ぼくのねっこ

舟崎葵葉

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ぼくのねっこ

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ぼくの名前はケン。山辺小学校の一年生。

学校が終わったら、お父さんとお母さんが帰ってくるまで、
ずっとおじいちゃんとふたりきり。

ぼくにはお兄ちゃんやお姉ちゃんがいないし、なにもやることがない。

おじいちゃんは、草むしりをしたりまきをわったり忙しそうだ。
ぼくは、えんがわに座ってぼんやりとうら山をみていた。 

 お父さんは家具工場ではたらいている職人だ。お母さんも工場の仕事をしている。
さいきん、帰ってくるのがおそくなった。
 
放課後、カラスをおいかけていたら、いつの間にかうら山の雑木林の中にいた。
山小屋ちかくにある、くぬぎの木の根元にすわった。
幼なじみのサトシが引っ越した後も、ここにいた。

「サトシ――」
ぼくはさけんだ。声が山びこになってこだまする。
いま、サトシはなにをしているんだろう。

 バサバサバサー バサバサバサー
しばらく、すわっていたらたくさんのカラスが飛んでいくのがみえた。

「ケンくん」
「えっ」
ぼくはくぬぎの木をみあげた。葉っぱが風にゆれている。

「ケンくん」
「だっ、だれ? ぼくの名前をよぶのは」
立ちあがってあたりをみまわした。

「のぼっておいで。わたしは木のお母さん」
「うわぁ、木がしゃべった」
ぼくは後ろにのけぞって尻もちをついた。

「いててっ……」
「あらら、だいじょうぶ?」 
すると、枝がのびてぼくをだきかかえた。

「うっそー、体がもち上がったー」
ぼくは手足をバタバタさせた。

「サトシくんの家がみえるよ」
「えっ、どこ?」
「となり町の駅の向こうがわよ。青い屋根のお家」

お母さんの木の枝がのびて、遠くをさした。
ぼくは駅の向こうがわをじっとみつめた。

「建物がたくさんならんでいるよ」
家や学校が小さくみえる。

「あった! 青い屋根の家」
でも、サトシのすがたはない。

しばらくながめていると、木のお母さんがぼくをじめんにおろした。

「この細い道をまっすぐ行くと、お兄ちゃんがいるよ」 
お母さんの木が山小屋の後ろをさした。

「えっ?ぼくはひとりっ子だよ」 
ふしぎに思ったけれど、ぼくはお兄ちゃんにあいたくなった。

「さあ、行っておいで」
お母さんの木の枝が、ぼくの背中をそっとおした。

ぼくは、細い道を入って山道をのぼった。

しばらく行くと、きゅうに目の前がくらくなった。
「な、なんだ?」
みあげると枝をぐるんぐるんとふりまわしている木が立っていた。 

「ケン、チャンバラするぞ。兄ちゃんがきたえてやる」 
ぼくはあわてて落ちている枝をひろった。 
             
「トヤーッ」 
「ひっ、ひっ、ひゃあー」 
ぼくはむちゅうで枝をふりまわした。
あっという間に息がきれて、地べたにへたりこんだ。

「あれっ、姉ちゃんが歌っている」 
お兄ちゃんが、細い枝がしなだれている木をみながらいった。

【ここへおいで 弟よ
 ここにおいで 弟よ
 いつもここにいるよ
 いつもここでみているよ
 ずっと待っている 弟よ
 ずっと待っている 弟よ】

耳をすますと、ときどき透きとおるような声がきこえてくる。
 
ぼくは、枝をおいて歌声がする方に近づいていった。 
 
「ケンくん、ここまでのぼっておいで。私と一緒にうたいましょう」
「う、うん」 
ぼくはサルのように木によじのぼって、枝がかさなっているところにすわった。

【木々にさえずるムクドリよ
 大空を舞うカッコウよ
 届けておくれ 弟の歌
 届けておくれ 父さんに】

お姉ちゃんがうたうと花の甘い香りがした。
ぼくは歌に合わせて口笛をふいた。 

「お父さんのところへ行ってらっしゃい」

ぼくはポーンと空にとばされた。
ムクドリたちがぼくの横を飛んでいく。

はらっぱの真ん中に太くて大きな木がみえた。

「ケン、しっかりつかまって!」
大きな木の枝がぼくの体にまきついた。

「うわぁー、こわいよー」
ぼくは、びっくりしてさけんだ。 

「よくきたね、ぼうず。ずっとあいたかったよ」 

お父さんの木の枝がぼくの頭をなでた。
いつの間にかムクドリたちも枝に止まっている。

「ケンに海をみせてやろう」
すると、お父さん木が伸びてどんどん大きくなった。
 うら山のてっぺんをつきぬけると、カッコウのそばをとんでいた。

「海だ!」 
とおくに青い海がみえた。

青い地平線がどこまでもつづいている。
波がキラキラとかがいていた。 

「オレは世界で一番大きな木だ。ガオーー」 
お父さんの木がさけんだ。 

「ぼくのお父さんは世界で一番だ。ガオーー」 
ぼくもさけんだ。 

しばらく海をながめた後、お父さんがお母さんの木の近くでおろしてくれた。

「ケン、またあそぼう!」
お父さんの木はあっさりと帰っていった。

ぼくの耳に波の音がまだのこっていた。

「ケンくん、そろそろお家に帰ろうか」
お母さんの木がいった。
 
「みんなとはなれてさみしくないの?」 
「ちっとも」
お母さんの木がぼくを後ろからだきしめた。 

「だいじょうぶよ。ねっこでつながっているから」
「ねっこ?」
「そうよ」 
とおくから夕焼けこやけの曲がきこえて、ぼくは家に帰った。 

「ケンくんおそかったね。どこに行っていたの?」 
玄関を開けると、お母さんがこわい顔をしておこった。
 
「えっと…、その…、ぼく、みんなとあそんでいたんだ。 
ねえ、お母さんとぼくのねっこは、つながっている?」 

「なぁに、へんなこときくわね」
お母さんがかんがえむようにいった。

「ケン、帰ってきたのか」
おじいちゃんも部屋から出てきた。

「ケンがね、私とねっこがつながっているかって……」
「なに? ねっこ?」
おじいちゃんが聞きかえす。

「そうねぇ、ねっこがつながっているかもしれないわね」 
「うん、よかった」 
ぼくは、なんだか眠くなってふわぁっとあくびをした。

「ケン、おなかすいたろう。さあ、ごはんにしよう」
台所から、美味しそうなにおいがする。
ぼくは、おじいちゃんの手をつよくにぎって中に入った。
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