すのはリスクがある。聞き間違いに対して返事をした場合、ただただ気まずい空気になる。ここでの正しい行動は顔を上げることだ。
顔を上げると、前の席に座っていた人がこちらに体を向けている。声を出しても平気そうだ。
「ん?」
「ふぁあ、えっと…」
声をかけてきた女子も何を話すかまでは考えていなかったようだ。おそらくこの空気の中で何もしていなかったことが居た堪れなくなったのだろう。仕方ない。
「俺は鷹野瀬透。これからよろしく」
「わっ、私は天坂真白です!よろしくお願いします。」
「何で敬語なんだ?」
「あ、ごめん…直すね」
天坂。第一印象は不器用な良い人。緊張するタイプだが、一生懸命と評価を受けるタイプでもある。人に好かれる人。
「すごい学校だよねここ。飲食店や映画館にアウトレットまであって」
「だな」
「ちゃんとお小遣い計画立てないとすぐに金欠になりそうだね」
実際、高校生にとっては最高の施設だろう。一般客が居ないので定員オーバーなんてことはほとんどないだろう。そんな空間で金欠になるのはとても簡単だ。だが、
「そのための特別通貨システムなんだろな」
現代社会では能力のある人間から財を築いていく。そのシステムを丸々導入したのが技能報酬制度(Skill Reward System)だ。技能報酬制度、通称SRSでは、様々な分野で結果を出した生徒に対して学園側から生徒に対して、Skill Credit(SC)と呼ばれる特別な通貨が報酬として支給される。この特別通貨システムは才堂学園都市内全域に導入されているため、ここでは日本円と同価値の物として扱われる。生徒に才能・能力を使って稼ぐという経験をさせることで競争社会で生き残るスキルを持たせることが目的なのだろう。
また、獲得したSCの額は就職や大学入試で大きなアドバンテージになる。高校生活だけでなく、今後の人生でも使える特別通貨というものはエリート主義者にとって喉から手が出るほど欲しい物ということだ。
「いいなぁ。過去には一年生で2000万SCを稼いだ人もいるんだって」
「まぁ俺にはあまり関係のない話だ。回収可能なSCを取って節約生活をするのも一つの経験だ」
「そうだね。私も何か賞を取れるようなものも持ってないし」
と庶民的な思考が合致して会話が軌道に乗りそうなとき、1人の女子生徒が俺たちに話しかけてきた。
「2人とも!これから一年よろしくね!わたし星宮望愛!アイドル志望!」
いかにもキラキラしたオーラを纏った人物がやってきた。アイドル志望。ここの学校にはそういう人達もいるのか。
「わ、私、天坂真白。よろしくね」
「鷹野瀬透だ。よろしく」
「私、将来スター級のアイドルになりたいの!良かったら応援してくれないかな?!」
スター級。アイドル界のエリート志向にはこの学校はピッタリだろう。そしてこの学校でトップを目指すということは、少なくともクラス全員の応援は必須。
「もちろんだよ。頑張ってね星宮さん」
「望愛ちゃんでいいよ!みんなの夢も全力で応援してる!私で良ければいつでも力になるね!これから仲良くしてねー!」
その一言で充分だった。
俺はこの女、星宮望愛を信用しない。
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