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リップサービス【近下視点】
高垣との出会い
しおりを挟む俺と高垣の出会いは入学式の時だった。
入学式で隣のクラスの高垣は、俺の隣に座っていた。
「緊張してる?」
そう高垣が話しかけてきた。
入学初日、絶対タイプの違う人間に躊躇なく話しかけられるのはさすが高垣だと思う。
俺は(なんだこのいかにもモテそうな奴……)って引いてしまった。
心配して声かけてくれたのに失礼な反応してしまったと思う……。
自覚してなかったけど、俺は相当顔色が悪かったようだ。
だけど、
「大丈夫、へいき……」
そう小さな声で伝えて俺は前に向き直った。
「じゃあ、これあげる。」
「え……」
「美味しいよ。」
高垣は包装されたレモン味の飴を渡してきた。
「先生にバレるよ……」
「俺、今口に入ってるけどバレてないよ。」
「……」
入学早々先生に怒られるのも嫌だけど、親切にしてくれてるので無下にできなくて、隠れて飴を口に運んだ。
高垣に視線を向けるとニコッとしてきた。
そしてすぐ式典が始まった。
結果的に飴を舐めたのはよかった。
飴の味に集中してると、なんだかリラックスできた。
それに急に喋りかけてきた知らない奴とコミュニケーション取ったから何でもドンと来いの気持ちになれた。
おかげで俺はクラスでも友人作りに成功した。
高垣は入学式以降も俺のこと覚えていてくれて、廊下ですれ違ったら手を振ってくれるし、集会の度に話しかけてくれた。
俺はそれが楽しみだった。
集会は高垣と喋れる、物理的に近い距離でいられる最高のイベントだったし、高垣の教室の前を通る時、廊下で高垣とすれ違う時はかなり意識してしまった。
そんな俺が高垣に恋してるのを自覚したのは、一年の林間学校の時だ。
俺は唇がカサカサでリップを塗ろうとしたが、ポッケの中からなくなっていることに気づいた。
(昼どっかで落としたんだ……唇割れやすいのに……ヤだな……)
集会が始まる前俺がごそごそしてる様子を後から来た高垣は見ていたらしい。
「近下どうしたの?」
「え、あ……リップなくした。唇カサカサだ。」
「俺の使う?」
「えっ」
(か、かかか間接キスだけど?!?!?!)
「いや、高垣のに俺の唇なんかつけたら……!!」
「あ……そうだよな。俺が使ったヤツだと抵抗あるか。」
高垣はへこむわけでも、嫌みでもなく、ただ無邪気な笑顔でそう返してきた。
「いや、高垣が使ってるから抵抗があるわけじゃなくて、俺が使うことに抵抗がある……!!」
「?あー……俺、姉ちゃんにリップ塗られたりするから、こういうの抵抗ないよ。」
(なんだよ、そのエピソード……陽キャの高垣らしいなぁ……)
「近下が嫌じゃなかったら、このリップもらって。俺のは母さんが勝手にカバンに押し込んだヤツだし、まだ一回しか使ってないから。」
「……」
また俺は高垣の好意を無下にできなかった。
それに……高垣と間接キスできることにドキドキしていた。
お礼を言って高垣からリップ受け取ると、すぐにそれを使った。
止めとけばよかったって思うくらい、顔が熱くて心臓がうるさくなった。
高垣は俺のキモい反応も気にしてないって感じだった。
(俺……こんなにドキドキして、高垣のこと好きなのかな……?!)
そう思ったら、高垣のすること成すこと全てがかっこよく思えた。
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