たんぽぽ 信一・維士

みー

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維士 おばあさんの施設へ

2011年 8月 維士

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2011年 8月 維士

 個展の次の日、信ちゃんの母さんからメールがきた。

(個展終了おめでとうございます
昨日、17時ごろ会場に行ったら、最終日は終了時間早く、間に合いませんでした、残念です、
次回開催の時は是非また教えてね
 信一のおばあちゃん、3日前から施設で生活をしています
気が向いた時には遊びに来てね
お元気で   )

あぁ来てくれたんだ、おばさん施設かぁ、信ちゃん知っているのかな、と色々一瞬に頭に過った、
おばあさんの様子が全然書いてないので、どういう状態なのか気になった、もう会いには行くまいと決めていたのに。

(連絡ありがとうございます
わざわざ来て頂き、会えなくて僕も残念です
 おばあさん施設ですか、僕が施設に行って会える状態ですか、会えるのでしたら、近いうちに行きたいと思います。)

(お気持ちありがとう、
痴呆症が酷くて、イシくんの事わからないかも、そうな状態だけど、会える事は可能、だけど無理しないで、気を使わなくていいの、
お気持ちだけもらいます、ありがとう)と、返信だ、

 何回かのやり取りで、今度の日曜日に一緒に、おばあさんに会いに行く事にした。大ちゃんに言うと、当日チューリップ持ってけと言ってくれた。

 日曜日施設に行った、おばあさんの部屋はテーブルと僕の描いたたんぽぽの絵が飾ってあるだけだった、またひとまわり小さ苦くなった、おばあさんと面会した。持ってきたチューリップは施設の人に飾って欲しいと渡した。

おばあさんは僕を見て、

(夕、今日の学校どうだった、手も、足も傷だらけだね、なにが、そんなに辛いの、お母さんに夕の辛さ全部くれないかな、
 ここが嫌なら引っ越しても良いよ、お母さんの仕事より、夕、あなたに笑顔になってもらいたい、生きて欲しい
 お父さんがいない事で、こんなにあなたに不憫にさせるなんて、若い頃のお母さんは考えなかった、

 それともお母さんが、夕を辛くさせる原因なの、厳し過ぎた、誰にも負けない夕になって欲しかっただけ、

 お母さんの言葉が夕を辛くさせた、、、全て言い訳になるけど、仕事も大変で忙し過ぎて、お母さんの心に全く余裕が無くて、言葉で夕にあたっていたのね、
 
 1人でも、夕をちゃんと育てて、2人で笑って生きようと思ってたのに、お母さんが悪かった、辛くさせてごめんね。
 お願い夕、笑ってちょうだい、
笑って、夕、ごめんなさい、ごめんなさい 、笑って生きてちょうだい)って僕に言って泣いていた。

信ちゃんの母さんも、僕の横で泣いていた。

(なにも、辛い事ないよ、お母さんは、笑っていれば、いい、それが、願いだよ、お母さんを守るから)と僕は、おばあさんに言った。

10分くらい、手を握ってあげ、落ち着いたところで、また来るからと、お別れした。

帰る途中駅でお母さんと休んだ。

「イシくん、びっくりしたでしょ、夕は私の名前なの、私の中学時代のお母さんになってたのね
さっきおばあちゃんが、言っていた事、当時は言った事ないの、ずっと何十年言えない事、後悔してたんでしょ、、、辛いね
 そうね、母1人子1人、当時は辛かったかな、

 同級生とも、母とも上手くやれない、元々人が苦手で友達もいなかったの、
勉強だけ出来る子供だったから周りから浮いてしまって嫌われたの、いつも何かがなくなっていた、、、

 母は仕事が上手くいってないようで忙し過ぎていつもイライラしてた、学校も家も居心地が悪かったわね、あんまり思い出したくないけど、これを見ると心の中で涙が出てくるの、なんでだろうって今だに思うの」と、母さんは腕の傷跡を見せてくれた。

「気持ち悪いでしょ、信ちゃんが私を嫌いなのは、これも原因のひとつだと思う、、、
 施設の部屋のたんぽぽの絵、痴呆が酷くなっても、これは、私と夕が歩いて来た道標だから一緒だって、持ってきたの、
 踏まれも何度でも起き上がって泣き笑いしながら、来たでしょと、私に言うの、
 お母さんであってお母さんでないよう感じね、でも生きていてくれるだけでいいの痴呆が進んでもお母さんなの。

 素敵な絵をありがとう。
今日はありがとう、イシくん、また会いましょ」と母さんが僕に言った。

かける言葉を見つけれない、何十年苦しんでいる人に、かけれる言葉を僕は知らなかった。

「また、来ます。
今日は、母さんとおばあさんに会えて良かったまた、来ます」と繰り返した。





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